クルマのサスペンションと長いお付き合い

サスペンションの話、試乗記、旅の話、諸々・・・。

クルマのサスペンション その6

2023-03-02 17:39:19 | ガレージレポート(オリジナルボックス)

クルマを前方から見て、各アーム(ストラットの場合はトップマウントら直角)の延長線の交点と
タイヤ接地点を結んだ左右の線が交わる、車両中央に位置する点を幾何学的瞬間中心⋯
ここを中心に車両が傾くはずだを示します。

"クルマ"または"サスペンション"を紐解こうとすれば必ずや教科書で眼にするそれです。

前置きが長かったのですが"減衰値とロールセンター"の関係は教科書には出ていません。

何回か説明してきて今更なんですが、そもそもロールセンターを取り上げる理由は?
車両の限界特性?操縦性?

ロールセンターを定規とペンで求める方法が分かったとして、それを実車に反映させるには
どうすればいいのかが書かれていないような気がします・・・
何度も教科書を読み直しましたが謎です。

そこで結論の出せない机上論よりも、実車で起きることを想像してみます。

切り離して考えるのは難しいかもしれませんが、普段乗りで感じるロール感は
穏やかな力のやり取りなので減衰値の影響が大きく、限界走行に近づくと大きな力を受けるので
メカニカルなサスペンションの動きだと考えると⋯ハハ〜ンです。

なので感じのいいクルマの動きを演出しようとしたら、
クルマの動き始め、または直進に戻るあたりの伸び圧のバランスを見極めて、
程よい減衰値を仕込んでロールセンター位置を落ち着かせます。

左右のバランス⋯前後のバランス⋯対角線上のバランス⋯
ハンドリングに効く0.1m/sec近傍の減衰値です。

あらためて普段乗りを中心にマイカーをチェックしてみるのもいいかもしれません。
ゆっくりと車体をロールさせるように操舵してみると、意外とわかるもんです。




クルマのサスペンション その5

2023-02-23 10:19:28 | ガレージレポート(オリジナルボックス)
減衰値の仕込み方によってはロールセンターが右に左に動きまわるクルマになってしまう⋯

そのロールセンターはなるべく車両の中央にあって、動き回らないのが操作のしやすさにつながるのですが、
さらにもう少し細かく時間を追って考えていきます。

ハンドル操作を開始すると、四輪すべてのダンパーが縮み方向か伸び方向に、
いっせいのせいでストロークし始めます。
動かないでじっとしているダンパーはありません。

その動き始めと、そこからの車体の傾きに分けて考えます。

動き始めの瞬間は低速域の減衰値と主にフリクションと呼ばれる、機械摩擦が影響します。

わずかに引っかかるだけで遅れが生じ、力が溜まった後の動きはオーバーシュートしたり、
タイミングがまちまちだったりと、大味な応答になります。

スっと動き始めれば、例えば高速道路での微細な修正舵が楽に行えたりします。

次に動き始めたあとは「ロール感」と言われている、車体が傾いていく時の速さと、この時に感じる減衰感です。

減衰不足なら、支えを失ったかの如く倒れ込みが速く、ロールさせすぎないように
丁寧なハンドル操作を心がけなければいけません。

不用意な運転で同乗者を不快にさせる可能性が高いのがこの仕様です。

減衰が強く効けばいいかというと、ライン取りが先行してロールが後追いになり、
ハンドルを止めたあとにロール感を感じるとか、操作と動きの一体感を得にくいことになります。

減衰不足でもなく減衰過多でもない、ロールセンターが動き回らないような伸び圧のバランスのとれた
適度な減衰値を盛り込んでいくのがハンドリングチューニングです。



クルマのサスペンション その4

2023-02-18 09:45:34 | ガレージレポート(オリジナルボックス)
どのあたりを中心にして車両が傾いているのか、その瞬間のロールセンター位置は減衰値が関係している⋯

伸び圧の減衰値が1:1に近ければロールセンターは中央付近に位置します。

圧側1に対して伸び側の減衰値が2倍〜5倍と差が開いていくと、つまり伸び側が極端に強い減衰バランスの場合、
ハンドル操作を開始した直後のロールセンターは内輪寄りに移動します。(伸び側の減衰値だけの時に近づく)

またこの減衰バランスで旋回姿勢からフラットに戻るターンアウトの行程では、
外輪側は減衰が効いてゆっくり伸び上がり、減衰の低い内輪はパタンと落ち込みます。
この瞬間のロールセンターは動きの遅い外輪寄りです。

ターンインの時は内輪寄りで、ターンアウトは外輪寄りとハンドル操作のたびに
ロールセンターが横移動するパターンです。

但し一連の動きはハンドル操作開始直後のある時間内のできごとで、そのあと旋回姿勢が落ち着けば
ロールセンターは関係なくなるので、そこに達するまでの「時間差」の話ともいえます。

当然ながらロールセンターはなるべく車両の中央で落ち着いていることが望まれます。

ロールセンターが右に左に動き回る車は、内輪側と外輪側の動きのリズムが異なることから、
ハンドル操作のたびに過敏さともっさりした動きを感じてしっくりきません。

⋯つづく

クルマのサスペンション その3

2023-02-07 16:53:26 | ガレージレポート(オリジナルボックス)
バネだけのロールに対して、減衰値を効かせたらどうなるか。

動きを分かりやすくするために縮み側の減衰バルブを外して
"伸び側"の減衰だけが効くダンパーで左コーナーに入ったとします。

内輪側は伸び上がり方向なので減衰が効いてスコーンとは伸び上がりません。

外輪側は縮み方向なので減衰が効きません。
ハンドル操作を加えると間髪を入れずに沈み込み、操舵速度が速いと
倒れ込みの勢いがついてダンパーが底付きするところまで一気にストロークします。

時間をかけて伸び上がる内輪に対して、素早く外輪は沈み込むことから、
同じ時間内でストローク量の差が生じます。

この瞬間のロールセンターはストローク量の少ない内輪寄りにあることになります。

イメージはこうです。
割り箸の真ん中を掴んで片方を上下に揺さぶると反対側も同じ量だけ上下します。
片方を多めに反対側を少なめにするには、真ん中を掴んでいる手を少なくしたい方にずらせば
ストローク差をつけることができます。

これがストロークの少ない側にロールセンターがある理由です。

バネだけの時は車体中央にあったロールセンターが、減衰値の影響を受けて移動することが
あるということです。



⋯つづく



ルノートゥインゴの場合

2023-01-28 13:01:37 | ガレージレポート(オリジナルボックス)
ルノートゥインゴはリヤエンジンリヤ駆動車。RRです。

サスペンション形式は、フロントストラット。
リヤはあまり見ないカタチのドディオンアクスル。

ビール缶が中にすっぽり入りそう外径80mmのパイプをコの字型に曲げて、
両サイドに車輪、フロント中央をゴムブッシュで車体と連結。

横方向の力は左右に長いリンクが伸びていて中央で支えます。

クルマ旅を楽しんでいる人から、乗り心地が気になるのでなんとかしてほしい、と相談がありました。

一度出掛けると数百キロ、ないしは千キロオーバーもしょっちゅうなので、
気楽に遠くに快適に⋯誰しもの願いです。

乗用車然としたクルマでも、乗り心地が万全かといえば、
大体はいいけどこんな動きが気になる⋯時々聞きます。

さらに特別仕様車などでよくあるパターンとして、車高が下がっている、
大径ホイールとセットの低扁平タイヤが付いている、バネレートが違う、減衰値が違う、
スタビライザーが違う、シートが違う⋯走りの良さをイメージさせるそれですが、
時にアダとなることがあります。

今回のクルマが該当するかどうかは知りませんが⋯

車両購入前の短距離試乗しただけでは分からない、
長距離試乗後の気になる乗り心地を探し当てて手立てする⋯今回のケースです。

ビルシュタインダンパーを仕立ててこのクルマに合わせ込みます。

ちょうどMFI誌のサスペンションウオッチングのページでルノートゥインゴを取り上げるタイミングと
重なりました。(2月売り号)

タルガタスマニアラリー参加車両

2022-12-14 13:39:13 | ガレージレポート(オリジナルボックス)

オーストラリアのタルガタスマニアラリー に参加した時の
AW-11スーパーチャージャーが里帰りしてきました。

参加したのは1999年なのでもう23年経ちます。

保管状況が思わしくなくボディーの痛みが進んでいたり、部品も何点か無くなっていて不動状態。

ラリー本番ではそれはそれは元気に走ってくれました。

その時に組んだコ・ドライバーは、国内ラリーでAW-11がデビュー仕立ての頃に、
メーカー系のドライバーと組んで戦っていたので、車両挙動に癖があるのをよく知っています。

なので一度もカウンターステアーを当てることなく走るAW-11は、自分の記憶と違うおかしいと、
危なっかしい挙動が出るはずのタイミングで叫んでいました。

クラス優勝と、全てのタルガステージ(SS)で基準タイムをクリアした人だけに送られる賞もいただきました。

これはSS途中で一度でもスピンするとアウトになるくらいの厳しい制限タイム内で、全SSをドライもウエットも失敗なく走らせた証です。

このラリー では、オーストラリア国内のMR-Ⅱクラブの人たちが大歓迎してくれました。

AW-11の参加は一台のみだったのでなおさらでした。

SW-20が同じクラスに参加していて途中まではいい勝負をしていたのですが、
3日目にコースアウトして牧場のフェンスに跨ってアウト。

ちなみに漫画家の山口かつみ氏もこのラリーに同行、タキシード姿で表彰式もご一緒しました。

漫画オーバーレブがスタートしたのが1997年なのでちょうど2年後のことです。

女の子が主人公でMR-Ⅱが活躍する話にピンときた人は、
そうですリアルなタスマニア仕様のスペックが単行本のどこかに紹介されています。

⋯⋯と言った思い出のあるクルマ。








ロータスエリーゼの場合

2022-12-07 15:33:58 | ガレージレポート(オリジナルボックス)
エリーゼの初期型が入庫してきました。

アルミのディスクローターが使われている珍しいタイプです。

オーナーさんは車両を手に入れた後、全塗装に始まりエンジンその他諸々
ほぼ車両代ほど改造費を注ぎ込んだそうです。

締めで購入したダンパーキットは"評判"のもの。

これがサーキットの中ではなんとかなっても乗り心地が残念!

ということでそのダンパー仕様のまま来社されました。

決断が早かった証拠に、ダンパーキットが新品状態。

アライメント定盤に上げてあちこちサスペンション周りの採寸の後、
純正ダンパーに交換してその日はお帰りいただきました。

エリーゼのサスペンション形式は前後ダブルウイッシュボーンで、
レーシングカーのサスペンションそのものです。

公道を走るために必要なロードクリアランスを確保しているところが、
地面を擦りそうなレーシングカーとの違いで、サスペンションの触り方、
セットアップの方法はレーシングカーのそれです。

そのことを知ってかしらずか車高を下げる余地があるからと迷わずローダウンする⋯かなりの確率で。

ローダウンから始めるサスペンションいじりは良い結果に結びつきません。

気に入ったサスペンションキットがなかなか見つからず取っ替え引っ替えした挙句に、
知らないメーカーのダンパーが隣のクルマについているとよく見えてしまう厄介な病いにかかります。

工場出荷時のサスペンションの成り立ちを理解せずに手を入れると、コーナリングの限界特性が神経質になるか醜い乗り心地になるか、又は両方か。

今回がズバリその例。

ということで、バネとダンパーをワンオフ。これに多くのノウハウを詰め込んで無事納車に至りました。

そのうちコメントが聞けると思います。

*写真の1/4スケールモデルはエリーゼのフロントサスペンションを正面から見たもの。
 教科書に載っていない、旋回時の挙動原理が再現できる優れものです。



トヨタ セリカ ST185の場合

2022-11-29 10:46:11 | ガレージレポート(オリジナルボックス)
OZホイール、ビルシュタインダンパー、アイバッハスプリング・・・

ひと昔前に、セリカのラリーカーがWRCを走っていた時に身につけていたパーツ。

その時のイメージが強烈だったオーナーさんが、ST185セリカを探し求め、エンジンのレストアを終えて、
ビルシュタインダンパーでサスペンションを仕立てたいということで来社されました。

時間が掛かりましたが無事できあがりました。

バネレートの選択、減衰値の仕立て、車高⋯

部品を組み合わせたらそれで終わりではなく、走りの"バランス取り"をします。

ある意味一台限りの手作り料理。

このまま競技タイヤに履き替えればヒルクライムとか峠アタック、サーキット走行も楽々こなせます。

ラリーカーのイメージでと言われたので、標準車高のままハードなバネを選択しました。

フロントヘビーなクルマなので、しっかりしたロール感を演出するのに必要なレートといえます。

試乗から戻ってこられて一言、パワーが足りなく感じるほどコーナリングが軽快。

さらに乗り心地は快適。

ニコニコ顔で帰路につかれました。

遠路お疲れ様でした。

ゼロタッチバネ その17 ND-RFの場合

2022-11-08 15:17:33 | ガレージレポート(オリジナルボックス)
マツダロードスターND-RF用のゼロタッチバネができ上がってきました。

製作したビルシュタインダンパーとの組み合わせで取り付けてみると、
狙いの1G車高に前後とも誤差1mm以内で前後ともピタリ。

ND-RF専用のバネを「あつらえ」たのだからこうなるのはわかってはいてもなんだか嬉しいですね。

サスペンションセッティングの土台となる「車高」をバネメーカーに作り込んでもらえたお陰で、
走り始めるまでの一手間(車高調整には時間がかかります)が省けて大助かり。

純正形状で仕上げる難しさがここにあるのですが、おつきあいさせてもらっている
バネメーカーさんの実力を改めて感じる瞬間です。

前もって車高の微調整ができるようにと、
Cリングの溝増し加工を(スプリングシートの位置を変えられるように)しておいたのですが
今回は標準位置で車高が出たことから、他のND車両にも問題なく組み込めるということになります。

*軽量なNDに装着の場合は微調整が必要です。

走り始めの減衰仕様はフロントのバネレートに合わせてやや硬めから。

バネレートのアップ率がさほどではないリヤは低めの数値です。

乗り心地は心配したほど硬くはなく、路面に影響されて振動が少し出るのが気になる程度。

コーナー侵入時の操作の「遠慮」がいらなくなってハンドリングが大きく変わりました。

試走を終えた後、フロントのダンパーを外して振動対策の減衰力チューニング。

⋯圧側のオリフィス領域と減衰ボリュームをわずかに削りました。

振動が減って静かな時間が増えて落ち着いた乗り心地に。

純正車高のままバネレートをアップする方法は、スポーティーさが増して乗り心地も良好。

専用のバネを作ることができてこそですが、アフターパーツの世界でそのうち市民権を得るかも⋯

R8の場合

2022-08-26 13:06:53 | ガレージレポート(オリジナルボックス)
R8の純正ダンパーはマグネライド。

(マグネティックライドコントロール、磁性流体ダンパー)

金属粉の混ざったオイル(ダンパーオイル)を電磁石でコントロールするセミアクティブサスペンション。

冷たいミルクシェークを太めのストローで吸い込むシーンを思い浮かべてください。

ストローの周りに電磁石のコイルを巻きます。

クラッシュアイスを金属粉に置き換えると、電流を流すと磁力でストローの内壁に金属粉が張り付きます。

壁際は動きにくく、磁力の弱い中央付近は抵抗を生みつつ押されると動きます。

これがダンピングフォースを生む原理で、オイルポート径(ストローサイズ)を
磁力によって太くしたり細くしたりさせているイメージです。

*もう一つの考え方は磁力を受けて、金属粉が半固体状態となるので、
 オイル粘度が変化するイメージで捉えてもいいかもしれません。

実際ダンパーの構造は穴の空いたピストンと電磁コイルだけで、可動部品はありません。

どういったシーンでどれほどの減衰値が必要なのかが分かれば
自在にかつ"瞬時"にコントロールできるというわけです。

その優れたダンパーが標準装着されているのになぜ入庫してきたのか。

理由は簡単で油漏れ。

新品部品も入手可能なのですが、オーナーさんの希望は別のダンパーにしてみたい。

オーバーホールできない純正ダンパーから、オーバーホールも仕様変更もできるダンパーへとも言えます。

ここで問題になるのは減衰値をどうするか。

磁性流体式のダンパーは"入力シーン対応型"の流動的減衰値。

従来式のダンパーは"速度感応型"の固定減衰値と呼ばれるもの。

走行中刻々と減衰値が変化するセミアクティブダンパーから、定点の値を抽出しても参考になりません。

といったこともあって一から減衰特性、減衰ボリューム、減衰バランスなど
走行テストを繰り返して決めていきます。

ハンドリングと乗り心地と安定性⋯

近所のコンビニで減衰データーを買うことができれば10分で解決!

そんなわけないですよ。