クルマのサスペンションと長いお付き合い

サスペンションの話、試乗記、旅の話、諸々・・・。

バイクのFCU

2024-07-19 13:50:42 | バイクのサスペンション
F/C R/R構造のフォークを分解してみました。

写真はライダー目線でフォークを上から見下ろした並びで、写真の上がボトム側です。

圧側減衰値を発生する"左側のフォーク"はピストン部にもボトム部にも
減衰バルブ+チェックバルブが組になってセットされています。

縮み行程でピストン下室の圧力が上がると、ボトムバルブと挟み撃ちにして減衰を出す方式で、
減衰を発生したあとオイルはピストン上室にもボトムバルブから下(インナーシリンダーから外)にも抜けます。

次の伸び行程でピストン下室にオイルを回収する時はボトム部のチェックバルブが開き
インナーシリンダーの横穴からオイルを吸い上げるのと、
ピストン上室からもチェックバルブが開いてオイルが降りてきます。(ピストン下室が負圧になるから)

インナーシリンダーにはトップエンドとボトムバルブの下側の二箇所に穴が開いています。

次に伸び側減衰値を受け持つ右側はというと、ボトム側は蓋だけです。

ピストン部に伸び側減衰バルブとチェックバルブの組み合わせ。これだけです。
インナーシリンダーの横穴はシリンダーの最下端、蓋のすぐ上に一つあるだけです。

伸び行程でピストン上室の圧力が上がったらピストン部の減衰バルブが減衰を発生します。

ピストン上室へのオイルの回収は縮み行程でピストンのチェックバルブが開いて下から湧き上がってきます。
と言ってもピストン上室の圧力が下がるので実際は負圧回収。

一般的なツインチューブの場合、伸び行程で高い減衰を発生してピストン部を抜けたオイルは
圧力が解放されてピストン下室でキャビテーションが発生しやすく、オイルの吸い上げを邪魔します。

キャビテーションが発生した直後にストロークが反転すると、減衰が発生するのは気泡がなくなってからです。

おそらく機能を左右に振り分けたのはこのキャビテーションの影響を減らすこと。

もう一つは圧側減衰値をピストンピストンで挟み撃ちにすることで、
ピストン面積(ロッド段面積を差し引いた残り)で出していること。

ツインチューブの場合ロッドがシリンダー内に侵入してきた体積をボディー部の減衰バルブで絞って
減衰を出す構造が多く、受圧面積で言えば非常に狭い。

少ないオイルの移動量で減衰を出すのでシリンダー内部が高圧になります。

ストロークが切り替わると今度は負圧になり、これを繰り返すのでオイルの圧縮性が
減衰を伴わないストロークになり、ひいてはチェックバルブの作動を遅らせます。

この先は波形崩れ・・・

ということで受圧面積が広がったことで発生する圧力ピークが数分の一に下がり、
キャビテーションの発生頻度もうんと低くなります。

というのが左右機能分割ダンパー。


バイクのFCU その2

2024-05-15 15:24:40 | バイクのサスペンション
ツインチューブダンパーの伸び行程では、ピストン上室の圧力が上がり、
減衰バルブを押し開いてピストン下室にオイルが流れ出て圧力が解放されます。

同時に伸び行程ではリザーバー室からオイルを吸い戻しているので
ピストン下室の圧力は下がり気味です。

そこにピストン上室からのオイルが流れ込むのでキャビテーションが発生しやすく、
ピストンスピードが速くなったときに起きるツインチューブダンパーの特徴(弱点)とも言えます。

キャビテーションが発生するとオイルが弾力性を持ち、各バルブの連携動作が崩れて
減衰の立ち上がり遅れが出始めます。

つまりインナーチューブ内オイルの正味量が目減りしている状態。

正常時ならストロークすれば減衰がついてくるのですが、この時はストロークが先行して
遅れて減衰が立ち上がる、いわゆる空打ちストロークが出始めます。

すると入力スピードのままストロークしてオイルに衝突、急減速します。

ストロークが反転すると、オイル不足の空間がすでに反対側に移転しているので
再度空打ち→オイルに衝突。これを繰り返します。

これがゴツゴツした乗り心地の印象になったり、バネ下の暴れ感になります。

綺麗な舗装は快適なのに、目地、ジョイント、パッチ路で急変して落ち着きを無くすのがそれです。

車体がユッサユッサと揺れる速さでは、もちろんキャビテーションは発生しません。

ゆっくりストローク→減衰値が低い→発生圧力が低い→キャビテーションは発生しない。
オイルの吸い戻しも問題なく、本来のダンパー性能が発揮されます。

なのでゆっくりストロークの時と、荒れた路面の時ではガラリと乗り心地の印象が違ってくるのですが
それは路面のせいと捉えられるているふしがあります。

区切るのは難しいのですがダンパーへの入力速度によって乗り心地に二面性があるとも言えます。

作動の安定を狙ってかどうかわかりませんが、フロントフォークが二本組なのを利用して、
伸びの減衰値を右側で、縮みの減衰値を左側で発生させる機能分割方式もあります。

片方に金属バネ、もう片方が空気バネと言った組み合わせもあるようです。

ここで、左右で仕様が違って問題は無いの?と疑問が沸きます。

振り返って、同じ仕様のモノを二本揃えたつもりでも、左右同じ減衰が立ち上がって、
バネも同じ反発力が出ているかというと・・・合算されたものしか分かりません。

そのことを誇大解釈すれば、左右で違っているモノを組み合わせてもまあ大丈夫。




バイクのFCU

2024-05-07 15:59:25 | バイクのサスペンション
ある日知人が二輪で来社。

二輪、四輪のライターをやっている器用な人です。

で跨ってきたそれはバイクメーカーの広報車両。

滅多にないことなので試乗させてもらいました。

250ccだったか400ccだったか⋯記憶に残っているのがフロントフォークの動きが雑だったこと。

この時のフォークの中身を知る由もないのですが、これで新車?と思ったことを覚えています。

それ以降は特に縁の無かったバイクですが、最近になって触れる機会ができました。

となるとフォークを分解して"雑"な動きの元はどこなのか、その理由を確かめてみたくなります。

作動時に若干は加圧されるものの、四輪の"オイルショック"と同じ大気圧封入方式。

クルマと大きく違うところは、バイクのフロントフォーク⋯テレスコピックが
伸び縮みする時の摩擦が大きいこと。

特に「静摩擦」がストロークのたびに動き始めが引っかかります。

スッとストロークし始めないことは、停止しているときに押さえ込んでみるとわかります。

手で押さえたくらいでは張り付いているかのようにびくともしません、
勢いよく体重をかけてやっと沈み込みます。

車両重量(車体重量)は乗用車の数分の一なので、動きはじめの渋さは
ゴツゴツあるいはボコボコとした、硬いタイヤを履いている印象の乗り味になります。

このフロントフォークの摩擦が大きいことは広く知られているようで、
低フリクションをうたうダストシールが売られていたりします。

さらに減衰値を発生するカートリッジを社外品に交換するケースもあります。

これはより洗練された乗り心地?高性能???を"期待"させるモノです。

裏を返せば、純正フォークではその余地があると思われていることです。

以前感じた雑な動きというのがもしかしたらそれかもしれません。

*FCU⋯front cushion unit

バイクのサスペンション

2024-04-09 12:53:44 | バイクのサスペンション
あるバイクユーザーが、高価なサスペンションを投入したのに、ミニサーキットのタイムが
ノーマルの時に出したタイムを超えられない。それどころか遅い。

タイトルが"高価な部品で遅くする、あなたもひと事ではない"

でも当の本人は全く落ち込んでいる様子なし。おふざけでも無い。
次はバネレートの変更に挑戦する気満々。

どこにそんな余裕がと思えるほど明るくまとめられた、かつ勇気ある動画。

ノーマルとどこが違ってこうなったのか、タイムが遅い理由をどうやって見つけるのか、
続編があれば覗いてみたいですね。

何かを変えれば良くなる、何かを追加すればいいことが起きるかというと、
必ずしもそうはいかないという事例かと。

他にも同じ様な動画もあります。

そちらはオフロードバイク。結論は"体感は違うけどタイムは変わらない"

どちらのバイクも市販状態で優れた仕立てであることを検証できたとも言えます。

乗りやすくて良いタイムがサラッと出てしまうと、もっと伸び代があるはずだ・・・

みんなそう思うんです。

改造したら・・・乗りづらくなった。遅くなった。

人には知られたくない話です。