シネマと虎とグルメたち

犬童一心監督作品に「ジョゼと虎と魚たち」があった。オイラは「観た映画が面白くて、美味いもの食って阪神が快勝」を望んでる。

長いお別れ

2019年06月19日 | 映画
一日に1回だけの上映になっているのでもうすぐ終わるのだろうと思い、「湯を沸かすほどの熱い愛」の中野量太監督作品「長いお別れ」を近くのショッピングモールにある映画館まで身に行く。
9:30 からなので9時頃に車で家を出た。
到着は7分前でピタリと予定通り。


「長いお別れ」 2019年 日本


監督 中野量太
出演 蒼井優 竹内結子 松原智恵子
   山崎努 北村有起哉 中村倫也
   杉田雷麟 蒲田優惟人

ストーリー

2007年秋。東京郊外の東家の母・曜子(松原智恵子)は、離れて暮らす娘たちに電話をかけ、父・昇平(山﨑努)の70歳の誕生パーティーに誘う。
長女・麻里(竹内結子)は夫の新(北村有起哉)の転勤で息子・崇(蒲田優惟人)とともにアメリカに住んでいる。
次女・芙美(蒼井優)は、スーパーで働きながら、カフェ経営の夢も恋人(松澤匠)との関係もうまく行かず、思い悩んでいる。
久々に顔を揃えた娘たちは、中学校校長も務めた厳格な父が半年前に認知症になったことを母・曜子から告げられ、動揺を隠せない。
2009年夏。移動ワゴン車でランチの販売を始めた芙美は売り上げが伸びず悩んでいた。
一方、夫の転勤でアメリカ暮らしの長女・麻里は、いつまでたっても現地の生活に馴染めず、思春期の息子のことも気がかり。
麻里は夏休みを利用して崇とアメリカから帰省する。
昇平は「帰る」と言って家を出て行ってしまうことが増えた。
崇が昇平を探しに行くと、昇平は芙美の中学時代の同級生・道彦(中村倫也)と一緒にいた。
そこに移動ワゴン車の芙美が合流し、父の思わぬ行動でお客さんが列をなした。。
昇平が生まれ育った家に帰りたがっているのではないかと考えた麻里は、両親と崇を連れて昇平の生家に向かう。
そこで、東京オリンピックの年に出会った両親の思い出を聞く。
2011年春。芙美は同級生でバツイチの道彦(中村倫也)と付き合い始め、道彦の母親(倉野章子)も店を任せても良いと道彦との結婚を望むような発言をする。
しかし、離婚した妻と娘と楽しそうに過ごす道彦の姿を見て終わりを悟る。
ある日、再びいなくなった昇平を、持たせていたGPS携帯を頼りに探しに行く。
昇平は遊園地で、知らない子どもとメリーゴーランドに乗っていた。
曜子は、その昔遊園地で娘たちと遊んでいると、雨が降りそうだからと昇平が迎えに来てくれたことを思い出す。
2013年秋から冬。芙美は再びスーパーで働き始めていた。
そんな折、曜子が網膜剥離で入院することに。
昇平の世話を買って出た芙美だったが、想像以上に大変だった。
曜子の手術は成功し、順調に過ごしているかのように見えたある日、昇平が骨折して同じ病院に入院する。
麻里は反抗期の崇(杉田雷麟)や、家族の問題に無関心な新との関係に疲れ切っていた。
ほどなくして昇平の容態が悪化し、麻里は帰国する。
母・曜子、長女・麻里、次女・芙美が揃ったところで医師(小市慢太郎)から人工呼吸器をつけるかどうかの選択を迫られた。


寸評
認知症のことを「長いお別れ」ということを崇の先生が最後に教えてくれる。
映画「長いお別れは」認知症を扱った作品だが、認知症の深刻さや悲惨さを前面に出した内容ではない。
むしろ笑いが満載の映画と言っても良い。
認知症になった昇平の言動が笑いを生み出す。
昇平の学生時代からの友人だった中村が亡くなり、芙美と一緒にお通夜に行った昇平は死んだ人が友達の中村だとは分かっていない。
同じく参列していた友人の荻原は弔辞を昇平に頼むが、昇平が認知症だと知り「やはり俺がやる」というくだりは笑わせるが、その後で涙を誘うシーンが用意されている。
昇平は柔道部で一緒だった中村の位牌に向かい「1本!勝者、中村!」と叫ぶ。
参列者はあっけにとられるが荻原だけは拍手を送る。
僕は男の友情を感じて泣けた。

昇平は認知症だが天然ボケともいえるのが明るい妻の曜子である。
何かといえば子供たちを頼り、長女の麻里がアメリカに居るのでしわ寄せは次女の芙美に及ぶ。
頼りなさそうな曜子だが、夫を信頼し尊敬しているらしく認知症が激しくなっても昇平に優しく接している。
その様子は幸せな夫婦生活を送って来ていたのだと思わせるに十分なものだ。
記憶を失った昇平が、もう一度曜子にプロポーズするシーンは感動ものである。

しかしアメリカ暮らしの長女・麻里は、いまだに英語が理解できないこともあって、現地の生活に馴染めず夫との関係もギクシャクしている。
夫が家庭に無関心なのは父親と同じようなのだが、どうも無関心の本質が違うようだ。
判断能力のなくなった父親に悩みを打ち明ける場面には胸が詰まった。
次女の芙美はカフェを開く夢を抱きながらも恋愛につまずくが、行方不明となった昇平を見つけてくれた道彦との新しい恋に出会う。
認知症の昇平が娘に力を与えたということだ。
ところが芙美は厳しい現実を突きつけられる。
4歳の子供が会いたいと言ってきたので出かけた道彦は別れた妻と楽しそうにやっている。
オマケに道彦との結婚を持ちかけてきていた母親も、離れていた孫娘と出会い嬉しそうなのだ。
家族のきずなの強さを見せつけられ、芙美もまた父親に心の内を吐露する。
娘たちは父親が認知症になっても、やはり父親が頼るべき存在なのだ。
認知症にもかかわらず、いやそれだからこそ、娘たちは父の前でありのままの心情をさらけ出すことができたのだ。
いい家族なのだ。

「長いお別れ」は認知症のドラマではなく、家族の再生と絆のドラマなのだ。
死はけっして終わりではないということだ。
昇平がもたらした家族の絆は次の世代にも受け継がれていくことだろう。
新の思いやりによる麻里との修復、芙美に届いた大畑雄吾からのジャガイモがそれを暗示している。
崇は認知症の昇平と心を通わせていたのだろう。
昇平は崇にお別れの手を挙げたのかもしれない。
崇はきっと両親と打ち解け、自分の道を歩んでいくのだろう。
この映画のキャストはいずれも素晴らしい。
特に山崎努と松原智恵子の両ベテランの演技は必見。
竹内結子と蒼井優の姉妹はうらやましいくらいの関係を見せてくれている。

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