内容はともかくとして、この映画を見る前にまず驚かされたのは高齢者の観客の多さであった。
座席はほぼ満席状態で、私も70歳を超えた高齢者であるが、見るからに私よりも年上の人も多く見受けられ、75歳以上の方は半数はおられたのではないかと思う。
恐らくは「PLAN75」を自分事ととらえ、自分の最後を考えておられる方がそれほど多いと言うことなのだろう。
「PLAN75」
監督 早川千絵
出演 倍賞千恵子 磯村勇斗 たかお鷹 河合優実
ステファニー・アリアン 大方斐紗子 串田和美
ストーリー
75歳以上が自ら生死を選択できる制度が国会で可決された近未来の日本。
夫と死別し、一人で暮らす78歳の角谷ミチ(倍賞千恵子)はホテルの客室清掃の仕事をしていたが、突然年齢を理由に解雇されてしまう。
再就職を模索するがなかなか勤め口は見つからない。
やっと得た夜間のガードマンの仕事は体力的に厳しかった。
住む場所も失いそうになった彼女は“プラン75”への申請を検討し始める。
その一方、市役所のプラン75の申請窓口で働くヒロム(磯村勇斗)や、死を選んだお年寄りをサポートするコールセンタースタッフの瑶子(河合優実)は、制度の存在に疑問を抱いていく。
PLAN75を選択すると国から10万円が支給され、チャットサービスも提供される。
ミチはチャットサービスの担当者の瑶子と話すうちに直接会えないかと申し出る。
直接の面会は禁止されているが瑤子は受け入れ、ミチはお茶をしたり、ボーリングをしたりと楽しく過ごしたが、やがてPLAN75のその日がやってくる。
方、母国で難病を抱える子供の手術を得るために介護士として日本で働いていたマリア(ステファニー・アリアン)は、より高収入が得られる「PLAN 75」関連施設で死亡した人の後始末の仕事に就く。
寸評
「PLAN75」は架空の物語であるがテーマは重い。
その為にあえてドラマ性を排除してリアルな物語として描いているように思う。
テーマは重いが、映画の出来栄えとして僕は不満を感じた。
ミチの同僚が仕事中にホテル内で倒れるが、倒れる音だけで映像はない。
観客は想像するだけである。
PLAN75の関連施設で働くことになったマリアは遺品整理中に大金を発見するが、その大金をどうしたのかも描かれていない。
それも観客の想像に任せている。
ヒロムの叔父さんはどうやら火葬時間に間に合わなかったようだが、ではその後どうしたのかも不明のままである。
物語は架空だが、描かれているのはそんなこともあるだろうなというリアルな出来事である。
しかしそこにドラマはない。
安楽死を認めている国はあるようだが、日本では認められていない。
映画は安楽死を否定も肯定もしていない。
むしろ現行制度である介護保険制度への疑問を感じさせる。
自分で自分のことが出来れば自立していることになるのか。
制度が自立を補助し、自立を目指しているものであるなら、ではそうできない人は一体どうしたらいいのか。
冒頭で青年が、老人が増えすぎたので若者にしわ寄せがきていると述べ、老人を殺して自分も自殺している。
冒頭のショッキングなシーンなのでその主張は耳に残るし、実際に日本ではそのような傾向が顕著になりつつある。
コールセンタースタッフの新人に“PLAN75に応募した人が考えを変えることがあるが、そうならないように励まさないといけない”とさりげなく語られている。
死を覚悟した人はさっさと亡くなってくれという国家のホンネが見え隠れする。
生きるか、逝くか、僕にも決断を迫られる時が来るかもしれない。
しかし僕はミチさんの選択はとらないと思う。
「おらおらでひとりいぐも」の桃子さんのように一人になっても、“今が一番充実している”といいう晩年を目指している。
多分その違いが、僕のこの映画に対する評価につながっていたのだと思う。