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最高裁、建物明け渡しを巡る暴行で正当防衛を認め逆転無罪

2009年07月16日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 建物を巡るトラブルから、不動産会社の社員を転倒させた行為が正当防衛に当たるかどうかが争われた事件の上告審判決が2009年7月16日、最高裁第1小法廷であった。

 広島市で平成18年、自宅や経営する会社が入る建物の明け渡しをめぐって、立ち入り禁止の看板を取り付けようとした不動産会社の男性の胸を突いて転ばせたとして、暴行の罪で2審有罪とされた女性被告(76)の上告審判決で、最高裁第1小法廷(宮川光治裁判長)は16日正当防衛を認定、有罪とした1、2審判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。

 上告審で被告側は「以前から業務妨害をくり返され、やむなく反撃したので正当防衛が成立する」などと無罪を主張してきた。

 同小法廷は不動産会社の男性の行為について、「女性らの財産を侵害し、名誉を害する急迫不正のものだった」と指摘。さらに「不動産会社の男性らは以前から継続的に建物に対する権利を実力で侵害する行為を繰り返してきた」と述べた上で、「侵害に対する防衛手段として相当な範囲を超えない」と結論づけた。

 女性は社員から暴力は受けておらず、身体や生命に対する侵害行為がないのに、嫌がらせをした相手への反撃が生命や身体への攻撃でなく、財産の侵害を守るために加えた暴行について、「正当防衛」が認められるのは異例である。

 判決によると、建物は女性の夫の所有であったが、建物の所有権の一部を不動産業者が取得し、建物は女性の夫と不動産会社が持ち分を共有し、トラブルになっていた。

 不動産会社は立ち退きなどを求め仮処分を裁判所に申し立てたが認められなかった。その後、自宅兼会社事務所の建物に不動産業者が「立ち入り禁止」と書かれた看板を取り付けては、女性側が外すことが繰り返されていた。

  女性は06年12月、再び看板をつけようとした不動産業者の従業員を突いて、頭にけがをさせたとして傷害罪で起訴された。

  判決は、(1)不動産会社側が立ち入り禁止の看板を取り付けることは女性の会社の業務を妨害し、建物の共有持ち分権などの侵害に当たる(2)本件以前にも嫌がらせが繰り返された(3)不動産業者の従業員は,「本件当時48歳で,身長約175cmの男性であり,被告人は,本件当時74歳で,身長約149cmの女性である。被告人は,本件以前に受けた手術の影響による右上肢運動障害のほか,左肩関節運動障害や左肩鎖関節の脱臼を有し,要介護1の認定を受けていた」として身長差26センチと体格に差があり、男性が大げさに後ろに下がった可能性もあるとして男性が虚偽被害申告した疑いがあると指摘。暴行の程度も軽く、防衛手段として相当だったと結論づけ、「女性の行為は防衛手段として相当性がある」と判断した。

  1審広島地裁は、男性らの証言の信用性を認め、傷害罪で女性に罰金15万円を言い渡した。2審広島高裁は「被害者が負傷した証明がない」として、1審判決を破棄して暴行罪の成立にとどめ、科料9900円とした。

 最高裁第1小法廷(宮川光治裁判長)は16日正当防衛を認定、有罪とした1、2審判決を破棄し、逆転無罪を言い渡した。女性の無罪が確定した。

 

最高裁2009年7月16日判決 全文

 

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管理会社が地主と家主の代理人となって明渡し請求 (東京・大田区)

2009年07月16日 | 建物明渡(借家)・立退料

 大田区大森南*丁目所在の木造平家床面積約66㎡の2戸建の手前部分(更地の奥)を賃借中のYさんは、家主から依頼された管理会社から建物を明渡すよう通告をされた。

 家主は借地人で更新料問題で組合からアトバイス受けて不払いの対応をしていたが、建物奥部分の借家人の死去により家賃収入が減り地主に借地権買取を申し入れたところ、地主代理人の管理会社は更地にすることを条件にしてきた。

 永年にわたりとくに借地人のトラブルで組合と協議を重ねてきた不動産管理会社は今度は借家の明渡しで家主の代理人も務めることになった。

 写真の公道側(手前)が更地になり土地の有効利用が可能となったことで、地主の思惑が明渡し請求になったようだ。

 この建物は旧地代家賃統制令が適用された古い建物で、これまで補修工事して今日至っており、明渡しにはこれまでの工事費を踏まえた補償が当然と、Yさんは組合の立会いの下に管理会社に主張。地主家主の誠意ある対応をまって協議する決意である。

 

東京借地借家人新聞より

 

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【判例】 *最高裁判所平成21年07月03日判決(賃料等請求事件)

2009年07月15日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

 判例紹介

(裁判要旨)
 1 担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた場合における担保不動産の収益に係る給付を求める権利の帰属

 2 抵当不動産の賃借人が,担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後に,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することの可否

 

最高裁判所第二小法廷平成21年07月03日判決、事件番号・平成19(受)1538

 

 

主       文

 

 

      原判決のうち,上告人敗訴部分を破棄する。

 

      前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。

 

 

      控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

 

 

理       由

 

 上告代理人平出晋一ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

 1 本件は,建物についての担保不動産収益執行の開始決定に伴い管理人に選任された被上告人が,上記建物の一部を賃料月額700万円(ほかに消費税相当額35万円)で賃借している上告人に対し,平成18年7月分から平成19年3月分までの9か月分の賃料合計6300万円及び平成18年7月分の賃料700万円に対する遅延損害金の支払を求める事案である。上告人は,上記賃貸借に係る保証金返還債権を自働債権とする相殺の抗弁を主張するなどして,被上告人の請求を争っている。

 2  原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

 (1)  第1審判決別紙物件目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)の過半数の共有持分を有するA株式会社(以下「A」という。)は,平成9年11月2日,上告人との間で,本件建物の1区画を次の約定で上告人に賃貸する契約を締結し,同区画を上告人に引き渡した。

 ア  期 間  20年間
 イ  賃 料  月額700万円(ほかに消費税相当額35万円)
        毎月末日までに翌月分を支払う。

 ウ  保証金  3億1500万円(以下「本件保証金」という。)
         賃貸開始日から10年が経過した後である11年目から10年間にわたり均等に分割して返還する。
 エ  敷 金   1億3500万円
         上記区画の明渡し時に返還する。

 (2) Aは,上記契約の締結に際し,上告人から,本件保証金及び敷金として合計4億5000万円を受領した。

 (3) Aは,平成10年2月27日,本件建物の他の共有持分権者と共に,Bのために,本件建物につき,債務者をA,債権額を5億5000万円とする抵当権(以下「本件抵当権」という。)を設定し,その旨の登記をした。

 (4) Aは,平成11年6月22日,上告人との間で,Aが他の債権者から仮差押え,仮処分,強制執行,競売又は滞納処分による差押えを受けたときは,本件保証金等の返還につき当然に期限の利益を喪失する旨合意した。

 (5) Aは,平成18年2月14日,本件建物の同社持分につき甲府市から滞納処分による差押えを受けたことにより,本件保証金の返還につき期限の利益を喪失した。

 (6)  本件建物については,平成18年5月19日,本件抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定(以下「本件開始決定」という。)があり,被上告人がその管理人に選任され,同月23日,本件開始決定に基づく差押えの登記がされ,そのころ,上告人に対する本件開始決定の送達がされた。

 (7) 上告人は,平成18年7月から平成19年2月までの間,毎月末日までに,各翌月分である平成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料の一部弁済として各367万5000円の合計2940万円(消費税相当額140万円を含む額)を被上告人に支払った(以下,これらの弁済を「本件弁済」と総称する。)。

 (8) 上告人は,Aに対し,平成18年7月5日,本件保証金返還残債権2億9295万円を自働債権とし,平成18年7月分の賃料債権735万円(消費税相当額35万円を含む額)を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をし,さらに,平成19年4月2日,本件保証金返還残債権2億8560万円を自働債権とし,平成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料残債権各367万5000円の合計2940万円(消費税相当額140万円を含む額)を受働債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をした(以下,これらの相殺を「本件相殺」と総称し,その受働債権とされた賃料債権を「本件賃料債権」と総称する。)。

 3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,平成18年7月分の賃料700万円(以下,いずれも消費税相当額を含まない額である。)及び平成18年8月分から平成19年3月分までの8か月分の賃料の本件弁済後の残額2800万円の合計3500万円並びに平成18年7月分の賃料700万円に対する遅延損害金の支払を求める限度で被上告人の請求を認容した。

 (1) 本件相殺の自働債権とされた本件保証金返還残債権はAに対するものであるのに対し,本件開始決定の効力が生じた後に発生した支分債権である本件賃料債権は,その管理収益権を有する管理人である被上告人に帰属するものであって,民法505条1項所定の相殺適状にあったとはいえないから,本件相殺は効力を生じない。

 (2) 仮にそうでないとしても,本件相殺の意思表示の相手方となるのは本件賃料債権について管理収益権を有する被上告人のみであり,管理収益権を有しないAに対する相殺の意思表示をもって民法506条1項所定の相手方に対する意思表示があったとはいえないから,本件相殺は効力を生じない。

 4 しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 担保不動産収益執行は,担保不動産から生ずる賃料等の収益を被担保債権の優先弁済に充てることを目的として設けられた不動産担保権の実行手続の一つであり,執行裁判所が,担保不動産収益執行の開始決定により担保不動産を差し押さて所有者から管理収益権を奪い,これを執行裁判所の選任した管理人にゆだねることをその内容としている(民事執行法188条,93条1項,95条1項)。管理人が担保不動産の管理収益権を取得するため,担保不動産の収益に係る給付の目的物は,所有者ではなく管理人が受領権限を有することになり,本件のように担保不動産の所有者が賃貸借契約を締結していた場合は,賃借人は,所有者ではなく管理人に対して賃料を支払う義務を負うことになるが(同法188条,93条1項),このような規律がされたのは,担保不動産から生ずる収益を確実に被担保債権の優先弁済に充てるためであり,管理人に担保不動産の処分権限まで与えるものではない(同法188条,95条2項)。

 このような担保不動産収益執行の趣旨及び管理人の権限にかんがみると,管理人が取得するのは,賃料債権等の担保不動産の収益に係る給付を求める権利(以下「賃料債権等」という。)自体ではなく,その権利を行使する権限にとどまり,賃料債権等は,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後も,所有者に帰属しているものと解するのが相当であり,このことは,担保不動産収益執行の開始決定が効力を生じた後に弁済期の到来する賃料債権等についても変わるところはない。

 そうすると,担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後も,担保不動産の所有者は賃料債権等を受働債権とする相殺の意思表示を受領する資格を失うものではないというべきであるから(最高裁昭和37年(オ)第743号同40年7月20日第三小法廷判決・裁判集民事79号893頁参照),本件において,本件建物の共有持分権者であり賃貸人であるAは,本件開始決定の効力が生じた後も,本件賃料債権の債権者として本件相殺の意思表示を受領する資格を有していたというべきである。

 (2) そこで,次に,抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後において,担保不動産の賃借人が,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし,賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができるかという点について検討する。被担保債権について不履行があったときは抵当権の効力は担保不動産の収益に及ぶが,そのことは抵当権設定登記によって公示されていると解される。そうすると,賃借人が抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権については,賃料債権と相殺することに対する賃借人の期待が抵当権の効力に優先して保護されるべきであるから(最高裁平成11年(受)第1345号同13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号363頁参照),担保不動産の賃借人は,抵当権に基づく担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後においても,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし,賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができるというべきである。本件において,上告人は,Aに対する本件保証金返還債権を本件抵当権設定登記の前に取得したものであり,本件相殺の意思表示がされた時点で自働債権である上告人のAに対する本件保証金返還残債権と受働債権であるAの上告人に対する本件賃料債権は相殺適状にあったものであるから,上告人は本件相殺をもって管理人である被上告人に対抗することができるというべきである。

 (3) 以上によれば,被上告人の請求に係る平成18年7月分から平成19年3月分までの9か月分の賃料債権6300万円は,本件弁済によりその一部が消滅し,その残額3500万円は本件相殺により本件保証金返還残債権と対当額で消滅したことになる。

 5 以上と異なる原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,被上告人の請求を棄却した第1審判決は結論において正当であるから,上記部分につき被上告人の控訴を棄却することとする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今井 功  裁判官 中川 了滋  裁判官 古田 佑紀  裁判官 竹内 行夫)

 

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定期借家契約の店舗 再契約できず無条件で明渡し (東京・北区)

2009年07月14日 | 定期借家・定期借地契約

 北区で中華料理店を営業するBさんは、6年前に定期借家契約で古い店舗を借り営業をはじめた。最初の3年契約の期間満了の際は、まだ建て直しの予定もないので再契約をしますと言われ、3年の定期借家契約を締結した。

 商売のほうもやっと軌道にのりはじめ借金返済のめどもたち、なんとかなりそうだと思った時に不況の波が商売にも反映し、毎月毎月のやりくりが大変となった。その矢先に、家主から定期借家契約が半年後に満了になるので通知しますという文書が送られてきた。

 家主に連絡したところ「今回は再契約しません。期間満了と同時に明渡してください」と言われ、びっくりして組合事務所に相談にきた。組合で契約書をみると法的には問題のない定期借家契約で引き続き営業ができないものとわかった。本人も通常の更新の出来る契約とは違う程度の認識で、家主からも口頭で再契約もありうることをいわれその気になっていた。

 今回の件で城北借組の事務局長は「このような勘違いがおきないように定期借家契約は極力結ばないほうがよいと理解しておくことが重要です」と話した。

 

東京借地借家人新聞より

 

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【判例紹介】 *借家人の家主に対する営業損害の賠償は通常生ずべき損害の範囲の限度

2009年07月13日 | 修理・改修(借家)

 判例紹介

 借家人から家主に対する修繕義務不履行による営業損害の賠償請求について、借家人が損害を避けることができたと考えられる時期以後の損害については認められないとされた事例 (最高裁平成21年1月19日判決 判例時報2032号45頁)

(事案)
 家主は借家人に対し、平成4年3月5日、賃料月額金20万円、使用目的を店舗として、建物を賃貸した。
 平成9年2月12日、本件店舗の床上30センチメートルから50センチメートルまで浸水(本件事故という。)したため、カラオケ店の営業ができなくなった。借家人は家主に対し、修繕を求めたが、家主はこれに応じなかった。

(請求)
 借家人は家主に対し、カラオケ営業ができなくなったとして、営業利益相当額の損害賠償の請求をした。
他方、家主は、修繕義務を否定し、賃料不払い等を理由として、建物賃貸借契約を解除し、建物明渡しの請求をした。

(原審名古屋高裁金沢支部判決)
 家主の本件建物賃貸借契約解除は無効として、建物明渡請求を棄却するとともに、家主が修繕義務をつくさなかったためカラオケ店の営業ができなかったとして、本件事故の日の1か月後である平成9年3月12日から平成13年8月11日まで4年5か月間の得べかりし営業利益3104万2607円の損害賠償の請求を認めた。家主から上告申立て。

(最高裁判決)
 これに対し、最高裁は、
①本件店舗は老朽化して大規模な改修を必要としていたので、賃貸借契約をそのまま長期にわたって継続しえたとは考えられないこと、

②家主から賃貸借契約解除の意思表示がされて、本件事故から1年7ヶ月経過後に本件損害賠償請求訴訟を起こした時点では営業再開の実現可能性が乏しいものとなっていたこと、

③借家人が本件建物以外の場所でカラオケ営業を行うことができないとは考えられないことを理由に、

カラオケ店の営業を別の場所で再開させる措置を執ることなく発生した損害の全てを家主に請求することは条理上認められないとし、借家人が別の場所でカラオケ店を再開できたと解される時期以降における損害は通常生ずべき損害に当たらないと判示して、原判決を破棄し、名古屋高等裁判所に差し戻した。

(短評)
 本判決は、営業損害の範囲について、民法第416条1項に定める通常生ずべき損害の限度で認めるとしたものであり、借家人に対し厳しいものがあるが、実務上、意義をもつものである。 

(2009.07.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 

最高裁平成21年1月19日判決 全文

 <参考>
  民法
(損害賠償の範囲)
第416条
 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

 2  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

 

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底地を買った途端に隣人が建物が越境しているとクレーム (東京・荒川区)

2009年07月10日 | 借地の諸問題

 荒川区荒川で数10年にわたり16・8坪の借地をしてきたBさんは、このたび隣近所の借地人と共に2人の地主と話し合いで土地の測量をした上で土地を買取った。16・8坪の借地上にはほぼ目一杯のBさんの木造2階建ての家が建っている。

 数日後、隣の主人が来て、「うちの土地に約1坪にお宅の家が越境しているので直ぐ土地を返してくれ」と言ってきた。Bさんは、隣に売った地主と伊藤さんに売った地主と3人で改めて実測したところ、Bさんが数10年前に借地をした時から越境し家を建てたことが判明した。

 しかし、Bさんは長期間16・8坪の地代を払い続け元の地主からも何の注意も受けずにいたので、何で今更と思い、今後も1坪の借地をしていく覚悟でいる。

 

 

東京借地借家人新聞より

 


参考> 民法
境界線付近の建築の制限
第234条  建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。

 2  前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から1年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。

所有権の取得時効
第162条  20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

2  10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

 

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【判例】 *家主に対する修繕義務不履行による賠償請求は通常生ずべき損害が限度 (最高裁判決 全文)

2009年07月09日 | 修理・改修(借家)

 判例紹介

(裁判概要)
 本件本訴請求は、賃貸借契約に基づき上告人Y1(賃貸人=事業協同組合)から建物の引渡しを受けてカラオケ店を営業していた被上告人(賃借人=カラオケ店)が、同建物に発生した浸水事故により同建物で営業することができなかったことによる営業利益喪失の損害を受けたなどと主張して、Y1(賃貸人)に対して債務不履行又は瑕疵担保責任に基づく損害賠償を求めた。また、Y1(賃貸人=事業協同組合)の代表者として同建物の管理に当たっていた上告人Y2(事業協同組合の代表者)に対して民法709条又は中小企業等協同組合法38条の2第2項に基づく損害賠償を求めるものである。

 本件反訴請求は、Y1(賃貸人=事業協同組合)が、上記賃貸借契約は解除により終了したなどと主張して、被上告人(賃借人=カラオケ店)に対して同建物の明渡し等を求めるものである。

(裁判要旨)
 店舗の賃借人が賃貸人の修繕義務の不履行により被った営業利益相当の損害について、賃借人が損害を回避又は減少させる措置を執ることができたと解される時期以降は被った損害のすべてが民法416条1項にいう通常生ずべき損害に当たるということはできないとされた事例 最高裁平成21年1月19日判決  事件番号/平成19(受)102 )

 

 

主     文

 

     1 原判決のうち,被上告人の本訴請求に関する部分を破棄する。
     2 前項の部分につき,本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
     3 上告人Y1 の反訴請求に関する上告を棄却する。
     4 前項に関する上告費用は同上告人の負担とする。

 

理     由

 

上告代理人三宅弘,同牧田潤一朗の上告受理申立て理由第4の2及び3について
 1 本件本訴請求は,賃貸借契約に基づき上告人Y1 (以下「Y1 」という。)から建物の引渡しを受けてカラオケ店を営業していた被上告人が,同建物に発生した浸水事故により同建物で営業することができなかったことによる営業利益喪失の損害を受けたなどと主張して,Y1 に対して債務不履行又は瑕疵担保責任に基づく損害賠償を求めるとともに,Y1 の代表者として同建物の管理に当たっていた上告人Y2 に対して民法709条又は中小企業等協同組合法38条の2第2項(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)に基づく損害賠償を求めるものであり,本件反訴請求は,Y1 が,上記賃貸借契約は解除により終了したなどと主張して,被上告人に対して同建物の明渡し等を求めるものである。

 2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,カラオケ店などの経営を業とする株式会社である。
Y1は,中小企業等協同組合法に基づいて設立された事業協同組合であり,昭和42年10月1日,原判決別紙物件目録1記載の建物(以下「本件ビル」という。)を建築し,その所有権を取得した。なお,Y1 は,平成8年8月31日,総会の決議により解散し,その代表理事であった上告人Y2 がY1 の清算人に就任した。

 (2)  Y1 は,被上告人に対し,平成4年3月5日,期間を平成5年3月4日まで,賃料を月額20万円,使用目的を店舗として,本件ビルの地下1階にある原判決別紙物件目録2記載の建物部分(以下「本件店舗部分」という。)を貸し渡した(以下,この契約を「本件賃貸借契約」という。)。本件賃貸借契約は,その後,平成5年3月5日に期間を平成6年3月4日まで,平成6年3月5日に期間を平成7年3月4日までとしてそれぞれ更新され,同日に賃貸借期間が満了したが,その継続に関する協議が成立しないまま,被上告人は本件店舗部分でのカラオケ店営業を継続した。

 (3) 本件ビルにおいては,平成4年9月ころから,本件店舗部分に浸水が頻繁に発生し,本件ビル3階のトイレの水が止まらなかったことがその原因であったこともあるが,本件店舗部分7号室横からの浸水のように浸水の原因が判明しない場合も多かった。

 (4) 平成9年2月12日,本件ビル地下1階に設置された浄化槽室排水ピット内の排水用ポンプの制御系統の不良又は一時的な故障が原因となって,本件店舗部分8号室脇の洗面台の排水管の床面との継ぎ目部分等から汚水が噴き出し,また,7号室からも出水し,本件店舗部分が床上30~50cmまで浸水した(以下「本件事故」という。)。本件ビルの地下1階では,同月17日にも同様の場所から汚水が出水し,同程度に本件店舗部分が浸水した。被上告人は,本件事故以降,本件店舗部分でのカラオケ店の営業ができなくなった。

 (5) Y1 は,平成9年2月18日付け書面をもって,被上告人に対し,本件ビルの老朽化等を理由として,本件賃貸借契約を解除し,明渡しを求める旨の意思表示をし,同書面は,そのころ被上告人に到達した。上告人Y 2は,本件事故直後より,被上告人からカラオケ店の営業を再開できるように本件ビルを修繕するよう求められていたが,これに応じず,上記解除により本件賃貸借契約は即時解除されたと主張して,被上告人に対して本件店舗部分からの退去を要求し,本件ビル地下1階部分の電源を遮断するなどした。

 (6) 本件ビルについては,平成9年1月,調査会社により,大規模改装に向けての設備及び建物状態の調査が実施されたが,そのビル診断報告書には,①電気設備については,今後思わぬ事故等の発生が懸念され,改装後の電力需要に合わせて全体的に更新する必要がある,②給水設備は,全体的にさびによる腐食が進行しており,このまま使用すると漏水の懸念があり,周辺機器も含めて継続使用が難しい状態と判断される,③排水設備については,排水配管は全体的に更新する必要があると判断され,その他汚水配管,排水槽等は改装時に調査の上,その仕様に合わせた改修及び清掃等が必要と思われるなどと記載されていた。

 このように,本件ビルは,本件事故前,老朽化により大規模な改装とその際の設備の更新の必要があったが,直ちに大規模な改装及び設備の更新をしなければ当面の利用に支障が生じるものではなく,本件店舗部分を含めて朽廃等の事由による使用不能の状態にはなっていなかった。

 (7) 被上告人は,本件店舗部分における営業再開のめども立たないため,平成10年9月14日,Y1は被上告人の営業が再開できるように本件ビルを修繕すべき義務(以下「本件修繕義務」という。)があるのに履行しないなどと主張して,営業利益喪失等による損害賠償を求める本件本訴を提起した。これに対し,Y1は,本件修繕義務の存在を否定し,さらに,被上告人に対し,平成11年9月13日,賃料不払等を理由として本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし,本件店舗部分の明渡しを求めた。

 (8) 被上告人は,平成9年5月27日,本件事故によるカラオケセット等の損傷に対し,Aとの間で設備什器を目的として締結していた保険契約に基づき,損害保険金として3109万6946円,臨時費用保険金として500万円,取片付費用保険金として101万9700円の支払を受けたが,これらの保険金の中には営業利益損失に対するものは含まれていなかった。

 3 原審は,Y1 により行われた本件賃貸借契約解除の意思表示はいずれも無効であるとして,Y1の被上告人に対する建物明渡等反訴請求を棄却するとともに,次のとおり判示して,被上告人の上告人らに対する損害賠償請求を一部認容すべきものとした。

 (1) Y1 は,被上告人に対し,本件事故後も引き続き賃貸人として本件店舗部分を使用収益させるために必要な修繕義務を負担しているにもかかわらず,その義務を尽くさなかった。また,上告人Y2には,本件修繕義務の不履行について,Y1の代表者としての職務を行うにつき中小企業等協同組合法38条の2第2項所定の重大な過失があったというべきである。

 (2) 被上告人は,本件事故の日から本件店舗部分でのカラオケ店営業ができなかったから,上告人らに対し,本件事故の日の1か月後である平成9年3月12日から被上告人の求める損害賠償の終期である平成13年8月11日までの4年5か月間の得べかりし営業利益3104万2607円(1年間702万8515円)を喪失したことによる損害賠償を請求する権利を有する。

 4  しかしながら,本件事故の日の1か月後である平成9年3月12日から平成13年8月11日までの間の営業利益の喪失による損害につきそのすべての賠償を請求する権利があるとする原審の上記3(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 (1) 事業用店舗の賃借人が,賃貸人の債務不履行により当該店舗で営業することができなくなった場合には,これにより賃借人に生じた営業利益喪失の損害は,債務不履行により通常生ずべき損害として民法416条1項により賃貸人にその賠償を求めることができると解するのが相当である。

 (2) しかしながら,前記事実関係によれば,本件においては,①平成4年9月ころから本件店舗部分に浸水が頻繁に発生し,浸水の原因が判明しない場合も多かったこと,②本件ビルは,本件事故時において建築から約30年が経過しており,本件事故前において朽廃等による使用不能の状態にまでなっていたわけではないが,老朽化による大規模な改装とその際の設備の更新が必要とされていたこと,③Y 1は,本件事故の直後である平成9年2月18日付け書面により,被上告人に対し,本件ビルの老朽化等を理由に本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をして本件店舗部分からの退去を要求し,被上告人は,本件店舗部分における営業再開のめどが立たないため,本件事故から約1年7か月が経過した平成10年9月14日,営業利益の喪失等について損害の賠償を求める本件本訴を提起したこと,以上の事実が認められるというのである。これらの事実によれば,Y1 が本件修繕義務を履行したとしても,老朽化して大規模な改修を必要としていた本件ビルにおいて,被上告人が本件賃貸借契約をそのまま長期にわたって継続し得たとは必ずしも考え難い。また,本件事故から約1年7か月を経過して本件本訴が提起された時点では,本件店舗部分における営業の再開は,いつ実現できるか分からない実現可能性の乏しいものとなっていたと解される。他方,被上告人が本件店舗部分で行っていたカラオケ店の営業は,本件店舗部分以外の場所では行うことができないものとは考えられないし,前記事実関係によれば,被上告人は,平成9年5月27日に,本件事故によるカラオケセット等の損傷に対し,合計3711万6646円の保険金の支払を受けているというのであるから,これによって,被上告人は,再びカラオケセット等を整備するのに必要な資金の少なくとも相当部分を取得したものと解される。

 そうすると,遅くとも,本件本訴が提起された時点においては,被上告人がカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を何ら執ることなく,本件店舗部分における営業利益相当の損害が発生するにまかせて,その損害のすべてについての賠償を上告人らに請求することは,条理上認められないというべきであり,民法416条1項にいう通常生ずべき損害の解釈上,本件において,被上告人が上記措置を執ることができたと解される時期以降における上記営業利益相当の損害のすべてについてその賠償を上告人らに請求することはできないというべきである。

 (3) 原審は,上記措置を執ることができたと解される時期やその時期以降に生じた賠償すべき損害の範囲等について検討することなく,被上告人は,本件修繕義務違反による損害として,本件事故の日の1か月後である平成9年3月12日から本件本訴の提起後3年近く経過した平成13年8月11日までの4年5か月間の営業利益喪失の損害のすべてについて上告人らに賠償請求することができると判断したのであるから,この判断には民法416条1項の解釈を誤った違法があり,その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

 5 以上によれば,上記と同旨をいう論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,上告人らが賠償すべき損害の範囲について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

 なお,Y1 の反訴請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

裁判長裁判官 中川 了滋   裁判官 今井  功   裁判官  古田 佑紀)

 

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【Q&A】 約60年間契約書が無いままでいるが、この状態を続けても心配はないのか

2009年07月07日 | 契約・更新・特約

 (問) 契約書を作らずに昭和25年から借地をしている。借地の更新は法定更新を選択し、契約を継続してきたが、先日、地主から突然内容証明郵便が送られてきた。「今後も借地契約書の作成に応じない場合は、借地契約を解除する。なお、本件土地の借地契約については、存続期間を定めなかったので、旧借地法に従い、平成22年に期間が満了するので、12月末日までに木造建物を収去して土地を明渡せ」という趣旨のものであった。

 「平成22年が期間満了」という地主の主張は間違いだと思うのだが、また、今後も契約書作成に協力しなくても問題はないのか。

 


 

 (答) 借地契約は、貸主と借主が建物所有の目的で所定の土地を賃料、期間、その他の条件を定めて賃借することに合意すれば、それで契約は成立する。この合意には特定の方式はなく、口約束であっても立派に契約は成立する(民法601条)。契約書は、契約内容の証拠資料であって、契約の成立要件ではない。

 だが、貸主と借主の間で或る事柄について争いが生じた場合に双方が自分の主張が正しいことを証明しなかればならない。例えば増改築禁止特約とか、賃借期間等で争いになった場合は、その契約内容を証明する証拠資料が契約書ということになる。

 契約書が無い場合は、契約書以外の資料で契約内容を立証することになる。例えば、証人、地代領収書、登記簿謄本、手紙・手帳・日記・家計簿、の記述・記録等で証明することになる。

 今回の借地の契約内容で借地人側からの存続期間の立証は必要がない。なぜならば、地主が内容証明郵便で「借地契約については、存続期間を定めなかった」と記述しているので、《存続期間を定めなかった契約》ということが証明されているからだ。

 借地契約で借地権の存続期間を定めなかった場合は、借地法2条1項の規定で、借地権の存続期間は、堅固な建物については60年、その他の建物については30年と法定している。

 従って、木造建物の場合であるから、昭和25(1950)年から昭和55(1980)年の30年間が借地契約の存続期間になる。

 そして、昭和55(1980)年に借地法6条1項の規定(土地の継続使用による更新)よって20年の存続期間で法定更新(第1回目)され、平成12年(2000年)に再び借地法6条1項の規定によって借地期間20年の法定更新(第2回目)がされている。

 従って、借地契約は平成32(2020)年まで存続することになるその後も、建物が存在する限り借地の更新は継続する。

 最後に、通常よく使用されている市販の借地契約書は、借地人義務や遵守事項を定めるのが主眼であって、借地人とって利益になる事柄は殆ど記載されていない。例えば、更新料支払特約、増改築制限特約等借地人に不利益な特約が書き込まれている場合が殆どである。

 従って、借地人側から契約書の作成を要望する利益は殆ど何も無いと言っても言い過ぎではない。また、地主が契約書の作成を請求しても、借地人はそのことに協力する義務はない。契約書の作成を拒否しても、それ自体問題が無いことを知っておくのは無駄ではない。

 尚、借地の存続期間を地主は次のように考えたと思われる。
 即ち、木造建物の所有を目的とする借地権は存続期間が20年である。従って、昭和25年(1950年)の20年後の昭和45年(1970年)に第1回目の更新(法定更新)があり、更にその20年後の平成2年(1990年)に2回目の更新(法定更新)がある。その20年後の平成22年(2010年)に借地期間の満了がある。このように考えて契約の解除予告をして来たものと推察できる。


参考 借地法 
第2条 借地権の存続期間は、石造、土造、煉瓦造又はこれに類する堅固な建物の所有を目的とするものについては60年、その他の建物の所有を目的とするものについては30年とする。但し建物がこの期間の満了前に朽廃したときは借地権はこれによって消滅する。(朽廃規定)

2 契約で堅固な建物について30年以上、その他の建物について20年以上の存続期間を定めたときは、借地権は前項の規定に拘らず、その期間の満了によって消滅する。

第5条 当事者が契約を更新する場合においては、借地権の存続期間は更新の時より起算して堅固な建物については30年、その他の建物については20年とする。この場合においては第2条第1項の但書の規定を準用する。(朽廃規定が適用される)

2 当事者が前項の規定する期間より長い期間を定めたときは、その定めに従う。

第6条 借地権者が借地権の消滅後土地の使用を継続する場合には、土地所有者が遅滞なく異議を述べないときは前契約と同一の条件をもって更に借地権を設定したものとみなす。この場合においては前条第1項の規定を準用する。(

2 前項の場合において建物があるときは土地所有者は第4条第1項の但書に規定する事由(土地所有者が自分でその土地を使用するなどの正当な事由)がない場合には異議を述べることができない。

) 「借地権の存続期間は更新の時より起算して堅固な建物については30年、その他の建物については20年とする」(第5条1項を準用)。第6条も朽廃規定が適用される。

 ()借地借家法施行前(平成4年8月1日)設定された借地契約の更新に関しては「なお従前の例による」(借地借家法附則6条)ことになっているので、更新に関しては旧借地法が適用されることになっている。(東京・台東借地借家人組合)

 

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【判例】 テレビ受信障害 (東京簡易裁判所平成20年3月21日判決)

2009年07月03日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

 判例紹介

 平成20年3月21日判決言渡 東京簡易裁判所
 平成19年(少コ)第3209号損害賠償請求事件(通常手続移行)


判       決

主        文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

                    事 実 及 び 理 由

第1 請求の趣旨
 被告は原告に対し,金59万8500円及びこれに対する平成20年1月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 請求原因及び原告(会社)の主張の要旨
 (1) 原告は,平成19年8月24日,訴外Aから,被告マンションに隣接する下記の借地権付き建物(以下「原告建物」という。 )を買い受けた。売買契約の際,原告建物に後記の被告マンションによるテレビの受信障害があることは,Aないし不動産仲介業者から原告には告知されなかった。


                         記
    所   在       東京都北区a町b丁目c番地
    家屋番号       d番e
    種   類       事務所  共同住宅
    構   造       鉄骨造  陸屋根  4階建  延床面積 m2335.8
                昭和63年2月29日新築


 (2) その後,被告マンションを原因とするテレビの受信障害が発生することが判明したため,管理会社である訴外株式会社Bに問い合わせたところ,原告建物が被告マンションによる受信障害の補償エリア内にあることがわかった。原告は被告(管理組合)に対し,受信障害を解消するための対応を依頼したが,被告は同年11月12日,対応できないとの回答をした。

 (3) 原告建物の前所有者であるAは,被告マンションの建設当時,受信障害について何らの説明も受けていない。原告建物はその所在地からして受信障害が発生する可能性が極めて高い地域にあり,被告は受信障害発生の有無を調査した上で,Aにその結果を告知する義務があったのにこれを怠った。被告マンションの建設当時と現在では近辺の状況は大きく変容しているが,原告建物の受信障害は被告マンションが原因であることは間違いなく,被告は依然として受信障害対策を講じる義務を負っている。

 (4) 原告の損害及び被告の責任
原告建物のテレビ受信障害を解消するための工事費用(地上デジタル放送の受信を前提とした見積)は59万8500円であり,これを被告マンションによる受信障害の損害賠償として請求する。

2 被告(管理組合)の主張の要旨
 (1) 被告マンション(12階建て,高さ36.6メートル)の建築主である訴外株式会社Cは,平成4年の建築当時,訴外D技術協会会員のE電設株式会社に「建造物によるテレビ受信障害調査報告書 」(乙1)を作成させ,テレビの受信障害が発生すると予測された地域の住民に対し建築主の費用負担で共同受信設備を設置し,従前どおりの地上アナログテレビ放送の電波を受信できるよう対策工事を行った(乙2,3)。

 (2) 原告建物には前記の対策工事は行っておらず,この地域にケーブルテレビが導入されたのは平成8年になってからであることからすると(乙4,5),平成4年の被告マンション建築当時にはテレビの受信障害が発生していなかったものと推認される。

 (3) 昭和51年3月6日付け郵政省電波監理局長通達(乙6)によれば,共同受信施設が設置された後 新たに受信障害地域に家屋を建築するなどした 後, 「住者」が共同受信施設の利用を希望する場合は,設置者は後住者に対してこれを利用させることが望ましく,その場合の付加的設備(引込線,保安器,屋内配線等)の費用は後住者が負担するのが適当とされている。被告マンションの共同受信施設が設置された約15年後に原告建物を購入した原告は前記の後住者にあたり,被告は原告が共同受信施設を利用することは許容するが,付加的設備の費用は原告が負担すべきである。

 (4) 原告が主張する本件工事費用は,地上デジタル放送の受信を前提としたものであって(乙8) ,工事費用としては過大である。被告マンションによるテレビの受信障害対策工事は地上アナログテレビ放送を受信するためのものであって,地上アナログテレビ放送を受信するためには,共同受信設備から原告建物の保安器までの引込線をひく工事費用の5万7750円で足りる(乙9 )。

本件の争点
 被告に,原告建物についてのテレビ受信障害対策工事ないしその費用負担の義務があるか。

第3 当裁判所の判断
 1 認定事実
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
 (1) 被告マンションは平成4年に建築に着手され 平成5年9月頃完成した (甲4) 。建築当時,建築主がテレビ受信障害調査を行い,テレビの受信障害が発生すると予測された地域の住民に対しその費用負担で共同受信設備を設置し,従前どおりの地上アナログテレビ放送の電波を受信できるよう対策工事を行ったが,原告建物は対策工事の対象とはされなかった(乙1,2,3 )。

 (2) その後,平成9年9月25日頃,原告建物の前所有者であるAはF株式会社が運営するケーブルテレビに加入した(甲4,乙4,5)。

 (3) 原告は,平成19年8月24日,Aから被告マンションに隣接する原告建物を買い受けた。その際,原告はAないし不動産仲介業者から受信障害の事実を知らされず,契約書,重要事項説明書等の関係書類にもその旨の記載はない(甲1,8,9 )。


2 被告のテレビ受信障害対策工事ないしその費用負担の義務
 (1) 前記認定した事実に基づいて,まず被告マンション建設当時に原告建物に既に受信障害が発生していたかどうかについて検討する。前記の受信障害の調査結果に基づいて周辺建物に広く対策工事が行われたにもかかわらず,原告建物がその対象とされなかったことが認められる。また,原告建物の前所有者であるAがケーブルテレビに加入した目的のひとつは,受信障害を解消するためであったと解することもできるが,その時期が被告マンション建設の約4年後である平成9年9月25日頃であることからすると,その頃までの間は,A及び原告建物の賃借人等からの受信障害のクレームはなく経過したものと推認される。これらの事実からすると,被告マンション建設当時においては,原告建物について対策工事による補償を必要とするほどの受信障害は発生していなかったと推認するのが相当であり,これを覆すに足りる証拠はない。したがって,建設当時において,被告に,原告建物のテレビ受信障害対策工事をする義務はなかったものと認められる。

 (2) 被告マンション建設の約4年後である平成9年9月25日頃までに,Aがケーブルテレビ加入の必要を感じるに至った原因は,新たな建物の建築等による近辺の状況の変容が原因である可能性を否定できないというべきである。

 (3) 以上の経過によれば,原告は,被告マンション建設後約4年あまり経過した時点から受信障害が発生し始めたと解される地域にある原告建物を,さらにその後約10年経過した時点で購入した者であり,乙6号証の電波監理局長通達にいう「後住者」にあたると解するのが相当である。本件のようなテレビ受信障害を除去するための費用の公平負担の観点からすれば,後住者には受信障害の原因者が設置した共同受信施設の利用を無償で認め,同施設までのアクセスを確保するための引込線設置等の費用は,後住者が負担すべきであると解するのが相当である。そうすると,現時点においても被告に受信障害対策工事を行う義務はなく,共同受信施設までの引込線設置等の費用負担の義務もないと解される。


3 まとめ
 以上によれば,原告主張の工事費用の当否を議論するまでもなく,被告の義務違反を理由とする原告の損害賠償請求を認めることはできない。よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして, 主文のとおり判決する。

東 京 簡 易 裁 判 所 民 事 第 9 室

藤 岡 謙 三裁 判 官

 

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【判例】 東京簡易裁判所 平成20年11月19日判決 (店舗の敷金返還請求事件)

2009年07月02日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

 判例紹介

  平成20年11月19日判決言渡 東京簡易裁判所
  平成20年(ハ)第5970号 敷金返還請求事件
  口頭弁論終結日 平成20年10月8日


              判    決
              主    文

 1 被告は,原告に対し,37万2160円及びこれに対する平成20年1月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

 2 原告のその余の請求を棄却する。

 3 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。


                   事実及び理由

第1 請 求
 被告は,原告に対し,108万円及びこれに対する平成19年7月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が被告から被告所有のビル7階を事務所として賃借していたところ,原告が中途解約して賃貸借契約を終了し,事務所を明け渡したとして被告に交付していた敷金108万円の返還及びこれに対する明渡日の翌日である平成19年7月4日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求めたのに対し,被告が敷金から控除すべき即時解約金,償却費等があると争っている事案である。

 1 前提事実(争いのない事実並びに証拠(かっこ内に掲記)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

 (1) 原告は,すし店の経営等を目的とする有限会社であり,被告は,不動産の賃貸等を目的とする株式会社である(争いのない事実 )。


 (2) 原告は,被告との間で,平成18年3月9日,別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。 )を賃料1か月9万6000円,賃貸借期間を平成18年3月11日から平成20年3月10日までの2年間とする約定で賃借する契約(以下「本件賃貸借契約」という )を締結し,その引渡しを受けた(争いのない事実)。

 (3) 原告は,平成18年3月10日,被告に対し,本件賃貸借契約に関し,敷金として108万円(以下「本件敷金」という )を交付した(争いのない事実)。

 (4) 原告は,平成19年5月28日,被告に対し,本件賃貸借契約の解約を申し入れ(乙1) ,同契約は同年6月30日終了し,同年7月3日,本件建物を明け渡した(争いのない事実 )。

 (5) 原告は,平成18年3月11日から平成19年6月30日まで1か月9万6000円の賃料を支払った(弁論の全趣旨)。

 (6) 本件賃貸借契約の契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。)第15条には 「甲(被告)又は乙(原告)の都合により第3条の賃貸借期間満了前に解約しようとするときは,甲又は乙は,6ヶ月以前に相手方に対し,その予告をしなければならない。但し,乙は予告に代えて解約申し出の日以前の4ヶ月分の賃料額を甲に払込み,即時解約することができる (以下「本件借主解約特約」という。)との,同第18条には 「契約満了,第15条の解約及び第16条の解除により本契約が終了し賃貸借物件の返還を受けた場合,甲は敷金を賃料3ヶ月分相当額を差引いた金額を次項により返還する。」 (以下「本件償却特約」という。)との各定めがある。

2 被告の抗弁
 (1) 被告が返還すべき本件敷金108万円から控除すべき金額は,次のとおりである。

 ア 原告は,本件借主解約特約による払込みをしなかったのであるから,被告は,原告に対し,4か月分の賃料額38万4000円(9万6000円×4か月分 )(以下「本件即時解約金」という。)の支払義務があり,本件即時解約金が本件敷金から控除される。

 イ 本件償却特約により,償却費として賃料3か月分相当額28万8000円(以下「本件償却費」という。)が本件敷金から控除される。

 ウ 本件賃貸借契約書第19条には 「乙(原告)が賃貸借物件を明渡すべき場合にその明渡しをしないときは,乙は損害金として甲に対し1ヶ月当り退去事由の発生した月の賃料の倍額を支払うものとする。」旨の定めがあり,本件賃貸借契約が平成19年6月30日終了し,原告が本件建物を明け渡したのが同年7月3日であるから,7月1日からの3日分の損害金1万8580円(9万6000円×3/31×2)が本件敷金から控除される。

 本件賃貸借契約書第8条2項には 「賃貸借物件に関し乙(原告)が使用する電気,電話等の直接費用は乙の負担とする。 」旨の定めがあり,原告の負担した平成19年6月21日から同年7月3日までの未払電燈,空調料金1万7260円が本件敷金から控除される。

 オ 以上により,本件敷金から控除される金額は合計70万7840円である。

 (2) 本件賃貸借契約書第18条2項には,本件敷金の返還時期について,本件建物の明渡済みの6ヶ月後とする旨の定めがある。

3 争点
 本件借主解約特約及び本件償却特約の両方を適用することは,借地借家法の精神や公序良俗に反して無効となり,権利の濫用にあたるのか。

 (原告の主張)
 (1) 賃貸借契約は,賃借人による賃貸借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,本件建物を使用していない原告が,その期間に対応する被告の賃料収入を得られないことによって受ける損失を填補する理由はない。 また 本件償却特約の性質につき 被告も認めているとおり本件償却費は,本件建物の賃貸借期間中に生じた通常損耗,破損等の修復費に充てる目的とするものであるところ,賃貸借期間中に生じた通常損耗については,原則として賃借人が原状回復費用を負担することはないとしており(最高裁平成17年12月16日第二小法廷判決参照 ),本件のような敷引特約が通常損耗についての修復費を賃料により賃借人から回収しながら,更に敷引特約によりこれを回収することは,賃借時に,敷引特約の存在と敷引金額が明示されていたとしても,賃借人に二重の負担を課すことになるとして消費者契約法10条により敷引特約の効力を否定する判決が相次いでいる。確かに,原告は,法人であるから,消費者には該当せず,本件賃貸借契約には直接消費者契約法の適用はないが,上記敷引特約の性質は,本件賃貸借契約にも妥当するものであり,合理的な理由もない本件償却特約をその条項どおりに漠然と認めるのは賃借人保護を目的とする借地借家法の精神に反する。したがって,本件借主解約特約と本件償却特約のいずれも合理性がなく無効である。

 (2) 仮に本件借主解約特約と本件償却特約の両者が有効であっても,例えば賃借人が賃貸借契約満了前6か月よりも僅かでも遅れて解約の申入れをした場合には,賃貸人は,常に,賃借人に返還すべき敷金から,7か月分賃料相当額を控除することができることになる。本件においても,原告は,本件建物を実際に使用収益したのは1年4か月弱にすぎないのに,賃料7か月分相当額が本件敷金から控除されるのであり,かかる結果は,賃借人保護を目的とする借地借家法の精神に反し,賃貸人の暴利行為とも言いうるものであるから,本件借主解約特約と本件償却特約の両方を適用することが,公序良俗に反して無効となり,賃料7か月分相当額を本件敷金から控除することは権利の濫用にあたるというべきである。少なくとも,本件においては,本件借主解約特約及び本件償却特約の両方が適用されるべきではなく,控除額の少ない方の本件償却特約のみが適用されるべきである。

 (被告の主張)
 (1) 本件借主解約特約は,原告が明渡し予定日の6か月前までに解約予告をすることにより自己都合で中途解約することができるものとされる一方,即時解約を望む場合には,被告に4か月分の賃料額である本件即時解約金を支払う義務があることを約定したものであるところ,本件即時解約金は,原告の中途解約権の行使によって,被告が予定した賃料収入を得られないことによって受ける損失を原告が填補することにある。そして,被告が約定賃貸期間の拘束を受ける反面,中途解約の場合,その賃貸期間中の賃料収入の期待権を有すること,本件即時解約金38万4000円という額は原告の負担としては過大なものでないことを考えあわせると,本件借主解約特約が不合理な約定とはいえない。また,本件償却特約は,使用期間に関係なく賃料3か月分相当額である本件償却費を償却できる約定であるところ,本件賃貸借契約が終了し,本件建物の返還を受けた場合のみ敷金償却でき,本件賃貸借期間継続中に期間に対応する敷金償却ではないのであるから,賃借人である原告にとっては極めて有利な契約となっている。そして,本件償却特約は,本件償却費を本件賃貸借期間中に生じた通常損耗を含む損耗,破損等の修復費に充てる目的とするものであり,賃借人の犠牲において賃貸人を保護する規定ではない。したがって,本件借主解約特約も本件償却特約も借地借家法の精神や公序良俗に反して無効であるとは認められず,権利の濫用にあたるとはいえない。

 (2) そして,本件借主解約特約と本件償却特約はそれぞれの目的が異なるうえ,本件賃貸借契約を締結する際,A株式会社を仲介人として各契約条項の協議がなされ,原告代表者は本件即時解約金の支払や本件償却費の趣旨,すなわち,本件賃貸借契約の短期終了の場合の得失を十分に理解した上で本件賃貸借契約を締結したこと,賃借人の交替の際には新賃借人を見つけるまでにある程度の賃料収入を得られない期間が生ずることは往々にして避けられず,その際には賃貸人において新賃借人確保のために仲介業者に対する報酬等の経費が必要となること,更に,新たな賃貸に備えての賃貸物件の修復費(近年の一般的傾向として清潔傾向が高まり,入居者を確保するため,賃借人が代わる都度リフォームを行う必要に迫られていること)を要することなどの事情を考えると,本件賃貸借契約が短期に終了することを防ぎ,ひいてはその安定的な収入を確保するために賃貸借契約が中途解約となる場合に期間満了の場合と比して,多額の即時解約金,償却費を求めることは不合理ではなく許されるべきであり,本件即時解約金と本件償却費の合計額67万2000円という額は,賃料の7か月分に相当するものの,借主側の負担として必ずしも不当に高額とはいえない。したがって,本件各特約の両方を適用することが暴利行為になるとまではいえず,借地借家法の精神や公序良俗に反して無効にはならず,本件即時解約金と本件償却費の両者を原告に返還すべき本件敷金から控除することが権利の濫用にあたるとはいえない。

第3 争点についての判断
 1 証拠(甲1,乙3,4)及び弁論の全趣旨によれば,原告から貸室入居申入書の提出を受け,A株式会社がその仲介人となり,原告に対して重要事項説明書を説明したうえで本件賃貸借契約書が作成されたことが認められる。したがって,原告は本件賃貸借契約の作成経緯を特に争っていないのであるから,本件賃貸借契約書の内容を理解した上で本件賃貸借契約を締結したものと認めることができる。

 2 そこで,本件争点を判断する前提として,まず,本件借主解約特約と本件償却特約が有効な約定であるか否かを検討する。

 (1) 本件借主解約特約は,6か月前に解約予告をすることを前提に,借主に一方的な解約を許す一方,中途解約された場合に被告が賃料収入を得られないことによって受ける損害を違約金の支払義務という形で填補することによって,賃貸人の保護を図ることを目的として約定されたものと解するのが相当である。本件のような事業者用賃貸借契約の場合でも,解約予告ができる期間を明渡し予定日の6か月以前とすることや即時解約を望む場合には損害賠償の予定として相応の即時解約金を支払うこと自体は一般的に認められており,被告が本件賃貸借期間中の予定した賃料収入を期待することには十分な理由があるのであるから,本件即時解約金の額は,4か月分の賃料額であり,解約予告期限までの6か月分の賃料額にまではしておらず,原告の負担として過大な金額とはいえないから,本件借主解約特約が合理的な約定であると認めることができる。

 (2) 次に,本件では,本件償却特約とは別に本件賃貸借契約書第17条に,「乙(原告)は,契約満了,又は第15条の解約及び第16条の解除による場合,甲(被告)に対し,何等の異議なく直ちに賃貸借物件を乙の費用にて原状に回復して甲に明渡さなければならない。」旨の賃借人の原状回復義務を認める定めがあるところ,一般に,オフィスビルの賃貸借において,次の賃借人に賃貸する必要から,賃借人に通常損耗か否かを問わず原状回復義務を課す旨の特約を付す場合が多いことが認められる。また,この原状回復費用額は,賃借人の建物の使用方法によって異なり,損耗の状況によっては相当高額になることもあり,その費用を賃借人の負担とするのが相当であること,この原状回復特約をせずに原状回復費用を賃料額に反映させると賃料の高騰につながるばかりではなく,賃借人の使用期間は,もっぱら賃借人側の事情によって左右され,賃貸人においてこれを予測することが困難であるため,適正な原状回復費用をあらかじめ賃料に含めるのは現実的には不可能であることから,原状回復費用を賃料に含めないで,賃借人が退去する際に賃借時と同等の状態にまでにする原状回復義務を負わせる特約を定めていることは,経済的にも合理性があると解するのが相当である。そして,原告の主張する判例等は,居住用賃貸借契約の事案であり,そこで示された賃貸借期間中に生じた損耗については,原則として賃借人が原状回復費用を負担することはないことや通常損耗についての修復費を賃料により賃借人から回収しながら,更に敷引特約によりこれを回収することは,賃借時に,敷引特約の存在と敷引金額が明示されていたとしても,賃借人に二重の負担を課すことになるということは,前記のとおり,市場性原理と経済的合理性が支配するオフィスビルのような事業者用賃貸借契約には妥当しないといえる。 しかも,原告は事業者であり,被告とは共に事業者という交渉力と情報力で対等な立場にあるから,本件に消費者契約法を適用することはできない。したがって,本件償却特約が本件償却費を本件賃貸借期間中に生じた通常損耗を含む損耗,破損等の修復費に充てる目的とするものであると認められるところ,本件償却特約は,本件賃貸借契約が終了した本件建物に生じた通常損耗を含む損耗,破損等の原状回復費用として敷金の一定の額を充てるものであり,それが原状回復費用の事前の概算的な算定とみることができる限りで賃借人である原告に一方的に不利な特約とはいえず,本件償却費の額も本件敷金の約25パーセントであり,相当な額といえる。したがって,本件償却特約が合理的な約定であると認めることができる。

 (3) そうすると,本件借主解約特約と本件償却特約のいずれも合理的な約定であるから,借地借家法の精神や公序良俗違反に反して無効とはいえず,権利の濫用にもあたらないのはもちろん,本件各特約はそれぞれ目的を異にして約定されたものであるから,本件において本件各特約の両方を適用した本件敷金から控除される合計額が本件賃貸借契約の賃料7か月分相当額に達したとしても,これをもって暴利行為であるとまではいえず,借地借家法の精神や公序良俗に反して無効にはならず,本件敷金から上記合計額を控除することが権利の濫用にはあたらないといえるから,原告の主張を採用することできない。

 3 以上を前提に,被告が本件敷金から控除しうる金額は,本件即時解約金38万4000円,本件償却費28万8000円,損害金1万8580円及び未払電燈,空調料金1万7260円の合計70万7840円であり,本件敷金108万円からこれを控除した37万2160円が原告に返還すべき金額であると認められる。そして,被告が主張する抗弁(2)については,本件賃貸借契約書第18条2項によれば,本件建物の明渡済みの6ヶ月後を本件敷金の返還時期とすることが認められるところ,原告が本件建物を明け渡した平成19年7月3日の6か月後に本件敷金の返還につき遅滞が生じたのであるから,平成20年1月4日から遅延損害金が発生することになる。

 4 以上によれば,原告の請求は主文の限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

  東京簡易裁判所民事第5室

    裁 判 官   青 木  正 人

 

 

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非正規労働者、保証人に苦労も (朝日新聞)

2009年07月01日 | 家賃保証会社・管理会社・(追い出し屋)

 若者のひとり暮らし。中でも非正規労働者だと、正社員に比べ住宅を借りにくいようです。家賃保証会社も増えていますが、滞納してトラブル、という例も。注意点をまとめました。

 

朝日新聞 2009年6月27日

 


 「ご縁がありませんでした」。不動産仲介業者からの電話に、大阪市の派遣社員の男性(28)は声を失った。前日、CMで有名な仲介大手の営業所でアパートへの入居を申し込んでいた。

 愛知県の自動車部品工場の正社員だったが、経済危機の余波で今年2月に解雇された。ネットカフェで寝泊まりしながら派遣会社に登録。4月に仕事が見つかり、住居を探していた。

 入居申込書の職業欄に「派遣社員」、連帯保証人は67歳の母の名前を書いていた。「人格を否定されたようで悔しい」

 労働力調査(08年)では、25~34歳の単身雇用者181万人のうち非正規は約22%で5年前より5ポイント増。多くは賃貸住まいだ。

 仲介業者を選ぶ際、知名度だけでなく地元に根付いているか考えるよう勧めるのは、不動産適正取引推進機構(東京)の担当者だ。「家主の顔が見えているので、給与明細を持って行くなど真剣さを見せれば、口添えしてくれる場合もある」。入居審査のポイントは収入、雇用形態、連帯保証人だ。家主にもよるが、非正規ほど連帯保証人の収入や職業が重視される。

 しかし、その保証人で苦労する例が多い。親に頼めない人が増えたほか、「親自身も収入減で保証人としての機能が低下している」(不動産業者)。

 空き部屋は埋めたいが、滞納は怖いというのが家主の本音。一方で借り手は信用力ある保証人を立てられない。両方のニーズを背景に家賃保証会社が広がる。

 しくみはこうだ。1カ月分の家賃の30~90%を保証料として支払い、保証会社と保証委託契約を結ぶ。借り主が家賃を滞納すると保証会社が立て替え、その後借り主から回収する。

 ただ、滞納時の保証会社の対応には注意が必要だ。

 東京借地借家人組合連合会には「10分おきに取り立ての電話が来る」「深夜に取り立てに来て、深夜訪問の手数料を請求された」など、いわゆる「追い出し屋」による被害の相談も多い。派遣社員の女性は一日でも家賃が遅れると、自動的に更新料を払わされる契約になっていた。何度か滞納してしまい、更新料は年20数万円に上ったという。

 家賃保証会社の利用が前提になっている物件もあるので、選ぶ際に確認し、利用せざるを得ない場合は委託契約書にもきちんと目を通そう。滞納時の対応に(1)鍵を交換する(2)家財道具を搬出する(3)高額な遅延損害金支払いなどがある場合は要注意。その会社でトラブル例がないかなど疑問点は質問し、場合によっては保証会社を変えてもらおう。

 国土交通省は、家賃保証業務の規制を検討している。東京借地借家人組合連合会の佐藤富美男会長は「業界も改善しつつある。仲介業者が悪質な保証会社と提携している場合は、別の仲介業者を探してみては」と助言する。

 

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