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【判例】 東京簡易裁判所 平成20年11月19日判決 (店舗の敷金返還請求事件)

2009年07月02日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

 判例紹介

  平成20年11月19日判決言渡 東京簡易裁判所
  平成20年(ハ)第5970号 敷金返還請求事件
  口頭弁論終結日 平成20年10月8日


              判    決
              主    文

 1 被告は,原告に対し,37万2160円及びこれに対する平成20年1月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

 2 原告のその余の請求を棄却する。

 3 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。


                   事実及び理由

第1 請 求
 被告は,原告に対し,108万円及びこれに対する平成19年7月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が被告から被告所有のビル7階を事務所として賃借していたところ,原告が中途解約して賃貸借契約を終了し,事務所を明け渡したとして被告に交付していた敷金108万円の返還及びこれに対する明渡日の翌日である平成19年7月4日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求めたのに対し,被告が敷金から控除すべき即時解約金,償却費等があると争っている事案である。

 1 前提事実(争いのない事実並びに証拠(かっこ内に掲記)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

 (1) 原告は,すし店の経営等を目的とする有限会社であり,被告は,不動産の賃貸等を目的とする株式会社である(争いのない事実 )。


 (2) 原告は,被告との間で,平成18年3月9日,別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。 )を賃料1か月9万6000円,賃貸借期間を平成18年3月11日から平成20年3月10日までの2年間とする約定で賃借する契約(以下「本件賃貸借契約」という )を締結し,その引渡しを受けた(争いのない事実)。

 (3) 原告は,平成18年3月10日,被告に対し,本件賃貸借契約に関し,敷金として108万円(以下「本件敷金」という )を交付した(争いのない事実)。

 (4) 原告は,平成19年5月28日,被告に対し,本件賃貸借契約の解約を申し入れ(乙1) ,同契約は同年6月30日終了し,同年7月3日,本件建物を明け渡した(争いのない事実 )。

 (5) 原告は,平成18年3月11日から平成19年6月30日まで1か月9万6000円の賃料を支払った(弁論の全趣旨)。

 (6) 本件賃貸借契約の契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。)第15条には 「甲(被告)又は乙(原告)の都合により第3条の賃貸借期間満了前に解約しようとするときは,甲又は乙は,6ヶ月以前に相手方に対し,その予告をしなければならない。但し,乙は予告に代えて解約申し出の日以前の4ヶ月分の賃料額を甲に払込み,即時解約することができる (以下「本件借主解約特約」という。)との,同第18条には 「契約満了,第15条の解約及び第16条の解除により本契約が終了し賃貸借物件の返還を受けた場合,甲は敷金を賃料3ヶ月分相当額を差引いた金額を次項により返還する。」 (以下「本件償却特約」という。)との各定めがある。

2 被告の抗弁
 (1) 被告が返還すべき本件敷金108万円から控除すべき金額は,次のとおりである。

 ア 原告は,本件借主解約特約による払込みをしなかったのであるから,被告は,原告に対し,4か月分の賃料額38万4000円(9万6000円×4か月分 )(以下「本件即時解約金」という。)の支払義務があり,本件即時解約金が本件敷金から控除される。

 イ 本件償却特約により,償却費として賃料3か月分相当額28万8000円(以下「本件償却費」という。)が本件敷金から控除される。

 ウ 本件賃貸借契約書第19条には 「乙(原告)が賃貸借物件を明渡すべき場合にその明渡しをしないときは,乙は損害金として甲に対し1ヶ月当り退去事由の発生した月の賃料の倍額を支払うものとする。」旨の定めがあり,本件賃貸借契約が平成19年6月30日終了し,原告が本件建物を明け渡したのが同年7月3日であるから,7月1日からの3日分の損害金1万8580円(9万6000円×3/31×2)が本件敷金から控除される。

 本件賃貸借契約書第8条2項には 「賃貸借物件に関し乙(原告)が使用する電気,電話等の直接費用は乙の負担とする。 」旨の定めがあり,原告の負担した平成19年6月21日から同年7月3日までの未払電燈,空調料金1万7260円が本件敷金から控除される。

 オ 以上により,本件敷金から控除される金額は合計70万7840円である。

 (2) 本件賃貸借契約書第18条2項には,本件敷金の返還時期について,本件建物の明渡済みの6ヶ月後とする旨の定めがある。

3 争点
 本件借主解約特約及び本件償却特約の両方を適用することは,借地借家法の精神や公序良俗に反して無効となり,権利の濫用にあたるのか。

 (原告の主張)
 (1) 賃貸借契約は,賃借人による賃貸借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,本件建物を使用していない原告が,その期間に対応する被告の賃料収入を得られないことによって受ける損失を填補する理由はない。 また 本件償却特約の性質につき 被告も認めているとおり本件償却費は,本件建物の賃貸借期間中に生じた通常損耗,破損等の修復費に充てる目的とするものであるところ,賃貸借期間中に生じた通常損耗については,原則として賃借人が原状回復費用を負担することはないとしており(最高裁平成17年12月16日第二小法廷判決参照 ),本件のような敷引特約が通常損耗についての修復費を賃料により賃借人から回収しながら,更に敷引特約によりこれを回収することは,賃借時に,敷引特約の存在と敷引金額が明示されていたとしても,賃借人に二重の負担を課すことになるとして消費者契約法10条により敷引特約の効力を否定する判決が相次いでいる。確かに,原告は,法人であるから,消費者には該当せず,本件賃貸借契約には直接消費者契約法の適用はないが,上記敷引特約の性質は,本件賃貸借契約にも妥当するものであり,合理的な理由もない本件償却特約をその条項どおりに漠然と認めるのは賃借人保護を目的とする借地借家法の精神に反する。したがって,本件借主解約特約と本件償却特約のいずれも合理性がなく無効である。

 (2) 仮に本件借主解約特約と本件償却特約の両者が有効であっても,例えば賃借人が賃貸借契約満了前6か月よりも僅かでも遅れて解約の申入れをした場合には,賃貸人は,常に,賃借人に返還すべき敷金から,7か月分賃料相当額を控除することができることになる。本件においても,原告は,本件建物を実際に使用収益したのは1年4か月弱にすぎないのに,賃料7か月分相当額が本件敷金から控除されるのであり,かかる結果は,賃借人保護を目的とする借地借家法の精神に反し,賃貸人の暴利行為とも言いうるものであるから,本件借主解約特約と本件償却特約の両方を適用することが,公序良俗に反して無効となり,賃料7か月分相当額を本件敷金から控除することは権利の濫用にあたるというべきである。少なくとも,本件においては,本件借主解約特約及び本件償却特約の両方が適用されるべきではなく,控除額の少ない方の本件償却特約のみが適用されるべきである。

 (被告の主張)
 (1) 本件借主解約特約は,原告が明渡し予定日の6か月前までに解約予告をすることにより自己都合で中途解約することができるものとされる一方,即時解約を望む場合には,被告に4か月分の賃料額である本件即時解約金を支払う義務があることを約定したものであるところ,本件即時解約金は,原告の中途解約権の行使によって,被告が予定した賃料収入を得られないことによって受ける損失を原告が填補することにある。そして,被告が約定賃貸期間の拘束を受ける反面,中途解約の場合,その賃貸期間中の賃料収入の期待権を有すること,本件即時解約金38万4000円という額は原告の負担としては過大なものでないことを考えあわせると,本件借主解約特約が不合理な約定とはいえない。また,本件償却特約は,使用期間に関係なく賃料3か月分相当額である本件償却費を償却できる約定であるところ,本件賃貸借契約が終了し,本件建物の返還を受けた場合のみ敷金償却でき,本件賃貸借期間継続中に期間に対応する敷金償却ではないのであるから,賃借人である原告にとっては極めて有利な契約となっている。そして,本件償却特約は,本件償却費を本件賃貸借期間中に生じた通常損耗を含む損耗,破損等の修復費に充てる目的とするものであり,賃借人の犠牲において賃貸人を保護する規定ではない。したがって,本件借主解約特約も本件償却特約も借地借家法の精神や公序良俗に反して無効であるとは認められず,権利の濫用にあたるとはいえない。

 (2) そして,本件借主解約特約と本件償却特約はそれぞれの目的が異なるうえ,本件賃貸借契約を締結する際,A株式会社を仲介人として各契約条項の協議がなされ,原告代表者は本件即時解約金の支払や本件償却費の趣旨,すなわち,本件賃貸借契約の短期終了の場合の得失を十分に理解した上で本件賃貸借契約を締結したこと,賃借人の交替の際には新賃借人を見つけるまでにある程度の賃料収入を得られない期間が生ずることは往々にして避けられず,その際には賃貸人において新賃借人確保のために仲介業者に対する報酬等の経費が必要となること,更に,新たな賃貸に備えての賃貸物件の修復費(近年の一般的傾向として清潔傾向が高まり,入居者を確保するため,賃借人が代わる都度リフォームを行う必要に迫られていること)を要することなどの事情を考えると,本件賃貸借契約が短期に終了することを防ぎ,ひいてはその安定的な収入を確保するために賃貸借契約が中途解約となる場合に期間満了の場合と比して,多額の即時解約金,償却費を求めることは不合理ではなく許されるべきであり,本件即時解約金と本件償却費の合計額67万2000円という額は,賃料の7か月分に相当するものの,借主側の負担として必ずしも不当に高額とはいえない。したがって,本件各特約の両方を適用することが暴利行為になるとまではいえず,借地借家法の精神や公序良俗に反して無効にはならず,本件即時解約金と本件償却費の両者を原告に返還すべき本件敷金から控除することが権利の濫用にあたるとはいえない。

第3 争点についての判断
 1 証拠(甲1,乙3,4)及び弁論の全趣旨によれば,原告から貸室入居申入書の提出を受け,A株式会社がその仲介人となり,原告に対して重要事項説明書を説明したうえで本件賃貸借契約書が作成されたことが認められる。したがって,原告は本件賃貸借契約の作成経緯を特に争っていないのであるから,本件賃貸借契約書の内容を理解した上で本件賃貸借契約を締結したものと認めることができる。

 2 そこで,本件争点を判断する前提として,まず,本件借主解約特約と本件償却特約が有効な約定であるか否かを検討する。

 (1) 本件借主解約特約は,6か月前に解約予告をすることを前提に,借主に一方的な解約を許す一方,中途解約された場合に被告が賃料収入を得られないことによって受ける損害を違約金の支払義務という形で填補することによって,賃貸人の保護を図ることを目的として約定されたものと解するのが相当である。本件のような事業者用賃貸借契約の場合でも,解約予告ができる期間を明渡し予定日の6か月以前とすることや即時解約を望む場合には損害賠償の予定として相応の即時解約金を支払うこと自体は一般的に認められており,被告が本件賃貸借期間中の予定した賃料収入を期待することには十分な理由があるのであるから,本件即時解約金の額は,4か月分の賃料額であり,解約予告期限までの6か月分の賃料額にまではしておらず,原告の負担として過大な金額とはいえないから,本件借主解約特約が合理的な約定であると認めることができる。

 (2) 次に,本件では,本件償却特約とは別に本件賃貸借契約書第17条に,「乙(原告)は,契約満了,又は第15条の解約及び第16条の解除による場合,甲(被告)に対し,何等の異議なく直ちに賃貸借物件を乙の費用にて原状に回復して甲に明渡さなければならない。」旨の賃借人の原状回復義務を認める定めがあるところ,一般に,オフィスビルの賃貸借において,次の賃借人に賃貸する必要から,賃借人に通常損耗か否かを問わず原状回復義務を課す旨の特約を付す場合が多いことが認められる。また,この原状回復費用額は,賃借人の建物の使用方法によって異なり,損耗の状況によっては相当高額になることもあり,その費用を賃借人の負担とするのが相当であること,この原状回復特約をせずに原状回復費用を賃料額に反映させると賃料の高騰につながるばかりではなく,賃借人の使用期間は,もっぱら賃借人側の事情によって左右され,賃貸人においてこれを予測することが困難であるため,適正な原状回復費用をあらかじめ賃料に含めるのは現実的には不可能であることから,原状回復費用を賃料に含めないで,賃借人が退去する際に賃借時と同等の状態にまでにする原状回復義務を負わせる特約を定めていることは,経済的にも合理性があると解するのが相当である。そして,原告の主張する判例等は,居住用賃貸借契約の事案であり,そこで示された賃貸借期間中に生じた損耗については,原則として賃借人が原状回復費用を負担することはないことや通常損耗についての修復費を賃料により賃借人から回収しながら,更に敷引特約によりこれを回収することは,賃借時に,敷引特約の存在と敷引金額が明示されていたとしても,賃借人に二重の負担を課すことになるということは,前記のとおり,市場性原理と経済的合理性が支配するオフィスビルのような事業者用賃貸借契約には妥当しないといえる。 しかも,原告は事業者であり,被告とは共に事業者という交渉力と情報力で対等な立場にあるから,本件に消費者契約法を適用することはできない。したがって,本件償却特約が本件償却費を本件賃貸借期間中に生じた通常損耗を含む損耗,破損等の修復費に充てる目的とするものであると認められるところ,本件償却特約は,本件賃貸借契約が終了した本件建物に生じた通常損耗を含む損耗,破損等の原状回復費用として敷金の一定の額を充てるものであり,それが原状回復費用の事前の概算的な算定とみることができる限りで賃借人である原告に一方的に不利な特約とはいえず,本件償却費の額も本件敷金の約25パーセントであり,相当な額といえる。したがって,本件償却特約が合理的な約定であると認めることができる。

 (3) そうすると,本件借主解約特約と本件償却特約のいずれも合理的な約定であるから,借地借家法の精神や公序良俗違反に反して無効とはいえず,権利の濫用にもあたらないのはもちろん,本件各特約はそれぞれ目的を異にして約定されたものであるから,本件において本件各特約の両方を適用した本件敷金から控除される合計額が本件賃貸借契約の賃料7か月分相当額に達したとしても,これをもって暴利行為であるとまではいえず,借地借家法の精神や公序良俗に反して無効にはならず,本件敷金から上記合計額を控除することが権利の濫用にはあたらないといえるから,原告の主張を採用することできない。

 3 以上を前提に,被告が本件敷金から控除しうる金額は,本件即時解約金38万4000円,本件償却費28万8000円,損害金1万8580円及び未払電燈,空調料金1万7260円の合計70万7840円であり,本件敷金108万円からこれを控除した37万2160円が原告に返還すべき金額であると認められる。そして,被告が主張する抗弁(2)については,本件賃貸借契約書第18条2項によれば,本件建物の明渡済みの6ヶ月後を本件敷金の返還時期とすることが認められるところ,原告が本件建物を明け渡した平成19年7月3日の6か月後に本件敷金の返還につき遅滞が生じたのであるから,平成20年1月4日から遅延損害金が発生することになる。

 4 以上によれば,原告の請求は主文の限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

  東京簡易裁判所民事第5室

    裁 判 官   青 木  正 人

 

 

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