デトロイトテクノの記念碑。UKで80年代後半に巻き起こったムーブメント、セカンド・サマー・オブ・ラブの特大アンセムとして知られる、デリック・メイのRhythim Is Rhythim名義によるシングル盤です。デリック・メイはデトロイトテクノ・オリジネイター3人のうちの1人で、その筋では神様みたいな人。その彼の代表作がこの曲です。オリジナルのリリースは1987年。自身によるレーベル、Transmatからの4作目として発売されていますが、これはUKのKool Katレーベルがライセンス権を購入し1989年にリリースされたもの。このKool Katレーベルは当時デトロイトの仲間内のみで局地的に発生していたテクノムーブメントをヨーロッパ、引いては世界全土に知らしめた立役者で、本作以外にも何枚もの12インチを製作しています。このレーベルからのリリースにおける特徴は、この見事としか言いようがないジャケットのアートワーク。オリジナルの12インチは飾り気のないノンジャケ盤ですが、そこにこのポップで近未来的なジャケを加えることで、多くの新しいもの好きリスナーに購買欲を煽ったのがKool Kat最大の功績でしょう。タイトル曲のA-1はデリック・メイと同じくオリジネイターの一人であるホアン・アトキンスによるリミックス。オリジナルであるB-1をさらに激しいビートを加えさらにダンサンブルに仕上げた好リミックスで、本作のみに収録されているナンバーです。またB-2のNude PhotoはTransmatからリリースされた2作目のタイトル曲。本作収録のナンバー含めデリック・メイのナンバーは全体的に作り方が荒く、お世辞にも洗練されたナンバーとは言えないものばかりなのですが、それを補って余りある初期衝動が非常に魅力的で、時々ものすごく聴きたくなります。音楽のジャンル的に万人にお勧めできるとは言い難いですが、一時代を築き上げ後のシーンに大きな影響を与えた一枚であることは間違いないので、聴いたことがないという人は是非一度聴いてみてください。
前回紹介したイアン・オブライアンの初期ベストでデトロイトテクノに耳を鳴らしたら、次に聴くべきなのが本作。イアンのオマージュ元であるマッド・マイクことMike Banks(マイク・バンクス)を中心とした異能集団Underground Resistanceによる2005年リリースのベスト盤です。いわゆるハードコア路線の曲も収録されていますが、何と言っても最大のポイントは1991~1993年にリリースされたNation 2 Nation、World 2 World、Galaxy 2 Galaxyという彼らの代名詞とも言える12インチ三部作から多数の曲が選曲されていること。本作がリリースされるまでこれら三部作の収録曲はCDだと一部がコンピレーションに収められているのみでしたが、それが一挙に聴けるということでリリース当時テクノ界隈では大いに話題になりました。特にシリーズ第一作で彼らにとって転機となった90年のNation 2 Nationに関しては、ノンビートのナンバーも含め6曲全てがコンパイルされており、デトロイトテクノの一つの完成型を余すことなく堪能することが可能となっています。三部作それぞれのリード曲であるM1-8のNation 2 Nation、M1-11のJupiter Jazz、M2-1のHi-Tech Jazzはそれぞれクラシック中のクラシック。エモーショナルかつコズミックな至高のナンバーに仕上がっています。それまでイメージだけでこの手の音楽を敬遠していた自分が、テクノの認識を改めるきっかけの一つがこの辺りのナンバーなので、個人的にも非常に思い入れのある作品群。これだけでも充分に聴く価値のある作品なのに、リリース当時の新譜からも何曲かセレクトされており、特にM1-4のReturn Of The Dragons(Timeline名義によるTime Sensitiveの改題=内容同じ)やM2-4のWindchime(Perception & Mad Mike名義でのリリース作)あたりは~2~シリーズ直系のコズミックナンバーとなっています。あいにく現在では廃盤となっており、購入する場合は中古を探すしかありませんが、人気作ということもあり入手は容易。前回のイアン・オブライアン同様テクノにマイナスのイメージを持っている人にこそ是非聴いて頂きたいお勧めの一枚です。
ネオアコと並ぶ最近のもう一つのマイブームがデトロイトテクノ。この辺りの音はクラブジャズのバブルが弾けた後、勉強も兼ねて一時期よく聴いていたのですが、昨年暮れ辺りから再び我が家のヘビーローテーションに加わりつつあります。きっかけは昨年9月にリリースされたこのイアン・オブライアンの初期ベスト盤。クラブ界隈でヒットした1999年の2ndアルバムGigantic Days以降のイメージから、いわゆるNu Jazz/Crossover系のサウンドクリエイターとして捉えられることが多い彼ですが、元々はMad Mike Disease(マッドマイク病)の重症患者としてシーンに飛び出してきた人物で、本作はその頃の代表曲や未発表曲を中心にコンパイルした一枚となっています。件のMad Mike Diseaseこそ収録されていないものの、アルバム通して非常に模範的なデトロイトフォロワー作品となっており、個人的にはかなり評価高め。もはや定番中の定番であるM-4のMonkey JazzやM-5のThat Was Now、そして今回17年越しで初めてCD化と相成ったM-8のTatoo Jazzを筆頭に、全編に渡りひたすらエモーショナルでエレクトリックなデトロイトサウンドが展開されています。テクノというジャンルは非常に癖があるので、普段この手の音を聴かない人にとってはどうしても取っつきにくさが否めませんが、この作品に関しては本場USではなくUK産であることもあり非常にインテリジェンスかつスマートにまとまっているため、あまり耐性のない方にも素直にお勧めできる一枚。ある意味、デトロイトテクノの入門編としてはおそらくこれ以上に最適な作品はないでしょう。この手の電子音楽に抵抗のある人にこそ、ぜひ一度聴いてみて頂きたい名盤。最近リリースされた作品で手軽に入手できるはずなので、気になる方は是非チェックしてみてください。