(前回からの続き)
このほど輸入車に対する高率の追加関税の検討を発表したドナルド・トランプ大統領の本心は、これによってアメリカに入ってくる輸入車数を削減し、そのぶん自国内の自動車工場で生産される台数の増加を促して雇用の拡大につなげたい、といったあたりだろうという推測を前回綴りました。トランプ氏らはこれを安全保障の観点からの措置だと語っていますが、つまりは外国からの輸入車が自国民の職を奪っている―――安保が脅かされている―――という理屈なのでしょう。アメリカも入っている世界貿易機関(WTO)は原則、この手の一方的な輸入制限は禁じているものの、安保が理由ならば例外扱いができるとのことなので、そのあたりも意識して安保(national security)というワードを使ったものと思われます。
先述のようにこの極端な関税、理不尽なものです。アメリカと自動車輸出国のそれぞれの企業や米消費者との間でハッピーに行われていた商取引に米当局が過剰介入してこれを阻害しようというのですから。まるでどこかの左翼政権のようなやり方であり、自由主義圏の旗手であるべき国の政府がやることとは到底思えません。それにこれだと米市場では競争原理がますます働かなくなり、アメ車メーカーは油断して企業努力を怠るのは必至です。その結果、これらの多くは他国車にどんどん後れを取ることになり、結局は米自動車産業全体が衰亡に向かうことでしょう・・・(?)
とまあ、デメリットを上げていけばキリがありませんが、それでもアメリカが関税率を上げる、というのであれば、わが国としても対策を打たなければなりませんね。第一にするべきことは、ドイツなどの他の自動車輸出国と連携してアメリカに対してWTOルールを順守するよう訴えること。このあたり、日ごろはライバル関係にあってもこれが大ダメージになるところは共通しているので、ぜひ日欧の関係各所にはトランプ政権に翻意を促すよう共闘してほしいものです。
逆にこれがうまくいかないと最悪「アメリカがやるのならウチも!」とばかりにEUまで自動車関税を引き上げかねません(?)。で、アメリカよりもタチが悪いのは、この場合、実質的な標的が日本車だけになること。そのへんは、自動車の品質や価格などの総合評価を表す不等式「日本車>欧州(ドイツ)車>韓国車≧アメ車(?)」をみれば推測できます(ってこれ、個人的な独断と偏見に基づく序列ですが、輸入車に対する関税率が日本はゼロ%、欧州は最高10%[輸入日本車]、米は最大25%に引き上げ予定、といったあたりからすれば、たしかにこのとおりでしょう?)。つまり、EUとしては、欧州自動車市場においては同不等式「下位」のアメ車や韓国車は欧州車の大したライバルにはならないが、「上位」の日本車だけがドイツ車をも凌駕する脅威となるため、関税障壁強化で流入を抑制したくなる、ということです・・・
日本とEUは昨年、経済連携協定に関連してEU側の日本車関税を当該協定締結後8年目に撤廃することに合意しています。これが白紙に戻されないようにするためにも、あえてEUと固く手を取り合って米政権の無茶な振る舞いに強く抗議していく必要があると考えています。