(前回からの続き)
前回書いたように、この1年の消費者物価(6月時点)はプラス3.6%と、日銀が「異次元緩和」によって達成をめざす同上昇率2%を大きく上回りました。一方で長期金利は0.5%台前半ですから、現時点での実質金利は3%程度ものマイナスと推定されます。
で、この物価の上昇は次の2つのエンジンの力でもたらされたもの。1つめが円安誘導の結果生じた輸入インフレ、そして2つめが消費増税―――いずれもアベノミクスが物価を上げようとして意識的に推進・実行したものです。
ではこの2つのインフレエンジンは今後も物価を押し上げる推進力となるのか、ですが、何とも不透明といわざるを得ません。
まずは輸入インフレ―――為替レートの円安をテコとした石油・ガス等のエネルギー資源や各種原材料の円建て価格の引き上げ―――です。コストを跳ね上げるだけの「悪いインフレ」でもあります。これをもっと煽るためにはさらに円安を促す必要がありますが、日銀は本気でそうするつもりでしょうか、「追加緩和」の発動で? 現在のドル円レートは1ドル102円台くらいですが、輸入必需品の高騰がわが国の実体経済に与えている悪影響を考えると、政策的な円安はこのあたりが限界ではないでしょうか(というより、とっくに限度を超えているのでは・・・)。
それに、いまはこれ以上円を売って外貨建て資産を買い増そうというマーケット環境ではないでしょう。借金バブルを延命・膨張させる以外に手がない欧米諸国は絶対に金利を上げられないからです。金利差が広がらなければ外債投資の妙味は増しません。さらにいうと、海外の資産はあまりに危険―――その価額のかなりの部分が「バブル」であるうえ、地政学リスク(直近ではウクライナなど)、ソブリンリスク(同アルゼンチンなど)、銀行の財務リスク(同ポルトガルなど)、そしてこれらに仕込まれたCDS決済リスクなどと、リスクが山盛りです・・・。
こうした事情から、さらなる円安は進めにくいし進みにくい―――つまりこの先は(円建て価格の高止まり状態は続くかもしれないが)この1年間と同じくらいの高率の円安インフレが続く可能性は低いと予想しています(まあ国際商品相場のドル建て価格が上がるリスクはあるが・・・)。
最近の消費者物価の上昇に大きく貢献したもうひとつのエンジンが消費増税―――4月に実施された消費税率の5%から8%への引き上げです。これによって増税前の昨年と比べて増税後の今年で物価が上昇するのは至極当然です。しかし、これは消費税率が上がった時だけの一過性の現象にすぎず、毎年、継続的に物価を押し上げる作用を持つものではありません。したがって当たり前ですが、消費税率アップの助けを得られたインフレ目標達成は今年限り?(いや、来年の10月以降はチャンスあり[同8%→10%へ引き上げ予定]!?)
以上のような理由で、昨年から今年にかけて力を発揮した物価上昇の2つのエンジンはこれからは当てにできないと考えています。ということは、わが国の物価は今後、日銀の期待どおりには上がっていかないと予想される・・・。つまり、この後、対前年のインフレ率がふたたびゼロに近づく(それどころか物価が下がる!?)→実質金利のマイナス状態が解消される→金融機関としては、とりあえず「ブタ積み」でOK!→日銀当座預金の残高は増え続けることになる・・・。
結局のところ、日銀の年2%物価上昇の目標達成はまず無理・・・大っぴらには語られないけれど、これが本邦金融界のコンセンサスなのではないでしょうか。
(続く)
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