人件費を政府が目標を決めて、それに近づけるように「最低賃金の引上げ」の決定に介入するべきだ、という主張が経済専門家から出されている。
従来だったら、賃金水準は労働力の需給のバランスで決まるので、【政府介入は市場取引を歪める】から御法度だと言うだろう。
今までの経済学の常識では、物やサービスの取引は、市場取引原則を守って民間企業の努力を引きだし、優位に立った企業が生き残り、経済を牽引する。
劣った企業は、経営者を交代させるか、改革を促して全体の水準を引き上げていくのが、自由市場経済の原理である。
しかし、労働力を「モノやサービスの取引」と同じに扱うこと自体が、大きな誤りであることに気がつかなければならない。
20年以上前に、アメリカの経済学者が賃金の引上げによって、その後の経済の影響がどう受けるかの比較研究を実施している。
ファーストフード業界の最低賃金を引上げた州と、近隣で引上げをしない州で雇用がどうなるかの研究成果が発表された。
それまで経済学者の考えは、賃金を引上げた州で雇用がマイナスになると考えていたが、実体のデータでは、引上げた州では雇用は減らず、むしろプラスの効果があった。
労働者は、感情を持った人間なので、賃金の引上げは、「モラルの向上。離職率の低下、生産性向上」といったメリット生み出す効果が生まれる。
労働コストが上がるから経営面でマイナス効果を考えていた、「従来の経済学は誤り」であることが、その後の多くのデータからも見られる。
雇用主は、常に低賃金化に向けた経営を重視しているが、より高い賃金化による「モラル向上や生産性」を重視する経営のメリットが重視されるのだ。
雇用主だけの経営メリットならば、低賃金化による人件費の削減が経営上の有利さに繋がるが、全体的には【労働分配率が下がり消費購買力の低下】させる。
それ故、公共政策としてはより多くの企業が高い賃金政策を導入するようにし向けるのが、重要な政策課題になっている。
グローバル化経済では、途上国の低賃金労働との競争に晒されるから、【高い賃金政には決別しなければならない】と、思い込んだのがデフレ経済の原因である。
低賃金労働の有利さで、物作りの技術を導入して、低価格の商品を輸出に頼る世界経済でも、消費購買力を持っている先進国の経済が停滞すれば輸出はのびない。
結局、極端な低価格の競争は、すべての働く人が貧困化する経済となる。
少なくとも、輸入にできない「サービス労働」を、価格競争力の市場に委ねるのは、全体の経済の面からは、給料を積極的に引き上げるべきで、政府が介入できる「最低賃金は引上げ」を優先的に実行することが、デフレ対策になる。
従来の経学に囚われていては、グローバル化経済には対応できないのだ。(続)