庵KM

技術屋OBの環境問題独り言

経済問題。交通問題。健康問題。そして、日本の国創り問題。快適社会問題。

鳩山政権のスローガン「コンクリートから人へ」は・・・?

2010-03-31 | 核エネルギー・原子力問題
日本のエネルギー政策について、この3月の主要テーマとして、採りあげてきた。
それは、日本の経済再生の要になる重要課題であるし、温室効果ガスの削減目標を高く掲げて、日本全体がそれに邁進することが、活力を取り戻す絶好のチャンスとなるからである。

それにも拘わらず、日本の政府はいまだに「原子力発電の増設」などと、国民の信頼を得ていない方針を潜り込ませて、既得権を守り抜きたい「原子力産業族」の温存を図ろうとしている。
この10年間で、それが間違った方向であり、さらに国民の信頼を失うことばかりが続出している状況を直視しないで、不誠実なことを繰り返しているということに気がつかない。

昨日も中国電力の島根原発において、定期検査の不正が発覚したと報道されている。

島根原発で123件の点検不備 1号機の原子炉停止へ
2010/03/30 「共同通信」
 中国電力は30日、島根原発1、2号機(松江市)で過去に実施した定期検査 の点検作業について、不適切なケースが計123件あったと発表した。運転中の 1号機の原子炉を手動停止し、定検で停止中の2号機とともに、今後詳細に点検 する。(中略)
 国は安全機能の重要度に応じ4段階で機器のランク付けをしているが、123件のうち57件は最重要ランク。(中略)
 島根県と松江市はこの日夕、中国電力の清水希茂島根原子力本部長らに事情を 聴き、再発防止を申し入れ。同社によると、1号機は昨年10月に定期検査が終わり、発電を再開していた。

この報道を見て、日本の原子力発電関係者のずさんさに、あきれたとしか言いようがない。
あれほど、2000年頃から続出した、原子力発電関係者の不祥事が発覚して、事故までの起こしてきた事態に対して、つい昨年にも、このような手抜きをしている神経は、いったい、どういう感覚なのか。

現在、稼働中の54基の原子炉を【絶対、安全に運転】することを守るのが、原子力産業関係者の責務である。
「再発防止」の申し入れをしている地元自治体関係者の、お定まりの「安全確認」などでは、もはや済まされないくらいに、現場の意識感覚がマヒして、技術を維持するレベルが落ち込んでいると、思われる。
こんな状態にしたままで、2020年までに新規に8基の原子炉を増設することを、計画に入れる感覚は、どうなっているのであろう。

現在は「温暖化対策基本法」の政府案の中に、原子力発電の文字をすべり込ませている。
原子力族の巣窟である経済産業省の「総合資源エネルギー調査会」は、この文字を金科玉条にして、問題だらけの原子力発電の促進計画を盛り込むことに躍起となっている。

鳩山政権は、「コンクリートから人へ」が、政権の目玉ではなかったのか。
原子力発電所は、それこそ【コンクリートの塊】である。
関係者の頭も精神も「コンクリート」であり、それも劣化して危なっかしく、ボロボロである。

林業活性化とバイオマスエネルギー産業の育成が不可欠。

2010-03-30 | 森林・林業
温室効果ガスの削減に必要な産業に集中的に投資をして、経済の活性化を図って雇用を生み出す政策が、日本の急務であることは異論がない。
再生可能エネルギーの産業への投資を増やして、化石エネルギーの代替をする技術は、急速に進化をして、国策としての位置づけも明確になってきた。
しかし、その中で【バイオマス発電・熱利用】の分野については、国の計画としては、2005年から2020年の15年間をかけても、『1.77倍』程度の増加しか、見込んでいない。

この軽視する姿勢は、どこに原因があるのか、もう少し掘り下げて書いておきたい。
日本の林産物資源の自給率は2005年時点で、2割程度に落ち込んでいる。
林産物資源が不足しているから輸入に頼っているわけではない。
日本は国土の7割近くは森林地帯であり、林産物を収穫する為の人工林は、全森林面積の4割に相当する1000万ヘクタールもある。

比較する国として、ドイツを例にとると、ドイツは全森林面積が1100万ヘクタールあり、その林産物を利用して、林業と製材業、木質バイオマス利用産業などを含めて、売上高は26兆円の規模があり、関連産業の雇用者数は132万である。
これはドイツ国内の自動車産業の雇用者数の75万人を大きく上回っている。

日本は長年にわたって、林業を衰退産業扱いして、国内産の林産物産業を育成してこなかった。
林業に従事する雇用者は、60万人の段階から、今ではわずか6万人にまで減少している。
EUの林業振興国では、森林における蓄積量(樹木の総体積)に対する年間の伐採利用量は、1.5~2.5%であるのに、日本では0.5%でしかない。
人工林を対象にして伐採利用量をもっと増やすことは、十分に可能な蓄積と、年々の成長量は見込めるのである。

日本の林業に重点投資をして、伐採利用量を4倍に増やすことは可能であり、それによって、ドイツ並みの林業関連産業を生み出せば、100万人以上の雇用の増加を見込めるのである。
そのために必要な技術開発と事業の拡大の方策は、すでに見通しがついている範囲であり、来年からでもとりかかることが出来る。
何が不足しているかと言えば、森林と林業、それに【バイオマスエネルギー技術】に対する関心が不足しているのである。

民主党政権の中では、管副総理が林業の活性化を打ち出して、雇用の創出を林業関連産業への重点投資を主張しているが、他の政治家で林業を理解している人は殆どいない。
今回の政府の打ち出している、「再生可能エネルギー」の大増設の方針でも、「バイオマスエネルギー」関係は、まったく力が入っていない。
肝心の農林水産大臣も林業のことはわからず、エネルギー担当の経済産業大臣も、知識は殆どない。
せめて、ドイツやオーストリアなどの、先進国の林業とバイオマスエネルギー関連産業のことは、最低限でも理解しておいて、経済活性化の政策検討をするべきであろう。

不勉強な官僚ばかりに取り込まれていては、空白の20年をさらに延長することになる。

温室効果ガス削減対策こそが、経済活性化と雇用に貢献。

2010-03-29 | バイオ燃料・バイオマス
日本の目下の大問題は、経済の再生、デフレからの脱却、そして雇用機会の創出という1990年以来の課題である。
自民党の谷垣総裁は、民主党連立政権に対して、経済活性化と雇用問題の対策に具体性がないと批判しているが、その問題を10年間以上も解決できないで過ごしてきた「責任政党のトップ」としての反省の弁はない。

連立政権は、温室効果ガスの削減目標を掲げて、その関連政策を進めている。
その中で、環境省は、19日に1990年比25%削減する目標の達成に向けた中長期のロードマップ(行程表)案を公表した。
関連資料が「環境省のホームページ」に掲載されていて、その資料の一部を引用して、再生可能エネルギー分野の計画を分析してみたい。
この中身によると、「中長期のロードマップを受ける温室効果ガスの試算」の中に、目標数値が提示されている。

太陽光発電の普及促進には、大きな力点がおかれていて、現状の35倍に増やす計画である。
それ以外の発電では、
・風力発電は、2005年 19億kWh → 2020年 200億kWh  (10.5倍)
・地熱発電は、       33億kWh →       105億kWh  (3.2倍)
・中小水力発電は、  15億kWh →      84~320億kWh(5.6~21倍)

となっていて、前政権のときからは、取組姿勢の違いは鮮明である。

これらも含めた、「温室効果ガスの削減」に関連する産業への投資の活発化により、総額45兆円の新市場と、125万人の雇用の創出を図る計画となっている。
このことは、このブログの3月27日に、すでに書いておいた。
これらの再生可能エネルギーへの投資額は、
・太陽光発電  2011年~2020年にかけて、総額で13~22.6兆円
・風力発電                  総額で2.5兆円
・中小水力・地熱発電          総額で1.7~5.3兆円
となっていて、経済への効果が期待できると同時に、雇用の創出で失業率の改善も期待できる。
  
しかし、これでも政策的に抜けている面があって、早急にその方面の検討を追加していくべき課題がある。
それは、「バイオマスエネルギー関係・林業への投資分野」である。

【バイオマス発電】に関する追加投資額は 2011年~2020年にかけて、総額で1兆円 
【バイオマス発電】は、 2005年 408万kWh→ 2020年 860万kWh
            (原油換算で462万kL)       (761万kL)
【バイオマス熱利用】は、2005年 470万kL → 2020年 887万kL

 環境省関係の資料では、『バイオマスエネルギー利用』は、 2005年時点から2020年にかけて、『1.77倍』にしか増加を目標にしていない計画で、まったく、軽視している。
この分野の技術開発と投資を重点的に行えば、どの程度の経済効果があるのか。(次回に)

世界の問題は気候変動対策、核兵器の拡散防止、廃絶へ。

2010-03-28 | 核エネルギー・原子力問題
世界がこれから直面する大問題に「気候変動対策」があることは、だれも異論がない。
その対策において、化石燃料の削減に効果のある新技術と産業を育成することが、最重点課題であることも合意されている。
再生可能エネルギー産業と、省エネルギー技術がその最有力な分野であり、各国とも力を入れて、最先端を競っている。

日本の環境省も「温室効果ガスの削減に向けた長期ロードマップ」を発表して、その具体化に向けて進みだしている。
一方、日本の官庁の省益優先、縦割り行政の弊害の象徴である、経済産業省の「長期エネルギー基本計画」が全く、別の組織、別の指示系統で進められようとしている。
バラバラに進めてから統合しようとしても、抵抗勢力によって、余計にまとめにくくなるのは明らかである。
すぐにでも、統合した組織で、日本の基本となるエネルギー国家戦略を策定すべきである。

そのなかで、両方の計画の中に、「原子力発電」の増設の方針が盛り込まれている。
何度も書いてきたが、今の原子力発電では、大量の放射性廃棄物が出て、その処理方法と処分地は、50年もたった今でも、決まっていない。
こんな、無責任な技術と産業は、今までになかったことである。
そして、もうひとつの大きな問題点である「核兵器への転用可能な技術」と言う事に、もっと留意するべきである。

3月27日の報道で、アメリカとロシアが核軍縮条約に合意したと伝えられている。
核兵器の登場によって60年という年月は、常に核戦争の脅威にさらされ続けてきた。
今でも、核兵器が、好戦的な国に広がる傾向にあることは間違いない。
その中で日本は唯一の被爆国として、核兵器の製造、保有に対して、反対する立場を貫いてきた。
鳩山政権も「非核三原則」を堅持して、世界への核兵器廃絶の活動を積極的に進めるとしている。

その一方で、「温室効果ガスの削減に効果がある」と言う、大義名分を掲げて、原子力発電の増設を掲げ、さらに経済産業省とそれに乗っかった産業界が「原子力発電」の設備を、大量に売り込むために、国策会社を作ろうという動きがある。
これも、新幹線技術を世界に売り込むために、各企業ごとの売り込み活動ではなく、日本の国として普及促進の先頭に立つために、国策企業を作ろう、と言うのなら、国民に理解は得られる。

しかし、日本国内においても、賛否の分かれる「原子力発電」の増設問題であるのに、海外の治安問題や、政権の不安定な国にまで、売り込んでいく「商売人根性」丸出しの国策会社は、あり得ない政策であろう。

経済産業省の立場としては、国内企業(原子力発電技術の関連)の輸出競争力を支援して、経済に貢献するのが責務であるから、海外への売り込みを支援するのは正当化出来ると考える。
しかし、核兵器の廃絶や核拡散防止は、経済産業省のまったくの責任範囲外である。

これは、原子力発電に関する政策権限を、経産省から取り上げることが第一に必要である。

新産業の要である温室効果ガス削減産業の効果は。

2010-03-27 | 暮らし・健康問題
今までの日本の経済政策は、既存の産業を守り、加工貿易の伝統に乗った外需依存の輸出型産業を育成して経済成長と雇用を守る考え方であった。
これが1990年以降の経済停滞期によって、もう維持が困難で効果も少ないことが明確になった。。
特に雇用の面では、賃金を引き下げる非正規社員の増加による方向に走り、社会的な問題を引き起こす不適切な経済政策であることがハッキリした。

民主党連立政権は、既存の産業を守ることを重点にする政策を維持しつつも、同時に「新産業」を育てることを公約にしている。
その中での「温室効果ガスの削減」に関連する産業には、特に力を入れる方向である。
昨日開かれた環境省の長期ロードマップ検討会で、この関連の産業で2020年までに、45兆円の新市場と125万人の新規雇用が生まれる計画を発表した。

朝日新聞(27日、朝刊6面)の記事によると、この計画を4月以降の政府での議論に持ち込むとの環境大臣の考えとしている。
内容についての詳細は省くが、従来から言われていた、「温室効果ガスの削減対策」を網羅して、削減目標の25%に向けての、普及の数値目標を具体的に試算している。
特に再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電、小水力発電など)については、「全量の固定価格買取制度」を導入して、対策の促進を図ることで、新産業への投資が増えて、GDPを押し上げて雇用を生み出す。
これは早い段階で多くの政策を実行する方が、経済成長を加速する効果があると結論している。

同じ政策内容が、自民党政権時代には、何度も提案されているが、削減効果も少ない「再生可能エネルギー」産業への優遇政策は経済成長への足かせとなって、産業の競争力を弱めて国民生活の負担が増える、として、一貫して反対の姿勢を貫いてきた。
EU諸国の動きと実績によって、再生可能エネルギーの優遇は、新産業の育成と雇用を生み出す、
有効な政策であることが実証された。
アメリカはオバマ政権になってから、この動きを一層、加速させて、ベンチャー企業の活性化を招き、投資意欲も大きく盛り上がっている。

日本でも、やっとまともな動きになって来たと言える状況だが、経済産業省という、守旧勢力の塊のような官僚群がいて、「エネルギー基本計画」の改定などの従来型の手法で主導権を握ろうとしている。
これは、省庁の利益やしがらみを一切排して、政権の要である国家戦略局(まだ、戦略室の看板しかない)が、内閣の命運をかけて、実効性のある政策を打ち出す必要がある。

旧勢力の抵抗で、実行策が弱まる恐れが見えると、先進技術への研究投資や、新規の製造設備への投資判断に迷いがでて、せっかくの「新産業の育成の芽」が、止まってしまう懸念がある。
1990年代にも、何度も出かかったチャンスを、ことごとく潰してきた「自民党政権」の二の舞いにならない様、政治家主導で本腰を入れて、実行するべき目標である。
鳩山内閣の実行力、リーダーシップが、試される正念場が、新産業の育成にかかっている。

誰も責任を負わない原子力産業の関係者は、何をすべきか。

2010-03-26 | 核エネルギー・原子力問題
日本のエネルギー政策の基本方針を決める場が、自民党政権時代は、経済産業省の内部の組織である「総合資源エネルギー調査会基本計画委員会」という、ところであった。
この委員会のメンバーは、経済産業省の中で独自に委員を決めて、自分のところの方針に沿った内容を諮問する形で決めてきた。
政治家の方は、専門家に任せれば良いと責任感のない姿勢で、国家の将来像を何も描かずに、ただ官僚の考える計画を追認してきただけであった。

今度の民主党連立政権になって、脱官僚依存と言いながらも、この構図は変わらない様である。
国家の将来像を「環境先進技術立国」と、うたい文句はあっても、エネルギー計画の中身は相変わらず、経済産業省の官僚任せの様である。
今回、2030年までのエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」の骨子には、原子力発電所の新設が14基も増やす計画が盛り込まれているという。

その計画のなかでは、昨日紹介した「新型の原子力発電」の扱いはどうなっているのであろうか。
まだ研究開発の段階であるから、成否は未知数であるので、計画に盛り込むことはしない。という建前で審議をすることになるだろう。
そして、弱点を抱えたままの原子力発電が、無理やりに増設計画を進めることになりかねない。

今でも原子力発電に対する不信感はぬぐい難い状況なのに、だれがそれを進める責任を負うのか。
現存の54基の原始炉を安全に運転することだけでも、技術的に不安があるので、これ以上の増設に対する地元の抵抗は大きい。
経済産業省の官僚が、今までの原子力行政の不祥事や事故で、責任を負ったことは一切ない。
「総合資源エネルギー調査会」の委員が、問題が起きた時に前面に出てきたことなど全くない。
そして、今でも行き場のない、高レベル放射性廃棄物の塊が、発電所の中に堆積していて、数年後には満杯になってしまう。

責任を負える立場にいる人間は、やはり日本の国を運営している「内閣」である。
しかし、自民党内閣で決めてズルズルと先延ばしをして、今だに決められない放射性廃棄物の行き場は、どうするのか。
歴代自民党の首相と、経済産業大臣の自宅の裏庭に持ち込むことでもしない限り、本当の責任者は誰であったか、国民には見えない状況である。

「エネルギー基本計画」は、3月24日の委員会に原案が示されて、6月までかけて審議することになっている。
その場には、今ある高レベル放射性廃棄物を机の上に並べて、委員の目の前においておかないと、
また、自民党時代と同じ様に大事な問題を先送りしたままの、馴れ合い審議になるであろう。

ここで提案がある。
それは、2020年までは、昨日に紹介した「新型の原子力発電技術」の研究・開発の状況を見守る。
その間は、新規の原子炉を増設しない。

原子力産業関係者の全員で、安全性の確保と、放射性廃棄物の処分方策に専念することである。

新技術の原子力発電の概要と、既存の原子力産業では? 

2010-03-25 | 核エネルギー・原子力問題
昨日に紹介した「新技術の原子力発電」の特徴を、もう少し詳しく解説を加えておきます。
2009年12月8日に電通大で開催された講演会の参加者の情報をもとに、概要を記しておくと、

「世界の持続的発展を支える革新的原子力」東工大教授 関本博

東工大では「世界の持続的発展を支える革新的原子力」の研究が、21世紀COEプログラム拠点形成計画として採用され、2003年から5年間活動し、その後も革新的原子力研究センター(CRINES)を設立して研究を進めています。
ここで従来の原子炉が抱えていた、資源、事故、廃棄物、原爆、経済性といった5つの厳しい問題をすべて解決できる、革新的原子炉としてCANDLE炉を提案しました。この炉は、関本教授を中心に10年間にわたり研究してきたもので、その概要は次のようなものです。

1.CANDLE燃焼法とは
 これは濃縮ウランやプルトニュウムを必要としない革新的技術です。一般の原子炉では、最初に炉心に入れておいた制御棒を、原子炉燃料の燃焼に伴い、ゆっくりと引きぬいて、原子炉が常に臨界になるように運転しています。これに対してCANDLE燃焼炉では、このような制御棒は必要としません。燃焼に伴い燃焼領域は、核種や中性子束や出力の空間分布が形を変えずに、軸方向に出力に比例した速さで移動してゆきます。

2. CANDLE燃焼法のメリット
(1)簡単で安全
 運転中に制御棒を誤ってひきぬくような事故は起こりえません。出力分布も原子炉特性も変化しないので、運転はとても簡単で、信頼性が高い。新燃料は天然ウランか劣化ウランにトリウムを混ぜたものなので、輸送や貯蔵が安全で簡単である。
(2)核拡散抵抗性がとても強い
 原爆製造のもっとも重要な技術である濃縮や再処理を必要としない。
(3)廃棄物の体積が少ない
 軽水炉の10倍燃えるので、発生エネルギーあたりの廃棄物体積は1/10になる。
(4)燃料の有効利用ができる
 天然ウランや劣化ウランに少しトリウムを混ぜた燃料を使用し、その40%を利用できる。
これは軽水炉の50倍以上の利用効率である。
40年間運転した軽水炉が残した劣化ウランで、2000年もの間運転できる。

この技術は近年になって多くの関心を呼び、ビル・ゲイツが参加しているテラパワー社でも、CANDLE炉と同概念のTRW炉を提案し、研究開発に乗り出しました。
彼らは中国での建設を企画しており、中国で第3世代原子炉開発のためにつくられたSNTPCと協定を結び、計画が順調に滑り出したとのことです。

このような状況で今後の研究課題や、乗り越える技術革新が多く必要であることは間違いない。
そこで、ビル・ゲイツ氏は、東芝の研究陣の技術力を借りようとして、資金力にものを言わせて提携を取り付けようとして、今回の交渉に持ち込んだと見れる。

経済産業省と既存の原子力産業に依存している「原子力族」は、どう見ているのかは、興味深い。
成否が解るまでには、まだ10年以上かかるであろうが、それまでの間はどうするのか。(次回に)

将来のエネルギー源を原子力発電に頼るのは明るい未来か。  

2010-03-24 | 核エネルギー・原子力問題
昨今のマスコミ紙面をにぎわす課題に、原子力発電の増設に向けて、大きなビジネスチャンスととらえる傾向の報道がみられる。
3月21日も、次の様な世界の流れを伝えて、取組の必要性を肯定する風潮を作り出している。

「化石燃料の価格高騰や地球温暖化への対応の必要性から、原発は世界的に建設が急増しそうだ。経済産業省によると、増加は中国やインドが中心で、世界全体では現在の約400基が2030年までに約800基となる見通し。
 成長が著しい新興国や発展途上国では建設ラッシュになるとみられる。アラブ首長国連邦(UAE)やベトナム、インドネシアなど、それぞれでは初となる建設計画を持っている国も多く、30年 までに23カ国が新規に導入する可能性があるという。」

これを背景にして、経済産業省は2030年までのエネルギー基本計画の骨子案を固めつつあるが、
その中身は、再生可能エネルギーの太陽光発電の普及拡大や、次世代自動車の普及加速を盛り込み、受け入れやすい対策と並べて、原子力発電の大幅な拡充を添えている。報道によると、

「・・・・原子力発電所は現在54基が稼働中だが、14基を新増設したうえで、稼働率を現在の60%台から世界最高水準の90%程度に引き上げることを目指す。原発の稼働率は最も高かった1998年度でも84.2%にとどまっている。・・・・・」

1997年の京都議定書の交渉後に、日本は1990年比で6%削減を公約した段階で、経済産業省のエネルギー基本政策は、原子力発電を主力電源にするということで、2010年までに10基以上の原子力発電所を増設するという内容であった。
これは、だれでも知っている様に、不祥事と事故続きで計画倒れであり、さらに、新潟沖地震の影響もあって、平均の稼働率は大幅に下がっている。

このような事態の反省もなく、国民に対するキチンとした説明もしないで、またまた、原子力発電をエネルギー政策の基本に据えようという魂胆は、いったいどうなっているのか。
民主党の電力族、原子力族をうまく取り込んできた、経済産業省の天下りを主力とする産業界に引きずられている鳩山政権と言えそうである。

そんな状況の中に、世界2番目の億万長者のビルゲイツ氏が、新型の原子力発電の技術開発で、東芝と提携して進めるということで、技術協力の交渉に入ったという情報である。
この技術の骨子のセールスポイントは、
・濃縮ウランの代わりに天然ウランや劣化ウランを使うので、燃料枯渇の懸念がない。
・ウラン濃縮技術は、核兵器の拡散の恐れがあるが、この技術であれば、途上国にも建設出来る。
・原子力発電の大きな弱みである放射性廃棄物の量が減らせる。
良いことばかりの様である。

しかし裏返して見れば、今の原子力発電の技術は、いかに未熟な未完成の技術であるかを示している様な事態である。
エネルギーの専門家たちは、どのように考えるのであろうか。(次回に)

日本経団連の低落状態からの再建は20年間の反省から始まる。

2010-03-23 | 経済問題
日本の経済界の代表として、経済政策を提言して、時の政権に政策実現を要請してきた【日本経済団体連合会】の活動は、大きな役割を担ってきた。
過去の経団連は、土光敏夫氏の様に、国の為に一企業、一業界に都合を優先する様なことはなく、私生活も質実剛健の典型的な暮らしぶりであった。
夜の会合は一切断り、日常の食事には目刺しを食べて暮らしたと伝えられている。

ところで、今の経団連は、国民からどう見られているのであろうか。
朝日新聞(3月21日、朝刊9面)に、「財界の明日は」の表題で、経団連の御手洗会長へのインタビュー記事が掲載された。その中で印象になる部分を採りあげてみよう。

―グローバル化によって企業が成長しても、その果実のうち国の取り分も個人の取り分も減っています。国民益と企業益に隔たりが拡大していませんか。―
「ひとつの原因はやはりグローバリゼーション。『雇用』が流出した。
安い雇用を求めて海外に行ってしまったからだ。
海外からは安いモノが流れ込んだ。国内では値上げが出来ず、もうからない。
企業が成長しているといっても、国内では縮小しているばかり。
雇用も増えず、給料もあまり上がらなかった。
しかし、企業は成長しているじゃないかと批判された。
確かに連結では成長しているが、単体では成長していないという現実がある」

経団連会長の見解は、大方の人の意見とも一致する見方である。
しかし経団連とは、保守政権に政治資金を出すことしか国民の目に触れないが、本来は何を目指している団体なのか。
御手洗会長は「私は終始、政策提言機関になれと言ってきた。政策集団だと宣言した」と言う。
その政策提言の中身は、どうであったのか、反省していくべきであろう。
この20年間において、経団連が政策提言をしてきた成果がどうであったかが問われている。

日本の国の為になることや、国民の安心と希望を持てる暮らしに、どれだけ貢献してきたのか。
多くの政策提言は、大企業の有利になる政策と、グローバル企業の支援となる政策に終始したといえるであろう。
まさに、「利益誘導」の動機が根底にあった私益追求の政策提言であった。
日本の地域社会の疲弊や働く人の意欲と待遇が低下している現実には目をそむけて、ひたすらに、企業利益を増やすこと、企業が生き残ることに重点を置いた政策提言であった。
今になって、国内の雇用も守る。と宣言しても、信頼は取り戻せないくらいに悪化している。

本当に日本の国民の為を考えて、国の在り方や制度の改革を提言し、次世代の生活を支える「新産業」を早急に育成するための政策を研究して、適時、提言をしていくべきである。
「新産業」の大事な分野であった、「再生可能エネルギー産業」を、陰に日に、圧迫して育たない様にしてきた最大の加害者は、「経団連」であったことを、まず、反省すべきであろう。
それが出来た時に、初めて、企業活動に対する国民の信頼感が健全なモノになっていく。

温暖化対策の政策の選択は、国民の理解と判断による

2010-03-22 | 環境問題
温暖化対策税の創設は、化石燃料の使用量を削減するインセンティブが働き、同時に、財源としての獲得にもなる。
そして、産業界が国際競争力をそぐという言い分は、国境調整により税の還元を実施すれば、なんら問題にはならず、むしろ、輸入品に対する防御にもなる。
経済学的には、最も合理的であると評価されている制度であるが、マスコミの解説や各界からの意見の表明は、理解不足の傾向にあり、心もとない状況である。

地球環境問題、気候変動対策を重視するならば、真っ先に議論して合意を得ていくべき課題であるが、増税と言うイメージを嫌うのが現代の風潮なので、政治家も行政も及び腰になっている。
これだけ財源の不足が問題になっているのであるから、積極的に国民に説明して負担をしてもらうことの理解を進めるべきである。

この増税のイメージを避けるために、「国内排出量取引」を、重点課題として、採りあげる傾向になり、これも大きな誤解のもとになっている。
前に説明した、「入札方式による排出量取引制度」は、排出するCO2の量に対する「排出量許可証券」を購入するのであるから、【炭素税】を課税されることと、同じ負担が事業者にかかる。
入札金額がCO2の量1トン当たり1万円とすれば、化石燃料毎の炭素含有量に相当する【炭素税】をCO2の量1トン当たり1万円課税したことと同じである。
その上、「排出量許可証券」の枠を削減目標量に沿って、年々、発行枠を減らしていけば、CO2排出量は、発行枠に近い数値に納めることができる。
違反した事業者には、罰則的な追徴金を徴収することで、さらに削減は進む。
問題は【炭素税】と違って、輸出時の「国境調整の戻し金」を制度に盛り込むかになる。

一方、同じ「国内排出量取引制度」の名前でも、政府により排出枠の配分をする制度によると、各事業者の間での過不足は、市場取引で埋め合わせることになるが、それでも不足する場合をどうするのか、今のところ、はっきりしていない。
不足した事業者に課徴金を課すのか、守らない企業名を公表する程度の、日本的な見せしめの制度となる(東京都の排出量取引制度の場合)のか、議論はこれからというところである。
いずれにしても、財源としての機能はなくて、役人の権限と仕事が増えるので、行政の経費は増加することは確実である。

さあ、ここまで説明したので、対立軸の様相は分ってもらえたと思います。
一方は、【炭素税】、「入札方式の排出量取引制度」の様に、事業者の負担を増やし、(これは、最終消費者の負担になる、つまり国民の負担増)、財源を政府にもたらし、化石燃料の削減に効果のある政策に投じるお金を増やす。
もう一方は、国民の負担を強いることは避けて、事業者毎に、その削減出来そうな余力を、役所の目で検査して、削減を企業の義務として、規制する制度である。

これからの半年で、議論がマスコミ紙上を賑わすことになるが、誤解をしないように気をつけて、
日本の進路を判断することが、国民の責務である。

炭素税の創設は国際的にも認められ、期待される制度。

2010-03-21 | 環境問題
国の地球環境政策として「温暖化対策基本法」の制定に向けての動きが、本格化しようとしている。
一方、地方自治体では、東京都が2010年の4月から、大手の事業所を対象にして、キャップ&トレード型の排出量取引制度を始めることになった。
その開始前のドサクサ騒動が、朝日新聞の1面、2面で報道されているが、初期配分に関する記述がない。

このブログの3月14日、15日で書いてきた、排出量取引制度の要である初期配分の適正化、公平性は、どうなっているのか、一般都民には解らないままのスタートである。
ドタバタ騒ぎの話は、あとでマトメてみようと思うが、一番、合理的な【炭素税】の創設による、地球環境への貢献について、もう少し触れて起きたい。

前回に(3月20日)、産業界が【炭素税】の創設に反対しているのは、まともな検討も議論もしていないで、ただ、エネルギー多消費産業の言い分に、引きずられているだけであると、説明した。
炭素税による製品のコストアップ分は、国境調整を実施すれば、今までの状態となんら変わらないで、商取引が可能である。
現に、消費税(国境調整は当然行われている)の税率アップには、反対していないし、むしろ、促進を要求しているくらいである。

その上で、消費税の場合は、海外からの輸入製品には、日本の税率相当の消費税がかけられるので、国内での海外製品との競争条件でも、なんらのハンデはない。
では、【炭素税】においては、輸入品に対する措置は、どのようにすれば合理的であろうか。
それは、生産国における化石燃料の使用した分を、炭素税として輸入時点で、製品に課税することである。
たとえば、中国で生産された製品であれば、中国での「電力の原単位」によって、使用した電力量に相当する化石燃料を算出して、【輸入時にかける炭素税】として、製品に課税される。

以前にアメリカ政府は、オゾン層を破壊するフロンガスの排出を削減するために、フロンガスに課税をしたことがある。
フロンガスを使用した冷蔵庫やエアコンの輸入する際に、フロンの原単位を申告させて、水際で徴税するという措置を講じた前例がある。

競争条件を不当に差別する輸入関税の様な類は、国際的にも批判を浴びるであろう。
しかし、地球温暖化を防止するという、国際的な目標に向けての【炭素税】を課して、国内も国外も対等な条件になる「化石燃料使用量による、CO2排出量」の相当する税金をかけることは、当然の措置として認められる。
いや、むしろ、各国が導入を率先すべき政策措置でもある。

ここまで、読んでいただけたら、産業界が吹聴してきた【炭素税】創設は、日本国内の製造を避けて、国外に生産を移すことになるという言い分は、まったくの誤解であることが解る。

そこで、もう一度、【排出量取引制度】の議論に戻って,その優位さを説明してみよう。(次回に)

炭素税の創設こそが財源に最適。なのに、マスコミ界は。

2010-03-20 | 環境問題
「温暖化対策税」の創設は、何度も提案され、政府(環境省)も進めていたが、経済界の旧産業と経済産業省の族議員が、時の政権に働きかけて、何度もお蔵入りをさせて来た。
1990年代の初めから、欧州の一部の国では、【炭素税】の呼び名で、化石燃料にかける税金の制度は実施されている。
日本に導入を提案する環境団体や学識者が働きかけても、産業界の力の方が当時は圧倒的に強く、政権は何時も産業界の方ばかりを向いていた。

今度の鳩山政権は、地球環境対策には目玉政策として前向きであり、今度こそ、日本に適した【炭素税】の仕組みを創り上げるべきである。
経済界の反対意見は何時も同じである。
化石燃料への課税が、エネルギー多消費型輸出産業(鉄鋼、非鉄金属、など)の生産コストを上昇させ、国際競争力を弱めるから、日本の経済にとってマイナスの効果しかない。と。
それに加えて、各種製品のコストがあがり、物価の上昇は国民生活の負担となっていく。
だから、反対だ!と庶民の味方の様な発言をしている。

この言い分に沿って、日本政府は化石燃料に対する課税の強化は、一切避けてきた。
結果は、輸出型産業を過剰に重視して、内需産業をおろそかにしたために、今回のアメリカのバブル崩壊による世界経済不況の影響も、世界で一番、こうむってしまった。
おまけに、10年以上にわたる内需の不振で、デフレ経済が延々と続いている。
もう少し物価は上がる方が、経済にとっても国民にとっても良いと言える状況である。

この国際競争力を損なうという言い分に対しては、相応の対策案は各種あって、実行可能なものばかりである。
その中で、国境調整と言う方法があり、これは経済学者の中では常識であるが、世の中には、あまり知られていない。
国内消費税は、輸出する時には税率分の5%を払い戻して、その分は輸出先の国に輸入した時に、
相手国の消費税に当たる税金を払う仕組みである。
同じように【炭素税】も、製品にかかった「炭素税によるコスト増分」を申告させて、輸出する時点で払い戻しをすれば良い。

日本の経団連は、消費税のアップの必要性は認めていて、反対は一切していない。
むしろ、早く消費税を上げて、政府の財政赤字を減らして、経済への不安を払しょくして欲しいといっている。
それなのに、【炭素税】の創設となると、頑固に反対し続けている。
旧産業の経済界の言い分に染まっている、労働組合系も反対の姿勢が強い。
これは、いったい、どういうことなのか、私には理解できないことである。

マスコミ界においても、この【炭素税】(環境税と言う呼び方もされる)については、経済界の偏った言い分ばかりを記事に載せて、まともな経済学者(宇沢弘文氏ら)の説明を載せていない。
財源不足の批判ばかりよりも、まともな財源案の説明をしっかりすべきである。(以下、次回)

温暖化対策税の創設は、財源を獲得する最適な手段だが。

2010-03-19 | 環境問題
「国内排出量取引制度」の中身は、なんとも多岐にわたり、専門家の中でも議論が大きく分かれている状況を説明したが、問題が多いことを理解してもらえたでしょうか。
しかしヨーロッパの諸国ではすでに、導入が進んでいるし、アメリカのオバマ政権は、法案まで準備をすすめている。
日本も立ち遅れてはいけない、と言う風潮がマスコミの中でも強くなり、排出量取引制度を導入しないのは、環境問題に否定的な態度の表われだ、としている。

だが、排出削減を促進させる政策は「排出量取引」以外に、まだ検討すべき課題として多くある。
その中でも【炭素税】は、一番期待が持てる税金による誘導政策であり、「バッド課税・グッド減税」の代表事例である。
著名な経済学者も、この【炭素税】(日本では「温暖化対策税」と呼ばれている)による手法が、一番合理的であり、公平性、実効性、そして、財源の調達にも適していると評価している。

そこで、「排出量取引制度」の混迷状態から一時離れて、【炭素税】の仕組みと、その効果、弊害、問題点について、書いてみよう。
【炭素税】とは、化石燃料に含まれる炭素の量に比例して、税金をかける制度であり、単純明快である。
環境省ではすでに「温暖化対策税」の素案として、各燃料の税率、税額を提案している。
石炭は炭素の塊で、一番税金が高く、次に重油、軽油、灯油、ガソリンの順に低くなる。
一番炭素の量が少ない天然ガス(メタン)は課税額が少ない。

これは、火力発電所で石炭を燃料とする電力を抑え、天然ガスによる発電を有利にする効果があり、これから新設や更新、改造をする場合の、誘導政策となる。
では誰に、どの段階で税金をかけるのか。
個人の段階では、エネルギー源は電力、ガス(天然ガス)、ガソリン、灯油、などであるが、
この時に税金はいくらか、その都度、かかる金額を購入者から徴収するのは不便である。
では、ガソリンや灯油を売るスタンド業者から徴収するのかというと、これも全国の至る所に散らばっているし、スタンドを経由するとは限らない。
などなど、下流(最終使用者)に行くほど、徴税には手間がかかり、不正やゴマカシが入り易くなる欠点がある。

そこで、一番確実で、経費のかからない方法として、化石燃料を日本に輸入した時点で、それぞれの燃料に課税する。
これを上流課税と言う呼び方をし、(日本は島国であるから)陸揚げ税とも呼べる。
石炭や原油は、それぞれの税金を輸入した事業者が国に納めることで、納税者の数は限定されるので、税金の管理も容易で、あとあとの検査もしやすい。
従って、徴税経費は最小で済み、不正や錯誤は起きにくい。
こんなに有利な財源の調達方策は滅多にないし、炭素含有量の少ない燃料への転換政策として、最も合理的である。

それにも拘わらず、産業界からは猛烈な反対活動がおこった。なぜか?(次回に)

生産量当たりの排出量を削減目標とする「原単位」制度は?

2010-03-18 | 環境問題
前回までに、「国内排出量取引制度」と呼ばれる政策でも、中身は「初期配分」のやり方を違えると、まったく性格の違う制度になってしまうことを説明した。
「入札方式」とは、必要とする排出許可量枠を企業の事業計画に沿って排出量を見積もって、経費として「排出量許可証券」を購入する、市場経済原理にゆだねる自由主義的な制度である。
一方、「政府による配分」は、企業の事業計画には関係なしに、国の方針を定めて、各業界毎に、排出許可量の枠を配分する制度で、計画経済的な考えである。

政府の規制や計画に従うことを嫌う産業界は、この政府による配分方式の「排出量取引制度」に猛烈に反対活動をしている。
確かに、統制経済の様な仕組みは、産業界でなくても警戒した方が良いと感じるので、その空気を煽る様に、「排出量取引制度」の理不尽さをアピールしている。
一時期は、新聞の全面広告などを活発に出していたが、解った人はどれほどいたのだろうか。

それならば、「入札方式」の排出量取引制度にすれば良いのだが、これについては、経済界は負担が増えるので、ダメだと言っている。
なぜ、ダメかと言う理由は、あとでマトメテ論じていこう。

そして、一部の産業界では、「CO2排出」の総量に対して許可枠を設けるのではなく、「排出原単位」を改善することを目標にすべきだ、と主張している。
「原単位」とは、「生産量当たりのCO2排出量」を意味するが、生産量とは、どのような基準で算定するのか、不明である。
たとえば、鉄1トンを生産する、と言っても、鉄の材料は各種あるので、生産量を数字にする尺度は、バラバラである。
企業内部の資料や判断が入るので、都合のよい数字に工夫ができる指標である。

電力の様に発電した量を[KWh]ですべて数値化出来る業界にしか、適用出来ない指標である。
それ以外の各業界では、生産量の指標を独自に定めて、担当官庁に追認してもらうことになる。
それでは、自主的な行動計画で済ませてきた、1997年以来の経団連の方針から、一歩も進化していない考え方である。

細かいことは省くが、原単位方式では生産量が増えて、実質の「CO2排出」量が増加しても、生産量がそれ以上に増えれば、「原単位」は改善していくので、企業の努力は「生産量」を増やしていく方向に力を入れる傾向になる。
これでは削減を促進する制度にならない、として、多くの環境団体や学者が異議をとなえている。

さらに、原単位が削減の指標とした場合には、各企業の間に削減の不足や過剰が出た場合の、取引制度のルールと、取引の価格はどうなっていくのか、不透明なモノになってしまう。
実際に、イギリスでは10年ほど前から、この原単位を目標指標にした取引制度を試験的に導入したが、「複雑で機能しない」として、すでにあきらめた制度である。
この複雑な制度で機能すると主張しているのは、産業界の代弁をしている経済産業省である。

結局、一部の産業界は、「排出量取引制度」のすべてに反対なのである。
それで?(次回に)

政府が関与する上限設定は、官僚主導と利権政治への道。

2010-03-17 | 環境問題
「排出量取引制度」の要である「初期配分」において、入札方式のメリットを説明した。
解りやすい制度であり、効率のよい財源調達に結び付くので、今後は採り入れる国が増える傾向になる。
その一方で、初期配分を政府が関与して、業界毎や企業ごとに「排出量許可枠」の上限を決めて、キャップを被せる制度が、イギリスやEU諸国の一部で行われている。
日本の役所や政治家がイメージしている「排出量取引制度」の中身は、このヨーロッパの制度に影響されている様である。

では、政府関与の初期配分は、どのようなモノであるか、説明をしてみよう。
この方式は、「グランドファザーリング方式」とも呼ばれるように、一家の長である「家長」が家計費の配分を決めることを意味する方式である。
事例として、排出量の総枠を1億トンとして、A業界には1000万トン、B業界には500万トン、と言う様に、政府の政策として、業界毎に許可する排出枠を割り当てる。
これを、さらに細分化して、企業ごとに割り当てる制度も追加として必要になる。

では、どのような基準で、割り当ての数値がでるのであろうか。
ひとつは、実績排出量を基準にして削減量を決める設定であるが、これはA業界の前年の実績は1000万トンとした場合に、全体で5%減らそうとすれば、950万トンの割り当てになる。
同じく、B業界の実績が500万トンならば、475万トンを割り当てる。
一見、公平性がある様に見えるが、実は、大きな問題がある。
上限規制が一律でかかるとみれば、意図的に規制前の排出量を増やして、排出実績の枠を大きくしておけば、排出許可量の配分が決められる時期には有利にできる。
いわゆる「駆け込み排出」をした企業、業界が有利になり、削減努力をした企業は不利になる。
今の日本の業界において、排出削減の実績が停滞している原因の一つにもなっている。

また、すでに十分に排出削減の努力をしてきた、と言い続けている業界からは、乾いた雑巾を絞るようなモノであるから、一律の削減率は不公平だと言う不満が噴出する。
そして、あらゆる役所とのコネとロビー活動によって、少しでも排出量の上限を増やそうと努力を重ねる。
このロビー活動に、力を入れた業界が有利になる制度が、「政府による初期配分」方式である。

この方式は計画経済に近いモノで、誰でも想像出来る様に、役人と政治家の関与が活発になる。
結果としての弊害は、天下り役人の多い企業や業界が有利になり、役所の権益が増大する。
さらに、役所の口利きをする利権政治家の活躍の場を増加させる。
この批判を承知の上で実施する覚悟が、現在の鳩山政権に出来ているか、はなはだ疑問である。

この上限設定で各企業、業界に政府が関与すると、排出の総量規制が確実になるとされている。
しかし、排出許可枠を超えて排出した企業にかける課徴金の額が、相当高く設定しないと、総量の規制は守られない。
官僚主導、役人天国に戻りかねない方式を国民は理解するであろうか。

そこで折衷案として「原単位による規制」を上限設定にするべきとの議論が出ている。(次回に)