昨日は糖尿病の講演会を聴きに行った。講師は東京慈恵会医科大学の西村理明先生で、糖尿病学会でもCGMの結果をわかりやすく話される。話しぶりや容姿の印象が政治家の江田議員とかぶる。今回もわかりやすい講演だった。選択的SGLT2阻害剤の先陣を切って発売されるスーグラ(イプラグリフロジン)を発売するアステラスとMSDが共催する会だ。
CGMで見ると、HbA1cが9%未満では、食後血糖が平行移動したように上がって、食前血糖も少し上がる。9%を越えると、血糖パターンが相当に乱れてぐちゃぐちゃになる。この違いを認識するのが、まず大切ということだ。HbA!Cの質という言い方をするが、平均血糖は同じでも、変動が大きい場合は質が悪い、変動が小さい時は質がいいと評価する。
食後血糖を下げるには、グリニド・αGI・DPP4阻害剤を使う。食前血糖を下げるには、メトグルコ・アクトス・SU剤と使用する。DPP4阻害剤を使用して、食前血糖(基礎分泌分)を下げるために(アクトスよりは)メトグルコを併用して、食後血糖(追加分泌分)を下げるために(グリニドよりは)αGIを併用するという選択を示された。
CGMはどこででもできるわけではないので、通常の血糖自己測定(SMBG)で血糖の変動を推定することを教えてくれた。食前・食後1時間・食後2時間・食後3時間の血糖を何日かかけて測定するというものだ。これを引っ越し業者の電話番号のCMにひっかけて、ゼロ・イチ・ニー・サンと覚える。また、空腹時血糖がHbA1c比べて低すぎる時は、夜間早朝の低血糖があるという。逆に空腹時血糖がHbA!Cに比べて高すぎる時も夜間早朝の低血糖後にソモジー効果で反応性に血糖が上昇するところを見ているそうだ。
SU剤で、日中は高血糖なのに夜間早朝の低血糖が起きている可能性があるというのは知っていた。今流行りのBOTで、就寝前にランタスを使用する時も夜間早朝に低血糖になる可能性があるというのは初めて知った。ランタスはピークがないと思っていたが、ピークはあるそうだ。ランタスをトレシーバに変更すれば本当にピークがなく48時間効果を発揮するので大丈夫という。今後BOTを行う時は、トレシーバを使うことにしよう。
最後に選択的SGLT2阻害剤の話をされた。注意点は、
1. 体液量が300ml程度減少するので、処方を開始して2週間は水分を多めにとる。Hbで1~2g/dl程度上がるそうだ。選択的SGLT2阻害剤が6種類出そろうが今年の夏なので特に注意が必要という。
2. 尿路感染症・性器感染症が多くなると言われるが、日本時ではあまり問題にならないという。日本人は清潔だかららしい。
3. 栄養不良状態が悪化する可能性がある。やせている人・高齢者には使えない。
4. 血中・尿中ケトン体が陽性になる。特にシックデイにケトーシスが悪化する可能性がある。
選択的SGLT2阻害剤の適応は、比較的若年のメタボベース(ぽっちゃり)で、食事療法が守れない人という。あとは1~2年使用してみて、適応を広げられるかどうかを考えるという慎重な使い方が好ましい。DPP4阻害剤ほど、適応の広い薬ではないようだ。
司会の教授が意地悪な質問ですがと前置きして、1日を通して尿糖を出すというのは低血糖は大丈夫なのかと聞かれた。実際はCGMでみても夜間低血糖にはならないので問題はない。生まれつき腎性糖尿の人は特に問題がないので、人工的に腎性糖尿をつくる選択的SGLT2阻害剤も大丈夫ということだ。それにしても、教授が指摘した通常血中にあるグルコースは5g程度と驚くほど少ないということは、ふだんあまり認識していない。
昨日の午後10時から、NHKでドクターG新シリーズが始まるので急いで帰った。初回のドクターGは名古屋大学の鈴木富雄先生。1ケ月おきに発熱と咳が起きて、それがしだいに2週間おき、1週間おきと間隔がしだいに短くなり、体重減少・倦怠感を伴って病状が進行していた。研修医は当然、過敏性肺臓炎としたが、ずっと自宅にいていったん軽快するので合わない。慢性肺血栓塞栓症かとも思ったが、発熱はおかしい。B症状があり(非特異的だが)悪性リンパ腫を考えるが、表在リンパ節は腫脹せず、CTでもリンパ節腫脹がない。正解は血管内リンパ腫だった。炎症反応上昇・LDH上昇・可溶性IL2レセプター上昇(ある程度は上がるがそれのみでは確診できない)があるはずだが、問診で診断にせまる趣旨なので出ていなかった。通常は皮疹が出ていれば、そこから生検するのだろうが(出ていなくてもアトランダムにするかも)、まったくないので難しい。肺生検で確診していた。
もしこの患者さんが来たとしたら、どうしたろうか。おそらく診断はつけられない。ただ、不明熱だけではなくて咳と酸素飽和度の低下(スパイロや血液ガスはでていなかったが)があり、肺に問題があることは間違いないので、呼吸器科のある病院(腫瘍内科もあるような)へ紹介するのだろう。プライマリケア学会で鈴木先生の不明熱の講演を聴いた時に、全国から不明熱の患者さんが名古屋大学を受診するという話があった。確かにNHKにこれだけ出演されていればさもありなんと思った。入局した医局の教授は糖尿病が専門で、NHKの今日の健康によく出演していた。東京から新幹線で教授の外来に通院しているVIPがいるという話を思い出した。