会社帰りの大船駅で、階段を上がると僕は一目散に『大船軒』に向かったのだ。
自動ドアにタッチしたら、次は券売機のボタンにタッチである。とにかく久しぶりではあったが、これは寸分の狂いもなくこなすことができる幸せへのルーチンだ。
ところが、僕の人差し指は宙を舞うだけで行き場を失った。ルーチンで僕が押すはずだった「天ぷらそばうどん」のボタンが見つからないのである。たしか左上の端、ゴールデンエリアにあったはずなのに。
パニックである。
次のお客が横に来た!でも、どうしても今日は「天ぷらそば」を食べたいんだよ。
「天ぷら、終わっちゃったの?」
聞いてみた(笑)。
「かき揚げよ! 左上にあるでしょ、かき揚げって」
そう言われてよく見たら、左上のボタンが「かき揚げそばうどん」になっていた。写真はどうも「天ぷらそば」のようなんだけど。
釈然としないままボタンをプッシュ、スイカをタッチして出てきた食券をつまみ上げ、「そばね」と言いながらカウンターにスッと出す。おぉ、ルーチンに完全復帰だ。
すると、おばちゃんがルーチンでパッ、パッと作業に取り掛かる。その手元を見ながら僕は、左側に伏せてあるプラスチックのコップをヒョイとひっくり返してサーバーの口に差し出し、そのままコップで金具を押して水を溜めるルーチンをこなす。
はたして絶妙なタイミングで、目の前には「天ぷら」・・・ではなく「かき揚げそば」が現れたのである。
あっ! 載ってる天ぷらの色が濃い。
かつての色白でややお上品な天ぷらではなく、色黒のちょっとワイルドだぜ~的なぶよぶよタイプになっていた。
なるほど、名前が変わったのはこのせいか。一般的な駅そばの天ぷらを、「天ぷら」と呼ぶことは、老舗としてのプライドが許さなかったのかもしれない(ぜんぶ勝手な想像だけど)。
僕としては以前から言っているように、駅そば(立ち喰いそば)はぶよぶよが好みなのでむしろ嬉しい限り。ただ、サイズだけはお上品さを残して小さなのが残念だ。
とはいえ、細くて硬めのそば、甘いつゆは健在。しかも、頭上からガンガン落ちてくる冷風が、どんだけ夢中で食っても大丈夫だよと、まさに追い風となった。
家に帰っても旦那さまの夕飯がございませんという連絡を受け、もうぜったい今日は食っていこうと決めていたのだ。2ケ月半ぶりだろうか。実は毎日のようにこの前を通っているのに、なかなかタイミングが合わなかったのだ。
待った分、僕は夢中でズルズルやって5分もしないうちに完食した。それでも僕にとっては最高のディナーになったのである。
ちなみに、店を出て表のメニューには、まだ「天ぷらそば」と書かれていた。
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