湘南ライナー日記 SHONAN LINER NOTES

会社帰りの湘南ライナーの中で書いていた日記を継続中

飲み干す魔力、衰えず

2015-11-12 22:51:12 | B食の道
その頃のここを知らないけれど、たぶん今と変わらない日常が繰り返されていた。そう確信できる立ち食いそば屋だった。



藤沢駅北口からほど近いビルの地下にある『新月』である。駅の南北を結ぶ地下通路からも直接アプローチできる。もう、そこへ向かう通路がレトロだ。

頼んだ「天ぷら(かきあげ)そば」(320円)の見た目も味も、立ち食いそば全盛期(いつだか正確には知らないけれど)そのままという印象。値段だって、けっこうそのままに近い感じ。



揚げ置きのぶよぶよかき揚げがたまらない。大きさも厚みも十分。しかも、裏にカリカリの部分が残っているのがうれしい。サクサクじゃないですよ、カリカリ。お菓子みたいに(笑)。

例によってこれが時間の経過とともに出汁に溶け出していくわけですよ。ぶよぶよで、カリカリで、しみこんでさらにぶんよぶんよで、さらに溶け出しふにゃふにゃで・・・

1枚で4度おいしい!

ただ一つ、問題なのは、溶け出した出汁である。
今はもう憐れな見た目のかき揚げの破片も実はこらがおいしく、もちろん出汁の方もかき揚げの脂分を含みさらに旨みが増している。これを残すわけにはいかず、丼を両手で頂き、顔を天井に向けて最後の一滴まで飲み干すのである。
体に良くないことは百も承知。それをわかっていてもやり遂げるほどの魔力が、立ち食いそばにはある。

途切れることなく後から後から入ってきてはチケットをカウンターに置きながら「そばで」「うどんね」と申告し、丼を返却口に返して「ごっさん」「こちそーさん」と店を出て行く。こんな日常をもう40年以上繰り返しているのだ。
そして、僕の隣でもまた、おっさんが汁を飲み干している。