錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

錦之助映画祭り2010日誌(11月20日)

2010-11-21 21:12:48 | 錦之助映画祭り
 11月20日(土)、今日は錦之助さんの誕生日で、ご存命なら78歳。まだまだ元気でいても不思議でない年齢である。錦之助さんは64歳で亡くなった。還暦を迎えてから4年4ヶ月という早すぎる逝去であった。が、芸暦は60年に及んでいる。4歳になる直前に歌舞伎座で初舞台を踏み、そして21歳で映画界入りしてから、役者人生をまっしぐらに突き進んだ生涯であった。
 今回の錦之助映画祭りは、錦ちゃんの誕生日をはさんで11日間というスケジュールで催している。今日は、スペシャル・デイ。トーク・ゲストに二代目中村錦之助さんを迎え、上映作品は『沓掛時次郎 遊侠一匹』と『反逆兒』という絶好の二本立て。『沓掛時次郎』は、二代目錦之助(中村信二郎)が子役(太郎吉)で出演しているので選び、『反逆兒』は、143本の錦之助出演作の中でも、傑作にしてかつ錦之助の名演が際立った作品なので、スペシャル・デイにふさわしいと考え、選んだ。両作品とも中身の濃い、見ごたえたっぷりの作品である。文句はあるまい。
 
 昼過ぎに新文芸坐へ行き、13時半から『反逆兒』を鑑賞。ニュープリントだ。コマの飛んでいる箇所があったが、色調は良く、プリント状態は申し分なし。やはりニュープリントを新文芸坐の大画面で観ると感激が違う。しかも客席はほぼ満員。映画はこうした環境で観なきゃダメだ、とつくづく思う。映画が終り、館内が明るくなっても、みなさん感動醒めやらずといった様子。年配の女性の大部分が泣いていた。胸が詰まって、終っても席を立てないのだろう。ため息があちこちで聞こえるようだった。
 伊藤大輔監督の『反逆兒』という作品は、戦国物の時代劇とはいえ、テーマは非常に現代的で、われわれが切実に感じている身近なテーマを、戦国時代に移して、凝縮した形でドラマ化した作品である。母と子の愛、嫁と姑の憎しみは、いつの世にも変わらずあったと思うので、普遍的なテーマでもあろう。ただし、この映画のように、家康の嫡男信康が、今川家の血を引く母・築山御前と、信長の娘・徳姫との間にはさまれ、苦悩するという設定は、フィクションだと思う。ともあれ、『反逆兒』は伊藤大輔監督の戦後の傑作であり、若き戦国武将の悲劇をドラマチックに描いた時代劇の名作である。そしてまた、主人公信康を演じ切った錦之助にとっても、彼の悲劇作品のナンバーワンに数え上げられると思う。とくにラストの切腹シーンは、筆舌に尽くし難く、悲愴美の極致と言える。
 
 『反逆兒』を観た後で、次は『沓掛時次郎 遊侠一匹』。これまた、感動の名作である。監督の加藤泰は、戦前伊藤大輔の時代劇作品に憧れて、映画界に入った人であり、終生伊藤大輔を師として敬愛し続けた映画人である。しかし、作風や表現テーマは、伊藤大輔とはかなり異なる。端的に言えば、伊藤大輔は旅人やくざを好まず、加藤泰は旅人やくざを好んで描く。伊藤大輔は体制内反体制で、加藤泰は体制外反体制の傾向があると言えるのではなかろうか。つまり、伊藤監督作品は、主に権力や社会体制に抑圧され虐待され抹殺された人々を描き、加藤監督作品は、主に権力とは無縁で社会から疎外された人々を描き、それぞれ映画作家としての特色を発揮したと思う。
 加藤泰監督の錦之助主演作では、『風と女と旅鴉』『瞼の母』『沓掛時次郎 遊侠一匹』の3本が名作である。「源氏九郎」シリーズの2本は作品的には不出来だと思う。
 今日の作品『沓掛時次郎 遊侠一匹』は、図らずも9月26日に亡くなった女優池内淳子さんの追悼上映になってしまった。この映画の中での彼女のしっとりとした落ち着き、滲み出る情愛は、何とも言えず良い。取り乱さない年増女の内に秘めた情念がじわじわ湧き出して、観る者の心に浸透して行く。この映画、東映やくざ映画が流行しだした年代に作られたため、その風潮の影響もあり、立ち回りも惨殺的で、血の出る場面も多い。その点、今観るとやや、作品の情感を減じていると感じるところもある。やくざ否定と不倫愛という二つのテーマのうち、前者の描き方のくどさが目立つ。それでも、感動的な名作であることに変わりない。

 作品の感想を書いているうちに長くなってしまった。
 
 今日は、遠隔地に住む錦之助映画ファンの会の会員が何人か泊りがけで来てくれているし、錦ちゃんファンがごっそり集っている。また、錦之助さんとご縁の深い方々で私がお招きした方も映画を観に来てくださった。映画評論家の渡部保子さん、脚本家の石森史郎さん、『沓掛時次郎』ほか『宮本武蔵』などの脚本を書かれた故鈴木尚之氏の奥様の鈴木朝さんが見えたので、ご挨拶して少しだけお話する。
 
 19時20分ごろ、二代目錦之助さんが奥様といっしょに来館。二代目はねずみ色の着物で羽織り袴の正装。奥様(細面でほっそりした美人)は黒いシックな洋服。4階の事務室にご案内すると、二代目が『反逆兒』のラストが観たいとおっしゃるので、映写室に入り、窓ガラス越しに眺めていただく。切腹シーンを奥様といっしょに観てから、二代目を階下にご案内し、トークショー開始。聞き手は私。二代目とはこれまで四度ほどお会いしているし、昨年3月のトークショーでも聞き手を私がやったので、打ち合わせなし。
 二代目は、『沓掛時次郎』撮影時のエピソードを中心にお話してくださった。池内淳子さんのことについても触れていただいた。トークの模様は宮坂さんがビデオ収録。
 トークの後、サイン会を行う。30人以上のお客さんが並ぶ。二代目は一人一人に丁寧に対応なさっていた。彼の暖かいお人柄に接すれば、みんな二代目を応援したくなると思う。あの世で錦之助さんも喜んでいるにちがいない。
 その後、錦之助映画ファンの会の宴会に、二代目と奥様をお誘いする。近所のすし屋へ33人が集る。脚本家の石森史郎さんに乾杯の音頭をお願いし、二代目に挨拶していただく。二代目はわざわざ、萬屋錦之介の名前入り手拭いを40枚もプレゼント用に持ってきてくださった。集ったみんなの一人一人に二代目自ら、手渡してくださったので、みんな大喜びだった。二代目は明日の午前中からまた新橋演舞場で公演があるので、15分ほどで退席。二代目と奥様を駐車場までお見送りする。二代目は着物のまま運転席に着き、手を振って颯爽と帰っていかれた。『花吹雪御存じ七人男』を観たいとおっしゃっていたので、また来館されるかもしれない。今度はお忍びで。
 
 宴会は閉店の10時半過ぎまで続いた。今日はお客さんも大入り、映画も堪能、トークも楽しく、サイン会も宴会もあり、最高に充実した一日であった。


 


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2 コメント

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感謝 (矢吹和子)
2010-11-22 16:46:26
藤井様 20日(土)でのおすし屋さんでは
ありがとうございました。いつも新橋演舞場の3階席から見ていた二代目をまじかでお目にかかれ又一代目の手ぬぐいまで頂きこれも藤井様
のおかげと感謝申し上げます。
前から忘れ物ばかりしています。小さなノートをお預かり頂いて恐縮しています。はずかしい
お忙しいのにごめんどうをお掛けいたします。
毎日錦ちゃんに会いに行きたいのですが、主人が家で仕事しているので思うように行きません。残念・無念。
大事なお身体です。お大事にして下さいませ。
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忘れ物は今度 (背寒)
2010-11-25 03:50:53
毎日、新文芸坐に通っていますので、私を見かけたら声をかけてください。お忘れになったノートはお預かりしています。
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