昭和34年5月発行の『別冊近代映画・蜘蛛の巣屋敷特集号』にこんなアンケート結果が出ている。「ファンが選んだ錦之助映画ベスト10」の結果発表である。ベストテン作品と投票数は次の通り。
第1位 紅顔無双流(4,743票)
第2位 織田信長(4,249票)
第3位 忠臣蔵(2,691票)
第4位 江戸の名物男・一心太助(2,424票)
第5位 風と女と旅鴉(2,145票)
第6位 一心太助・天下の一大事(2,037票)
第7位 美男城(1,539票)
第8位 遠州森の石松(1,518票)
第9位 源義経(1,296票)
第10位 曽我兄弟・富士の夜襲(816票)
以下、『おしどり駕篭』、『浅間の暴れん坊』、『殿さま弥次喜多・怪談道中』、『源氏九郎颯爽記・白狐二刀流』、『獅子丸一平』、『隠密七生記』、『恋風道中』が並ぶ。
この結果を見て、私は大変面白いと思った。また、ファンの目というのは確かなものなんだなーとも思った。どういう回答の仕方だったかは分からないが、投票数を見ると、5000人以上(もしかすると1万人)のファンがアンケートに回答したようである。若い女性ファンが大半を占めたと推察するが、ベストテンの結果は非常に順当だったように思う。もし私なら、男だということもあって、第1位に『紅顔無双流』は選ばないだろうが、それ以外はこれでもいいかなーと納得するような順位結果である。
第1位の『紅顔無双流』は、柴田錬三郎の『剣は知っていた』の映画化で、戦国乱世を舞台にしたいわゆる貴種流離譚。錦之助が眉殿喬之介という剣士になって活躍するのだが、まあ、なんとも奇想天外な筋立てで、当時は大人気の「柴錬」(柴田錬三郎の略称)も今は昔の影もなく、いわば際物的な時代劇だった。柴錬原作の映画では市川雷蔵の『眠狂四郎』シリーズだけが生き残っているが、錦之助が主人公を演じた『紅顔無双流』も『美男城』も『源氏九郎颯爽記』も、今ではマニアだけが好む映画になってしまった。正直言って私は錦之助の美剣士物はあまり好きではない。
第2位の『織田信長』は、『紅顔の若武者』の方で、当時まだ『風雲児』は製作されていない。これは選出作品のなかでは比較的古い映画(昭和30年公開)なのだが、錦之助初挑戦の汚れ役がよほどファンの印象に残っていたことが分かる。『源義経』と『曽我兄弟』もファンの記憶に残る作品だったようだ。
第3位の『忠臣蔵』は、錦之助が浅野内匠頭を演じたオールスター映画で、これは私も封切りで観て、大感動した。前半は錦之助が主役で、最高の名演だった。今でもこの内匠頭は目に焼きついている。錦之助の殿様役は後年の全作品を含めてもこれがベストワンであろう。
第4位と第6位に『一心太助』が2本入っているのは、当然とはいえ、大変嬉しい。やはり、ファンは江戸っ子の錦ちゃんが好きで、これは今も変わらないと思う。また、第5位に錦之助がノーメイクで臨んだ『風と女と旅鴉』が入っているのには、感心する。さすが錦之助ファンという感じなのだ。ファンは錦之助の挑戦心や意気込みというものをちゃんと評価している。このことは、第8位に『遠州森の石松』が選ばれていることでも分かる。
ほかにも私が気づいたことを二、三、挙げよう。
まず、『笛吹童子』『紅孔雀』など子供向けの童子物や剣士物はベストテンに1本も入っていないことだ。
次に、錦之助が「つっころばし」を演じた世話物や、若衆や纏持ちに扮した江戸物が入っていないことに気づく。が、これらは比較的古い映画だったし、印象が薄れてしまったのか、または観ていないファンが多かったので、投票が集まらなかったのだろう。しかし、昭和33年前後に錦之助の傑作がずらっと並んでいたということを考えれば、その中からベストテンが選ばれるのは当然だったとも言えよう。
さて、錦之助の映画が残念ながらすべて出揃ってしまった現在、もしファンが投票すればどういうことになるだろうか。
かく言う私としては、今でもこの昭和34年当時のファン投票ベスト・テンとあまり変わらない作品を選ぶと思う。ただし、この中で第1位と第7位と第9位と第10位の作品は除くだろう。第2位、第3位、第4位は逆にひっくり返して、上に繰上げ、空位になった第4位に『おしどり駕籠』を入れ、第7位に『あばれ纏千両肌』、第9位に『弥太郎笠』、第10位に『宮本武蔵』(第一部)を入れようかなーと考えている。
第1位 紅顔無双流(4,743票)
第2位 織田信長(4,249票)
第3位 忠臣蔵(2,691票)
第4位 江戸の名物男・一心太助(2,424票)
第5位 風と女と旅鴉(2,145票)
第6位 一心太助・天下の一大事(2,037票)
第7位 美男城(1,539票)
第8位 遠州森の石松(1,518票)
第9位 源義経(1,296票)
第10位 曽我兄弟・富士の夜襲(816票)
以下、『おしどり駕篭』、『浅間の暴れん坊』、『殿さま弥次喜多・怪談道中』、『源氏九郎颯爽記・白狐二刀流』、『獅子丸一平』、『隠密七生記』、『恋風道中』が並ぶ。
この結果を見て、私は大変面白いと思った。また、ファンの目というのは確かなものなんだなーとも思った。どういう回答の仕方だったかは分からないが、投票数を見ると、5000人以上(もしかすると1万人)のファンがアンケートに回答したようである。若い女性ファンが大半を占めたと推察するが、ベストテンの結果は非常に順当だったように思う。もし私なら、男だということもあって、第1位に『紅顔無双流』は選ばないだろうが、それ以外はこれでもいいかなーと納得するような順位結果である。
第1位の『紅顔無双流』は、柴田錬三郎の『剣は知っていた』の映画化で、戦国乱世を舞台にしたいわゆる貴種流離譚。錦之助が眉殿喬之介という剣士になって活躍するのだが、まあ、なんとも奇想天外な筋立てで、当時は大人気の「柴錬」(柴田錬三郎の略称)も今は昔の影もなく、いわば際物的な時代劇だった。柴錬原作の映画では市川雷蔵の『眠狂四郎』シリーズだけが生き残っているが、錦之助が主人公を演じた『紅顔無双流』も『美男城』も『源氏九郎颯爽記』も、今ではマニアだけが好む映画になってしまった。正直言って私は錦之助の美剣士物はあまり好きではない。
第2位の『織田信長』は、『紅顔の若武者』の方で、当時まだ『風雲児』は製作されていない。これは選出作品のなかでは比較的古い映画(昭和30年公開)なのだが、錦之助初挑戦の汚れ役がよほどファンの印象に残っていたことが分かる。『源義経』と『曽我兄弟』もファンの記憶に残る作品だったようだ。
第3位の『忠臣蔵』は、錦之助が浅野内匠頭を演じたオールスター映画で、これは私も封切りで観て、大感動した。前半は錦之助が主役で、最高の名演だった。今でもこの内匠頭は目に焼きついている。錦之助の殿様役は後年の全作品を含めてもこれがベストワンであろう。
第4位と第6位に『一心太助』が2本入っているのは、当然とはいえ、大変嬉しい。やはり、ファンは江戸っ子の錦ちゃんが好きで、これは今も変わらないと思う。また、第5位に錦之助がノーメイクで臨んだ『風と女と旅鴉』が入っているのには、感心する。さすが錦之助ファンという感じなのだ。ファンは錦之助の挑戦心や意気込みというものをちゃんと評価している。このことは、第8位に『遠州森の石松』が選ばれていることでも分かる。
ほかにも私が気づいたことを二、三、挙げよう。
まず、『笛吹童子』『紅孔雀』など子供向けの童子物や剣士物はベストテンに1本も入っていないことだ。
次に、錦之助が「つっころばし」を演じた世話物や、若衆や纏持ちに扮した江戸物が入っていないことに気づく。が、これらは比較的古い映画だったし、印象が薄れてしまったのか、または観ていないファンが多かったので、投票が集まらなかったのだろう。しかし、昭和33年前後に錦之助の傑作がずらっと並んでいたということを考えれば、その中からベストテンが選ばれるのは当然だったとも言えよう。
さて、錦之助の映画が残念ながらすべて出揃ってしまった現在、もしファンが投票すればどういうことになるだろうか。
かく言う私としては、今でもこの昭和34年当時のファン投票ベスト・テンとあまり変わらない作品を選ぶと思う。ただし、この中で第1位と第7位と第9位と第10位の作品は除くだろう。第2位、第3位、第4位は逆にひっくり返して、上に繰上げ、空位になった第4位に『おしどり駕籠』を入れ、第7位に『あばれ纏千両肌』、第9位に『弥太郎笠』、第10位に『宮本武蔵』(第一部)を入れようかなーと考えている。
1、関の弥太ッペ
2、宮本武蔵、一乗寺の決斗
遊侠一匹、沓掛の時次郎
3、反逆児
等となっていますね。投票総数は2000台ですが・・・
面白いですよね。昭和34年にはまだ製作されていなかったものが上位にきてますね。
唯、S34年のファンの平均年齢と「銀幕の錦之助」で投票しているファンのそれとはかなり開きがあるとは思いますが・・・
私は明るい錦之助さんが好きなので、昔の作品に好みが偏ってしまいます。あとは作品の完成度ですね。娯楽映画でも芸術的な映画でも同じです。監督がマキノ雅弘でも内田吐夢でも良いものは良いと思っています。「キネ旬」の評論家は後者に偏った見方をする人が多いので、どうも反発を感じます。それから、錦之助が主演の映画と言っても、共演者あっての演技ですから、共演者の好演も大事ですね。あと、錦之助の映画では、斬り合いもリアルではない方が好きで、赤い血がふき出したり、肉を切る音がする作品は私の基準では減点になります。「関の弥太ッぺ」が第1位になることは私には考えられません。
私は、評論家の意見とか世評とかにはとらわれずに、自分の目で見て、判断しようといつも考えています。錦之助さんの書いたものも、監督の自作に関する感想もちょっと参考にする程度にすませています。映画って、上映された時点で、作品そのものとして自立し、評価の対象になると思っています。
竜子さんのコメントとは全然違ったことになってしまいましたね。