この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

『マーターズ』最終考察、その1。

2014-05-29 23:16:18 | 旧作映画
 GWに知人から『悪魔のいけにえ』のDVDボックスを借りて鑑賞したという話は既に書きました。こちら
 で、その知人に、お返しに自分が持っているDVDの中でとびっきり怖い『マーターズ』というホラー映画ののDVDを貸したんですよね。
 さてさて、どんな感想が聞けるかなと楽しみだったんですが、予想外の結果が待ち受けてました。
 今週の月曜日その人がDVDを持ってきたんですけど、申し訳なさそうな顔して「すみません、『マーターズ』、えぐくて見れませんでした」って言うんですよ。
 え?って思いました。
 いや、確かに『マーターズ』は凄まじくえぐい映画ではあるんですが、『悪魔のいけにえ』だって史上最も怖いと称されるホラー映画じゃないですか。
 その史上最も怖いと称されるホラー映画のDVDボックスの所有者が『マーターズ』はえぐいから見れない?
 それって『悪魔のいけにえ』が大して怖くないって言ってるようなものじゃないですか!
 トピー・フーバーに謝れ!!
 とは思いませんでしたけどね。笑。
 ともかく『マーターズ』が如何にえぐい映画であるかを示すエピソードの一例だと思います。

 ネットでの評価も本当に賛否両論なんですよね。
 否定派の人たちの意見はこんな感じです。
○後半の延々と続く拷問シーンが不愉快
○救いがなさ過ぎる
○ラストシーンが意味不明etc
 逆に肯定派の人たちは傑作!奇跡!素晴らしい!絶賛の嵐なんですよね。

 認めるのも(良識を疑われそうで)正直怖いのですが自分は肯定派です。本作をホラー映画の一つの到達点であり、この先自分の人生であと何本ホラー映画を見るのかはわからないが、これほどの衝撃を受けることはないだろう、そう思っています。
 この映画の何がスゴイかと言ってまず挙げられるのはツイストとミスリードがハンパないってことでしょうか。
 ツイストって言うのは転調のことですね。この作品は前半と後半ではまるで違う映画なんですよね。テイストが全然違う。
 でももちろん異なる二つのパートを無理矢理に繋げた感じはありません。両者は有機的に絡まっているのです。

 またミスリードというのはつまり○○だと思っていたら××だった、ということなのですが、本作のそれは実に見事なんですよね。観ていて、やられた!と思いました(具体的にいうとリュシーの凶行は狂気の果てによるものではなく、正統な復讐だったということ)。

 そして何より自分がこの作品を高く評価するのは、この作品を見た人とこの作品についていろいろ語りたくなってしまうんですよね。
 例えばなぜリュシーは自ら命を絶ってしまったのか、ラストシーンでアンナは何と呟いたのか、またマドモアゼルが命を絶った理由は?彼女の「疑いなさい」という言葉の真意は?
 この作品に対して一定の評価をする人はそういった疑問に対し自分なりの解釈をしているようなのですが、それがまた千差万別で!
 今日はそれらに関しての自分の考えを述べたいと思います。

 ではまずなぜリュシーは一家を惨殺したのか?
 そんなの簡単だろう、彼女は子供のころに受けた虐待行為に対する復讐をしたかったのだ、という人もいるかもしれませんが、事はそう単純じゃないんですよね。
 なぜなら、単純な復讐であるならば、母親と父親はともかく、二人の子供たちは弑されるべきではないから。
 リュシーのやろうとしていたことは、目的は復讐は復讐でも、監禁・虐待行為を行っていた組織に属するメンバー全員の抹殺であった、自分はそう考えます。
 だから二人の子供たちも殺さなければならなかった。
 いや、待て、子供たちが組織に属していたという証拠はない、そう仰る方もいるかもしれませんが、証拠はあります。
 その日の朝の食卓で、母親は朝早くから下水道の詰まりを直していたことがわかります。おそらく朝からそれにかかりきりだった。
 家の中に女性を監禁していて、母親は別に用事があり、父親は直接的な暴力を加える役であったのならば、食事を与えたり、清掃をしたりする役目は子供たちがしていた、と考えるのが妥当です。子供たちも立派な組織の一員だった、だからリュシーは彼らも殺したのです。
 そのことは引き金を引く前に子どもの一人に年齢を尋ねたことからも伺えます。
 リュシーは本能的にその人間が組織に属するのかどうかがわかったのだと思います。

 リュシーに計算違いがあったとすれば、組織が、彼女の考えていたよりずっと大規模だった、ということでしょう。
 彼女は異常な一家族が監禁・虐待を行っていたのだ、そう考えていたのでしょう。
 そのことは「子どもまで殺したのに!」という彼女の悲痛な叫びからわかります。

 さて、彼女はなぜ自ら命を絶ったのでしょう。
 ネットでは、彼女に憑りついていたトラウマが彼女を殺したのだ、という人も多いのですが、自分の考えは違います。
 そもそもなぜリュシーは復讐することに踏み切ったのでしょう?そしてその現場にアンナを付き合わせたのか?
 答えは一つしか思いつきません。
 リュシーはアンナのために凶行に及ぶことを決心したのです。
 つまり、リュシーはアンナとまともな新生活を送りたかった。そのためには自身に憑りついているトラウマを振り払わなければならなかった。
 それには一家を惨殺するしかなかった。
 リュシーの凶行はひとえにアンナに対する愛ゆえだった、自分はそう考えます。

 一方アンナはリュシーが何かをすることまでは知っていた。
 だが、人を殺すとまでは思ってなかった。
 それ以前に一家がリュシーの正当な復讐の対象だとも思ってなかった。そのことは母親を密かに助けようとしていたことからわかります。
 つまり、アンナはリュシーのことを無条件に信じていたわけではなかったということになります。

 それに対しリュシーは、アンナが無条件に自分のことを信じてくれることを欲した。
 そうでなければ殺人を犯してまで新生活を送ることは出来ないですから。
 それは常識的に考えて不可能な話ですけどね。
 
 そしてアンナが無条件に自分を信じているわけではないということを知り、絶望し、命を絶った。
 そう考えるのが一番筋が通っていると思いますし、また後半のパートへの繋がりが強くなります。


                                  続きます。
コメント (2)
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