ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 新藤宗幸著 「教育委員会」  (岩波新書 2013年11月 )

2014年10月31日 | 書評
文部省・教育委員会の中央集権的タテ支配を廃止し、教育を子供と市民の手に取り戻そう 第9回

3) 垂直下降型行政システムの中での教育委員会 (その2)

1980年代より政治やメディアにおいて「教育の荒廃」、「教育の危機」ということが言われだした。これには「新国家主義」、「新自由主義」の政治潮流の時代と符牒する。不登校、校内暴力、学級崩壊、学力低下といったことが社会問題としての根深さをさておいて、道徳教育の推進、国家精神の涵養とどう結びつくのかは知らないが、教職員組合攻撃と歩調を一致させて進行した。復古主義ノスタルジーの第1次安倍内閣は2006年教育再生会議をもうけ、教育における新自由主義・新国家主義政策を推し進めた。2007年文部省は実に1966年以来行わなかった「全国学力テスト」を実施した。学力テストは学力競争を助長するとして違法判決などに影響されて中止されていた。テストの結果学力低下が著しいとして、これまでの「ゆとり教育」の弊害と断じて「詰め込み教育」へかじを切った。政治の狙いは学力テスト結果から学校間競争を進める市場主義教育にあった。2009年の民主党内閣は標本調査に切り替えたが、2012年に成立した第2次安倍内閣は再び全国規模の悉皆調査に戻して、2013年4月に全国学力テストを実施した。東京都足立区で学力テスト不正事件が発生したのは、学力テストの結果による予算の傾斜配分方針の為であった。全国学力テストの成績は公表するが、都道府県教育委員会は個々の市町村名や学校名は公表しないという取り決めであった。文部省は毎年都道府県の順位は公表している。もし学力テストの成績が「学力」であるなら、便利なメジャーとして利用できる。首長は教育委員会へプレッシャーをかける道具として使える。橋下大阪市長は露骨に干渉し、市町村別の成績を公表させた。政治家たちのねらいは学力テストの成績=学力競争力=良い学校という風潮に乗って、週刊誌なみに東大合格数の多い高校の順位を競うだけのことかもしれない。中曽根首相以来の新国家主義的な政治・社会状況に改めて「正当性」を付与する、国旗・国歌法が成立したのは1999年であった。「愛国心」涵養のもとに、1989年学習指導要綱は「入学式や卒業式などにおいて、国旗を掲揚し国歌を斉唱するように指導する」とした。それ以降各地で日の丸掲揚、国歌の斉唱と規律、ピアノ演奏などが教員に強いられていった。田中伸尚著 「ルポ 良心と義務ー日の丸・君が代に抗う人々」(岩波新書 2012年4月)に日の丸君が代に踏みつぶされてゆく教育現場の様子が描かれているので、ここでは繰り返さないでおこう。ただ東京都(石原慎太郎知事)の2003年東京都教育委員会通達「10・23通達」と大阪府(橋下知事)の2011年「君が代」強制条例が有名であることだけは記憶しておこう。この過程で不服教員は「指導力不足教員」として烙印を押され懲戒処分になった。東京都の10.23通達以降の10年で東京都の教員441人が処分された。 こうした官僚統制的関係は新国家主義者の政治集団によってますます「教育の荒廃」をもたらしていった。それに追随するのが教育員会であり、遂行するのが事務局官僚機構なのである。

(つづく)


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