ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 鹿野政直著 「日本の近代思想」  岩波新書

2008年01月06日 | 書評
二十世紀の日本の思想的問題を四つの主題から総括する 第二回

日本論

20世紀は世界が国という単位に再編成されていった時代である。その中で日本は日清戦争から日露戦争を勝利し「膨張的日本」の時代に入って列強との競争になった。その日本を西欧列強はアジアでの日本の指導的立場に期待と危惧の念を強めていった。英国のチェンバレンは「ミカド宗教国家の出現」と述べ、インドの詩人タゴールは日本が単に西欧の模倣なら期待は裏切られると危惧した。西欧文明の摂取で近代化に成功した日本が列強との競争に入るときニッポンイデオロギーがにわかに台頭してきた。その中心になったのが大日本帝国憲法と教育勅語であった。つまり西欧から日本への回帰が始まったのである。この唯一つの価値体制(天皇中心の国粋主義)に対して、戦後には加藤周一が「雑種文化論」を著して多種多様な日本文化の潮流を主張し、島尾敏雄も「ヤポネシア論」で日本を対大陸、対西欧という捉え方ではなく環南太平洋の諸国の中に日本を位置づける試みをした。近代日本を形成するとき、統一した国語の造出が欠かせない条件であった。これも一つの言語ナショナリズムで、国語は人為的な作物であることを脚本家井上ひさしは見抜いた。戦後アメリカの援助の下で経済大国化を達成した後、「Japan as No.1」と自信をつけた1980年代に再び日本論が隆盛を見た。その中で網野義彦は日本論の再考を主張して、日本島国論、稲作一元論、単一民族論を虚構と断定して、他者に同化をせまり排除を強いる日本一元論イデオロギーとなずけたものに今までいかに囚われていたかを示した。



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