
全人的科学者よ出でよ! 好奇心に満ちた健全なる精神を持った人のために 第2回
序(その2)
吉田武著 「オイラーの贈物」の構成を順に概説すると、以下のようである。
第1部 基礎理論
第1部の基礎編では、「パスカルの3角形」で2項定理と数列の面白さを、「方程式と関数」では2次方程式の解と虚数の登場と関数の性質を知るためのグラフの活用を、微分積分の定義と基礎公式を概説する。2,3の初歩的事項をあくまで丁寧に分るように具体的に説明する。これでは本のページ数が多くなるのはやむをえない。専門書のような、理解できない人には大きな壁を感じるような冷たさは無い。素数を求める「エラトステネスの篩」という方法を知った。連続という概念、循環小数を分数で表す方法は面白かった。これはもうビンゴゲームを超えるパズルといってもよい面白さがある。(a+b)のn乗を展開する2項定理の係数が、相異なるn個のものからr個をとる順列組み合わせから求められる。上の二つの項の和であるパスカルの3角形の数列と前の2つの項の和で決まるフィボナッチの数列が、同じ数表の斜め読みでつながっていたのは、確かに当然である。数列が収束する条件と、等比級数、等差級数の和の公式はまさに天才技(奇想天外)である。2次方程式の解法で初めて虚数が登場する。関数とグラフ、微分積分は普通の高校の教科書と同じなので割愛する。又計算機で数値的に方程式の解をもとめるニュートンラプソン方は随分お世話になったので、その重要性はいうまでも無い。そしてこれが√の開法にもなっていたのだ。
第2部 関数の定義
第2部はオイラーの公式の三大構成要素である、テイラー級数展開と指数関数(対数関数)、3角関数の基礎を述べる。級数の和を求めることの逆で、ひとつの式を級数に展開できないだろうかn次高次代数方程式の微分を行なうと、ひとつづつ次数が減じていくことを利用してテイラー展開が可能となった。2項定理も改めてテイラー展開に含められた。指数関数は実に簡素化された性質を持つ。その最大の性質は微分をしても関数の形を変えないことである。そしてe0=1と定義するので(eはネイピア数という無理数)、そのテイラー展開はより簡素化されたxのベキ級数で表される。対数という関数は指数関数の逆関係にあり、微分すると1/xとなるという便利な形式をもつ。3角関数は円と切り離せないほどの関係があり、円の関数といってもよい。小川洋子さんが不思議がる必要もなく、πは角度θとみればオイラーの公式のひとつの特殊形であった。πも無理数である。本書によるピタゴラスの内接n正多角形によるπの漸次計算法は、連√形式ではあるが、ぺートル・ベックマン著「πの歴史」の説明よりずっと整理されていて分りやすい。周期関数である3角関数の諸定理は高校の教科書と同じであるので省略する。(cosx)2+(sinx)2=1の解として、A=cosx+isinx B=cosx-isinxとおけば、A,Bは指数関数と同じ性質をもつので、ド・モアブルの定理(cosx±isinx)n=cosnx±isinnxが得られて、3角関数、虚数、指数関数の間に密接な関係が見られ、オイラーの公式の準備が整った。3角関数もテイラー展開が出来ることはいうまでも無い。
第3部 オイラーの公式とその応用
A=cosx+isinxを級数展開すると、指数をテイラー展開した形とおなじであり、xをiθに置き換えると、eiθ=cosiθ+isiniθというオイラーの公式がえられる。ここでそれぞれ独立して定義された関数、単調関数である指数関数と周期関数である3角関数が虚数を取り込むことによって結びついている。そしてこの公式は調和振動子という物理学に直結するのである。θ=π(180度)とおけば、eiπ=-1となり円周率とも手を結ぶのである。sinθ=1/2i(eiθ-e-iθ),cosθ=1/2i(eiθ+e-iθ),tanθ=(eiθ-e-iθ)/i(eiθ+e-iθ)と書き換えれば、3角関数の理論は複素平面(ガウス平面)上の指数関数に移され、指数関数の簡素な法則(微積分によって関数形を変えない)を利用して見通しのいい関係が出来る。オイラーの公式は複素数の幾何学(解析幾何学)そして極座標からベクトルへと応用される。オイラーは剛体の力学に回転の極座標を導入したことで有名である。ベクトルの代数表現として行列があるが、本書の行列についても大学1年で学習する行列と行列式の範囲を出るものではないので割愛する。単位行列と虚数行列(直交行列)を定義してオイラーの公式の行列表現ができる。そして微分方程式の行列解法になくてはならないケイリー・ハミルトンの固有方程式が2行2列の行列に関して導かれた。
第4部 発展的話題
第1部から第3部の解説において、煩雑を恐れて話題としなかった事項について、基礎をひととおり理解した段階でさらに高度な内容へ進むのがこのアドバンス・コースである。内容は多岐にわたり、22の事項が解説されている。整数論では最大公約数を求めるユークリッドの互除法という割り算の漸次アルゴリズムをBASICという言語でプログラムすることが述べられている。本文ではN=1または2の場合のみ詳しく解説して、Nの一般式を誘導しているが本当はその証明がなかった。これを証明するのが数学的帰納法である。これも高校で習ったところだ。素数が無限大に存在することを、数学的帰謬法で証明している。順列組み合わせの一般項の公式も高校で学習したことである。無理数、ネイピア数e、円周率π、黄金数を連分数で計算することを通じて、パスカルの3角形からフィボナッチ数列へ、フィボナッチ数列から黄金数へ、黄金数から円周率、ネイピア数へ、そしてオイラーの公式を通じて虚数へとひとつの橋が架けられた。数学的に重要な定数はお互いに暗渠で通じ合っていたとしか言いようの無い見事さであった。(これら定数はどうしても有理数にできない超越数という) 話題として3次以上のピタゴラスの定理をみたす自然数は存在しないというフェルマーの最終定理や、5次以上の代数方程式の一般的代数解法は無いことにこだわり続けた人々(ガウスはn次代数方程式は複素数の範囲にn個の根を持つことを証明したが、解法は知らないという)から、ガロア群論がうまれた契機となった。この第4部で4次代数方程式の一般的解法の解説に力を入れているようだ。三次のタルタニアーカルダノ解法、4次のフェラーリの解法とその演習である。行列による微分方程式の解法に随分ページを割いている。1階線形微分方程式の一般的解の公式を導いて、2階線形微分方程式を解くという手法である。例題として、物理学的に重要な問題、自由落下の方程式、強制調和振動子、減衰調和振動子の解法を説いている。そしてスカラー3重積から重要な性質を導き、三次の正方行列と行列式を解説している。これも大学1年で学んだ事項である。微分方程式の演算子法解法で、微分積分を考察する変数を複素数に拡張することによって、単なる代数計算に置き換えることができる。F(s)=∫e-st・f(t)dt これをラプラース変換という。定数、一次変数t、指数関数、1階導関数、2階導関数のラプラ-ス変換などが出来るが、何でも出来るわけでなく、初期値問題では意外に応用が広い。
(つづく)font>
序(その2)
吉田武著 「オイラーの贈物」の構成を順に概説すると、以下のようである。
第1部 基礎理論
第1部の基礎編では、「パスカルの3角形」で2項定理と数列の面白さを、「方程式と関数」では2次方程式の解と虚数の登場と関数の性質を知るためのグラフの活用を、微分積分の定義と基礎公式を概説する。2,3の初歩的事項をあくまで丁寧に分るように具体的に説明する。これでは本のページ数が多くなるのはやむをえない。専門書のような、理解できない人には大きな壁を感じるような冷たさは無い。素数を求める「エラトステネスの篩」という方法を知った。連続という概念、循環小数を分数で表す方法は面白かった。これはもうビンゴゲームを超えるパズルといってもよい面白さがある。(a+b)のn乗を展開する2項定理の係数が、相異なるn個のものからr個をとる順列組み合わせから求められる。上の二つの項の和であるパスカルの3角形の数列と前の2つの項の和で決まるフィボナッチの数列が、同じ数表の斜め読みでつながっていたのは、確かに当然である。数列が収束する条件と、等比級数、等差級数の和の公式はまさに天才技(奇想天外)である。2次方程式の解法で初めて虚数が登場する。関数とグラフ、微分積分は普通の高校の教科書と同じなので割愛する。又計算機で数値的に方程式の解をもとめるニュートンラプソン方は随分お世話になったので、その重要性はいうまでも無い。そしてこれが√の開法にもなっていたのだ。
第2部 関数の定義
第2部はオイラーの公式の三大構成要素である、テイラー級数展開と指数関数(対数関数)、3角関数の基礎を述べる。級数の和を求めることの逆で、ひとつの式を級数に展開できないだろうかn次高次代数方程式の微分を行なうと、ひとつづつ次数が減じていくことを利用してテイラー展開が可能となった。2項定理も改めてテイラー展開に含められた。指数関数は実に簡素化された性質を持つ。その最大の性質は微分をしても関数の形を変えないことである。そしてe0=1と定義するので(eはネイピア数という無理数)、そのテイラー展開はより簡素化されたxのベキ級数で表される。対数という関数は指数関数の逆関係にあり、微分すると1/xとなるという便利な形式をもつ。3角関数は円と切り離せないほどの関係があり、円の関数といってもよい。小川洋子さんが不思議がる必要もなく、πは角度θとみればオイラーの公式のひとつの特殊形であった。πも無理数である。本書によるピタゴラスの内接n正多角形によるπの漸次計算法は、連√形式ではあるが、ぺートル・ベックマン著「πの歴史」の説明よりずっと整理されていて分りやすい。周期関数である3角関数の諸定理は高校の教科書と同じであるので省略する。(cosx)2+(sinx)2=1の解として、A=cosx+isinx B=cosx-isinxとおけば、A,Bは指数関数と同じ性質をもつので、ド・モアブルの定理(cosx±isinx)n=cosnx±isinnxが得られて、3角関数、虚数、指数関数の間に密接な関係が見られ、オイラーの公式の準備が整った。3角関数もテイラー展開が出来ることはいうまでも無い。
第3部 オイラーの公式とその応用
A=cosx+isinxを級数展開すると、指数をテイラー展開した形とおなじであり、xをiθに置き換えると、eiθ=cosiθ+isiniθというオイラーの公式がえられる。ここでそれぞれ独立して定義された関数、単調関数である指数関数と周期関数である3角関数が虚数を取り込むことによって結びついている。そしてこの公式は調和振動子という物理学に直結するのである。θ=π(180度)とおけば、eiπ=-1となり円周率とも手を結ぶのである。sinθ=1/2i(eiθ-e-iθ),cosθ=1/2i(eiθ+e-iθ),tanθ=(eiθ-e-iθ)/i(eiθ+e-iθ)と書き換えれば、3角関数の理論は複素平面(ガウス平面)上の指数関数に移され、指数関数の簡素な法則(微積分によって関数形を変えない)を利用して見通しのいい関係が出来る。オイラーの公式は複素数の幾何学(解析幾何学)そして極座標からベクトルへと応用される。オイラーは剛体の力学に回転の極座標を導入したことで有名である。ベクトルの代数表現として行列があるが、本書の行列についても大学1年で学習する行列と行列式の範囲を出るものではないので割愛する。単位行列と虚数行列(直交行列)を定義してオイラーの公式の行列表現ができる。そして微分方程式の行列解法になくてはならないケイリー・ハミルトンの固有方程式が2行2列の行列に関して導かれた。
第4部 発展的話題
第1部から第3部の解説において、煩雑を恐れて話題としなかった事項について、基礎をひととおり理解した段階でさらに高度な内容へ進むのがこのアドバンス・コースである。内容は多岐にわたり、22の事項が解説されている。整数論では最大公約数を求めるユークリッドの互除法という割り算の漸次アルゴリズムをBASICという言語でプログラムすることが述べられている。本文ではN=1または2の場合のみ詳しく解説して、Nの一般式を誘導しているが本当はその証明がなかった。これを証明するのが数学的帰納法である。これも高校で習ったところだ。素数が無限大に存在することを、数学的帰謬法で証明している。順列組み合わせの一般項の公式も高校で学習したことである。無理数、ネイピア数e、円周率π、黄金数を連分数で計算することを通じて、パスカルの3角形からフィボナッチ数列へ、フィボナッチ数列から黄金数へ、黄金数から円周率、ネイピア数へ、そしてオイラーの公式を通じて虚数へとひとつの橋が架けられた。数学的に重要な定数はお互いに暗渠で通じ合っていたとしか言いようの無い見事さであった。(これら定数はどうしても有理数にできない超越数という) 話題として3次以上のピタゴラスの定理をみたす自然数は存在しないというフェルマーの最終定理や、5次以上の代数方程式の一般的代数解法は無いことにこだわり続けた人々(ガウスはn次代数方程式は複素数の範囲にn個の根を持つことを証明したが、解法は知らないという)から、ガロア群論がうまれた契機となった。この第4部で4次代数方程式の一般的解法の解説に力を入れているようだ。三次のタルタニアーカルダノ解法、4次のフェラーリの解法とその演習である。行列による微分方程式の解法に随分ページを割いている。1階線形微分方程式の一般的解の公式を導いて、2階線形微分方程式を解くという手法である。例題として、物理学的に重要な問題、自由落下の方程式、強制調和振動子、減衰調和振動子の解法を説いている。そしてスカラー3重積から重要な性質を導き、三次の正方行列と行列式を解説している。これも大学1年で学んだ事項である。微分方程式の演算子法解法で、微分積分を考察する変数を複素数に拡張することによって、単なる代数計算に置き換えることができる。F(s)=∫e-st・f(t)dt これをラプラース変換という。定数、一次変数t、指数関数、1階導関数、2階導関数のラプラ-ス変換などが出来るが、何でも出来るわけでなく、初期値問題では意外に応用が広い。
(つづく)font>
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます