ブログ 「ごまめの歯軋り」

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文芸散歩 大畑末吉訳 「アンデルセン童話集」 岩波文庫

2013年06月20日 | 書評
デンマークの童話の父が語る創作童話集 156話 第41回

79) ビンの首
 葡萄酒のビンの生涯を、二人の婚約者の運命と重ね合わせて綴ったお話です。貧しい人たちが住む家の屋根裏部屋の窓に鳥かごがつるしてあり、水入れの代わりに瓶の口をさかさまにしてコルク栓をしてありました。小さなベニヒワが歌を歌っていました。瓶の口が小鳥に、不思議な身の上話を語り始めました。葡萄酒のビンが小鳥用の水飲みコップとなるまでのお話です。毛皮商人の小僧が上等の葡萄酒を一瓶と食料品を買いにに来ました。今日は森でお嬢の婚約式です。お嬢さんは幼馴染で航海士の青年と婚約することになり、瓶はかごに入れられて馬車に乗って森にやってきました。お父さんが瓶を取り出し栓を抜き楽しい乾杯をしたのです。空になった瓶は空高く放り投げられ、湖の近くの葦の中にころがりました。後日百姓の子供らが葦の茂みから瓶を取り出しました。そして子供の兄さんがあの航海士だったので、船出のためにその瓶に薬用ブランデーを詰めました。胃によく効く薬だったので船員仲間から重宝されました。長い航海のなか船は嵐にあい、船は沈みました。いよいよ最後のというとき若い航海士は紙切れに、婚約者と自分お名を書いた紙きれを入れて栓をし海に投げ込みました。最後のあいさつと死の知らせのメッセージでした。瓶は知らない国に打ち上げられ、20年も屋根裏部屋の棚上で眠っていました。そして瓶の中の紙は捨てられ、洗われて種が詰め込まれな長い旅の末、偶然故郷に戻ってきました。種が取り出されそのまま地下室に放り込まれましたが、わかる言葉が聞けるので瓶は大喜びです。また瓶には葡萄酒が詰められ、気球乗りに売られました。瓶は空高く気球とともに上がってゆき、空の散歩を楽しんでいたのですが急に気球は落下しました。草原に落下して瓶は割れましたが、口の部分だけが誰かに拾われました。こうして瓶の口は貰われて屋根裏部屋の小鳥かごの水飲みとして使われました。その屋根裏部屋に年寄りの友達が訪ねてきました。なんとその人がかっての毛皮商人のお嬢さんだった人です。昔話のなかに、楽しかった婚約式のことや若い航海士の思い出などが語られました。

80) 賢者の石
 真・善・美という哲学倫理から次第に信仰心に集約されてゆく恐ろしく観念的なお話です。子供が聞いてもおそらく面白くないでしょうし、わからないでしょう。まさに哲学という知性を超えたところに宗教があるという設定です。そして物語の構成は5人の兄弟姉妹からなる末子成功譚の形をとっています。ソロモン王を超える賢者(人間界の最高の知性)がインドの太陽の木の国にいました。その賢者でさえ「真理の書」に書かれている死後の魂の世界については読めません。この賢者には5人の子どもがいました。4人の兄と末子の娘です。父である賢者は子供に真善美を凝縮した宝石「賢者の石」を見つけるように言いました。子供たちは五官をもとに賢者のみ石を求めて世界に出かけました。長男は資格に優れ人の胸の中まで見抜くことができましたが、悪魔が邪魔をして目の中へ塵を吹き込みました。二番目の兄は聴覚が優れ人々の心の鼓動までが聞こえます。聞こえすぎてうそや、聞き苦しい音や、悪口や蔭口まで聞こえとうとうだれも信用できなくなりました。三番目の兄は嗅覚に優れた詩人でした。詩人は太鼓を叩かせて真善美について歌い続けました。これを恐れた悪魔は名誉の香りを用意して、兄の嗅覚を迷わせすべてを忘れさせました。四番目の兄は味覚に優れ、口を通るものや心を通るものを支配できます。気球に乗って出かけましたが、教会の尖塔の上に下りてしまい、虚栄心を味わいたく風に吹かれて塔の上で動かなくなりました。こうして四人の兄はいなくなって太陽の木のお城には父と末娘だけになりました。末娘は生まれつき目が見えませんので、一生懸命糸をつむいで片端を父に持たせ、迷っても帰れるように自分で糸車をもって世界へ出発しました。兄たちに届けるため太陽の木から4枚の葉を摘んでもちました。末娘は真心という優れた気質を持っていました。光り輝く信仰心が美と善を引き寄せました。「自らを信じ、神を信ぜよ、さらば神のみ旨行われん、アーメン」これには悪魔も退散しましたとさ。
(つづく)


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