ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 井田 茂 著 「系外惑星と太陽系」 (岩波新書2017)

2018年12月22日 | 書評
ホットジュピターとエクセントリックジュピターの軌道

天文学の進歩で相次いで発見される系外惑星と太陽系を比べると、多様な惑星の進化が見える 第12回

3) 系外惑星系の多様性

系外惑星系の多くは太陽毛糸はあまりに異なる多様な姿をしている。太陽系の「古典的標準モデル」ではそのままでは多様な系外惑星系を説明することはできない。一方太陽系形成の問題も疑問がいっぱいあるようだ。太陽系を含む系外惑星系の多様性の起源を考えてゆこう。円盤仮説は基本的に正しいようだが、系外巨大ガス惑星をどう説明できるか、1995年のペガサス座51番星bの発見以来理論モデルが数多く提案され、同心円状に整然と回転する惑星群という古典モデルは、軌道が移動しまくる動的なモデルにいやおうなく変わった。しかしホット・ジュピターとエキセントリック・ジュピターの発見は、整然とした惑星系という見方を破壊してしまった。1995年に発見された「ペガサス座51番星b」はホット・ジュピターであった。軌道半径が0.05天文単位で公転周期は4日であった。ホット・ジュピターの軌道半径は木星の100分の1しかない。中心星のすぐそばで巨大ガス惑星の芯を構成できるほどの材料はないのである。やはり円盤の中で材料物質の多い外側の軌道で形成されと考え、形成後に内側に移動したと考える方が素直である。巨大なガス惑星は惑星重量が非常に大きくなり、円盤ガスを散乱させ惑星軌道に沿って円盤に溝を作る。そこで惑星の成長は止まる。そして円盤ガスは数百万年かかって中心星に落ちてゆくときに惑星も巻き込んで落ちるのである。このモデルはホット・ジュピターの起源の最有力モデルである、太陽系の木星や土星の巨大ガス惑星は落ちていない。これは円盤ガスがあるときは一緒に落ちるが、円盤ガスが無くなるときの絶妙のタイミングで巨大ガス惑星である木星や土星が形成されたというべきであろう。木星は軌道移動はなかったが、系外惑星の巨大ガス惑星には軌道不安定という激しいプロセスもあったようだ。系外巨大ガス惑星の半分くらいは離心率が0.2を超える軌道を持つ。中には離心率0.9の彗星のようなものもある。太陽系の木星や土星のきどうはほぼ円軌道であるが、系外巨大ガス惑星は強く歪んだ楕円軌道を持つ。 その理由は、最初は系外巨大ガス惑星は円軌道で形成されるが、形成後の惑星間重力によってによる散乱で飛び散って、残った惑星は大きく歪んだ軌道となるというモデルが有力である。太陽系との違いは、その巨大ガス惑星が2個以下(太陽系)なのか、3個以上(系外巨大ガス惑星)なのかの違いである。材料物質が多い円盤では巨大ガス惑星が3つ以上並ぶことも稀ではなく、重力の影響で軌道が歪みやがて軌道面が交差する機会が多いのである。軌道交差の結果ある惑星は跳ね飛ばされ、残ったものは軌道が歪むのである。太陽系のように巨大ガス惑星が2個以下の場合は互いの影響で軌道が乱れるがその影響は規則的であり、円になったり楕円に成ったりする変化を繰り返すが軌道面が交差することはないと考えられる。内側に跳ね飛ばされたものが、視線速度で観察されるエキセントリック・ジュピターにほかならない。系外に吹っ飛んだ巨大ガス惑星は宇宙空間をさまよう浮遊惑星となる。重力マイクロレンズの観察で、木星クラスの天体が銀河系をさまよってことが発見された。その内側に飛んだ巨大ガス惑星はハピタブルゾーンの地球型惑星に対して大きな影響を与える。地球型惑星は中心星に叩き込まれるか、系外にはじき出されるのである。中心星の自転の方向とは逆向きに公転するホット・ジュピターは、太陽系の惑星の公転原理に反する動きである。内側に吹き飛ばされた巨大ガス惑星エキセントリック・ジュピターの中には離心率が高く、近点距離が0.05天文単位まで中心星に近づくものがある。その時中心星の強い重力(潮汐力)で惑星自体の形が歪むのである。この惑星の変形によってガスの摩擦熱が出て、惑星の運動エネルギーが減少するので、惑星は次第に中心星に近い円軌道となってゆく。惑星軌道が長楕円軌道になって、巨大ガス惑星どうしの強い散乱を受けると弾き飛ばされないまでも長軸を中心に回転して裏返しになり、そのあとで円軌道に安定しても逆行するホット・ジュピターになる可能性がある。系外惑星系のスーパーアースは、太陽系では地球型惑星が存在しえないほど中心星に近い軌道で発見される。中心星に近い領域では大きな惑星を作る材料がないので、スーパーアースは材料の豊富な外側の領域で形成され移動してきたと考えられる。アルマ電波望遠鏡が観測したように、円盤の動径方向の密度分布に凸凹があり縞模様が見られた。その濃い密度の輪の上で原始惑星が形成される。太陽系では原始惑星が0.7~1天文単位および5~10天文単位の2カ所に密度の濃いゾーンがあった。その範囲に多くの原始惑星が形成され、衝突と合体を繰り返すうちに水星、金星、地球、火星の質量と軌道が形成された。一番内側の水星と外側の火星は材料が少なかったために地球に比べて極めて小さいのである。このような系外惑星の多様性を説明するモデルが数多く提案されたところで、太陽系の古典標準モデルを振り返ってみると、惑星は現在あるが姿で整然と並んでいたわけではなく、あちこち動きまわり、軌道が落ち込んだり、外へ弾き飛ばされたりというダイナミックな様相を想定しなければならない。「グランドタック」モデルは一度内側の軌道に押し込まれた木星や土星といった惑星が、後に外側へ引き戻されというトリッキーなモデルもある。カイパーベルト天体(外縁天体)である天王星や海王星の軌道分布は外側へ動いたという説が確実視されている。7天文単位から30天文単位に到達したらしい。動いた原因は微粒子(小石)円盤との相互作用かも知れないし、木星や土星という巨大ガス惑星の形成のためかもしれない。これを「ニース・モデル」と呼び、初期条件を調整して惑星軌道は移動してもよいという考え方である。

(つづく)


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