とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

母親として・・・①

2012-10-06 23:18:40 | 日記
母親として・・・①




ルドン (「Beatrice」 1885制作 個人蔵)
 ルドンの植物画の色彩感覚は豊かで目を見張るものがある。こういう人物画での優れた色彩表現はその内奥を描き尽くしている。


 ご縁市場が開店してから間もないころ、長柄さんから電話がありました。

 例の中村仙女のマネジャーから電話がかかってきて、玉造温泉まで来ているので会いたいと仰るんだよ。

 マネージャー・・・。

 いや、いや、本人も来ているらしい。

 えっ、本人が・・・、それで・・・。

 何か伝えたいことがあるらしい。・・・だから、今夜付き合ってくれないだろうかと・・・。

 今夜。
 
 今夜と仰るんで、何か急いでおられるようだけど・・・。長柄さんの話は要領を得なかったが私は同行することにしました。車に乗せてもらって着いたところは玉造温泉のある老舗の旅館でした。受付に用件を言うと立派な身なりの中年の男が出てきて、丁寧な言葉で応対しました。突然お電話して申し訳ございません。実は舞台が終わってから飛行機で参りました。明日はまた東京に帰ります。そう言って部屋まで案内してから男はどこかへ消えていきました。しかたなく二人は案内された部屋に入って行きました。すると、本人が笑顔で出迎えてくださいました。和服がよく似合っていました。

 ごめんなさい、お忙しいところを呼びつけたりしまして。さ、どうぞ中へお入りくださいませ。言われるまま二人は畳の部屋の床の間の前に座りました。すると、中村さんは電話で食事の請求をして、私たちの前に端坐しました。私はその風格のある美しい姿に圧倒されてかなり緊張してしまいました。長柄さんも口許をひきつらせていました。まもなく食事が運ばれてきました。

 失礼ですが、お酌させてください。すらりと伸びた白い指に私は見とれていました。娘の郁子から事情はすべて聞いております。みなさんとても親切にしていただいていて喜んでいます。

 いえ、むしろ岡田さんの方が・・・、と長柄さんが返しました。すると、またの機会に岡田さんにもお礼をする機会を作ります、と返事が返ってきました。私たちが杯を飲み干すと、実はお願いがございまして・・・、と改まった口調で中村さんは話し始めました。

 
  
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