あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

澁川善助發西田税宛 〔 昭和十年六月三十日 〕

2021年11月03日 13時51分50秒 | 澁川善助

澁川善助   西田税 
拝啓仕候、
鬱陶しき候と相成候処、御全家様御變りはいらせられず候や、
降りて迂生相變らず頑鈍不屈に罷在候。
豫審は今月初め正味一週間ばかりにて調書相濟み候が、
「 後日また調べる 」 とのことにて候ひき、
檢事の話にては間もなく保釋にでもなりさうに受取られ候ひしが、
豫審も撿事調同様、今度の事と直接關係なき事柄にて終始しながら、
更に後日の調有之由に候へば、まだまだ時日を要するものと被存候。
接見禁止も未だ解かれず候、
昨秋第一回の警視廳取調べの後、一ケ月近く何の事もなく
修行に精進罷在しを 十月半より殊更に拘禁して、證拠湮滅の虞あるによりとは、
ちと迎山過ぎて恐入り候へども之も法規とあれば致方なきことながら、
且は大方の恩顧にも背き 且は諸方への義理をも欠き、
而も何にかにと御厄介のみ相かけ 誠に申譯なく 恐縮の至に存居候
然しながら、先の見え透えたることに候へば、
乍恐、もう暫くの静養御許しを願ひ、旁旁またなき體験を十二分に活用仕る覺悟に有之候間
何とぞ御怒被成下度將又御休神被成下度奉懇願候。
過日社詩を繙ひもとき、
「 同元使君春陵行并序 」 を見、更に 「元次山の春陵行 」 に至り
詠嘆之を久うし申候。
北問題好轉の様子、喜び居候。
欧州の風雲、米國の關心、囹圄の中にも亦興味以上のものを感ぜしめられ候
時節柄一人御自愛の程奉祈上候
恐々頓首
頑魯生
六月丗日
大祓の日

〔 ペン書。封緘葉書。表、渋谷区千駄ヶ谷四八三  西田税様侍史  裏、中野区新井町三三六  澁川善助
六月丗日認。郵便消印 10 ・7 ・4 〕

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