反駁 ・ 北一輝、西田税、龜川哲也 第十一回公判狀況 『 事實審理 』

第十一回公判狀況
二 ・二六事件公判狀況ニ關スル件 ( 第五公判廷 )
十月二十日午前八時五十分 被告北輝次郎、西田税、龜川哲也 出廷、
仝九時 吉田裁判長以下着席、直チニ開廷ヲ宣シタル後、証拠調ニ入ル
1、法務官ハ被告北ニ対スル薩摩雄次ノ事實關係ノ調書ヲ證言トシテ讀聞カス
薩摩雄次ト北トノ交際關係 及 二十五日夜以後二十八日迄ノ事實、電話通話ノ狀況ヲ詳細陳述シアリ
北ハ薩摩ノ陳述ヲ全面的ニ承認シ、特ニ薩摩ガ事件ト無關係ニテ釋放セラレアルヲ喜ビアリ
2、法務官ハ被告西田ニ対スル薩摩雄次ノ事實關係ノ調書ヲ證言トシテ讀聞カス
二十六日中、西田と面接シ、
時局収拾ニ關シ協議セシ事實 及 二十七日行動隊ニ電話シ、
時局収拾ヲ眞崎大將ニ一任セヨト云フ事ハ西田ノ命ニ依ルモノナリ
云々
＜法務官--西田 ＞
薩摩雄次ニ命令シテ行動隊ニ電話ヲナサシメタ事實ハアリマセン。
薩摩ニ時局収拾ヲ眞崎大將ニ一任セラレタシト云フ事ヲ
電話デ通ジテ貰フタノハ小笠原長生ニ對シテデアリマス。
3、法務官ハ北、西田ニ對スル 津雲国利ノ事實關係ノ調書證言トシテ讀聞カスニ被告兩名ハ直チニ承認ス
4、法務官ハ被告龜川ノ第一回、第二回、第三回豫審調書ヲ示シタルニ、
  龜川ハ豫審ニ申述ベタル事實ハ公判廷デ詳細申述ベテアリマス通リナリト承認ス
5、被告龜川ニ對スル村中孝次ノ第二回、第三回豫審調書中ノ事實關係タル
  二十五日夜龜川宅ニ於ケル會見 及 千五百圓授受顚末
竝ニ二十七日午前中帝國ホテルニ於ケル會見顚末ヲ證言トシテ讀聞カス
＜法務官--龜川 ＞
二十五日夜ノ會見ノ狀況 及 金ヲ与ヘタル點ノ陳述ハ前回公判廷デ申述ベタ通リニテ、
三井銀行 及 日本銀行襲撃云々ノ事アリテ 西田、村中ヲ引止メ千五百圓ヲ与ヘタノデ、
村中氏ノ陳述ハ事實ト相違シテ居リマス。
二十七日帝國ホテルノ會見ハ其ノ通リデアリマス。
6、法務官ハ龜川ニ對スル證人タル村中ノ二十五日夜ニ於ケル會見情況ノ證言ヲ讀聞カス
公判廷ニ於テ申述ベタ通リデアリ、村中氏ノ陳述ハ相違シテ居リマス。
7、法務官ハ龜川ニ對スル磯部ノ第三回豫審調書ノ事實關係ヲ讀聞カシタルニ、全面的ニ承認ス
8、法務官ハ龜川ニ對スル満井中佐ノ豫審調書ヲ讀聞カス
帝國ホテルノ會見ノ狀況ハ公判廷デ申述ベタ通リデアリ、亦、満井中佐ノ陳述ト同様デアリマス。
9、～14、
・・・省略・・・
15、法務官ハ被告北、西田、龜川等ノ證據品調ニ入リ、北ノ霊感記錄ヲ示シ、其ノ内容ヲ承認セシメ、亦、西田ノ通信文 數通ヲ示シ、
  菅波大尉 及 松平紹光ニ宛テタル通信文ノ内容を示シタルニ西田ハ當時ノ氣持ヲ打明ケタルナリト承認ス
16、證據調ヲ終了シ、補充陳述ヲナサシム

北一輝 
＜法務官--北 ＞
裁判官ノ御取調中ニ日本改造法案ガ不逞云々ト云フ事ガ數回アッタ様ニ記憶シマスノデ、
其ノ點ニ就イテ申述ベタイト存ジマス。
檢察官ノ公訴事實中ニ、
北ハ我ガ國體ト絶對ニ相容レザル不逞矯激ナル思想ヲ有シ云々ノ事アルヲ以テ、
審理ニ際シ不逞矯激ト云フ事ガ出タノデアル
檢察官ノ公訴事實ヲ述ベラレマス際ハ、他人ノ事ヲ申スノト思ヒ、氣ニ止メテ居リマセンデシタガ、
日本改造法案ガ我國體ニ絶對ニ相容レザル不逞矯激ナル思想デアルト云フ事ハ、
檢察官ガ克ク讀ンデ居ラレナイモノト存ジマス。
此點 一應更ニ御調査ヲ御願ヒシタイト思ヒマス。
日本改造法案ヲ著述シマシタ當時ハ、全世界ニ共産主義思想ガ瀰漫びまんシ、
只 欧州ニハ英帝國、東洋ニハ日本ノ二大君主國アルノミニテ、
他ノ諸國ハ革命ニ呪ハレテ居ル際ニテ、必ズ我國ニ於テモ共産主義蔓延シ、
我國ハ非常ナル事ニ際會スベキ事ヲ痛感シ、
此等 非國家的思想抱持者ガ事ヲ起ス防壓スベキ目的ヲ以テ著述シタルモノニテ、
叛亂ヲ起スガ如キ文章ハ一個所タリトモナク、改造法案ハ天皇大權ノ發動ニ依リ國家非常ノ際、
之等不穏ノ非國體論者ヲ彈壓シ、國體ノ安全ヲ期スルニアリマシテ、
叛亂ヲ防壓鎭定スル爲ニ大ナル効果アルモノデ、
五 ・一五事件、十月事件ニシテモ皆改造法案ノ合法的行方ヨリ　一歩進ミタル如ク見ラレアルモ、
一歩遅レアルモノナリ。
總テノ對外的問題ニ於テモ、日本改造法案ニ立脚処理シ國際聯盟ヲ脱退セルモノナリ。
自分ノ思想ハ穂積博士ノ國體論ト同様保守頑冥ナルモノニテ、
自分ハ改造法案中ニモ天皇ハ人格ノ他ニ神格ヲ有スト明記シアル如ク、
天皇中心主義デアリ、全文ヲ讀ム時ハ天皇大權ノ發動ニ依リ總テノ事ヲ處理スト記シリ。
天皇ハ憲法 及 法律ノ上ニアルモノニテ、憲法 及 法律を停止 亦 改造シ得ルモノト確信ス。
絶對ニ天皇ヲ否認スルガ如キ不逞矯激ナル思想ニアラズ。
我ガ國體ノ擁護ノ爲メ著述セルモノガ日本改造法案デアル。
此ノ思想ハ保守頑冥ナルチ丁髷時代ノ國體観念
及 天皇論ヲ抱持スルト取扱ハレル時ニハ如何ナル極刑モ辭セナイモノデアル。
自分ハ天皇ニ對シ少シモ不逞ナル考ヘヲ有スルモノニアラズ。

午後三時五十分證拠調 及 補充陳述ヲ終リ、閉廷ス
次回ハ二十二日午前九時ヨリ論告求刑アル旨 申渡シタリ

次頁 北一輝、西田税 ・ 論告 求刑 に 続く