反駁 ・ 北一輝、西田税、龜川哲也 第一回公判狀況 『 公訴事實 』

第一回公判狀況  < 公訴事實 >
二 ・二六事件公判開廷狀況ニ關スル件 ( 第五公判廷 )
十月一日午前八時五十分 被告北輝次郎、西田税、龜川哲也 等 出廷、
同九時吉田裁判長以下着席、直チニ開廷ヲ宣シ、身分調ヲ爲シタル後、
北輝次郎、西田税ニ對スル叛乱被告事件、龜川哲也ニ對スル叛乱ヲ利ス被告事件ニ就キ、
檢察官ヨリ公訴事實ノ開陳アリ
後、法務官ノ事實審理ニ入リタリ


一、北輝次郎ニ對スル公訴事實
被告北輝次郎ハ漢文学ニ趣味ヲ有シ、中學當時ヨリ著述ヲ能クシ、思想問題ヲ研究シ、
國體論及純正社會主義を著述シ、其ノ名ヲ天下ニ知ラレタルガ、
被告ハ日本ノ現狀ハ一部特権階級者ニ依リ誤レル指導ヲ受ケアルハ、
世界大戰後ノ 「 獨乙 」 及 「 ロシア 」 ト同様我ガ国家モ破滅スベシトノ思想ヲ抱持スルニ及ビ、
痛烈ナル筆法ニ依リ一部特権階級ノ打倒ヲ計リ、經濟、政治機構ノ大革命ヲナスベシトナシアル内、
支那亡命革命者 孫逸仙ト相交ルニ及ビ支那第一革命ニ參加シ、
自己ヲ任ジテ革命ノ第一人者トナシ、世界大戰後の經濟界、政界ノ實情ヲ研究、国家改造ノ絶対的必要ヲ痛感シ、
上海ニ於テ支那革命外史及ビ日本改造法案大綱等ノ矯激ナル思想ヲ有スル著書ヲ発表シ、
之ガ実現ノ爲メ思想運動者等ト相交リ、又ハ相集ル一部青年將校等ニ改造法案大綱ヲ示シ、
思想的啓蒙運動ヲ爲シ、國家改造ニ大ナル關心ヲ有スル西田税ト相接近スルニ及ビ、
同人ヲ通ジ全國の青年將校ト交友シ、自己ノ抱持セル日本改造法案大綱の實現化ヲ企圖中、
昨年八月相澤中佐事件發生後ノ軍部ノ動嚮及青年將校等ノ動靜ニ就キ注視中、
昨年十二月西田税ヲ通ジ村中 ・磯部ヲ中心ニ近衛、第一師団管下ノ青年將校等相計リ明春蹶起スルトノ事ヲ聞キ、
時期ニアラズトナシ、一時制止セリ。
(一)  今年二月十八日ニ西田税ヨリ村中、磯部、香田、安藤、栗原等ノ青年將校等相計リ
  統帥権干犯者及君側ノ奸ヲ除去スル爲メ第一師団渡満前ニ蹶起スルトノ事ヲ聞キ、
「 兵馬大權ノ干犯者ヲ討ツハ大義名分ニ恥ジズ、他ハ枝葉末節ナリ 」 トノ神靈アリトテ、
青年將校ノ蹶起ノ決意ヲ煽動セリ。
(ニ)  二月二十五日西田ヨリ、明朝五時ヲ期シ一齊ニ蹶起シ、
  兵馬大權ノ干犯者及君側ノ奸タル渡邊敎育總監、鈴木侍從長、牧野伸顕、
岡田首相、高橋蔵相、齋藤内大臣ヲ襲撃スルトノ事ヲ聞キ、
「 君側ノ奸除カレ皇居ヨリ御稜威輝ク 」 云々ノ神靈アリト傳ヘ、
青年將校等ニ蹶起ニ對スル精神的援助ヲ与フ。
(三)  二月二十七日村中孝次ヨリノ電話ニ接シ、時局収拾ハ一刻ヲ爭フモノナリ、
  現状ヲ柳川臺灣軍司令官ノ首相等ハ斷念シ、
眞崎大將ニ一任スベク努力スベシトノ上部工作ニ對スル指導ヲナス。
(四)  二月二十八日村中孝次ニ電話ヲ以テ、青年將校ノ自決ヲ中止スベシ、
  神靈ニ依リ 「 勇将眞﨑大將アリ、總テヲ一任セヨ 」 トノ事アリタリトテ傳ヘ、
自決ヲ中止セシメタル他、上部工作ニ對スル一大指針ヲ与ヘタリ。
自己ノ抱持セル國家改造法案大綱ノ實現ヲ爲サシムベク、
純眞ナル青年將校ヲ啓蒙シ、帝都ヲ擾乱シ、國憲、國法ニ抗セシメタルモノナリ。


二、西田税ニ對スル公訴事實
被告西田税ハ幼年學校ヲ經テ陸軍士官學校ニ學ビ、
大正十一年騎兵少尉ニ任官、騎兵第二十七聯隊附トナリタルガ、
大正十三年依願豫備役ニ編入セラレタルモ、
陸軍士官學校在學中ヨリ社會問題、フランス革命等ニ關心ヲ有シ研究シ、北輝次郎ト交際シ、思想問題を研究、
豫備役編入後ハ大川周明、満川亀太郎ヨリ招カレ仝人等ノ組織スル猶存社ニ關係後、
行地社雑誌 「日本」 ノ編輯へんしゅうヲ担當スルニ及ビ急進日本主義ヲ鼓吹シ、國家改造ノ必要ヲ説キアル中、
三月事件ヲ聞知、橋本欣五郎等ト相結ビ十月事件ニ關係、
後 五 ・一五事件関係者ノ蹶起ヲ阻止シ狙撃セラルゝニ及ビ、
我國家ハ北一輝著日本改造法案大綱ノ實現化ニ依リ國家改造スベキトナシ、
仝論ヲ盲信シ相集ル同志及一部青年將校等ニ日本改造法案大綱ノ説明ヲナス外、
國内特權階級ノ横暴専横ヲ打倒シ 一氣ニ國家改造ヲナスベシ等ノ矯激ナル思想を鼓吹、同志ノ獲得ニ努メタリ。
⑴  昨年十二月初旬 村中孝次ヨリ
  近衛、第一師管下ノ青年將校等相計リ、明春第一師團渡満前ニ蹶起シ、
兵馬大權干犯者 及 君側ノ奸ヲ除去スルトノ氣運進捗シアリ
 トノ狀況ヲ聞キ、此レヲ北輝次郎ニ報告スルト共ニ、此ノ機ニ國家改造斷行スベキト即斷セリ。
⑵  二月十八日 西田方ニ於テ 村中、磯部殘一、栗原安秀 等ヨリ近日中ニ蹶起シ、
  兵馬大權干犯者、君側ノ奸ヲ襲撃スルトノ計畫具體化シアルヲ聞キ、制止不可能ナルヲ察知シ、
北輝次郎ヨリ神靈ナリトテ、兵馬大權干犯者ヲ討ツハ大義名分ニ基クモノナリト傳ヘ、決意ヲ固カラシメタリ。
⑶  二月二十三日 村中孝次ヨリ襲撃目標ニ就キ説明ヲ受ケタル際、襲撃目標ハ最小限度ニナスベシ、
  第二襲撃ハ實施セザル様、ト 襲撃ニ就イテ指導ヲナシタリ。
⑷  二月二十五日 村中孝次 別離ノ挨拶ニ赴キタル際、龜川哲也宅ニ於テ協議スル事ヲ約シ、
  仝日午後龜川宅ニテ村中、龜川、西田三名ニテ蹶起後ノ処置ニ就キ協議決定シ、
龜川哲也ヨリ資金千五百圓ヲ貰ヒ受ケ、村中ヘ与ヘ、百圓ヲ龜川ヨリ受領セリ。
⑸  二十六日蹶起後 北輝次郎ト共ニ上部工作ニ對スル司令ヲ与ヘタル外、
  電話ニテ海軍側ノ意見一致セシメ蹶起部隊ヲ支援セシムベク小笠原中將ニ依頼セル外、
山本英輔大將ヲ海軍省ニ電話シ、上部工作ノ支援ヲ依頼セシメタリ。
⑹  二十七、八日ニ亘リ外部的援助ヲナシ、
眞崎大將ヲ中心トスル鞏力ナル軍部内閣ヲ組織セシムルベク指導スル一方、
蹶起青年將校等ノ自決ヲ中止セシメタリ。


三、龜川哲也に對スル公訴事實
  被告龜川ハ沖縄県立中學校卒業後、臺灣総督府及仝専売局等ニ奉職中、
經濟問題ヲ研究シ、經濟問題ニ就テト題スル著書ヲ發行シ、
仝局ヲ退職上京、政界ト軍部ニ接近シ、情報交換、久原房之助ニ重要視セラレタルガ、
昨年八月永田事件發生スルヤ、相澤中佐ハ無罪ニスベシト柳川第一師團長ヲ説キ 諒解ヲ受ケタル外、
相澤中佐公判開廷セラルニ及ビ、鵜澤聰明、満井佐吉中佐等ヲ特別弁護人トナスニ奔走決定、
仝人等ヲ通ジ特権階級打倒ヲ絶叫セシメント企圖、鵜澤聰明の助手ト稱シ公判廷ニ出入シ、
村中孝次、磯部殘一、栗原安秀等ト協議シ、謀議ニ參与、叛乱者ヲ援助セリ。
(一)  二月二十五日午後龜川宅ニテ西田税及村中孝次等ト共ニ叛乱事件蹶起ニ附テ協議、
  二十六日蹶起後ノ時局収拾ニ就テノ諸事項ノ協議ニ參畫シ、
此ノ機ニ自己ノ抱持セル經濟大綱ヲ實現セシメント活動資金二千圓ヲ村中ニ与ヘントセシモ固辞セラレ、
一千五百圓ヲ村中ニ、百圓ヲ西田ニ与ヘ、援助ヲナシタリ。
(二)  二月二十六日午前四時眞崎大將ヲ訪問、青年將校蹶起ノ概要ヲ傳ヘ、
  時局収拾を仝大將ニ依頼セリ。
仝六時西園寺公望ヲ訪問セントス鵜澤聰明ニ對シ青年將校ノ蹶起ヲ傳ヘ、
時局収拾可能ナル強力内閣組織ヲ西園寺公ニ進言セシムベク説明。
(三)  二月二十七日帝國ホテルニ於テ、
  石原大佐、橋本欣五郎大佐、満井佐吉中佐等ト共ニ次期内閣首班者ヲ山本英輔大將ニ決定シ、
仝大將ニ交渉シ、叛乱軍ニ外部的援助ヲ与ヘタリ。

檢察官ノ公訴事實ノ陳述後、北、西田、龜川ノ順序ニ意見ヲ申述セシム
北
私ハ日本改造法案ニ依リ國家改造セシムルベク青年將校ヲ指導シタル事ナシ。
西田
1、日本改造法案大綱ノ實現ノ爲メ青年將校ハ蹶起シタルモノニアラズ。
2、自分ハ制止コソ 爲シタルモ、蹶起ノ煽動ヲ爲シタルコトナシ。
3、檢察官ハ自分達ガ叛亂將校ノ唯一ナル指導者ノ様ニ考ヘテ居ルガ、事實ハ相違シテ居ル。
4、國家改造ト直接行動トヲ混同シテ居ラレル點。
龜川
1、私ハ自己ノ經濟案ヲ實施シヨウト考ヘタルコトナシ。
2、協議又ハ謀議トアルガ、一度モ其ノ様ナ事ハアリマセン。

西田税ノ事實審理ニ入リ、左ノ陳述アリ。  < 尋問者・法務官 >
學歴及經歴
豫審廷デ詳しく申上ゲマシタ通リデアリマシテ、
幼年學校、陸軍士官學校、大正十一年ニ騎兵少尉、
仝十三年依願豫備役ニ編入セラレ、其後ハ浪人生活ヲナス一方、著述ヲナシ、今日ニ至リマシタ。
軍部トノ思想關係ニ就テ
三月事件ヨリ軍部内ノ情勢ニ通ジ、
橋本欣五郎大佐 及 建川中將ト接近シ、十月事件ニ參加致シマシタ。
其ノ後 五 ・一五事件ニ際シテハ 阻止シテ狙撃セラレマシテ、直接關係ハアリマセン。
相澤中佐トハ交際ハアリマシタガ、
公判廷ニ於テ申述タ様ナ信念ヲ有スル人トハ知リマセンデシタ。
思想ノ推移狀況ニ就キ陳述アリ
午後三時四十分終了シ、次回ハ二日午前九時開廷ヲ申渡シ、閉廷セリ

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