磯部淺一、憲兵聴取書 2 ・ 事前工作と西園寺襲撃中止

磯部淺一 
其ノ方ガ本事件前ニ諸上官ヲ訪問シオル眞意如何
内外ノ諸情勢ヨリ劍ニヨツテ解決スルヨリ外方法ナシト考ヘ、
其場合 如何ニ諸上官ガ処置セラルゝカガ問題デアリマシタノデ、
私ガ會ツタ諸上官ニハ、スベテ靑年將校ガ起ツタ場合ニハ、
五 ・一五事件ノ何十倍ト謂フ兵力ガ蹶起スルコトニナルガ、
ソノ場合 ドウナサルカト謂フ事ハ押シナベテ話シテオリマス。
其目的ハ カカル場合ニ於テ如何ナル態度ニ出ラレルカト謂フ事ガ、私ニハ最モ必要デアリマシタ。
ソウ謂フ場合 私ハ維新的ナル解決ヲシテ頂キタイト念願シテオツタカラデアリマス。

右ノ目的ノ為メ如何ナル人々ニ會ヒタルヤ
眞崎大將、川島大將、古荘中將、山下少將、今井閣下、村上大佐、鈴木大佐、満井中佐、平野少將 等デアリマス。
豫備ノ方デハ秦真次中將ノ処ニハ屡々參リマシタ。
私ガ昨年四月停職ニナリマシテカラハ、私ハ今年ハヤラウト考ヘテオリマシタノデ、
ソレ以來時々 以上ノ諸官ノ方々ニハ直接オ目ニカカッテオリマシタ。
川島大將ニハ昨年七、八月ノ頃ニ初メテオ會ヒシマシタガ、ソレ以來ハ直接オ會ヒシテオリマセンガ、
人ヲ通シテ申上ゲモシ、又 消息モ聞イテオリマシタ。

ソレカラ川島大將ガ大臣ニナラレル前 九月ノ何日デアツタカ今記憶シマセンガ、
菅野真敝主計正ヲ通シ
「 今日ノ午前十時ニ川島大將ガ林大臣ニ會ハレ
 大臣にナルコトノ承諾ヲ与ヘネバナラヌガ、靑年將校ノ狀況ハドウカ 」
ト云フ事ヲ訊ネラレマシタ。
ソレハ其日ノ朝六時頃 菅野主計正ガ電話デ來テ呉レト申シテ來マシタノデ、
私ハ菅野氏ヲ訪ネタノデス。
ソコデ私ハ川島大將ハ立派ナ人デアルガ此時局担當トシテハ力ガ弱イ、
寧ロ引受ケザルを可トスト意見ヲ申シマシタ。
ソレハ私ハ既ニ今度ノ事ヲ決意シテオリマシタシ、
寧ロ林大將ガ大臣デアルコトガ吾々ノ維新狀勢ノ展開ノ爲メニハヨイ條件デアリマスノト、
永田事件後ノ後始末ヲセズニ林ガ引退シ 川島大將ガ之レガ尻拭ヒヲスルコトハ、
氣ノ毒トモ思ツテ居タノデ、川島大將ノ大臣就任ニ反對シタノデアリマス。



然シ 川島大將ハ就任セラレマシタノデ、
其後 菅野サンヲ通シテ川島大臣ニ、
大臣就任前ノ氣持ヲ以テ思ヒ切ツテ仕事ヲシテ頂キタイト言フ事
及 機關説問題ニ就イテ　充分ニ追及シテ内閣ヲ倒サネバナラヌ、
ト言フ意味ノ意見ヲ具申シテ置キマシタ。
其後大臣ノ國體明徴ノ態度ハ鞏硬デアリマシタノデ、私ハ密ニ満足モシ 信頼モシテオリマシタ。
ソレカラ又大臣ガ就任セラレタ當時 三ツノ方針
即チ 國體明徴、軍事豫算、廣義國防ニ基ク農村救濟 ト云フモノヲ掲ゲラレマシタガ、
コノ事ハ私ガ菅野主計正ヲ通し 話シテアッタ事デアッタノデ、
大臣ノ処置ニ満足シ 且ツ 信頼スル氣ヲ強くシマシタ。

十二月ニ入ツテ私ハ大臣ニ對シ、内閣倒壊スベシト云フ意見ヲ進言シテ居リマス。
ソレハ村上大佐ヲ オ訪ネシテ大臣ニ傳言を依頼シタノデアリマス。
當時私ハ靑年將校ガ蹶起スル事ハ既定ノ事實デアルガ、
コレガ早發スルト失敗ニ終ル虞レアリ、
少シデモ合法的ニ行ケル丈ケハ行ッテオカナケレバナラヌ爲、
之ニハ倒閣ニ如カスト考ヘテオリマシタノデ、私ハ村上大佐ヲ通シ、大臣ニ進言シタノデアリマシタ。
ソレカラ十二月ノ二十四、五日頃ノ
新宿御座敷 本郷ノ會合ハ實質的 相澤公判ノ準備デアリマスガ、
コレハ私ト村中ノ相談ノ上デ 内閣倒壊ノ爲メノ一氣勢ヲ擧ゲタコトニアリマス。
即チ 此事ハ森木五郎少佐ヲ通シ
村中ガ山下少將カラ頼マレテ ( 幾分ノ金モ出テ居ルト思ヒマス )
當時議會ノ開院式當日 國體明徴ニ就イテ不信任案ヲ政友會ガ提出スル、
之ニ對シ 内閣ガ解散ヲセネバナラヌガ、之レニ對シ 陸軍大臣ガ署名ヲ拒否スル、
茲ニ内閣ハ倒レルト云フ事ニナルト云フ筋書デアッテ、
コノ大臣ガ署名ヲ拒否スル爲メニハ、
靑年將校ガ一中隊デ率イテ大臣ヲ罐詰ニスレバヨイト云フ計畫デアリマシタ。
ソレデ私ト村中トデ
外ニタイシテハ之レガ靑年將校ノ氣勢ヲアゲルト云フ外形的ナ名目デ、
而モ實質的ニハ相澤公判準備ト云フ事デ集マッタノデアリマス。
コノ事ハ私ト村中トノ外 他ノ同志モ知ラナイト思ツテオリマス。
コノ事ハ政友會ノ議ガ纏ラナカッタノデ中止ニナリマシタ。

右ノ事ハ 私ガ倒閣ト云フコトニ關連シテ今迄申上ゲナカッタ事ヲ申立テタノデスガ、
要スルニ大臣ニ對シテハ私ハ好意ガ持テ、コノ人ハ必ズマサカノ時ハヤルヒトダト考ヘテ居リマシタ。
更ニ私ハ川島大臣ヲ一月二十二、三日頃訪問シマシタ。
ソレハ私ト森傳とノ二人デアリマシタ。
其時ハ私ハ渡邊教育總監ノ更迭ヲオ願ヒシマシタ。
ソレヨリ先キ私ノ処ニ同志ノ若イ將校ガ來テ、
渡邊ヲヤルト云フノデ、過早ニヤラレテハ困ルト思ツテ、待テト説得シテオキマシタガ、
而シ川島大臣ニ渡邊大將ヲヤメサシナサイ、
ソウデナケレバ必ズ敎育總監部直系ノ學校カラ人ガ出テ、ヤルコトニ決マッテイルカラト 強ク申上ゲマシタ。
大臣ハ辭メサセラレヌト云フノデ、
三月ハドウカト言ツタガ、三月ニモ辭メサセラレント云フ話デアツタノデ、
私ハソウナレバ必ズ出ルト申シマスト、
大臣ハ私ノ追究ニハ目ヲ外シテ、君達ノ運動ニヨッテ辭メサセレバヨイデハナイカト逃ゲラレマシタ。
然シ又一方ニ於テ本人ガ自發的ニ辭メレバ良イカトモ言ハレ、
私ノ氣持ト、ソレカラ渡邊大將ガ必ズ辭メラレルト言フ事ハ、
充分オ察シノ上デ延避シテオラレルノデアルト明瞭ニ感ジマシタ。
要スルニ大臣ハ萬一ノ場合ニハ大丈夫ダトノ確信ヲ持チマシタ。

ソレデ 其次ニハ、私ハ十二月ノ末ニ眞崎大將ヲオ訪ネシテ
眞崎大將ト小川大尉トノ話合ヒニアッタ 「血ガ流レル事 」ハ、
大將ハ充分ニ承知シテ居ラレルト思ツテ居リマシタガ、更ニ十分駄目押シテ置カウト思ツテ、
一月二十八日の早朝 ( 七時頃カ七時半頃 ) 眞崎大將ヲ訪ネ、
名刺ノ裏ニ火急ノ用事デオ目ニカカリタイト書イテ取次ヲ頼ミマシタガ、
一寸會ハレナイ様デアッタノデ 私カラ鞏要シテ 結局オ會ヒシマシタ。
ソシテ私ハ
「 統帥權干犯ニ就イテ私ハ決死的ナ努力ヲシヨウト思ツテオリマス。
 相澤公判モ始マルコトデアリマスカラ 閣下モ統帥權問題デ決死的ニ御努力ヲ願ヒタイ　」
旨ヲ申シマスト大將ハ
「 俺モヤル 」
ト 明答セラレマシタ。
ソコデ私ハ眞崎大將モ大丈夫ト考ヘマシタ。

ソレカラ山下少將 村上大佐ト會見ノ事ハ、前回豊永綱雄大尉ニ申述ベタト同様デアリマス。
猶 タダ一ツ今井閣下ガ殘ツテオリマシタノデ私ハ、確カ二月ニ入ツテカラ今井中將ヲオ訪ネ致シマシタ。
其時私ハ 「 御勇退ヲナサイ 」 ト 申シマスト、閣下ハ 何故カト聞カレマスカラ、
私ハ閣下ハ統帥權干犯ニ就イテ疑惑ガ深イモノガアリマス。
靑年將校達ニハ　アル心持チヲ持ツテ居ル者ガアリマスカラ　ト 申シマスト閣下ハ、
私ハ事務ヲ取扱ツタノデアッテ、林ト眞崎ノ會見内容ヨリ 統帥權干犯ガ始マツテ居ルノデアツテ、
私ノ責任デハナイトノ意味ノ事を申サレマシタ。
私ハ今井中將ハ嘗テノ將校團長デアリマスカラ、太ツ腹ノ方デアル事ヲ承知シ、
靑年將校間ニシ兎角ノ批難ハアツタ様デスガ、私ハ好意ヲ持ツテ居リマシタ。
ソレカラ内外ノ現狀カラ私ハ國内改造ノ要ヲ説キマシタラ、
閣下ハ 至極御同感デアツテ君等ノ氣持ハヨク判ル、
國内改造ハ既ニ着手サレテ居ツテ、進行途上ニアラネバナラナイノダト言ハレ、
靑年將校モ聯レテ來テ欲シイ 等ト話サレマシタ。
私ハコレニヨッテ 閣下モ大丈夫ト確信ヲ得ルニ至リマシタ。
ソレデ私ハ、二月二十三日頃 牧野ノ偵察ヲ河野大尉ニ委シ、
且ツ 歩一、歩三ノ部隊ヲ固メニカカリマシタノデアリマス。
私ハ絶エズ 閣下ニハ
此儘デ置イテオイタノデハ必ズ劍ニヨラナケレバナラヌト云フ事ヲ申シテ居リマシタノデ、
閣下モ之ニ賛成シテ日本精神ノ神髄ハ劍デアル 必ズ蹶起シテ血ヲ見ルコトハアルガ、
ソレハ神業デアルト申サレテオラレマシタ。
其処デ私ハ香椎中將、荒木大將、杉山次長、古荘次官ニハ、
是非 コノ事ヲ傳ヘテオイテ頂キタイト依頼シテオキマシタ。
ソコデ私ハ秦閣下ハ此等ノ人々ニハ一、二度ハ必ズ行ッテ下サッタモノト思ヒマス。
ソレハ私ガ頼ミマスト、ソレデハ行ツテ來ヨウト申サレ、
又 其次ニ會ツタ時ニハ、相澤公判ノ事ナドハ其回答ヲシテ下サツタ殊ガリマスノデ、
ソウ確信シテオルノデアリマス。

其方ガ大臣告示ヲ示サレタルハ何時何処ナリヤ
二十六日午後二、三時頃、
山下少將ガ次官、鈴木大佐、西村琢磨大佐 立合セノ上、官邸デ讀聞カセラレマシタ。
其時ノ文句ハ覺エマセンガ、諸子ノ眞意ハト　アッタモノデ後ノ方ニ參議官 閣僚一致シ
云々トアッタモノデアリマシタ。
ソレハ後ニナッテ、隊ノ將校ガ行動トアルト言ツテ一寸違ツタモノヲ持ツテ來タノヲ覺エテ居リマスカラ、
山下少將ノ分ハ行動トハナカッタモノト思ヒマス。

大臣告示ガ出タ時ノ感ジハ如何
案外早ク味ナ事ヲヤルナト思ヒマシタ。
シカシ 私トシテハ義軍トシテ認メテ頂キタイト云フ事ヲ告示ノ出ル迄ニ 二、三度 次官ニ要請シテ居リマスシ、
又 山下少將ガ讀マレタ時モ 其後デコノ事ヲ申シタノデアリマス。
即チ 行動モ認メテ義軍トシテ　ソレカラ維新ニ入レルト云フコトガ、私ノ念願デアリマシタ。

其方ガ村上大佐ヲ二十六日官邸デ捜シテ居ッタト云フガ事実如何
私ハ捜シタ事ハアリマセンガ、
當時 今井閣下 村上大佐ニハ是非來テ頂カネバナラヌト考ヘテ居リマシタノデ、
私ハ官邸デ今井閣下ヲ迎ヘニ行カウト考ヘマシタガ、當時部隊ノ聯絡ニ當ツテ居ツテ 遂ニ其機ヲ失シマシタ。
行動間最後迄 私ハ右兩官トモニ會ツテ居リマセン。
榊原主計大尉ニハ私ハ今井閣下ニドウカシッカリヤッテ頂キタイト云フコトノ傳言ヲ依頼シタ事ガアリマス。

本事件間 其方達ノ希望ヲ實現スルタメニ大イニ努力セラレタ人は誰々ナリヤ
私ノ會ツタ処デハ、眞崎 川島大將、満井中佐 山下少將 鈴木大佐 小藤大佐 馬奈木中佐、
ソレカラ意味ハ少シ違ヒマスガ、石原大佐モ非常ニ努力サレタト 今ニ於テ考ヘテ居リマス。

今次蹶起ニ就イテ其方ノ希望シタル意見ヲ述ベヨ
私ハ維新的人事ヲ成シ遂ゲ得ル内閣ガ出來ル事をノミ希シテ居リマシタ。
眞崎大將ニハ二回シカ會ツテ居リマセンガ、此方ハ勇斷ノ人デアルト思ヒマシタ。
又 コノ人ナラバ政党財閥關係ガ宇垣ノ様デハナイト思ヒ、コノ人以外ニ陸軍ニ人ナシト考ヘ、
コノ方ガ出レバト云フ期待ヲ持ツテ居リマシタ。
私ハ千數百名ノ兵ヲ聯レテ來テ居ルノデ　ドウシテモ逆賊ニハナレマセンノデ、
義軍デアルト云フ事ハ認メテ頂カネバナラヌト考ヘテ居リマシタ。
大赦ト云フヤウナ事モ二十七日ニナツテ満井中佐アタリカラ出タノデ、
ダンダン若イ人達モ口ニスル様ニナツタノダト思ツテ居リマス。
又 大詔渙發ト云フ事モ私ノ眞實ノ心持チトシテハ希望シテ居リマシタガ、
シカシソレガ人々ノ口ニ乗ツタノハ　コレモ二十七日以後ノ事デアツタト思ヒマス。

維新ノ大詔トカ云フモノヲ村上大佐ヨリ見セラレタル事アリヤ
全クアリマセン。
ソノ事ハ 過日公判廷デ安藤ガ申シテ居ツタノデ始メテ知ツタ譯デアリマス。

其方ガ今年一月 眞崎大將ヲ訪問シタル際、大將ガシッカリヤレト言ハレタルハ如何ナル意味ニ解シタルヤ
ソレハ我々ノ気ト同様ニ統帥權干犯ニ對シ、單ニ相澤公判ノミナラズ、
大ニ努力スルト云ハレタモノト受取リマシタ。
ソレデ十二月 小川トオ會ヒシタ時ニハ大將ハ血ヲ見ルト云フ事ヲ十分承知シテ居ラレタノデ、
私ノ言ツタ言葉モ十分理解セラレテノ事ト思ツテ、大丈夫ダトノ確信ヲ得タノデアリマス。

其方ハ西園寺襲撃中止ノ事ヲ何時何処デ聞イタカ
二月二十五日夜二時 ( 二十六日午前二時 ) 頃、歩一デ對馬中尉ガ上京シタ事ニ依ツテ知リマシタ。
ソレハ板垣中尉ノ反對ニ依ツテ中止シタ旨ヲ申シテ居リマシタ。
實ハ此ノ事に就イテハ私ガ二月十八、九日頃、豊橋ノ對馬中尉ニ聯絡シテ歸ツテカラ、
二十三日ト思ヒマスガ山口大尉ガ西園寺襲撃中止ノ事ヲ申シマシタ。
其理由ハ牧野ガ殘ツテ西園寺ガヤラレタ時ハ後ガ困ル　ト云フ事デアリマシタガ、
私ハ眞向カラ反對シテ 西園寺襲撃ハ私ノ兩三年來ノ計畫デアルカラ 斷ジテ中止シナイト申シマシタ。
其夜私ハ西田ヲ訪レ コウ云フ意見ガアルト申シマスト、西田モ私ト同意見デアリマシタ。

山口大尉ガ何故ニカカル意見ヲ出シタカニ就イテ心當タリアリヤ
或ハ龜川ニ工作ニ依ッテ鵜澤ヲシテ西園寺ヲ引張リ出シ、宮中ノ輔弼ヲ有利ニナラシメントスル企圖デハナカタノカ
ソレハアッタノデハナイカト思ヒマス。
私ハ事件前 山口大尉ヨリ 鵜澤ト西園寺トノ關係ヲ聞イタ事ガアリマスノデ、
或ハソウ云フ企圖デモアッタデアラウ事ハ考ヘラレマス。

ソレデハ西園寺襲撃中止ハ誰ノ發意ニヨルカ
ソレハ豊橋同志ノ意見ニヨッテ中止ヲシタモノト信ジテ居リマス。
只 龜川ヤ山口ガソウ云フ意見デアッタト云フ事ハ偶然ノ一致デアッタモノト思ヒマス。
コノ間ノ公判廷デ對馬ノ云フ処ニ依ルト、
私ガ對馬ノ処ヘ行ツタ後、對馬ガ鈴木五郎ノ処ヘ行キ、金策ヲ頼ミ、
後 竹嶌 井上ニ話シテ同意ヲ得 猶ホ板垣ニモ話シテ居ツタノデシタガ、
二十三日 栗原ガ豊橋ニ行キ、更ニ塩田モ參加スルコトニナツタガ、
二十五日ニナツテ對馬ガ演習ニ出テ居ル不在中ニ、竹嶌ト板垣トガ打合セヲシマシタ。
ソレハ竹嶌ノ腹ガ東京ガ二十六日ノ朝五時ニヤルトスレバ、
豊橋ハ今夜ノ午後九時頃カラ事ヲ起サネバナラヌガ、
若シ 萬一 東京ガ中止ヲスルト云フコトニナレバ、豊橋ハ妙ナ事ニナルノデ、
之ガ爲ニハ誰カ東京トノ聯絡ニ任ゼネバナラヌ。
ソコデ板垣ニ此ノ聯絡方ヲ委任スルト、板垣ハ兵力ノ使用ノ點デ反對シマシタノデ、
竹嶌ハ驚イテ對馬ヲ呼ビ 二人デ板垣ヲ説イタガ、板垣ハ最後迄兵力使用ヲ止メルト云フノデ、
カクテハ暴露ノ虞アリトシテ中止ヲ思ヒ立チ、
對馬ハ停車場ニ行キ、鈴木五郎ニ聯絡セントシタルモ、不在ニテ間ニ合ハズ、
置手紙ヲシテ竹嶌ト共ニ急遽午後六時頃ノ列車ニテ上京シタモノデアルト、申立テゝ居リマス。
又 板垣ノ眞ノ意味ハ本人ガ參加ガ嫌ニナツテ兵力使用反對ヲ口實ニ廻避シタノダト、
對馬モ云ツテ居リマシタカラ 之ガ眞相ダト思ヒマス。
又 從來 東海道方面ト東京トノ聯絡ハ對馬 及 鈴木デアルノデ、
板垣ガ東京ノ他ノ者ト聯絡ガアルトハ考ヘ得ラレマセン。
要スルニ西園寺襲撃中止ハ豊橋同志ノ意志ニ依ツタモノデ、他ノ何者ニモ左右サレテ居リマセン。
其ノ證據ニ村中ガ二十六日朝 大臣ニ要望シマシタ一項ニ、西園寺逮捕ノ事ガアリマス。
若シ西園寺ヲシテ宮中輔弼ヲヤラセタリ 又ハ 本人ヲ助ケタリシタノデアレバ、
之ガ逮捕方ヲ要求スル事ハナイ筈デアリマス。
陳述人    磯部淺一
昭和十一年五月十七日     <・・憲兵大尉・大谷啓二郎>