反駁 ・ 西田税 第二、三回公判狀況 『 事實審理 』

第二回公判狀況  < 事實審理 >
二 ・二六事件公判開廷狀況ニ關スル件 ( 第五公判廷 )
十月二日午前八時五十分被告北輝次郎、西田税 出廷、
仝九時吉田裁判長以下着席、直チニ開廷ヲ宣シ、呼名点呼ノ後、西田税ノ事實審理ニ入ル
國家ノ改造ハ非合法手段ニ依リ實現セラルベキモノニアラズ。
明治維新ニ於テモ 非合法ノミニテ實行セラレタルニアラズ。
日本改造法案大綱ニ特筆大書シテアル如ク、
國家ノ改造ハ天皇大權ノ發動ニ依リ實現セラリ、國民ハ翼賛シ奉ルニアリ。
軍隊ガ改造ノ中心ニナルハ我ガ國體ニ反スルモノニシテ、在郷軍人ヲ主體トシ、
軍隊及學生、經濟學者其他ノ者ハ各々自己ノ立場ヲ理解シ、改造ノ氣運促進ニ努力スベキナリ。
國家改造ノ中心ハ矢張リ經濟、政治ノ改變ニアリ、
北氏ノ改造法案大綱中私有財産ノ限度制ハ最モ重要適切ナルモノナリ。
一般ニ改造運動者ハ現狀打破ヲ知リ、建設ヲ知ラザルモノナリ。
北氏ハ現狀打破ヨリ建設計畫ニ重點ヲ置キ論ジアリ。
自分ハ日本改造法案大綱ニ基キ國家改造運動ニ一生涯ヲ捧グルモノナルガ、絶對ニ非合法手段ヲ採用セズ。
合法的ニ國民運動ニ依リ天皇大權ヲ補佐シ奉ルノ外ニ他意ナシ。
非合法運動ヲ阻止シタル具體例ヲ述ベヨ
1、十月事件ニ際シ、蹶起計畫ノ當日 幹部多數檢擧セラレタルニ、
殘餘ノ栗原中尉以下ノ青年將校相集リ蹶起セント準備ヲ菅波大尉ト共ニ中止セシム。
2、五 ・一五事件ニ際シ、直接行動ヲ阻止セントセシニ、狙撃セラレタリ。
3、昭和九年栗原中尉戰車隊ニ勤務中、戰車十數台ヲ引率行軍途中、大森附近宿營ノ豫定ニ際シ、
實包其ノ他ヲ準備、西園寺、牧野伸顕等元老重臣ヲ襲撃セントセシヲ、
大蔵大尉阻止セント説得ニ當リタルモ不可能ナルヲ以テ、栗原中尉ヲ招キ 非合法ノ非ナルコトヲ説き、中止セシム。
4、埼玉挺身隊事件ニ際シ、栗原中尉埼玉県ノ在郷軍人、學生ヲ煽動、事件ヲ惹起セントセシヲ、
栗原中尉、水上源一、綿引 等ヲ招致、説得中止セシメタルガ、埼玉マデ傳フル事出來ズ、挺身隊事件トナル。
昨年十二月 村中孝次ヨリ青年將校ノ動靜ニ就イテ聞キタル狀況
第一師團 明春渡満スル、
此ノ裏面ニハ中央部ニ於ケル種々ナル策動アルトノ事ヲ聞キマシタ他ハ、
相澤中佐ノ公判ノ事ニ就キ種々協議シタルノミナリ。
事件蹶起ヲ知リタルハ何時カ
二月中旬栗原中尉ト面接セル際、
蹶起ニ對スル決意固ク、他の青年將校 及 下士官兵マデ同様ナル信念ナリトノ事ヲ聞キ、
今度ハ蹶起スルヤモ知レズト感ジ、一度ハ栗原中尉ヲ説得致シマシタガ、不可能デシタ。
安藤大尉ニ面接シ、青年將校蹶起ノ有無ヲ訊スベク會談致シマスト、
仝大尉モ心ヨリ單ニ蹶起ノ事ニ就キ 語リ度キ希望ヲ洩ラシマシタ。
仝大尉ハ野中大尉ニ青年將校ノ動靜ヲ申述ベタルニ、
野中大尉ヨリ蹶起ノ時期最モ良好ナリトノ事ヲ聞キ決意シ、
中少尉 及 下士官兵ノ啓蒙運動ハ充分ニナシアリ、
今度 貴兄 ( 西田 ) ガ阻止スレバ、殺害シテモ目的ヲ貫徹スル旨ヲ聞カサレ、
青年將校等ノ決意ノ徹底セル事ヲ知リマシタ。
・・・リンク→西田税 1 「 私は諸君と今迄の関係上自己一身の事は捨てます 」
村中、磯部等と會合狀況
村中トハ相澤公判ノ爲メ常ニ面接シテ居リマシタガ、
事件ノ事ニ就イテハ二月十六日ニ青年將校等ノ動靜ニ就イテ、
二月二十六日襲撃目標決定ニ就イテ聞キマシタ。
二月二十五日別離ノ挨拶ニ來リタル際、龜川宅ニテ蹶起後ノ處置ニ就イテ龜川、村中ト協議、
下士官兵ノ食事ノ準備ナク、尚、資金ナキ由ニテ、龜川氏ヨリ千五百圓手交セシム。
磯部トハ村中同様常ニ往來シテ居リマシタ。
今般ノ事件ニ就イテ話シヲ聞キマシタノハ、
二月十八日 ト 仝二十三日ニ蹶起ノ時期ヲ置手紙ニナシ通知シテ呉レタル外、
襲撃目標タル牧野伸顕ノ動靜視察ニ澁川善助ヲ從事セシメアル狀況ニ就キ聞キ、
仝人ヲ無關係ニ置ク様懇願セリ。
龜川哲也トノ關係
龜川哲也氏トハ以前ヨリ承知シテ居リ、相澤中佐ノ公判開廷ニ及ビ一層聯絡ヲ取ルヤウニナリマシタ。
二月二十三日事件蹶起前ノ青年將校ノ動靜ヲ話シ、蹶起後ノ時局収拾者ノ選定ニ關シ協議、
柳川中將、眞崎大將ノ適任ナル事ヲ話シ、
二月二十五日蹶起前夜、下士官兵等ノ食糧不足ナルトノ事ニ依リ、
仝人ヨリ千五百圓ヲ村中氏ニ与ヘシメ、自分ハ百圓ヲ借用ス。
蹶起前ノ上部工作ニ就イテ
山口一太郎大尉 及ビ 龜川哲也ト私シノ三名ニテ會合セル際 ( 二十四 )
蹶起後ハ急速ナル時局収拾ヲ必要トス、
之レニ關シテハ事前ニ上層部ノ工作必要アリトナシ、
山口大尉ハ義父 本庄大將
龜川哲也ハ眞崎大將、山本英輔大將
自分ハ小笠原長生閣下
等、各々上部工作ノ役割ヲ決定シ、
其ノ趣旨ニ基キ青年將校等ノ動靜ノ一部ヲ電話ニテ申述ベマシタ。
法務官ハ
被告西田ガ常ニ解キアル國家改造ノ趣旨ニ依レバ、
絶對的ニ非合法を排し、合法運動ニ邁進、國民ノ輿論ヲ國家改造ニ導キ、
以テ天皇大權ノ御發動ニ依リ日本改造法案大綱ノ原理ニ基キ實現スルト云フガ、
今回ノ被告ノ行動ハ今迄直接行動ヲ阻止シ來リタルト云フモ
青年將校 及 村中、磯部等ノ動靜矯激ニ亘ルヲ察知シ、
具體的計畫ヲ樹立シアルヲ知ルモ、身ヲ以テ阻止スルコトナク、
一度軍隊ヲ私用シ蹶起スレバ我ガ歴史ニ一大汚點ヲ印シ、
天皇ノ兵馬ノ大權ヲ干犯スルモノナリト感ジ、阻止セザルハ、
青年等ノ迷ヲ黙認シタルモノニシテ、
今迄 今日アル事ヲ豫期指導シテ來リタルモノト斷言セラレテモ 他ニ弁明スル餘地ナカラン。
ト 論及シタノニ對シ、
西田ハ、
五 ・一五事件以來極力直接行動ヲ否認シ阻止シ、
軍隊 亦ハ一部右翼ノ民間團體ガ蹶起 直接行動ヲナスモ 國家ノ改造ハ達成セラレズ、
我ガ國ハ他ノ諸外國ト相違シアリト説得ニ説得ヲナシ來リタルガ、
今回ハ自己ガ如何ニ阻止セントシテモ、青年將校ノ決意固ク、
亦、一般ノ改造意識 昂リアリシヲ以テ、數回説得セシモ、自己ノ力ニハ及バズ、
已ムニ已マレヌ心境ニテ二十六日午前五時トナリタルモノニテ、
今迄軍部 竝ニ一般ヨリ直接行動アル毎ニ
自分ガ背景タル事ヲ一般ニ言ハレタルヲ以テ、
今度ハ總テノ終リナリトモ考ヘタリ、云々。
ト事件前ノ行動ニ關シ、亦、心境ニ關スル陳述ヲナシ、
午後四時十五分終了、閉廷セリ
次回ハ三日午前九時開廷スル旨申渡サル
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第三回公判狀況  < 事實審理 >
二・二六事件公判開廷狀況に關する件 ( 第五公判廷 )
十月三日午前八時五十分被告北輝次郎、西田税、龜川哲也 出廷、
仝九時吉田裁判長以下着席、開廷ヲ宣シ、直チニ被告西田税ノ事實審理ニ入ル
法務官ノ事實審理前ニ、被告西田ハ前日ノ陳述中事實と相違スル點ヲ申述ブ
一、二月十六日龜川宅ニ於テ
  山口大尉、龜川、西田ノ三名ニテ相澤中佐公判ニ際シ林大將出廷後ノ處置ニ就キ、
山口大尉ガ本庄大將宛ノ申言ハ誤リニテ、
佐藤裁判長ニ對スル相澤公判ノ意見書作製ナリ、
二、北輝次郎宅ヲ訪問シ、
  十二月中旬ニ第一師團渡満前ニ於ケル一般青年將校ノ動靜ヲ申述ベタリトアルハ、
相澤公判ニ對スル青年將校ノ動靜観察ノ概要ナリ。

二十五日中ノ行動ヲ申述ベヨ
二十五日午前中磯部ガ來宅シ
種々ノ話ヲナシタル際、澁川善助ヲ事件ニ參加セシメザル様説得シ、磯部モ諒解、
澁川ノ妻君ニ手紙ヲ渡シ、歸京後電話セシメル様聯絡セリ。
其後、北氏宅ヲ訪問シ、青年將校ガ明朝蹶起スル旨ノ概要ヲ報告辭去シ、
千坂中將ノ通夜ニ參加セントシモ、他人ノ通夜ヲ斷ラレタルヲ以テ自宅ニ歸リタル時、
福井幸、赤澤 兩名ニ留守ヲ依頼シ、
午後五時三十分龜川宅ニテ村中ト會ヒ、
前日申上ゲマシタ通リ千五百圓ヲ村中ニ龜川氏ヨリ与ヘサセ、自宅ニ居ルハ危險ト感ジ、
再ビ北方ヲ訪問シ宿泊スベク準備中、澁川ヨリ午前一時ニ電話ガアリ、
湯河原ヲ引揚ゲ歸京ノ報ニ接シ、仝人ノ落附イタ態度ニ依リ安心シ、明朝蹶起狀況ノ調査方ヲ依頼ス。
仝夜ハ北方ニテ夜ヲ明シ、
午前四時十五分頃澁より部隊が續々出發しある事の報告を受け、
同志岩田富美夫に電話、來宅を依頼協議す。
二十六日中ノ行動ヲ申述ベヨ
岩田富美夫ト北方ニ面接、
自己ノ避難場所ヲ仝人ノ親族タル巣鴨ノ木村病院ニ選定、
仝所ニ赴キ諸所ト聯絡、情報蒐集ニ從事ス。
仝日 午前七時頃小笠原長生子爵ニ事件ノ概要ヲ電話ニテ報告シ善處方ヲ依頼ス。
午後首相官邸ノ栗原中尉ニ聯絡セルニ非常ニ平靜デアリ、・・・リンク→西田税 2 「 僕は行き度くない 」
部隊ハ永田町一帯ニアル事を聞キ、意外ニ驚キ、村中ニ聯絡セルモ同様デアリマシタ。
仝夜ハ澁川、村中ヨリ情報ヲ聞クト共ニ、外部ノ狀況ヲ通知シテヤリマシタ。
二十七日中ノ行動ニ就イテ申述ベヨ
二十六日夜ハ情報蒐集ニ從事シ、
二十七日午前中、村中、栗原ニ電話ニテ聯絡セルニ、
大臣告諭モ發セラレ戒嚴部隊ニ編入セラレ、
宿舎 及 衣服、食料等モ部隊ニテ給養シアルトノ事ヲ聞キ、
自分ノ豫想トハ全然相違シ官軍トナツタ事ヲ知リ、不思議ナ事ガ出來タト考ヘマシタ。
仝日ハ一般ノ情報ヲ蒐集シ、綜合シテ、事件ハ進展スルト考ヘラレマシタノデ、
北氏方ヲ訪問、種々話ヲシマシタ。
其後ノ行動ニ就イテ申述ベヨ
北氏夫人ノ靈感作用ニ依リ得タル神靈、
「 人ナシ、勇將眞崎大將アリ、總テヲ一任セヨ 」
ト云フ事ヲ栗原中尉ニ傳達セントセシモ不能ニテ、首相官邸ニ據リタル磯部ニ傳達スルト共ニ、
軍事參議官トノ會談顛末    ・・・リンク→ 第十八 「 軍事参議官と会見 」 軍事参議官との会見 「 理屈はモウ沢山です 」
及 片倉少佐狙撃ノ狀況     ・・・リンク→ 第十六 「 射たんでもわかる 」  「ブッタ斬るゾ !！
其他一般狀況ヲ聞キマシタ。
青年將校ニ對シ眞崎大將ニ一任ノ件ハ、行動 及 時局収拾ノ全部ヲ傳ヘ、指導シタルヤ
青年將校等ガ蹶起後三日間ノ間ノ狀況ヲ見マスト、
自分達ガ今迄唱ヘテ來マシタ説トハ全然相違シテ、
戒嚴部隊ニ編入セラレ義軍トシテ認メラレ、
陸軍大臣ヨリ表彰状ノ様ナ告諭ヲ受ケアリ、
一般ノ狀況ハ良好ナルガ、
青年將校等ノ蹶起ノ趣旨ハ肅軍ニアルニ、
二十七、八日ノ軍事參議官ノ會見模様等ニヨリ見テ政治問題ニ關与シアルヲ以テ、
内爭ノ結果不利ニ陥ルベシト感ジ、
全部を眞崎大將ニ一任シ 直チニ現場ヲ引クベキデアルト感ジ、
行動 及 時局収拾ヲ仝大將ニ一任スル様傳ヘタルモノナリ。
青年將校ヨリ、眞崎大將ニ一任ハ行動ニ非ズ、時局収拾ノミニテ然ルベシト被告ニ電話アリタルニ際シ、
被告ハ時局収拾ダケデ可ナリト申シタリト云フガ、如何
詳シイ事ハ忘レマシタガ、
自分ハ一刻モ早ク現地ニ居ル事ヲ避ケ、
一地點ニ引揚ゲ、其後ノ事ヲ眞崎大將ニ一任セヨト申シタルノミナリ。
西田ハ龜川、村中等ト協議シ、柳川中将ノ件ニ就キ意見ヲ述ベタリト云フガ、如何
柳川中將ノ件ハ村中ヨリ電話ニテ聞キタルノミニテ、協議シタル事ナク、
只、臺灣ヨリ柳川中將ヲ招致スルハ事態収拾ニハ適サズト村中ニ申述ベタル事アリ。

一部青年將校ノ蹶起後ノ行動ヨリシテ成功スルト感ジタカ
非常ニ意外ニ思ヒ、
大臣告諭、戒嚴部隊編入、食料ノ部隊給養等ヨリ見テ
一時ハ成功スルト感ジマシタガ、不思議デナリマセンデシタ。
昨日青年將校ノ部隊私用ハ統帥權干犯ニテ、日本臣民タル者ハ身ヲ以テ阻止スベキ事ナリトアリマシタ。
今般ノ青年將校蹶起ニ際シ、
大臣告諭ヲ与ヘ、戒嚴令 ( 天皇大權ノ發動 ) ニ依リ 明カニ戒嚴部隊ニ編入シタル者ヲ、
後ニ逆賊トシテ討伐スル事ハ絶對アルベキデナイト確信シマス。
如何ナル事情ガアルトモ皇軍ヲ私用シ蹶起シタル以上、
如何程犠牲ヲ払フモ、皇軍トシテハ最初ヨリ徹底セル斷ノ一字デ臨ムベキデアルト考ヘマス。
云々。
と 論じ、
今般ノ事件ニ際シ、
報告ハ電話等ニ依リ青年將校ヲ指揮指導シタリト云フ事ヲ得ベシ
トノ言ニ對シ、
外郭ノミヨリ観察スルトキハ其ノ様ニ見エ、事實ハ相違ス
ト論爭ノ末、結局指導シタル事ヲ承認ス

午後三時事実審理を終了
次回ハ五日午前九時開廷スル旨申渡シ、閉廷セリ
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