服部まゆみさん、『黒猫遁走曲』 再読

 『黒猫遁走曲』、服部まゆみを読みました。

 代表作ではない目立たない作品である…と思いきや、毒とブラックユーモアが絶妙に効いた素敵な逸品ではないですか! およそ14年ぶりに読み返すと、悼む気持ちが改めて湧き起こってしまう作品でした。
 交互に主旋律を奏でる二つのストーリーが、たった一匹の猫の為にすっかり振り回され、全然噛み合っていないにも関わらず凄い臨場感ではらはらさせてくれます。本当のところは噛み合っていないはず…なのに、お互いに間違った道筋をたどって奇妙に辻褄が合ってしまうストーリー展開の妙! その仕掛けを俯瞰出来る読み手は、どこでどうクロスすることかと息を詰めてしまうのです。 
 主旋律に絡み付いてくる副旋律の存在が、徐々に明らかになりつつ作品全体に多面性を持たせていく構成は見事です。それでいて余計なけれんみがないのも作風です。

 献辞にあるのは元愛猫たちの名前でしょうか。飼い猫のメロウを溺愛する森本翠の姿に、服部さんもこんな風に愛猫たちに翻弄されていたのかしら…なんて、勝手に想像を膨らませてしまいました。 
 猫族さんたちにかしずく愛猫家ならではの作品。『黒猫遁走曲』というタイトルも好きですが、服部さん御自身はタイトルをつけるのが苦手で、旦那さまに考えてもらうことがあったとか。この作品はどうだったのでしょうね…?
 (2007.9.3)

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