goo blog サービス終了のお知らせ 

計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

大気大循環と偏西風波動

2013年11月27日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897844213.html


 地球表面からは常に長波放射(赤外放射)の形で熱エネルギーが放出されている一方、太陽からは日射(短波放射)によるエネルギーを受けています。

 一年を通して、出ていくエネルギー量は地球表面上のどこでも概ね一定ですが、入ってくるエネルギー量赤道付近で最も大きく、極付近では最も少なくなります。これは地軸が公転面に対して傾いているためです。

 このプロセスを通じて、赤道付近は熱源となる一方、極付近は冷源となるような熱の分布を生じます。


 赤道付近の大気は暖められるので次第に上昇気流となり、極付近の大気は冷やされるので次第に下降気流となります。


 こうして南北間(極-赤道間)の熱的コントラストを解消するべく、大気が自らかきまぜられようと動き出します。換言すれば、熱的コントラストによって大気の動き(大循環)が駆動(励起)されるのです。

 実際の大循環は、このような三細胞構造となります。赤道付近の熱源によって直接励起される循環をハドレー循環極付近の冷源によって直接励起される循環を極循環、そして、南北二つの循環の間に間接的に励起される(みかけの)循環をフェレル循環と言います。
 
 フェレル循環は、高緯度側で寒気が上昇する一方、低緯度側で暖気が下降するような形に描かれていますが、このような鉛直循環が存在するわけではありません。実際には、中緯度地方は偏西風波動などの擾乱が支配的です。これらの流れを緯線方向にグルっと一回りした平均をとると、高緯度側で上昇・低緯度側で下降するような循環が現れる、というものです。従って「みかけの間接循環」なのです。


 地球は常に自転しているため、その上にある物体は常に時点(回転)に伴う慣性力(コリオリの力)を受けて続けています。この力は、北半球では進行方向の右向きに働きます。

 このため、地上付近ではハドレー循環極循環、そしてコリオリの力の影響で、低緯度では貿易風、高緯度では偏東風が卓越します。



 それでは、上空はどうでしょう?次の図のように、上空の温度分布を考えてみます。


 ハドレー循環によって赤道付近の暖められた高温の大気が北側に運ばれる一方、フェレル循環(実際は偏西風波動)によって北側からは、より低温の大気が運ばれてきます。

 また、極循環によって北極付近で冷やされた低温の大気が南側に運ばれる一方、フェレル循環(実際は偏西風波動)によって南側からは、より高温の大気が運ばれてきます。

 つまり、隣接する循環が接触する領域では、北側からの寒気南側からの暖気が互いにぶつかります。このため、図の中の黄色の領域のように等温線の間隔も狭くなります


 等温線の間隔が狭くなると「その度合=温度傾度(※狭いほど大きい)」に応じて西風成分が強化されます。これは「温度風の関係」と言う物理学的なメカニズムによるものです。

 このように非常に強い西風の軸(強風軸)が形成されていきます。この風速が非常に強いものをジェット気流と呼びます。極側のジェット気流を寒帯前線ジェット気流、赤道側のジェット気流を亜熱帯ジェット気流と言います。

 ジェット気流は、北からの寒気と南からの暖気との間に生じる南北の温度コントラストの強化によって形成されます。この温度コントラストが強まっていくにつれて、(有効)位置エネルギーが蓄積されていきます。これはこの領域の大気が徐々にストレス(不安定性)を溜め込んでいくようなものです。

 従って、何らかの形でこのストレスを解消しようとします。大気の場合は、「運動」を通じてストレスを解消しようとします。



 ストレスが溜まりすぎると、偏西風はこんな感じで大きく南北に波を打って運動します。こうやってストレスを解消しています。物理学的に言い換えれば「(有効)位置エネルギーを(有効渦)運動エネルギーに変換している」のです。

 このように偏西風が蛇行して形成される波を偏西風波動傾圧不安定波)と言います。この波が高気圧や低気圧を生み出す原動力となっています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

山谷風の基礎

2013年11月17日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897844184.html


 山岳の斜面に沿って山頂に昇ったり、または山麓に吹き降りるような山谷風が生じます。夜間は山風は生じ、昼間は谷風が生じます。これは放射冷却や日射によって生じる熱のやり取りが源になっています。

[1] 夜間の山風が生じるメカニズム


 夜間は長波放射(赤外放射)に伴い、地表面から熱が逃げて行きます。


 地表面は冷え込みます。


 地表面が冷え込むと、そこに接する空気もじわりじわりと冷やされていきます。このため、地表付近の気温はどんどん下がります。


 平地の上で冷やされた空気はともかく、斜面上で冷やされた空気は、重力に引きずり下されるように下降します。


 斜面上の空気が下に降りると、その穴を埋めるように周囲の空気が移動してきます(補償流)。


 やがて、地表面では山頂から山麓(谷)へと向かう循環が形成されていきます。


[2] 昼間の谷風が生じるメカニズム


 昼間は短波放射(太陽放射)に伴い、太陽からの熱エネルギー地表面に降り注ぎます。


 地表面は暖まります。


 地表面が暖まると、そこに接する空気もじわりじわりと暖められていきます。このため、地表付近の気温はどんどん上がります。


 斜面上で冷やされた空気は、浮力に持ち上げられるように斜面の上を昇っていきます。


 斜面上の空気が上に昇ると、その穴を埋めるように周囲の空気が移動してきます(補償流)。


 やがて、地表面では山麓(谷)から山頂へと向かう循環が形成されていきます。


 ・・・学会前にこんな記事を書いている場合なのだろうか?・・・でも、実はこのメカニズムが重要だったりするんだよね。 ※ちなみに発表日は19日(火)です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

空気中に含まれる水蒸気

2013年11月11日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897844157.html


 上昇気流に伴って雲が出来、が降ります。このメカニズムには、空気中に含まれる水蒸気(水分)が重要な役割を果たしています。

 そこで、簡単な空気の塊を考えてみましょう。空気の塊の中には水蒸気が含まれています。


 これはまるで、空気の塊が「コップ」を持っていて、その中にを蓄えているようなものだと考えることが出来ます。

 実はこのコップは、ただのコップではありません。ちょっとした仕掛けのあるコップなのです。ちょっと、気になりますね。


 実は、このコップは周囲の気温によって、大きく膨らんだり、小さく萎んだりするのです。

 このコップの大きさ(容積)のことを飽和水蒸気量と言い、コップ一杯に水が入った状態のことを飽和と言います(そう、中学校時代の理科で勉強した、あの訳のわからない、難しい分野ですね)。

 続いて、すでに水の入っているコップが、周囲の気温低下に伴って縮んでいったらどうなるか、考えてみましょう。



 もちろん、コップは縮みますが、コップの中に入っている水の量は全く変わりません。やがて、水の量がコップの大きさよりも大きくなってしまいます。つまり、縮んでしまったコップの中に、水が収まりきらなくなるのです。

 このコップからあふれ出した水は(もはや抱えきれないので)空気の塊の外に放出されます。これが凝結です。

 ちなみに、中学理科では「飽和水蒸気量」を用いますが、気象学では「飽和水蒸気圧」を用います。

 コップの中に水が入っているとき、コップは水に圧力を加えていると考えられます。水の量が増えれば増えるほど、それだけより大きな圧力をかけるわけです。また、コップの容積が大きいほど、コップが水に加え得る(水を支えうる)圧力の許容量も大きくなる、と言うことです。

 結局、コップの中に含まれる水の量に注目したものが「飽和水蒸気量」であり、コップが水に加える(水を支える)圧力に注目したものが「飽和水蒸気圧」になります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

東北地方の日本海側および北陸地方で特に大雪となりやすいのは・・・

2013年11月10日 | お天気のあれこれ
 冬が近づいてきます。

 冬と言えば、やはり日本海側の地域、特に東北地方の日本海側および北陸地方では大雪という試練の季節でもあります。なぜ、この地域で特に大雪となりやすいのか。その辺の事情を取り上げてみます。

 冷たい冬の季節風は、遥かシベリアの方から日本海上を経て日本列島に吹き付けてきます。その日本海上では、対馬暖流の北上が卓越します。


 シベリア付近に生じるシベリア気団冷たく乾いた空気の集団です。しかし、日本海上を吹走する際に、海面から水分を補給され、湿っていきます。さらに対馬暖流の影響で海面から熱エネルギーも補給され、対流が活発になっていきます。


 どれだけの間、このような補給を受け続けるかによって、その後の雲の発達度合いも変わってきます。


 つまり、この吹走距離が長ければ長いほど、海面からの熱と水蒸気の補給量は多くなります。すなわち対流がより活発化し、雲に含まれる水分量(つまり、その雲からもたらされる雪の量)が増す、ということになるのです。これらの一連の過程に伴って、背の低い雪雲が生じる。この高さは通常2000~3000m程度です。


 さらに北陸地方の降雪を考える上では、日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)の発生も重要です。朝鮮半島北部の山岳の影響により、シベリア気団からの寒気の流れが二分された後、下流側で再び合流する際に収束線(収束帯)を形成します。これを日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)と言います。JPCZのライン上では、しばしば小さな低気圧が発生し、その中心では積乱雲が発達します。これらがラインに沿って北陸地方に近づいてくるのです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雪水比の考え方

2013年11月09日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897844144.html


 新潟県も、山形県も週明けには初雪?との可能性もあるようですので、週間天気予報を見るときは「天気」だけではなく「気温」も見ると良いでしょう。「気温が2℃を下回るとみぞれが現れやすくなり、1℃以下で概ね雪になりやすい」かもね。

 雪は「フワフワ」したものから「ベチャー」っとしたものまで様々ですが、一般的に気温が低ければ「フワフワ」しやすく、逆に高ければ「ベチャ」っとなりやすいことは感覚的に理解できます。

 天気予報では、降水量ミリ(mm)単位、降雪量センチ(cm)単位で表されますが、「同じ降水量(ミリ)でも気温によって、降雪量(センチ)は変わる」という事です。

 この「何ミリの降水量が何センチの降雪量に相当するか」を表す指標として「雪水比(せっすいひ)」が用いられます。これは文字通り「降雪量と降水量の比」という事です。

 この雪水比(cm/mm)は「気温」によって変わるので、「気温の関数」として扱われます。従って、降水量と気温の予報が求められると、予想気温から雪水比を決定し、予想降水量にこの雪水比を乗じることで、予想降雪量を求めることが出来ます。

 こちらのグラフは、私が以前「パパッ」と算定した簡易的な雪水比の関数です。これは新潟県内の観測データを基に分析したものですが、大雑把に言って「気温が2℃を下回るとみぞれ現れやすくなり、1℃以下で概ね雪になりやすい」感じですね。


【出典】
http://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2013/2013_07_0089.pdf


コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高層天気図の見方・ポイント解説

2013年11月09日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897844141.html


 昨日の地上天気図に引き続き、今日は上空の様子を表す高層天気図のポイントを簡単にまとめてみました。

 例えばこのような地上天気図がある場合を考えてみましょう。このような低気圧や前線があるとき、上空の様子はどうなっているのでしょうか?  同じ日の同じ時刻の上空の天気図です。

等圧線の代わりに等高度線が引いてあります。単位はm(メートル)を用います。この図は5200~5800m付近の様子を表していることになります。それにしても、この図面は何を基準に描いているのでしょう・・・。  実は、気圧が「500hPa」になる高さをつなげて一つの面として表しています。地上天気図では海面高度(海抜0m)を基準としていますが、上空の天気図(高層天気図)は気圧の等しい面等圧面)上の天気図を描いているのです。  地上天気図と高層天気図の違いをイメージで描くとこんな感じです。

 高層天気図では「等高度線の形」(等圧面の凹凸)に注目します。上の図で凹んでいる部分をトラフ(=谷)、膨らんでいる部分をリッジ(=尾根、峰)を言います。  このような等圧面の高度がどんな意味を持つのでしょうか?  ここで、500hPa面高度が比較的高い所(面A)と低い所(面B)を比較してみましょう。大気の様子を簡単な柱に置き換えて考えてみます。このような(仮想的な)空気の柱を「気柱」と言います。

 面Aと面Bは高さは見るからに違いますが、各面上の気圧は同じ500hPaです。気圧とは「その真上に乗っている大気の重さによって生じる圧力」なので、少なくとも、A、Bの真上に乗っている大気の重さは同じ、という事になります。

 500hPa面よりも下の部分の重さは、A側の体積の方が大きいので、より重いと考えることが出来ます。

 従って、「地上での気圧」を考えると「A側の方が気圧が高い」ということになります。つまり、等圧面高度が高い所は地上の高気圧、等圧面高度が低い所は地上の低気圧に相当する、ということです。

 もう少し高度を下げてみて、1200~1600m付近の天気図も見てみましょう。この図は、気圧が「850hPa」になる高さをつなげて一つの面として表しています。

 この高さでも、日本付近はトラフになっているようですね。そういえば、地上天気図ではこの辺に、低気圧が2つありましたね。  ここまで見てきた上空500hPa面、850hPa面の各等圧面の高度と、地上の気圧(海面更正気圧)の3次元イメージを重ねてみましょう。 

   こうしてみると、3つの面の凹凸は概ね一致しているようですね。500hPa面や850hPa面で凹んでいる部分をトラフ、膨らんでいる部分をリッジと言います。  そして、一番下の海面更正気圧の面の凹んでいる部分は低気圧、膨らんでいる部分は高気圧です。  この図からは、上空のトラフと地上の低気圧、上空のリッジと地上の高気圧がそれぞれ対応していることがわかりますね。  冬の間、テレビやラジオの天気予報では「上空5500m付近で-XX℃の強い寒気」「上空1500m付近で-XX℃の強い寒気」という言葉が頻繁に使われるようになると思います。  この上空5500m付近と言うのは500hPa面、そして上空1500m付近と言うのは850hPa面における気温を指します。テレビやラジオの天気予報を、よくチェックしてみて下さいね。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

地上天気図の見方・ポイント解説

2013年11月08日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897844134.html


 気象情報を理解する上で欠かせないものと言えば・・・それは「天気図」。テレビや新聞、インターネットなどでも見ることのできる地上天気図のポイントを簡単にまとめてみました。  地上天気図とは例えばこんな感じですよね。



 地図の上に、白い線が何本も描かれ、さらには「」や「」というマーク。さらにはおでんに入っているハンペンカマボコがつながったような記号・・・。実は、これらの一つ一つにも、ちゃんとした「名前」があるのです。  それでは、名前を書き込んでみますね。



等圧線高気圧低気圧、すべて「」という字が入っていますね。さて、この「圧」とは一体、何の「圧力」なのでしょうか?  これは「大気」の圧力、つまり「気圧」です。気圧とは、その真上に乗っている大気の重さがズッシリと圧し掛かって生じる圧力のことです。単位にはhPa(ヘクトパスカル)を用います。



 つまり、頭上に乗っている大気が「重い」と気圧は「高く」なり、「軽い」と気圧は「低く」なるわけです。  この結果、周囲よりも気圧の高い所が「高気圧」、周囲よりも気圧の低い所が「低気圧」になります。そして空気は、気圧の高い所から低い所に向かって押し込まれることで移動します。これがとなるのです。



北半球では、高気圧の中心からは時計回りに風が吹き出し、低気圧の中心に向かって反時計回りに流れ込みます。  低気圧に流れ込んだ空気はそのまま上へ上へと昇り、上空で雲を生み出します。その後、いずれは高気圧の中心に向かって吹き降りてくるのです。  続いて、前線とは、北からの「冷たい空気(寒気)」と南からの「暖かい空気(暖気)」がぶつかり合う時に、その境目として現れます。温暖前線寒冷前線の違いは、寒気と暖気のぶつかり方によるものです。



寒冷前線の場合は、既に暖気が存在している所で、寒気がその下にムリヤリ潜り込む形になります。このため先に存在している暖気はグワーッと上に持ち上げられて、真上に向かう上昇気流となります。  温暖前線の場合は、既に寒気が存在している所で、暖気がその上を駆け上がっていく形になります。従って、寒気の斜面上を上昇するような上昇気流になります。  このような上昇気流の違いは、前線上の雲の形にも現れてきます。



寒冷前線に伴う上昇気流は、真上に向かう上昇気流となります。従って、前線上に生じる雲も、まっすぐ上に広がる背の高い雲(積乱雲)になります。  温暖前線に伴う上昇気流は、寒気の斜面上を上昇するため、前線付近に生じる雲も平べったい層状の雲(乱層雲)になります。



 北側の寒気と南側の暖気が接触すると前線帯となり、その上で反時計回りの渦を生じるようになると低気圧が発達します。  渦に伴って東側では、南からの暖気が北側の寒気の上を昇って行きます。その一方で、西側では北からの寒気が南の暖気の下に潜り込みます。  等圧線から風向きを読む方法については「等圧線から風向きを読む」をどうぞ。



コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

PDCAサイクル

2012年10月04日 | お天気のあれこれ
 台風の進路予報を見続けている内に、台風予報はビジネスにおける「P→D→C→Aサイクル」に似ている・・・と感じました。

 一般に、事業を進めるにあたっては、様々な状況・事象を想定・予測しながら計画=P(Plan)を立てるわけですが、周囲の状況・情勢は時々刻々と変化するので、次第に「当初の予測」からは乖離していくものです。そこで、実際に事業をを進めつつ=D(Do)、状況・状態の確認=C(Check)を行い、状況・情勢の変化に対応するべくA(Action)を起こしていかなけれ
ばなりません。そして再び、計画=P(Plan)を立て直す・・・の繰り返しです。

 気象の現象は色々ありますが、台風の「気まぐれ」は半端ないものです。それこそ、常に「予測発表検証対応」を繰り返さなくてはなりません。約3時間で1サイクルを回すのですから、台風を担当する予報官のストレスは想像に難くありません。一度、予報(予測→発表)したら「ハイ、終わり」ではありません。常に最新のデータを取り込んで、情報をアップデートし続けて行かなければなりません。そしてこの事は、台風だけに限らず、天気予報全般にも言える事なんですね。だからこそ、そのサイクル毎に、その都度「最善」を尽くすわけです。

 私が東京にいた頃CAMJの講習会を受講した際、講師の先生がおっしゃった言葉が今も記憶に残っています。

─ 予報において「万全」を尽くすことは出来ない、「最善」を尽くすだけだ ─

 確かに、天気予報に「完全」や「絶対」はありません。当時はただ「なるほど」と感心しておりました。

 自分がいざ雨予報や雪予報に関わる立場になって感じるのは、「予報」と言うのは、単なる「予想」や「予測」ではなく、最後は人間の「決断」であるという事。

 この「最善を尽くす」ためには、日頃から予測対象について理解を深めておく必要があります。局地気象であれば「対象となる地域」の気象特性やそのメカニズムを解明するべく、日夜研究を重ねる事が必須。現在の私のフィールドは、むしろ「こちら側」にあります。日頃から蓄積された知見を基に、再び「予報」に挑むことになるのです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

物理の授業で何を学ぶか? 数学と物理と「モデル」の関係

2012年09月07日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897843880.html



局地気象のシミュレーションで格闘中・・・解析手法に悩み、苦しみ悶えている・・・(笑)


 これまでの人生を振り返って、「数学は得意だけど、物理は苦手」と言う人には多く出会ってきましたが、「物理は得意だけど、数学は苦手」と言う人は・・・正直、会ったことがありません。むしろ、物理が得意な人は数学も得意(もしくは好き)と言う人ばかりだった・・・と思います。

 一見、似た者同士のこの両者の違いはどこにあるのか・・・ふと、考えてみたことがあります。大学の理学部以上で学ぶ、または研究する数学や物理学の事はわかりませんが、高校生~大学教養レベルに限定して言えば、 「数学」は(既にある)公式や定理を縦横無尽に使いこなす事が求められるのに対して、 「物理」は(既にある)基本的な法則や公式を縦横無尽に使いこなして、新たな公式や方程式を組み立てる事が求められます。「物理」の問題は公式や方程式を組み立ててしまえば、後は「数学」の問題に帰着されるのです。つまり、両者の差は(問題として)与えられた現象について、新たな公式や方程式を「組み立てる」事にあるのではないか、と思えるのです。

 物理の問題は、基本的な物理現象を幾つも組み合わせた現象をテーマに出題されるため、どのような基本的な現象が、どのように組み合わされているのかを理解し、認識した上で、それぞれの基本現象の公式を組み合わせて、出題されている現象に見合った方程式を構築する・・・と言う高度な(ある意味、面倒臭い)プロセスを経る必要があります。なるほどこの部分に苦手意識を持つ・・・と言う事でしょうか。その一方で、まさにこのプロセスこそが「醍醐味」と感じる人もいるわけですね。

 物理の教科書を開くと公式の数も膨大です。これを全部、暗記するのは・・・無理だよなあ・・・と尻込みしてしまうケースも少なくありません。しかし、我が身を振り返ってみると、自分が使っている公式は・・・実はその膨大な中のごく一部に過ぎない事に気づきます。必要最小限の公式を覚えておけば、後は必要に応じて、その都度「公式」を組み立てる事が出来るからです。多くの物理の先生が、公式を覚えるのではなく、その公式がどのような法則や考え方から導かれるかを学ぶ事の重要性を指摘されています。

 結局、基本的な法則や公式に則って、どのように現象を理解し認識してゆけば良いのか ・・・その「思考法=ものの見方・考え方」を学ぶことがすなわち「物理」の勉強なのだ、と今更ながら実感しています。そして、現象やその構造・メカニズムに対する「自分なりの理解や認識」を具現化(表現)したものが「(解析)モデル」なのです。「物理の問題を解く」と言うことはすなわち、対象となる現象を「解析モデル」の形で表現し、考える事に他なりません。

 これまで学んできた機械工学も、バイオメカニクスも、エレクトロニクスも、建設・土木工学も、そして気象学も・・・対象とする現象や応用する分野は異なりますが、その対象となる現象を物理学の法則に照らし合わせて、その本質をモデル化し、数学と言う言語を用いて表現し、後はそれらをどのように応用していくか・・・につながっていくものです。

 現在、私が挑んでいる分野も複雑な局地気象のメカニズムやその構造を一旦「簡単な模型のイメージ」に落とし込んでから、物理学の法則に照らし合わせて、その本質をモデル化し、方程式や拘束条件を構築し、これをコンピューターで計算するというもの。または、局地気象のファンクション(機能)だけに着目し、これを「簡単な計算式」で表現して、コンピューターで計算するというもの。

 「効果的な質問を投げかけることで、相手の思考を促す事が出来る」とは、先日のコーチングの研修で学んだ事。

 複雑な現象を「簡単な模型のイメージ」に落とし込む際は、一つ一つの特徴についてこの本質は何なのか、それはどのように解釈・理解・表現すればよいのか、絶えず(無意識の内に)自らに問いかけています。結局は、目の前の現象やその本質を「どのように理解したか?」と言う究極の問いかけに対して、「自分なりの考え方」を構築し「自分なりの答え」を導き出そうとする営みなのです。

 質問力・・・鍛えないと・・・だな・・・。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

物理現象を如何に解析モデルの形に表現していくか・・・

2011年05月10日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897843682.html


 このブログも珍しく・・・連休中から毎日更新しています。今回は、物理現象を如何に解析モデルの形に表現していくか、について書き進めてみましょう。


図1. 乱流数値シミュレーションの考え方


 乱流は一つの流れの中に様々なスケールの渦成分が含まれています。これら各々が互いに影響を及ぼしあう事により、流れは複雑な挙動を見せてくれます。RANSでは、全体の平均成分とそこからの偏差に分離し、平均成分はレイノルズ方程式で直接的に解き、偏差分をk-εモデル等の乱流モデルで表現しています。一方LESでは、大きなスケール成分は基礎方程式で直接的に解き、小さなスケール成分についてはスマゴリンスキーモデル等の乱流モデルで表現します。このように乱流は様々なスケールの現象が同時に含まれるマルチスケール現象であると言えるでしょう。そして、気象現象もまた、様々なスケールの現象が同時に含まれるマルチスケール現象なのです。従って、自分が今、どのスケールの現象について考えているのか、を常に意識しなくてはなりません。例えば、総観規模の温帯低気圧の挙動と局地気象のフェーン現象を同列に(ごっちゃ混ぜに)扱ってはならないのです。


図2. モデリングの3つのステップ


 そして、気象現象を構成する要素は、流体力学現象、熱力学現象、地形効果、放射収支、相変化、自転の影響…等のように多岐に渡ります(図2)。従って、解析対象となる局地気象の現象について「どの要素が本質的に重要なのか」を理解し、解析モデルを構築することが大切です。局地的な地形の影響を受けて形成される風の流れ解析に関しては、流体力学現象と地形効果は勿論の事、大気の安定性の影響も重要なので熱力学的現象の影響を考慮する必要があります。このように物理現象のモデリングに際しては、解析対象となる現象を形作る要素に分解し、何が本質なのかを見定めるための仕分けを行い、本質的に重要とされた要素を基に解析モデルの場を構築する、と言う作業が必要となるのです 。


図3. 解析者の思想・哲学


 ここで重要となるのは、何が本質なのかを見定るための判断基準です(図3)。構成要素を仕分けにおいては、解析者の思想・哲学(自然科学的世界観)が問われていると言っても過言ではありません。解析者自身が「対象現象の本質」をどのように理解し、どのように捉えているのか、そしてこれらをどのように表現するのか、と言った考え方が重要となります。つまり、対象とする物理現象において「どの要素がより支配的・卓越する(ドミナント)であると考えられるか」と言う視点が問われる事になるのです。

 もう一つ考えなければならないのが、全体的な流れの方向です。工学問題として扱われるチャネル流れやバックステップ流れの場合は、周囲を壁面に囲まれた準閉空間内の流れであるため、流れが単方向であり、入口から出口への方向が明確です。しかし、局地気象の場合は、広大に開かれた三次元空間(開空間)から対象領域を切り出して、その周囲の流れを仮定し、これを境界条件として与えています。この場合、異なる方向の流れが共存する構造もありえます。実はこれこそが、私を長年にわたって悩ませ続けている課題なのです。


図4. 複雑な流れ構造の発生


 その一例を図4に示しましょう。日本の北東に高気圧の中心が停滞する一方、日本海上から前線を伴った温帯低気圧が接近してくる気圧配置の場合です。この時、A地点における風の流れを考えてみます。下層では高気圧から低気圧に向かって風が流れ込むため、A地点における下層の風向は北東象限となります。しかし、上層では偏西風がドミナントとなるため、上空の風向は南西象限となります。このように下層と上空で風向が逆転する事も珍しくありません。このような気象場を考慮する際の境界条件の設定は容易ではありません。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

熱変数は「温度」と「温位」のどちらを使うか?

2011年05月09日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897843679.html


 いよいよGWも明けて、本格始動といったところでしょうか。

 熱流体解析では、運動量(=質量×速度)と熱変数(主に温度)のそれぞれについての支配方程式が必要となります。前者はナビエ・ストークス方程式、後者は熱エネルギー方程式として知られております。キャビティ流れや熱伝導のような工学問題を解く際には、熱エネルギー方程式で取り扱う変数は「温度」を使用します。しかし、局地気象のように(工学問題で扱うものよりも)スケールの大きな現象の場合は、そのまま温度を適用することができない事情があるのです。


図1.室内の水槽実験を考えてみると


 仮想的な室内実験として、キャビティの内部に乾燥した空気を充填させまた状態を想定してみましょう。下から加熱して、上から冷却すると、初期状態における温度の鉛直勾配は、(∂T/∂Z)<0となるため不安定となり、時間が経つにつれて鉛直対流が発生します。上から加熱して、下から冷却すると、初期状態における温度の鉛直勾配は、(∂T/∂Z)>0となるため安定となり、時間が経っても内部流体は静止したままとなります。(※上向きに正となるような鉛直座標をZとします)



図2.温度と温位の数学的取扱


 従って、小さな室内実験スケールのキャビティ流れを考えると

・(∂T/∂Z) < 0 ・・・ 不安定 ⇒ 対流が起こる
・(∂T/∂Z) = 0 ・・・ 中立  ⇒ 安定と不安定の境界線
・(∂T/∂Z) > 0 ・・・ 安定  ⇒ 対流は起こらない

と言う事は、想像に難くないと思います。

 ところが、実際の大気現象はと言いますと、大気が乾燥状態にあると仮定した場合は

・(∂T/∂Z) < Γd ・・・ 不安定 ⇒ 対流が起こる
・(∂T/∂Z) = Γd ・・・ 中立  ⇒ 安定と不安定の境界線
・(∂T/∂Z) > Γd ・・・ 安定  ⇒ 対流は起こらない
※Γd =g/Cp:乾燥断熱減率

となります(尚、符号の取り方によっては不等号の向きが逆になる事があります)。

 ここで注目したいのは、同じ温度Tであるにも関わらず、キャビティ流れと大気現象では中立の条件が異なると言う事です。すなわち、大気現象を解析するに際しては、温度Tに関しては、キャビティ流れと同じような感覚で扱う事ができないのです。数学的な取り扱いが異なるため、何らかの配慮をしなければならないのです(面倒くさいですね)。

 実は、室内実験で扱う現象スケールでは、気圧は殆ど一定を見做す事が出来ます(無意識のうちにそのように扱っているのです)。大気現象スケールでは、気圧は大きく変化するので、空気塊の温度も熱エネルギーそれ自体に加えて、周囲の気圧の影響も加味しなければなりません。

 大気現象の数値解析は、実際の現象を模擬した小さな模型を仮想的に作って実験を行うようなものです。そしてその究極の基本はキャビティ流れに通じます。従って、大気現象における熱的効果を加味するに当たっては、実際の大気現象の温度(非保存量)を何とかして、キャビティ流れの温度のような形(保存量)と同じように扱いたいとの要請が発生します。

 この大気現象の温度をキャビティ流れのような室内実験の温度のように扱うためには、変数変換を行う必要があります。この変換されたパラメータが温位であり、この温位を用いる事により、実際の大気現象を室内スケールの模型と同じように考え、取り扱う事が可能になるのです。そんな訳で、私は数値シミュレーションの際には熱変数には「温位」を採用しています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

天気図の見方をもう一度・・・

2011年05月07日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897843670.html


 連休明けて初めての週末の方もいれば、ずっと連休が続いている方もいるのではないでしょうか・・・。


図1.新聞やテレビなどで見られる地上天気図

 図1は新聞やテレビなどで見られる地上天気図の模式図です。天気図の基本的な知識については中学校の理科でも履修しますが、バラエティーに富む知識を短期集中で学ぶため、消化不良でそのまま苦手意識を持ってしまう生徒さんも少なくないようです。今回はこのような地上天気図の見方を振り返ってみましょう。


図2.新聞やテレビなどで見られる地上天気図(説明を付記)

 地上天気図には様々な情報が記入されています。ここでは等圧線、高気圧、低気圧、前線に着目してみましょう。


図3.等圧線

 まずは等圧線を描いてみました。これは海面上(0m)気圧が等しい所を結んでいったものです。気圧の等高線と考えるとわかりやすいでしょう。


図4.空気にも重さがある

 そもそも気圧とは何か、について考えてみましょう。普段の生活では意識していませんが空気にも重さがあります。熱力学でも状態方程式(PV=mRT)が出てきますね。この空気の重さ(m)が気圧として現れるのです。冷たい空気は重くなる一方、暖かい空気は軽くなります。


図5.頭上の空気の総重量

 図5のイメージにように、私達は常に頭上の大気の重さを受けているのです。この重さによって生じる圧力が気圧です。この気圧が高い所が高気圧、低い所が低気圧と呼ばれるのです。


図6.高気圧と低気圧

 高気圧と低気圧を天気図で見ると、図6のような感じです。空気は気圧の高い所から、より気圧の低い所に向かって押し出されます。このために生じる空気の流れがです。


図7.高気圧と低気圧に伴う地上風

そして、高気圧と低気圧は図7のような渦となります。気圧分布が図7のように同心円状の場合は中心から放射状に流れ出したり、周囲から中心にまっすぐ流れ込みそうなものですが・・・実際には、時計回りや反時計回りに傾いています。これは、地球の自転の影響に伴って生じるコリオリの力を受けるためです。


図8.高気圧と低気圧の立体構造

 高気圧と低気圧の立体構造のイメージを図8に示しました。地上の低気圧の中心に向かって周囲から風が流れ込みます。集まった空気は逃げ場を失うため、そのまま鉛直上方へと移動し、次第に上昇気流が形成されていきます。この上昇気流に乗って昇って行くにつれて、(周囲の気圧が下がるため)空気が膨張し、その含まれている水蒸気が凝結するため、が形成されていきます。  その一方、上空からの空気が降りて下降気流となる部分では、空気の流れが上から押さえつける形になるために大気圧が強化されるのに伴って、高気圧が形成され、この中心から周囲に風が吹き出していきます。


図9.前線を描き加える

 続いては図9のような、前線です。前線の近くでは天気は下り坂になります。


図10.寒気と暖気のぶつかり合い

 前線の構造を図10に描いてみました。南から北上する暖気と、北から南下する寒気がぶつかり合う接触面を前線面と言います。そして、前線面が地上に達してできた線上の領域を前線と言います。暖気は軽く寒気は重いので、暖気が前線面に沿って寒気の上に登ろうとします。これに伴って前線付近には上昇気流が発生し、これが雲を生み出していきます。


図11.実際の温帯低気圧の三次元構造

 実際の温帯低気圧は図11のような構造を持っています。転移層(前線面)の手前に向かって暖気が流れ込む一方、背後には寒気が流れ込んできます。前線面の前方(南東側)では南方から暖かい流れが前線面に流れ込みながら上昇する一方、前線面の後方(西側)では北西方から冷たい流れが前線面に流れ込みながら下降しています。  一枚の天気図から、このような立体構造のイメージに想いを馳せるわけですね・・・。 (追記)  さらに詳しい解説は「地上天気図の見方・ポイント解説」「高層天気図の見方・ポイント解説」をどうぞ。



コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

傾圧不安定と偏西風波動、温帯低気圧の構造とライフサイクル

2011年05月06日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897843665.html


 さて、連休も終わり・・・いよいよ今日から仕事始めの方も多いのではないでしょうか。

 これまで、大気大循環と温度風について述べてきましたので、傾圧不安定と偏西風波動、さらには温帯低気圧の構造とライフサイクルについても解説していきましょう。


図1.偏西風波動(傾圧不安定波)の発生


 既に述べたように、ジェット気流南北の温度差によって生じる傾圧性強化の結果、形成されるものですが、この傾圧性が過度に強化されると力学的に不安定な状態(傾圧不安定)となります。これは、傾圧性が強まりすぎると、その分余計に位置エネルギーを抱える事になる事を意味します。この余剰エネルギーを消費するために、大気は余分な動きをする事によりこれを解消しようとします。これが偏西風波動(傾圧不安定波)の形で具現化します。エネルギー論の視点からは、帯状有効位置エネルギー渦有効運動エネルギーに変換されると考えられます。


図2.偏西風波動の位相と高気圧・低気圧の対応


 地上から高層までをトータルで見ると、この偏西風波動の南側は相対的に高温・高圧であり、北側は相対的に低温・低圧となるため、波動が上(北)に盛り上がる位相(リッジ)では高温・高圧下(南)に盛り下がる位相(トラフ)では低温・低圧の特性が卓越します。従って、リッジとトラフはそれぞれ上空における高気圧、低気圧に対応しています。


図3.高気圧・低気圧と鉛直流


 図3には地上と上空の高気圧と低気圧の簡単な構造を示しました。このような図は中学校の理科(第2分野)でも履修したと思いますが、ここでもう一度確認しておきましょう。

 地上の低気圧の中心に向かって周囲から風が流れ込みます。集まった空気は逃げ場を失うため、そのまま鉛直上方へと移動し、次第に上昇気流が形成されていきます。この上昇気流に乗って昇って行くにつれて、(周囲の気圧が下がるため)空気が膨張し、その含まれている水蒸気が凝結するため、が形成されていきます。

 その一方、上空からの空気が降りて下降気流となる部分では、空気の流れが上から押さえつける形になるために大気圧が強化されるのに伴って、高気圧が形成され、この中心から周囲に風が吹き出していきます


図4.温帯低気圧の三次元構造


 図4には実際の温帯低気圧の三次元構造を示しました。上空のジェット気流、転移層、地上前線の対応関係は既に述べた通りです。転移層の前方(南東側)では南方から暖かい流れが転移層に流れ込みながら上昇する一方、転移層の後方(西側)では北西方から冷たい流れが転移層に流れ込みながら下降しています。


図5.温帯低気圧のライフサイクル


 図5には温帯低気圧のライフサイクルを示しました。上空のトラフが深まるにつれて低気圧も発達し、やがて閉塞していきます。

 このように・・・地球放射と太陽放射の熱収支により、南北方向に熱的不均衡を生じます。この不均衡を解消するべく、大気の大循環による熱輸送を実現しようとしますがコリオリの力が働くため、大循環の構造は三細胞構造となります。このため、隣接する二つの循環が接する領域では転移層が形成され、その上空では温度風の関係を満たすべく偏西風ジェット気流が形成されます。このプロセスにおいて傾圧性が過度に強化されると、大気は力学的な不安定性(傾圧不安定性)が強められ、この不安定性を解消するべく偏西風波動が形成されます。この波動のトラフの位相が低気圧に相当し、転移層前線面に相当する。この一連の結果、前線を伴う低気圧(温帯低気圧)が形成されます。これらのメカニズムは、地球大気の絶妙なバランスの上に成り立っているのです。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「温度風の関係」のイメージを描く・・・

2011年05月05日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897843660.html


 今日は5月5日。GW休暇が今日までの方も少なくないのではないでしょうか・・・。明日から仕事、でもまたすぐに週末・・・。ちなみに、私は明日からいよいよ・・・疾風怒濤の日々が始まりそうです。

 さて、今日は「温度風の関係」を取り上げることにしましょう。当初は温度風の性質と「水平風の鉛直シアー」とかいう定義を暗記していましたが・・・後述の図3のような傾圧性に基づく力学的なイメージを構築できたことで、ようやく本質を掴む事ができました。今こうして、気象学を独学で学んだ日々を振り返ってみると・・・温位温度風は特に難解な概念でしたね・・・。



図1.大気大循環と転移層・ジェット気流のモデル図


 図1に示すように二つの循環が隣接する領域では、異なる循環の、互いに性質の異なる大気同士がぶつかり合うため転移層が形成されます。この領域では温度も急変するため、その水平傾度(∂Tm/∂y)も大きくなります。

 この時、後述する温度風の関係に基づいて、この転移層の上を強い偏西風の流れであるジェット気流が走向します。極循環とフェレル循環の間の転移層上空を走るジェット気流は寒帯前線ジェット気流(ポーラージェット)と呼ばれ、フェレル循環とハドレー循環の間の転移層上空を走るものは亜熱帯ジェット気流(サブジェット)と呼ばれます。中緯度地方の日々の天気はこれらのジェット気流の動きによって大きな影響を受けているのです。

 ここからは(北半球の)中緯度地方に限定して考えていきましょう。


図2.上空のジェット気流・転移層と地上前線の関係


 転移層の上空には偏西風ジェット気流が走向している一方で、転移層は地上では前線の形で現れます。この構造を模式的に示したのが図2です。中学校の理科(第二分野)では、二つの異なる性質を持った大気がぶつかり合う接触面を前線面、そして前線面が地上に達する領域を前線と履修した筈です。実は、この前線面はある程度の厚みを持った層状の構造となっており、これが転移層なのです。

 転移層の北側は相対的に低温南側は相対的に高温となるため、両者の間の温度差が大きくなればなるほど(寒暖のコントラストが強まるほど)、その転移層における水平傾度(∂Tm/∂y)は大きくなります。この温度傾度に比例して上空の西風が強まる事が理論的に知られており、これを温度風の関係と言います。上空に昇るにつれて水平風のu成分の変化量(温度風)をutと表記すると次のような関係があります。

t = ( R / f )( ∂Tm / ∂y ) ln(p1 / p2 )


 つまり、温度風の性質としては次の4点を挙げることができます。

(1)等温線に平行に吹く
(2)暖気側を右手に見る方向に吹く
(3)気温傾度(∂Tm/∂y)に比例する
(4)上空に行けば行くほど大きくなる(p1:地上気圧、p2:上空の気圧→上空へ行く程小さい)


 従って、転移層を挟む寒暖のコントラストが強化されると、温度風の関係により上空の西風がより強化されていきます。この結果、このコントラスト(∂Tm/∂y)が特に顕著な転移層の上空ではジェット気流が形成されています。


図3.温度風の関係


 温度風の関係についてさらに考察してみましょう。図3のように転移層を挟む寒気と暖気の気柱を考えると、転移層上空では暖気側から寒気側へと下る等圧面の坂道が形成されます。いま、この坂道の上を運動する空気の塊を考えましょう。この空気の塊は坂道の斜面上にあるため、坂道に沿って暖気側から寒気側に向かって運動させようとする力が考えられる。これはジオポテンシャル傾度力と呼ばれ、傾圧性によってもたらされるものです。その一方で、この空気塊には地球の自転に伴うコリオリの力が働いている。すなわち、この二つの力が釣り合う事で、空気塊は水平方向(西向き)に運動するのです。これは地衡風の関係と良く似ていますね。

 転移層を挟む高緯度側の寒気と低緯度側の暖気の寒暖コントラスト(∂Tm/∂y)が強化されると、暖気側と寒気側の高低差が増す事に伴って、等圧面の坂道勾配が急となるため、傾圧性が強化されます。そして、力の釣り合いの関係からコリオリの力も強化されていきます。この結果、空気塊の速度はさらに増加する・・・という一連の仕組みが働くのです。

(p.s.)
層厚と温度風のイメージ」では、さらに詳しく図解しています。

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

地球大気の運動方程式を基に考える・・・

2011年05月04日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897843657.html

 それにしても・・・高校の世界史は、なかなか覚えられませんね(やっぱり、理系なんだな・・・)。古代ギリシャとローマの区別がつきにくかったり、とにかく舌を噛みそうなカタカナ言葉が多いです。その一方で、古代中国では難しい漢字ばかりでやっぱり紛らわしい・・・何とか覚えたのが、古代インド・マウリア朝のアショーカ王・・・だけ(爆)。 

 そういえば、ブログではここ2~3日、珍しく真面目に気象学の記事を書いているので(←本来はいつもそうあるべきなのですが)・・・ついでに?、大気の運動方程式についても触れておきましょう。

 今回は、局地気象ではなく・・・むしろ局地気象に支配的な影響を及ぼす、北半球規模での大規模スケールの運動を考えてみましょう。図1のように北半球上に原点をとり、直交座標系を設定します。


図1.北半球上に設置された直交座標系


 直交座標系内のある一部の空気の塊についての運動方程式は次のように表すことができます。

(x軸方向:東西方向) ρ(du/dt)=-(∂p/∂x)+ρfv+Fx
(y軸方向:南北方向) ρ(dv/dt)=-(∂p/∂y)+ρfu+Fy
(z軸方向:鉛直方向) ρ(dw/dt)=-(∂p/∂z)    +Fz-ρg

ここで
 (du/dt)=(∂/∂t)+u(∂/∂x)+v(∂/∂y)+w(∂/∂z)
 f=2Ωsinφ

 地球上の大気には、気圧傾度力、コリオリの力、摩擦力、重力の4つの力が働いています。コリオリの力とは、地球の自転に伴う慣性力で、進行方向の右向きに働きます。


図2.上空の風と地上の風


 図2には地上と上空の風の様子を示してみました。上空の大気については、x軸方向とy軸方向の運動方程式において、第一近似としてこれを定常流と見做すと、結局は気圧傾度力とコリオリの力の釣り合いに帰着するので、次の式で表されるような流れに書き直すことができます。

 g = -(1/fρ)(∂p/∂y)
 g =  (1/fρ)(∂p/∂x)

 このような上空の風を地衡風と呼びます。実は、上空の風はこの地衡風に近い状態で流れています。その一方で、地上の流れはさらに摩擦力が加わるため、風の向きが等圧線に対して傾いています。

 続いて、今度は鉛直方向について考えてみましょう。図3のような気柱(大気の柱)を考えてみます。


図3.気柱と静力学平衡


 柱の一部を赤い部分のような微小片として捉え、この微小片に働く力の釣り合いを考えましょう。重力は下向きに働き、これに抗して微小片を上向きに支える力は上下の気圧の差によって生じます。従って、重力と気圧の差による力の釣り合いは次のように表されます。

-ρ×S×Δz×g=Δp×S

 これを簡単化して

Δp=-ρgΔz

 この極限をとると、次のような静力学平衡の関係を得る事ができます。

(∂p/∂z)=-ρg

 これは、鉛直スケールの運動が無視できると仮定した場合の鉛直方向の運動方程式であると言えます。

 また、理想気体の状態方程式は次のように与えられます。

p=ρRT


図4.層厚と傾圧帯


 ここまでの知見を応用して、図4の左側に示すような気柱の中のz1~z2の部分の厚さΔzを求めてみましょう。この厚さは層厚(シックネス)と呼ばれ、上端と下端の気圧(p2、p1)と層内の平均気温Tmから次のように求める事ができます。

Δz=(RTm/g)ln(p1/p2)

 気柱の底面における大気圧は気柱内に含まれる空気の総重量に比例しますが、この式の形から、この平均気温が高ければこの気柱の底面における気圧は高くなり、この平均気温が低ければこの気柱の底面における気圧は低くなると言えます。

 図4の右側には北半球の様子を経線方向の断面図で模式的に表してみました。低緯度側では気温が高いため気柱の高さ(気圧がp2となる面=等圧面の高度)は高くなる一方、高緯度側では気温が低いため気柱の高さは低くなります。両者に挟まれた中緯度地方では、気柱の上端(気圧がp2の等圧面)は低緯度から高緯度に向かって傾斜しています。すなわち、低緯度から高緯度に向かって等圧面p2の坂道が作られていると考える事ができます。この等圧面の坂道の傾きを傾圧性と呼び、この傾きが緩やかであれば傾圧性が弱い、この傾きが急になるほど傾圧性が強いと言います。


図5. 高層天気図で見る傾圧帯のイメージ図 (夏の場合)


 図5には、500hPa面の高層天気図のイメージを示しました。地上天気図は海面上における気圧や前線の分布、そして地上の各種観測値を一つの地図上に重ねて表示していますが、上空の大気の様子を示す高層天気図は等圧面上の地図を描いています。この図は500hPa等圧面上の天気図であるため、この図面上はどこでも気圧が500hPaとなります。

 この図の等値線は、気圧が500hPaとなる高度(ジオポテンシャル高度)を表しています。冬の天気予報で「上空5500m付近の寒気が・・・」と言うフレーズを良く聞くと思いますが、この「上空5500m付近」とは、500hPa等圧面の事を指しています。この高度では60m毎に等高度線が引いてあります。図5では、500hPa等圧面は日本の南海上では5940mと高くなる一方、オホーツク海上空で5520mと低くなっていますね。

 この図の場合は、青森県からオホーツク海にかけては等圧面の坂道の傾きが急となるため傾圧性が強くなる一方、華中からシベリアにかけては等圧面の坂道の傾きが緩やかになるため傾圧性が弱い事が見て取れます。また、等高度線の形に注目してみると、沿海州から中国東北部、黄海を経て華中に向かって、下(南)に凸となる領域が広がっています。これが上空の気圧の谷(トラフ)です。その直ぐ西側では等高度線が上(北)に凸となる領域が広がっています。これが上空の気圧の峰(リッジ)です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする