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計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

大気の大循環は、なぜ三細胞構造となるのか・・・

2011年05月03日 | お天気のあれこれ
【※】gooブログのサービス終了に伴い、アメーバブログに移転しています。
https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897843654.html


 世間はゴールデンウィークのようですが、私には浮かれている余裕はありません・・・。

 さて、大気大循環はどうして三細胞構造になるのか ・・・この問題もまた、私にとっては非常に悩ましいものだったので、今回取り上げてみました・・・。


図1.地球放射と太陽放射(上)、地球放射と太陽放射の熱収支(下)


 地球放射と太陽放射の関係について図1上に示しました。周知のように地球には太陽からのエネルギーが降り注いでいます(太陽放射)。その一方で地球は外部に向かって常にエネルギーを放出し続けています(地球放射)。

 図1下のグラフには地球放射と太陽放射の熱収支を示しました。赤道付近では加熱が進む一方、極地方では冷却が進む事になるので、赤道から極に向かっての熱輸送が行われます。この熱輸送の仕組みとして考えられているのが、これから述べる大気大循環です。


図2.大気大循環の構造


 当初は図2(a)のように赤道を熱源極地方を冷源とした一つの大きな熱対流が起こっていると考えられていました。しかし、実際には図2(b)のような三つの循環からなる三細胞構造だったことがわかってきました。この構造のメカニズムについて、単純化して考えてみましょう。


図3.大気大循環の水槽モデル概念図


 図2の大気の大循環を、図3のように簡単なモデルに表してみました。水槽の片側を熱源反対側を冷源としてこの水槽内の鉛直循環を考えるものです。


図4.極循環の形成メカニズム


 まずは極循環の形成メカニズムを考えてみます。図4に示したように、当初の考え方によれば、水槽の底面では空気の塊は冷源から熱源に向かって真っ直ぐに進もうとする筈ですが・・・

 ここで重要となるのが、コリオリの力です。地球上で運動する物体には、地球の自転に伴ってコリオリの力という慣性力が働きます。いま、物体が速度u[m/s]で運動している場合、コリオリの力は進行方向の右向きに作用し、その大きさは「2Ωusinφ」で表すことができます(Ω:地球の自転の角速度[rad/s]、φ:緯度[°])。

 従って、実際にはコリオリの力が働くため、空気塊の軌道は右向きにねじ曲げられていきます。この結果、90°Nからスタートした空気塊の南下はおよそ60°Nまでが限界となり、この範囲に限定した鉛直循環を形成する事になると考えられます。


図5.ハドレー循環の形成メカニズム


 続いてハドレー循環の形成メカニズムを考えてみましょう。図5に示したように、当初の考え方によれば、水槽の上面では空気の塊は熱源から冷源に向かって真っ直ぐに進もうとする筈です。しかし、上記と同様に、実際にはコリオリの力が働くため、空気塊の軌道は右向きにねじ曲げられていきます。この結果、0°Nからスタートした空気塊の北上はおよそ30°Nまでが限界となり、この範囲に限定した鉛直循環を形成する事になると考えられます。

 以上の極循環とハドレー循環のように力学的なメカニズムで直接的に駆動される循環を直接循環と言います。これに対してフェレル循環のように二つの直接循環に挟まれる事によって結果的に新たな(見せかけの)循環として生じるものを間接循環と呼びます。

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温位=ポテンシャル温度・・・これは一体、何なのか?

2011年05月02日 | お天気のあれこれ
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https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897843644.html


 そういえば・・・似たような言葉に電磁気学の「電位」がありますね。たまには真面目に気象学的な事も書いてみます・・・。

 まずは、空気塊を断熱的に持ち上げるとどうなるかを考えてみましょう。空気塊を断熱的に鉛直上方に持ち上げると、周囲の気圧が低下するのに伴って膨張します。このため空気塊自身の温度も低下していきます。この時に重要になるのが、周囲の大気の温度状態です。図1のように3つのパターンを考えてみましょう。空気塊が地上→1km→2km→3kmと上昇するのに伴って、空気塊自身の温度は30℃→20℃→10℃→0℃と低下していきます。


図1.大気の安定性


 空気塊自身の温度よりも周囲の気温が常に高い場合(a)は、空気塊は周囲よりも低温となるため、空気塊はもとの位置(高度)まで自然に戻っていきます。このような大気の状態を安定と言います。安定大気場においては、何らかの要因で空気が持ち上げられたとしても自然にもとの状態に戻ると言えます。

 空気塊自身の温度よりも周囲の気温が常に等しい場合(b)は、空気塊は周囲と同温となるため空気塊は自然にその位置に留まろうとします。このような大気の状態を中立と言います。

 空気塊自身の温度よりも周囲の気温が常に低い場合(c)は、空気塊は周囲よりも高温となるため空気塊はさらに浮力を得て自然にどこまでも浮かび上がっていきます。このような大気の状態を不安定と言います。不安定大気場においては、何らかの要因で空気が持ち上げられたとしても、そのまま空気は上昇を続けるため対流が起こりやすい状態にあると言えます。


図2.大気の安定性と気温減率


 周囲の大気の気温プロファイルを比較してみましょう。図2には、図1の安定、中立、不安定の各パターンにおける周囲の気温の鉛直プロファイルをグラフで示しました。横軸に気温、縦軸に高度をとっています。この図から、気温の鉛直プロファイルの傾きが中立の場合よりも直立に近ければ安定、中立の場合よりも横に傾いていれば不安定と言えます。すなわち、上空に寒気が入るほど、または地上気温が上がるほど、気温の鉛直プロファイルは横に傾きやすく不安定性が強まる、と言えるのです。

 以上の関係を数式で表すと次のようになります。

dT/dz < -Γd (不安定)
dT/dz = -Γd (中 立)
dT/dz > -Γd (安 定)


 ここで、Γd = g / Cp乾燥断熱減率と言います。

 図1で考察したように、空気塊が断熱的に鉛直運動をすると、周囲の気圧が変化する事に伴って膨張や圧縮をするので空気塊自身の温度も変化します。この事から空気塊自身の温度は変化の経路の影響を受けると言えます。しかし、空気塊の挙動は断熱的に行われるため、外界との熱エネルギーの授受は行われておりません。すなわち、空気塊自身が持っている熱エネルギーは常に一定に保存される筈です。このような、変化の経路の影響を受けることなく条件が決まれば一義的に定まるようなパラメータとして、気象学では次式で定義される温位(ポテンシャル温度)を使用します。これは、ある等圧面p上に存在する空気塊を、断熱的に基準気圧面p0にまで持ってきた時の空気塊の温度を表します。ちなみに、温位に近い存在としては、例えば、工業熱力学のエントロピー(dS = dQ / T)を挙げる事ができるかもしれません。

θ = T ( p0 / p ) R/Cp



図3.温位の概念


 ここでは温位の物理的な意味を考えてみましょう。図3には空気塊の断熱的な鉛直運動の際の温度と温位を比較してみたものです。両者の条件は等しいものであると考えています。空気塊が上昇すると、周囲の気圧低下に伴って断熱膨張するため、空気塊自身の温度は低くなっていきます。また、空気塊が下降すると、周囲の気圧上昇に伴って空気塊は断熱圧縮されるため、空気塊自身の温度は上昇します。その一方で、空気塊の一連の挙動は全て断熱変化であるため、外界との間での熱エネルギーの授受はありません。このため空気塊の温位は常に保存されています


図4.大気の安定性と温位減率


 続いて、大気の安定・不安定を温位を用いて考えてみましょう。図2では高度‐温度線図を示しましたが、図4には高度‐温位線図を示してみましょう。中立状態では温位が高度に関わらず一定となり、これより右側に傾けば安定、左に傾けば不安定となります。次に示す温位鉛直方向の温位傾度dθ/dzを考えると、以下のような関係が成立します。

dθ/dz = ( dT/dz + Γd ) ( p0 / p ) R/Cp

dθ/dz < 0 (不安定)
dθ/dz = 0 (中 立)
dθ/dz > 0 (安 定)

 
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熱変数の検討

2008年05月03日 | お天気のあれこれ
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https://ameblo.jp/qq-otenki-s/entry-12897843453.html


 気象予報士試験の勉強を始めたばかりの方々にとって、大きな壁となるのが「コリオリの力」「温位」と聞いた事があります。確かに、気象予報士の勉強を始めた頃は「温度」と言うパラメータがあるのに、何故わざわざ「温位」等と言う物理量があるのか疑問に感じたものです。とにかく試験に出るから、予報の現業で使っているから・・・まあ、しゃあないわ。そんな感覚で定義をそのまま暗記していたものです(最初はそれでも良いと思います)。

 あれから幾年が過ぎ、数値シミュレーションを自分で開発するようになってようやく、その意味が分かってきたような気がします。気象学とは異なる視点から、温位と言うものを考えてみると分かりやすいと思います。実際の複雑な大気現象を再現するために、小さなミニチュア模型を作る事をイメージすると捉えやすいように感じます。実際に模型を工作して実施するのが室内実験、コンピュータで仮想的に実施するのが仮想実験(シミュレーション)ですね。

 仮想的な室内実験として、キャビティの内部に乾燥した空気を充填させまた状態を想定してみましょう。下から加熱して、上から冷却すると、初期状態における温度の鉛直勾配は、(∂T/∂Z)<0となるため不安定となり、時間が経つにつれて鉛直対流が発生します。上から加熱して、下から冷却すると、初期状態における温度の鉛直勾配は、(∂T/∂Z)>0となるため安定となり、時間が経っても内部流体は静止したままとなります。(※上向きに正となるような鉛直座標をZとします)

 従って、小さな室内実験スケールのキャビティ流れを考えると

・(∂T/∂Z) < 0 ・・・ 不安定 ⇒ 対流が起こる
・(∂T/∂Z) = 0 ・・・ 中立  ⇒ 安定と不安定の境界線
・(∂T/∂Z) > 0 ・・・ 安定  ⇒ 対流は起こらない

と言う事は、想像に難くないと思います。

 ところが、実際の大気現象はと言いますと、大気が乾燥状態にあると仮定した場合は

・(∂T/∂Z) < Γd ・・・ 不安定 ⇒ 対流が起こる
・(∂T/∂Z) = Γd ・・・ 中立  ⇒ 安定と不安定の境界線
・(∂T/∂Z) > Γd ・・・ 安定  ⇒ 対流は起こらない
※Γd =g/Cp:乾燥断熱減率

となります(尚、符号の取り方によっては不等号の向きが逆になる事があります)。

 ここで注目したいのは、同じ温度Tであるにも関わらず、キャビティ流れと大気現象では中立の条件が異なると言う事です。すなわち、大気現象を解析するに際しては、温度Tに関しては、キャビティ流れと同じような感覚で扱う事ができないのです。数学的な取り扱いが異なるため、何らかの配慮をしなければならないのです(面倒くさいですね)。

 空気塊を断熱的に移動させた場合の空気塊自身の温度の変化を考えてみましょう。キャビティ流れの場合、内部の一部の流体部分を仮想的に空気塊として捉え、この空気塊をキャビティ内のどこに断熱的に移動させても、その空気塊自身の温度は変わらないと考える事ができます(つまり、この場合の温度は保存量と考える事ができます)。

 しかし、実際の大気現象では、空気塊を鉛直方向に断熱的に上下させると、周囲の気圧の影響により膨張・圧縮するため、その空気塊自身の温度は変化してしまいます(よって保存量として扱う事ができません)。この両者の特性が中立条件の相違として現れるのです。

 要するに、室内実験で扱う現象スケールでは、気圧は殆ど一定を見做す事が出来ます(無意識のうちにそのように扱っているのです)。大気現象スケールでは、気圧は大きく変化するので、空気塊の温度も熱エネルギーそれ自体に加えて、周囲の気圧の影響も加味しなければなりません。

 大気現象の数値解析は、実際の現象を模擬した小さな模型を仮想的に作って実験を行うようなものです。そしてその究極の基本はキャビティ流れに通じます。従って、大気現象における熱的効果を加味するに当たっては、実際の大気現象の温度(非保存量)を何とかして、キャビティ流れの温度のような形(保存量)と同じように扱いたいとの要請が発生します。

 この大気現象の温度をキャビティ流れのような室内実験の温度のように扱うためには、変数変換を行う必要があります。この変換されたパラメータが温位であり、この温位を用いる事により、実際の大気現象を室内スケールの模型と同じように考え、取り扱う事が可能になるのです。そんな訳で、私は数値シミュレーションの際には熱変数には「温位」を採用しています。

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モデリングの二つの考え方

2008年04月20日 | お天気のあれこれ
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 一般的に「モデル」と聞くと、雑誌の表紙やグラビアを飾るファッションモデル等を連想する方が少なくないでしょう。ところで「モデル」を辞書で引いてみると・・・

(1)型。模型。見本。
(2)手本。模範。
(3)絵画・彫刻・写真などの素材となる人や物。
(4)文学作品などの素材となった実在の人物。
(5)ファッションモデルの略。

 理系の皆様は、この他に「自然現象を模式的に表現した形」の意味も加わる事でしょう。例えば、物理現象を模式的に表現した形も立派な一つの「モデル」です。これまでにも述べてきたように、物理現象の理論的な考察とは究極的には「分解する事」と「組み立てる事」に帰着します。物理学で学ぶ様々な現象に関する知識は、分解した時の部品(現象要素)の候補であったり、またはその部品を組み合わせるための指針です。

 数値モデルはその現象を再現する模型(モデル)をコンピュータの中に数値的に表現するようなものです。モデリングに際しては、大きく二つの方向性があります。それは、複雑な現象を複雑な状態のまま解く事を目指すのか、それとも与えられた現象を簡単化して解く事を目指すのかです。いずれにせよ、本質的な基礎理論が変わる事はありませんが、諸般の条件設定が異なってきます。

 前者の立場(複雑なまま解く)はより複雑な条件設定を必要とします。実に様々な部品を同時に連立して解いていくものです。また、局地風の流れも複雑であり、風のプロファイルなどを基に境界条件を設定しようにも複雑すぎて表現は難しいものです。実際のプロファイルを見ていると、例えば、上空は西風である一方下層では東風、といった具合に下層と上層で風の流れが逆向きになる事も少なくありません。分解と組立ての視点に立てば、複数の異方向流れが多重構造を形成している場であると考える事が出来るでしょう。

 一方、後者の立場(簡単化して解く)はより簡単な条件設定を必要とします。局地気象のある特定の現象の予測・解明を行うに当たっては、本当に必要な部品は何なのかを明確にし、それらを組み合わせて独自の理論を構築する事を目指します。局地風に関しても、全体的な流れの特徴を抽出し、その特徴を模擬した簡単な流れを新たに構築する事で、局地気象の再現を試みるのです。

 そのどちらがより良いのかを一概に断ずる事は出来ません。それはモデル構築の目的と手段、そして投入しうる設備やコスト、人員等の様々な設定条件が絡んできます。モデルを構築して何を実現したいのか、その根本的な問いかけに対する答えを真剣に考えてみる事が重要でしょう。

 ただ単に、安価なコストと手軽な操作により、超高速計算による高時空間解像度と高予測精度を誇る超精密・超精巧数値モデルが実現できる事は理想でしょう。もはや言うまでも無い事です。しかし、現実問題として見た場合にこれは無理な相談です。このような理想と現実の狭間に立って、その両者の折り合いをつけながら、限られたリソースと条件の中で最適な解決策を探っていく事は、技術者の使命です。

コメント (2)
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高層天気図と上空の寒気

2005年12月29日 | お天気のあれこれ
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 冬の大雪を予想する上で、上空の寒気の動きを把握することは必須となります。この時期の天気予報では「上空5000mで-30℃の強い寒気」と言った言葉が良く聞かれるようになります。このような上空の寒気は、ニュースや新聞で目にする天気図(地上天気図)では分かりません。上空の様子は高層天気図という資料を見ることになります。

 高層天気図は上空の天気図であり、地上天気図ではわからない気圧の谷や上空の風の流れや寒気・暖気の動きを知ることができます。地上天気図は海抜ゼロ(z=0[m])の等高度面における気圧分布を示したものですが、高層天気図は等圧面上(気圧が各々850,700,500[hPa] となる面上)の高度分布を示したものです。

 この違いのイメージを図にしてみました。地上には前線を伴った低気圧が解析されています。これは海抜ゼロ面(等高度面・平面)上の気圧配置です。そしてその上層の天気図は気圧が等しい曲面上の天気図になっていることがお分かり頂けると思います。

 気圧は空気の重さであるため、等圧面の高度の高い部分(ridge)は高気圧、谷底の部分(trough)は低気圧にそれぞれ対応しています。気象データを取り扱う上で、高層天気図の概念を理解することは重要です。

 冬の天気予報でよく用いられている指標は次の通りです。

・上空500hPa(約5000~5400m)で -36℃以下・・・大雪の目安
・上空500hPa(約5000~5400m)で -30℃以下・・・雪の目安
・上空850hPa(約1300~1500m)で  -6℃以下・・・雪の目安
・上空850hPa(約1300~1500m)で  -3℃以下・・・ミゾレの目安

コメント (3)
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