静かな余生を送る晩年のシャーロック・ホームズを主人公にしたミッチ・カリンの同名小説を「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのイアン・マッケラン主演で映画化したミステリー・ドラマ。死を意識し始めたホームズが、自らを引退に追いやった未解決事件に再び立ち向かう姿を描く。共演はローラ・リニー、マイロ・パーカー、真田広之。監督は「愛についてのキンゼイ・レポート」「ドリームガールズ」のビル・コンドン。
あらすじ：海辺の家でミツバチの世話をしながら穏やかな隠居生活を送る93歳のシャーロック・ホームズ。しかし彼には一つだけ心残りがあった。それは30年前、記録係のワトスンが去った直後の出来事。ある男の依頼を受け、彼の妻の素行調査を開始したホームズは、そこで人生最大の失態を犯して引退に追い込まれたのだった。やがてホームズは、この唯一の未解決事件の謎を解くべく、探偵に憧れる家政婦の10歳の息子ロジャーを助手に迎え、再び捜査に乗り出すが…。
＜感想＞３月中旬に試写会にて観賞したもの。東北地方ではまだ上映されていませんが、忘れないうちにと。熱狂的な原作ファンを持ち、ドラマ、映画と変わらぬ人気を誇る「名探偵シャーロック・ホームズ」シリーズ。世界でもっとも有名な名探偵、シャーロック・ホームズの人物像は、２１世紀のポップカルチャーでは、マンガ的レベルの絶対的天才として描かれていることが多い。ベネディクト・カンバーバッチしかり、ロバート・ダウニー・Ｊｒ．しかり。でも、マッケランが演じるホームズは、それとはまったく違っていてもっと人間的で、ちょっとノスタルジックなんです。
本作ではもしもシャーロックが現実の世界に生きていて、９３歳の老人になっていたら？、という、オールドスクールな推理小説ファンにはたまらない設定になっていて、老境に入ったホームズを主人公にした異色の作品なのだ。
現在76歳のイアン・マッケランが、93歳の老人を老けメイクだけに頼らず、丸まった背中や言葉と言葉の間に唸りを入れる等、絶妙な造形技術で具現化して秀逸である。
ミツバチの世話をしながら穏やかな日々を過ごしている９３歳のホームズが、引退のきっかけともなった３０年前の未解決事件を推理することになる。
謎解きの面白さはもちろんのこと、死が近くなったホームズの心情に踏み込んだ物語がじつに新鮮。名優イアン・マッケランが、年のせいで、肝心の記憶が薄れていて、すでに頭脳明晰ではない名探偵を、魅力的な人物として肉付けしているのがいい。
ワトソンはいないが、キュートな天才少年が新たな名助手に、未解決事件と向き合いながら過去に想いを馳せるホームズの姿から、二つの時代を演じ分けるイアン・マッケランがさすがの貫録であります。そこから人生の光と影が浮かびあがってくる。
ワトソンが出てこない晩年のホームズの物語で、田舎で隠居生活を送るホームズは、引退を決意した３０年前の事件の記憶を手探り寄せていた。鋭い知性と観察力、直截的なもの言いが魅力の名探偵は、若い婦人の奇怪な行動を推理した時、大きな失敗をしたのだった。事実を突きつけるだけでは解決できないこと。
その事件とは、30年前のある日、1人の紳士から2度の流産のショックから奇行に走った妻の素行調査と奪還を依頼されたホームズが、なぜ、事件を未解決のまま放置してしまったのか?
その事件の再調査をするうちに、婦人が流産をした子供の墓を、夫が建ててくれないことから鬱病状態になり、独り列車に飛び込む婦人。独身のホームズには、女性の子供を失くした心情など解らないのだ。
最晩年の彼は何かを学ぶ、イアン・マッケランが見事です。後半で、「セルフィッシュ！」と自らに吐き捨てる姿に泣けた。年老いたホームズは足腰も弱り、昔は聡明で冴え渡っていた頭脳も老化には勝てず、ワイシャツの腕に忘れないようにとペンで名前を書き、一生懸命アルツハイマーと戦いながら田舎で養蜂をして暮らしている。使用人の息子のロジャーを可愛がってるし、養蜂業を教えながら蜂の生態も教える。家政婦役のローラー・リニーも上手いし、子役のマイロ・パーカーくんの演技の上手いこと。
文句を言えば、敗戦直後の１９４７年の日本に現れる９３歳のホームズが、原爆被災地の広島を訪れるのだが、樹木多く残っているのが変に見える。そこへ、真田広之が登場するなど、老境の名探偵を過去の事件や記憶が複雑に追って来る。
真田広之の流暢な英語の台詞、出番は少ないが彼が演じた役は、ホームズとある因縁で結ばれた日本人男性ウメザキを演じているのが真田さん。父親がイギリスで諜報部員のような仕事をしており、日本には帰らないでイギリスで亡くなったこと。日本で真田と食事をしたときに、山椒がボケ防止に良いということを聞き、苗木を貰って帰る。
ですが、そうした謎解きの部分よりも、引退先の田舎サセックスで養蜂業にひたる彼と下宿の女主人と、その息子との３人の関係描写が味わい深い。息子ロジャーが、スズメバチの巣を見つけて一人で退治をしようとして、スズメバチに刺されて意識不明に。それを見て、母親は危険な蜂の養蜂の手伝いをさせたホームズを恨み、それに少しずつ認知症になっているホームズの世話を嫌がり辞めるというのだ。
老人ホームへ入るのを嫌がるホームズは、少年が孫のように可愛くて、今では自分の唯一の友達なのだ。少年を養子にして自分の屋敷と土地を、お手伝いの親子に譲るという決意を固めるホームズ。
ラストで、彼が６個の石の間に膝まづくのは、亡くなった朋友のワトソンや兄のクロホード、自分の思い出の中で一番中の良かった故人を忍び、涙する場面が忘れがたい印象を残します。
山椒：
２０１６年劇場鑑賞作品・・・６６
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あらすじ：海辺の家でミツバチの世話をしながら穏やかな隠居生活を送る93歳のシャーロック・ホームズ。しかし彼には一つだけ心残りがあった。それは30年前、記録係のワトスンが去った直後の出来事。ある男の依頼を受け、彼の妻の素行調査を開始したホームズは、そこで人生最大の失態を犯して引退に追い込まれたのだった。やがてホームズは、この唯一の未解決事件の謎を解くべく、探偵に憧れる家政婦の10歳の息子ロジャーを助手に迎え、再び捜査に乗り出すが…。
＜感想＞３月中旬に試写会にて観賞したもの。東北地方ではまだ上映されていませんが、忘れないうちにと。熱狂的な原作ファンを持ち、ドラマ、映画と変わらぬ人気を誇る「名探偵シャーロック・ホームズ」シリーズ。世界でもっとも有名な名探偵、シャーロック・ホームズの人物像は、２１世紀のポップカルチャーでは、マンガ的レベルの絶対的天才として描かれていることが多い。ベネディクト・カンバーバッチしかり、ロバート・ダウニー・Ｊｒ．しかり。でも、マッケランが演じるホームズは、それとはまったく違っていてもっと人間的で、ちょっとノスタルジックなんです。
本作ではもしもシャーロックが現実の世界に生きていて、９３歳の老人になっていたら？、という、オールドスクールな推理小説ファンにはたまらない設定になっていて、老境に入ったホームズを主人公にした異色の作品なのだ。
現在76歳のイアン・マッケランが、93歳の老人を老けメイクだけに頼らず、丸まった背中や言葉と言葉の間に唸りを入れる等、絶妙な造形技術で具現化して秀逸である。
ミツバチの世話をしながら穏やかな日々を過ごしている９３歳のホームズが、引退のきっかけともなった３０年前の未解決事件を推理することになる。
謎解きの面白さはもちろんのこと、死が近くなったホームズの心情に踏み込んだ物語がじつに新鮮。名優イアン・マッケランが、年のせいで、肝心の記憶が薄れていて、すでに頭脳明晰ではない名探偵を、魅力的な人物として肉付けしているのがいい。
ワトソンはいないが、キュートな天才少年が新たな名助手に、未解決事件と向き合いながら過去に想いを馳せるホームズの姿から、二つの時代を演じ分けるイアン・マッケランがさすがの貫録であります。そこから人生の光と影が浮かびあがってくる。
ワトソンが出てこない晩年のホームズの物語で、田舎で隠居生活を送るホームズは、引退を決意した３０年前の事件の記憶を手探り寄せていた。鋭い知性と観察力、直截的なもの言いが魅力の名探偵は、若い婦人の奇怪な行動を推理した時、大きな失敗をしたのだった。事実を突きつけるだけでは解決できないこと。
その事件とは、30年前のある日、1人の紳士から2度の流産のショックから奇行に走った妻の素行調査と奪還を依頼されたホームズが、なぜ、事件を未解決のまま放置してしまったのか?
その事件の再調査をするうちに、婦人が流産をした子供の墓を、夫が建ててくれないことから鬱病状態になり、独り列車に飛び込む婦人。独身のホームズには、女性の子供を失くした心情など解らないのだ。
最晩年の彼は何かを学ぶ、イアン・マッケランが見事です。後半で、「セルフィッシュ！」と自らに吐き捨てる姿に泣けた。年老いたホームズは足腰も弱り、昔は聡明で冴え渡っていた頭脳も老化には勝てず、ワイシャツの腕に忘れないようにとペンで名前を書き、一生懸命アルツハイマーと戦いながら田舎で養蜂をして暮らしている。使用人の息子のロジャーを可愛がってるし、養蜂業を教えながら蜂の生態も教える。家政婦役のローラー・リニーも上手いし、子役のマイロ・パーカーくんの演技の上手いこと。
文句を言えば、敗戦直後の１９４７年の日本に現れる９３歳のホームズが、原爆被災地の広島を訪れるのだが、樹木多く残っているのが変に見える。そこへ、真田広之が登場するなど、老境の名探偵を過去の事件や記憶が複雑に追って来る。
真田広之の流暢な英語の台詞、出番は少ないが彼が演じた役は、ホームズとある因縁で結ばれた日本人男性ウメザキを演じているのが真田さん。父親がイギリスで諜報部員のような仕事をしており、日本には帰らないでイギリスで亡くなったこと。日本で真田と食事をしたときに、山椒がボケ防止に良いということを聞き、苗木を貰って帰る。
ですが、そうした謎解きの部分よりも、引退先の田舎サセックスで養蜂業にひたる彼と下宿の女主人と、その息子との３人の関係描写が味わい深い。息子ロジャーが、スズメバチの巣を見つけて一人で退治をしようとして、スズメバチに刺されて意識不明に。それを見て、母親は危険な蜂の養蜂の手伝いをさせたホームズを恨み、それに少しずつ認知症になっているホームズの世話を嫌がり辞めるというのだ。
老人ホームへ入るのを嫌がるホームズは、少年が孫のように可愛くて、今では自分の唯一の友達なのだ。少年を養子にして自分の屋敷と土地を、お手伝いの親子に譲るという決意を固めるホームズ。
ラストで、彼が６個の石の間に膝まづくのは、亡くなった朋友のワトソンや兄のクロホード、自分の思い出の中で一番中の良かった故人を忍び、涙する場面が忘れがたい印象を残します。
山椒：
２０１６年劇場鑑賞作品・・・６６
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