中井久夫 著
『私の日本語雑記』
著者の中井久夫は私と同年? と思いつつ、調べてみると、1934年生まれで、私より一学年下であった。その上、昨年の8月に死去されたことを知った。最晩年が、どういう情況であったかは分からない。
精神科医として活躍されただけでなく、この本の表題からも想像できるように、多岐にわたって活躍された方である。訳書も多い。
私の書棚には3冊の本がある。それぞれを購入した当時に読んだはずであるが、表題の<日本語雑記>が目に止まり、先日、帰宅した際に持参し、昨日来から今日にかけて読了。
素質も環境も、私との違いには雲泥の差がある。ほぼ同時代を生きながら、男と女の違いばかりでなく、こんなに生き方が異なるものかと思った。
著者は、小学校一年になる頃には新聞を読み始めたと書いておられる。私の幼いころは、気に入りの人形を抱っこして、ひとり遊びをしていた。すこぶる懐疑することに無縁で、あるがまを受け入れつつ生きる、ひ弱な子どもであった。
兄妹7人。母が夜、子どもたちがきちんと布団をかけて寝ているかを確かめに回ると、その気配で私は必ず目を覚ましたらしい。眠れないのかと、母が私に尋ねることもしばしばであった。私自身は眠れないと思ったことは全くなかったが、小心でどこか神経質な面があったことは確かである。
そうした人生のスタートからして、著者に比べれば、私は落伍者であった。
幼い日から、可能性をぐんぐん伸ばして生きられた著者と、可能性に対し、無欲であった私と、人の一生は様々である。
日本語に対しても、掘り下げ方が尋常でない。奥深くて多面的な知識が、日本語についての考え方を深くしている。
が、それ以上に、その生き方に感心しきりであった。
カット絵まで、著者の作品である。