先日偶然前を通りかかった僕は、部下2人と仕事の時間調整で立ち寄ることに。 モノトーンの金属ドアを開け、左手の受付で入場料を払い、更に左奥の扉の中へ。 歴史を重ねた木製品特有の臭香漂うそこではコンサートが行われていた。
太く剛性感があり余韻たっぷりの中~低音、繊細で澄み切った冬空に鏤められた星の瞬きのような高音で奏でられる Pachelbel Canon in D や Chopin Nocturn op.9-2 は絢爛で幻想的。
実は ・・・ ここのもの含む世界のオルゴール演奏を収録したディスクを持っていたりする僕は、いつかこの館を訪れたいと心密かに思っていた。
「オルゴールが発する20,000Hzを超えた高域にはリラクゼーション効果が認められている」などといった、やや無表情な女性の流暢な説明とともに、大きなディスクを前面に高々と輝かせた家具調オルゴール、引き出しにからくりを隠した自動演奏ピアノ、けたたましく懐かしい音色のストリートオルガン、サキソフォンからドラムまで多くの楽器が収まる巨大な自動演奏器などが次々と紹介されていく。
「いずれも裕福な家庭で使用されていたんだろう」などと考えていると、かつてそれぞれのオルゴールが据え置かれていた室内の様子が背後に広がっているような錯覚に陥いる。 遠い昔に主人を亡くした装置は、館内の時間軸を歪めながら鳴り響く。
自動演奏器が電圧降下を伴いながら時折無造作に放つ白熱電球の狂ったような輝き、重厚な木工空洞や響板の共鳴だけで増幅される楽曲に包まれた異空間。
時間を見計らって外に出ると、そこは真夏日。 隣の草地で木陰に佇む山羊と対面しながら、容赦なく照りつける直射日光に、なぜか 「ホッ」 として仕事に戻った。