いったい何だろう。 定価で 14 万、実売価格で 10 万ほどのこの安いスピーカーから、極めて滑らかで繊細な音が聞こえてくる。 マニアはサブウーファーを付けたがるだろうが、僕には必要ない。
それは秋葉原の某オーディオ専門店。 久々に訪れたそこの一角に、小さなトールボーイが置かれていた。
訊けば評判のモデルとのこと。 念のため聴かせてもらうと、その不格好なスピーカーから懐かしい音が流れてきた。 驚いて To France をかけると、その感覚はいよいよ確信に至る。 そう、あの音だ。
ここの名称が “ 〇〇電気 ” で統一されていた時代、たまたま店内模様替えの最中、かつてカートリッジが宝石のように並んでいたショーケースが階段近くに埃をかぶって放置されているのを見て、アナログ時代の終焉を知った。 今も鮮明に覚えているこの日、晩秋のような寂しさを感じながら、DENON のターンテーブル、audio - technica のシェル、SAEC のアームとコード、そして愛用のカートリッジで創り上げた大好きな音を捨て、CD プレーヤーの購入を決意する。 当時、僕は社会人 2 年生で、丁度デジタルへの移行が本格的になっていた時期だった。
愛用のカートリッジは SATIN M - 20 ・・・ そのガラス細工のような音が今、目の前で再現されている! 僕は迷うことなくこいつを購入し、こいつの倍の価格の SX - 700 spirit を手放すことにした。
貧相な外見に似合わず低域再生力にも優れ、Tubular Bells は、サスティンが効いたベースの、耳を圧迫する重低音がしっかりと再現される。 そんなこいつの唯一の欠点は、サランネットが固くて開けづらいこと。 実は開けるという行為をまだ達成していないのだ。(笑)
今、旧友が姿を変えてリビングにいる。 目をつぶれば、研究所の移転で某県 JR 某駅至近の 2K に転居した頃の景色 ・・・ グリーンのスイッチが光るレコードプレーヤー、端子が底面にあるプリメインアンプ、そしてブルーバッフルのスピーカー ・・・ が目の前に蘇る。