局所的には難解の極みであるが全体としてみると、資本主義を金だけで論じることのない本がやってでてきた、画期的な本といえる。
「生命の網のなかの資本主義」[Capitalism in the Web of Life : Ecology and the Accumulation of Capital ]
ジェイソン・ムーア著 東洋経済新報社刊であるが、600ページはともかくとして、税込み 4,180円は高い!
新型コロナによるパンデミック前に書かれた本であるのが残念であるが、こうした事態の予測も本質はついている。
巻頭解説を、空前の大ベストセラーになった「人新の資本論」を著した斎藤幸平氏が書いている。斎藤氏は自説の資本主義の限界と資本論の正しさを述べて本書を称賛している。資本主義は絶えず「外部」が必要なシステムであると、自説と重ね合わせて、斎藤はムーアを支持する。
本書は経済書というよりかなり哲学的で難解である。資本主義と自然は相互に貫入した存在とムーアは指摘する。安価な自然戦略が、労働生産性を引き上げる手段として商品化されていない自然を収奪してきた歴史が終末を迎えたと、現在を捉える。18世紀からの資本主義は利潤を求めて安価な自然を破壊してきた。資本は対価が支払われない自然の修復をしなければなくなっている。
これまで社会のシステム(経済活動など)は自律的なものとして存在し、自然のシステムはそれとは別に考慮に加えられるべき外的な制約条件と捉えてきたとムーアは指摘し、地球温暖化は資本主義全体にとって喫緊で直接的な脅威となっているとする。
資本主義には具体的な空間や地域や資源の広がりがなければ成長することができないのである。経済あるいは資本は、地球の資源が有限である限り、自然から制限を受けるのである。資本主義の最大命題は成長である。成長がなければ資本主義は存在しないと同じである。成長の指標は金銭的対価である。有限の空間を広げているのではなく、破壊し続けているのである。
本書は同類の現象の繰り返しを難解な表現で説くが、俗人には冗長なきらいがあり高価であることもあり、特段興味の高い方以外はお勧めの本でもない。しかし、ようやく金で資本主義を語らない本が出回ってきた感がある。