半透明記録

もやもや日記

『ブルガーコフ短編集 「モルヒネ」ほか5編』

2005年10月17日 | 読書日記ーロシア/ソヴィエト
ミハイル・ブルガーコフ
町田清朗 訳 セルゲイ・ボルシンスキー 監修(津軽書房)

《収録作品》
モルヒネ/エジプトの暗闇/赤い冠/カフェにて/丸いハンコ/ある医師の異常な体験

《この一文》

” 夜明け時のこんな夢は今まで経験が無かった。これは二重の夢だ。
  しかも、その夢の主体はガラスのようなものと敢えて言いたい。透明である。
  こういう事なのだ。ーー途方もなく明るいランプが見える。そのランプから光のリボンが色とりどりに煌々と輝いている。アムネリスが緑の羽根をそよがせて歌っている。オーケストラは、この世のものとも思えぬほどに素晴らしい響きである。
        ーー「モルヒネ」より”




巨匠とマルガリータ』のブルガーコフの短編集です。この人は元お医者でモルヒネ中毒に罹ったこともあるらしく、この短編集にはその頃の体験に基づいた初期の短編が6つ収められています。全体的に、暗いです。『巨匠とマルガリータ』においてみられるようなユーモアは、ほとんどあらわれません。僻地診療の孤独と不安、モルヒネ中毒の高揚感と絶望などなど、どんどん滅入っていくようです。作品中には「緑の灯」という描写がよく登場するのですが、私は緑色の光だなんて美しいだろうなーと思いますけれど、物語の中では何か苦しさや孤独の象徴のように表れていて少し悲しい感じです。静かで苦悩に満ちた短編集。

引用したのは、主人公の医師が中毒症状によって起きていながら夢を見ているところです。私はこの人の夢の描写がとても気に入っています。「悪魔物語」(岩波文庫『悪魔物語・運命の卵』所収)でも、「緑の草原にいる自分の前に、生き物のような巨大なビリヤードの玉が短い両足で出現するというような、グロテスクな恐ろしい夢を見た」というシーンがあります。凄いな。


ところで、この本は古本屋さんから取り寄せたのですが、開けてびっくり〈露和対訳〉版で、左頁には露文、右頁には和文という体裁でした。ロ、ロシア語が読めるようになったらどうしよう……。と、たまにやってみたくなる取り越し苦労ができたりして、なかなか良い買い物をしました。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿