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もやもや日記

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『ジーヴズの事件簿』

2009年08月27日 | 読書日記ー英米

P・G・ウッドハウス 岩永正勝・小山太一編訳
(「P・G・ウッドハウス全集1」文芸春秋)



《内容》
いかなるトラブルも瞬時に解決。適切な服を選ぶのも二日酔いの特効薬もお手の物。それが世界に名だたる天才執事ジーヴズである。気のいい粗忽な若主人バーティを襲う難題を奇策の数々で見事切り抜けてみせる活躍、よりぬきの全12篇に加え、名コンビ誕生の原型となった短編を収録。

《この一文》
“不注意にもドアが半開きのままで、二歩と進まないうちにジーヴズの言葉が僕の鼓膜を直撃した。
「すぐに分かるだろう。ミスター・ウースターは」ジーヴズは代わりの男に言っていた。「とても明るく優しい方だが、知性はゼロ。頭脳皆無。精神的には取るに足らない――全く取るに足らん」
 うむ、いったい何ということだ!
 本来ならば、すぐさま飛び込んで頭ごなしに叱り飛ばしてやるところだろう。が、ジーヴズを怒鳴りつけて思い知らせてやれる人間なんているのだろうか。僕としては、そんなことをする気持ちにもならなかった。帽子とステッキを角ばった声で命じて外に飛び出しただけだ。
  ――「ジーヴズとグロソップ一家」より ”





ジーヴズものには以前から興味があったのですが、なかなか手に取るまでには至らず、月日はただ過ぎてしまったのですが、先日とうとう読みました。

イギリスのユーモア小説として名高い、若主人バーティとその執事ジーヴズが登場するP・G・ウッドハウスによる一連の作品。今回私は短編集を読んでみたわけですが、なるほど面白い。これは毎晩ひとつずつ読みたくなるような感じのものですね。

とにかく、気さくでいい奴なんだけれど、ふらふらと遊び歩き落ち着きはなく、あまり利口とは言いがたい貴族階級の若主人バーティと、優れた知性と品格でもって彼を完璧にサポート、というよりも完全に主導権を握り主人を思うがままに誘導する執事のジーヴズ。多分、彼らの主従関係が時に逆転してみえるところが、このシリーズの面白さのひとつかと思われます。

この短編集に収められた作品では、物語は主にバーティによって語られますが、このバーティという人物はいかにもイギリス的に間抜けな人物として描かれているので楽しめます。自分でもちょっと知性が足りないかな…と自覚しているんですね。なので、どうしてもジーヴズに反抗できない。時々意地を張って反抗してみても、必ず完敗する…。しかしそんなバーティですが、優秀なジーヴズがいるおかげで何不自由なく快適に暮らしていけることは理解しているので、あっさり敗北を認めます。そのさっぱり感が好ましい。

そして問題の執事ジーヴズですが、初めて読んだとき、私はこの人があまり物語の前面には登場せず、事件の始まりと終わりの方でちょろっとしか出てこないことに驚きました。もうちょっと派手に活躍するんだと思っていたのです。正直、はじめの2作品くらいは、そのためにちょっと退屈かなと思いましたが、でもその控えめさこそがいいんだということは3作品目くらいに差し掛かるところで私にも分かってきました。何しろ彼は執事なのです。影で静かに動き回り、主人をサポートするのが役目なのです。たしかにこんな執事がいたら、快適に暮らせそうです。

あまり表に出てこないジーヴズですが、この作品集には1編だけ、ジーヴズの視点で語られる作品があって、これが新鮮で楽しく読めました。ジーヴズがどうしていちいちバーティの結婚話を妨害するのかがようやく分かった……! そうだったのか、なるほど。奥さまなんかがいたら、いいようにバーティを操ることができなくなりますものね。快適な独身者の共同生活が台無しです。にしても、ほんと思うがままにバーティを操っているなぁ。派手な格好が嫌いで、そのことで主人とやり合うジーヴズは、なんか可愛い。対立の原因となった目にするのも嫌な主人の派手な靴下やスパッツを、バーティが自らの過ちを認めて謝ってくるのを見越してさっさと処分してしまっているあたりがもうたまりません。


さて、私がここで一番面白いと思ったのは「トゥイング騒動記」というお話。
バーティの親友ビンゴがアホで面白い。このお話に関しては、本当に声を上げて笑ってしまいました。ビンゴという男は極端に惚れっぽくて、毎度そのことでトラブルを持ち込むやっかいな友人なのですが、どこか憎めない人物です。恋の障害に立ち塞がれる度に、バーティにすがり(←もちろんジーヴズの頭脳をあてにして)、うまく立ち回ろうとします。大概は努力の甲斐もなく振られてしまいますが、立ち直りのはやさだけは一級品です。
ビンゴが女の子のハートを射止めようとして企画したお芝居【やったぜ、トゥイング!】に爆笑です。いやー、ほんとバカだな、この人。



というわけで、結構楽しかったので、他の作品もぜひ読んでみたいところ。
勝田文さんがジーヴズを漫画化してらっしゃるので、そちらもいよいよ読んでみたい。勝田さんの作風はすごくジーヴズものに合うと思います! 楽しみ!

やっぱユーモアって大切だよなー。うんうん。