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『君に届け』

2009年08月04日 | 読書日記ー漫画


椎名軽穂
(集英社 マーガレットコミックス)




《あらすじ》
陰気な見た目のせいで人から怖がられたり謝られたりする爽子は、そんな自分にも分け隔てなく接してくれるクラスメートの風早くんに憧れている。明るく爽やか、誰からも好かれる風早くんの言葉がきっかけで、少しずつ爽子も変わっていき――。

《この一文》

“ …しってる?

 友達ってね

 気づいたら
 もう
 なってんの! ”




今、私がいちばんハマっているのがこの漫画、『君に届け』です。『別冊マーガレット』連載中。私はコミックスで読んでいます。

面白い、面白いという噂はずっと聞いていたので、ずいぶん前に漫画喫茶でちらっと読んでみたのですが、これが本当に面白い。ちらっと読むだけで済ませられるはずもなく、私はとりあえず1~4巻までを買い集めました。そして、4巻までを1日のうちに何度も繰り返して読み耽ったあと、我慢できずに、既刊の8巻までのうち7巻までを翌日には買いに走ったのでした(…ちなみに8巻はその日、棚に見当たらなかった! 悶絶)。

と、これがもうひと月くらい前の話で、手もとに揃えてからというもの、私は執拗に、もう何度繰り返したか覚えていないほどに再読を重ねているわけですが、この作品の面白さはちょっと普通ではありません。興奮しすぎていて、私はとても落ち着いて感想を書ける状態ではありませんでした。言葉にならない! ここまでハマるのは久しぶりのことです。今、ようやく少し落ち着いてきた。


主人公の女の子、黒沼爽子は、腰まで届きそうな真っすぐな長い黒髪、夏でも青白い肌、じっとりした眼差しのためか、学校のみんなからは霊能少女として恐れられています。「貞子」とあだ名され、誰からも遠ざけられている爽子はしかし、実はまったく霊感などもなく、一日一善をモットーとするただの大人しい、優しい女の子なのでした。
そうやってクラスで孤立する爽子に、人気者の風早くんが声を掛けてくれ、次第に爽子はクラスの中にとけ込んでいけるようになります。爽子は親切な風早くんに憧れを感じるようになりますが、風早くんは本当はずっと前から爽子のことを気になる相手として見ていたのです。

とまあ、これがプロローグです。当初は1話読み切りの予定だったそうです。プロローグの部分だけを読むと、目立たない女の子が素敵な男の子と出逢って……という、いかにも少女漫画らしい物語と言えましょう。

しかし!
しかし、この漫画が真に面白さを発揮するのはむしろこの後です! 私はとくに1、2巻を重点的に読み返しているのですが、本当に、この1、2巻の出来は素晴らしいです。ここだけでも読む価値あり、大ありです。

「すごく大切な友達」と言った時に、思い浮かぶ顔がいくつかあるという人にとっては、この1、2巻における爽子と吉田さん、矢野さんとの友情の物語は心に響くのではないでしょうか。私は、私の青春時代が何度もフラッシュバックして、涙を止めることが出来ませんでした。なんだか分からないけど、趣味とか思想とかも全然違うんだけどすごく好きになった友達がいて、けんかしたりもしたけど、やっぱどうしても好きでたまらないという、そんな友達がいる人には全面的におすすめしたいですね。心が洗われますよ。

ひとりでいることが当たり前のままで高校1年生になってしまった爽子には、友達がいる、仲良くしたい人がいるという状態がどういうものなのかよく分かりません。それゆえ、ほんのささいなことですれ違ってしまった心を、どのようにふたたび通わせられるかも分からなかったりするのです。でも、それが分からないのが爽子だけではなくて、矢野さんや吉田さんたちもまた実はよく分かっていなくて――という、誰かと友達になるってどういうこと? という問題を丁寧に描いてあります。

たまたまそこにいたから、たまたま同じクラスだったから。誰かと友達になるきっかけは大抵はそういうものだと思います。しかし、たとえば互いの意見が食い違ったとき、相手の考えが理解できないとき、ぶつかったり傷つけたり傷つけられたりしても、それでも友達でいたい! そのために自分はどうしたらいいのだろう? と思ったり悩んだり出来るかどうかが、一生ものの友達を得られるかどうかの瀬戸際のような気がしますね。そういう経験を通して、大切な友人というのは、人間関係における重要なことをたくさん教えてくれるものだと思われます。
当たり障りのないことを言ってやり過ごすことも出来るのに、あえて厳しいことや嫌なことを指摘してくれる、それが自分のことを想って言ってくれているのだと分かる、そういう信頼出来る友人を得るというのは、なかなか難しいことなんですね。もしそんな友達がいたら、それは大切にしなくてはなりません。

というわけで、1、2巻はほんとうに素晴らしい。


それから、この作品の大きな魅力としてはもうひとつ、主人公の爽子のキャラクターの良さというのがありますね。この爽子という女の子は、本当に、まったくもって、可愛い。保護欲をそそられるというのはこういうことなのでしょうか。彼女はいつもひとりっきりなのですが、とにかく地味ながらもとてもポジティブで、何事においても楽しみを見いだし、丁寧に丁寧に生きている感じがしてたまりません。なんて可愛いんだろう。しかも、そうやって、知れば知るほどに保護欲をそそりまくる爽子なのですが、彼女は全然ひとりでも立派に頑張れるんですよね。そのあたりが超絶的に爽やかで美しい。だけどやっぱり見た目は陰気でホラー、とらえどころのない雰囲気で描かれ続けるという、その落差がいいんです。見る人が見れば可愛い…みたいな。マニア心を刺激するというか……。

読者は、この爽子のまっさらな視線を通して、世の中を新しく見直すことが出来るようです。ちょっとした言葉のやり取りが、心の触れ合いが、すごく温かいものであることとか、当たり前だと思っていたことの数々が、他の人からするとそれほど当たり前でもないことが分かったりとか。


物語は進むにつれて、爽子と風早くんのロマンスも進行していきます。ふたりのはにかみっぷりが、またいじらしい。あとついでですが、爽子たちのクラスの担任の荒井先生(通称ピン)が面白くて、私は好きです。この人が出てくる時のギャグ加減もまた、この作品を面白いものにしていますね。というか、この作品は、本当に登場人物がみんな魅力的です。青春っていいなぁ、友情って素晴らしいなぁ、という清々しい気持ちにさせられますね、いやもう実にこれは。

8巻以下続刊で、作者の椎名先生は現在産休中とのこと。ゆっくり休養なさってくださいと思う反面、はやく続きを描いて下さい~~! とお願いしたくもあり…いや、気長に待ちますけど ^^; は、はやく……!