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『恋文日和』

2009年01月14日 | 読書日記ー漫画


ジョージ朝倉(講談社)



《あらすじ》
図書館の本に隠された手紙、風で学校の屋上まで飛ばされてきた手紙、FAX、携帯メール、ビデオレター、交換日記。さまざまなやり方で交わされる、さまざまの恋文を描く短篇集。


《この一文》
“ 君は雪だ
 僕を白く冷たく凍てつかす雪だ。
   ――「図書室のラブレター」(第1巻)より ”


つい魔が差して、3巻まとめて買ってしまった。
いや、好きなんです。私は前からこの短篇集が好きで、そもそもジョージ朝倉さんが好きなんです。『少年少女ロマンス』とかは買って持っていますが、とんでもなく弾けていてすごく好き。でも、この『恋文日和』は、好きだけど買えなかった。なぜって………。

ジョージ朝倉という人の魅力がどこにあるかというと、それはたぶんハチャメチャで強引な展開と、それを支える思い込みの激しすぎる登場人物、にもかかわらず読者の心を掴んで放さない力強く美しいモノローグではないかと。荒っぽい画風(初期では特に。最近はかなり上手くなってしまって逆に寂しい気もする)と、過剰にロマンチックな設定のミスマッチがたまらない。個人的には、この人は長編よりも、中編あるいは短編でより活きる人なのではないかと思いますが、いかがでしょう。

で、『恋文日和』であります。
私にはいくつかお気に入りの話があり、第1巻の最初「図書室のラブレター」などは、かなりキました。これはくるでしょう。
図書委員のリリコはある日、返却された本の間(その本は彼女がついこの間読んだばかりの本)に自分宛の手紙がはさまれているのを見つける。差出人が分からないまま、お互いに好きな本を教えあって、手紙のやりとりを続けるのだが――というお話。ぐはっ。
「僕は」なんていう手紙を貰ったら、きっと素敵でしょう。私もそんな手紙が欲しい。そんな恥ずかしいことは出来ないなんて言わないで、私のために書いてほしい。そして私が読んだあとに君も読んだその本の間にはさんでおいてください。そうしたら私は君のことをもっと深く知ることができるのではないかな。

そう言えば、私が好きだからという理由で、シュトルムの『みずうみ』や三島由紀夫の『憂国』を読んだ人のことを思い出した。私のことが知りたくて、私の好きな本を読んでみる。そのことに私はどんなに打たれたか分からない。そんな人ははじめてだった。すぐに好きになってしまった。今でも好きだ。K氏のことだ。
あとになると、そうやって私に近付いてくれる人はたくさん現れた。そのたびに私は心を動かされたものです。男女を問わず、そんなふうに私を分かろうとしてくれる人にたいしては、ちょっと気恥ずかしいような、胸がいっぱいになるような、感謝が湧いて出ます。すぐ好きになって、やっぱり今でも好きです。あなたのことです。

というわけで、このお話は素敵ですよ。謎の差出人はSF好きというところがツボ。『スラン』は私も読んでみたいのでした。

第2話「あたしをしらないキミへ」(第1巻)、第6話「真夜中のFAXレター」(第2巻)もなかなか。少女漫画らしい爽やかさで良い感じです。

映画化もされたこの『恋文日和』という連作短篇集は、間違いなくジョージ朝倉氏の出世作と言えるでしょうが、その地位を確実にしたのは次のこの作品でしょう。

第8話「イカルスの恋人たち」(第2巻)。
私は最初にこの話を読んだ時、涙が止まらなくて、哀しくて美しい物語に驚きました。あんまり泣けてくるので、その当時はコミックスを買って所有するのは断念しました。しかし先日ふとまたこのコミックスが目にとまり、私は懐かしく思うと同時に、そもそも私は何にでもすぐに泣いてしまう質ですから、「前のはちょっと気のせいだったかも」と考えて買ってみることにし、さっそく読み返してみましたが、やはり涙が止まりませんでした。確認のためにもう一度読み返しましたが、結果は同じでした。
やたらと涙が溢れ出てきて困ります。

「イカルスの恋人たち」の完成度は異常です。どこからこんな物語が浮かんできたのでしょうか。咄嗟にこの物語の面白さを理解することは出来ません。ただ、何か押し流されるように、圧倒されるだけです。どうしようもなく哀しい物語ですが、そのためにかえって美しいという。落ち着いて考えれば、わりと単純なありがちな設定かもしれませんが、しかしここにはただならぬものが確かにあります。

両親の愛を一身に受けた出来のいい兄が病気で死に、形見分けとしてデジカムを貰おうとケースを開けた健二は、そこに兄からの手紙を見つける。そこには1本のビデオレターが同封されていて、それを恋人に渡してほしいと書かれていた――というお話。

終わったところから始まっているのが、この作品を得難いものにしているようです。兄の康一は死んでしまっていて、すべてはもう遅いようにも思えるのですけれど、それでも、それでも……何だろう。私はそれが何なのかよく分からないんだけども、あ、だめだ、涙が考えることを妨害しやがる。

『イカルスの星』という越路吹雪の歌が作中で歌われています。こちらもむやみに美しいイメージの歌。その歌詞が効果的に使われているので、いよいよ涙が。

私は泣きますが、でも、この涙はなんというか、登場人物に感情移入してとかいうよりも、そもそも私から出てくるというよりも、私を通り過ぎる何か美しいものを、私自身では受け止めきれなくて、余ったものとして、溢れるものとして静かにこぼれ落ちていきます。
漫画を読んでいるとときどきそんなことがあるので、私はどうしても読むのをやめたくないのでした。

結局は、買って良かった。