古今亭志ん生 (ちくま文庫)
《内容》
「あたしはちょうど、うちにおったなめくじみたいに、切られようが突かれようがケロンとして、ものに動ぜず、人に頼らず、ヌラリクラリとこの世のなかの荒波をくぐり抜け・・・」(本文より)。酒がいっぱいあるということで満州行を決意した話など、酒、女、バクチ、芸をしみじみと語り、五代目古今亭志ん生の人柄がにじみでた半生記。
《この一文》
” 地面がひくくって、ジメジメと湿気が多いもんだから、ナメクジ族にとっちゃまたとない別天地・・・雨あがりのあとなんざァちょうど、日本海軍がはなやかだったかつての大艦隊のように、戦艦、巡洋艦、駆逐艦、潜水艦と、大型小型のいりまじった、なめくじ連合艦隊が、夜となく昼となく、四方八方からいさましく攻めよせてくる。
そればかりではない、夜になると、蚊軍の襲撃がまたものすごい、ものを言うてえと、ウワーと口の中へ蚊の群がとびこむんで、口をきくのも飯を食うのも、すべては蚊帳の中というしだいで、その防戦にはイヤハヤなやまされたもんですよ。
---「まくら」より ”
予約してあった本を借りに図書館へ行ってふと目に止まったので手に取ったが最後、ついそのままそこで読破してしまいました。
大変に面白いです。
以前から読んでみたいとは思っていたのですが、はやく読めば良かったです。
落語家特有の語り口というか、江戸ことばというか、すらすらと読んでしまいました。
志ん生さんというのは非常にエネルギーに満ちた人だったのだな、と感服しました。
芸で身を立てる人というのはこうでないといけないのかもしれません。
酒ばかり飲んで、借金もあって、借家も追い出されて・・・と次々と苦労の種が増え続けるのに何とか乗り切る姿はほとんど感動的です。
それにくらべると、私は明日の御飯を心配する必要もないくらい恵まれた生活を送っていながら、随分と消極的過ぎて、チャンスを見逃していることも多いのだろうと激しく反省しています。
私にはエネルギーも信念も足りません、そろそろ覚悟を決めなければならないでしょう。