ガルシア=マルケスほか 木村榮一ほか訳(福武文庫)
《内容》
浜辺に打ち上げられた巨大な物体。絡みつく
藻やゴミを取り除いて現われた水死体のあま
りの美しさに、村の人々は息をのみ、何くれと
なく世話を焼く。ガルシア=マルケスの表題作
「美しい水死人」をはじめ、17人の作家が、独特
の時間の流れの中に織りなされる日常と幻想
の交歓を描く。豊穣なラテンアメリカ文学の
薫りをあますところなく伝える短編集。
《この一文》
” 誰の言うこともきかず、ふざけていたずらばかりしていた。来客があると、その人の鼻をねじってみたり、玄関先に集金人が現われると平手打ちをくらわせたりした。また、自分のことを知らない人がやってくると、わざと、目につくところに寝そべって<死んだふり>をするのだが、そのあとだしぬけに卑猥な指形を作ってみせた。かつての主人である司令官の顎を軽く叩くのがひどく気に入っていたが、蠅がうるさくまとわりついたりすると根気よく追い払ってやったものだった。司令官は出来の悪い息子でも見るように、そんな手をうっすら涙を浮かべ、やさしい目でじっと見つめていた。
-アルフォンソ・レイエス「アランダ司令官の手」より”
買ったのはもう随分と前のことですが、貴重な一冊です。
ラテンアメリカ文学をまとめて楽しむことができます。
他ではあまり読めないような作家も取りあげられているので、かなりの価値があります。
引用した「アランダ司令官の手」は、この本の一番最初に収められているのですが、初っ端からものすごい衝撃でした。
アランダ司令官は戦闘で右手首を失ってしまうのですが、記念としてその右手を大切に保管していたところ、実はまだ右手は生きていて、そのうち自我を持ち、好き勝手に動き回るようになった、そして--。
すごい設定です。
そして結末にまたびっくりです。
何度読んでも面白いのでした。
他にも、フアン・ルルフォ、ガルシア=マルケス、カルロス・フエンテス、ビオイ=カサーレス、フリオ・コルタサルなどなど、豪華絢爛の構成となっています。
全ての物語がはずれなしの面白さなのでございます。