SEALDsは強行採決の数日前から立て続けに、新聞に意見広告を出した。最後の広告が参議院の強行採決の朝ならば最高にかっこよかったのだが、その前日、“最後”の安保法案反対抗議集会の日にその広告は掲載された。
メインコピーは「民主主義は止まらない」。そして「それを望む人たちがいる限り」のサブコピーが添えられている。
言うまでもなくこれは彼らが参加者に提供していたプラカードの文言、「WAR IS OVER(IF YOU WANT IT)」の意訳であろう。
これはベトナム戦争の真っ只中にジョン・レノン、小野洋子とともにポスターや看板の形で世界11都市に貼られ、掲示された意見広告で、アート作品である。このインパクトが強い言葉とデザインは多くの社会運動のメッセージやプラカードのビジュアルとしてインスパイアを与え続けている。当然3.11以降の反原発運動でもこの言葉を活用したプラカードは数多く見られた。
英語とはいえ、日本人の誰にでもわかりやすく、伝わりやすい言葉である。
この作品が発表された69年、70年前後はとても「WAR IS OVER(戦争は終わった)」といえる状況ではない。だからこそメッセージは「IF YOU WANT IT(君が望むのならば)」と続く。その言葉がなければメッセージは勿論成立しない。
ここでは「WAR」となってはいるが、主語を置き換えることでこのメッセージは人々の希望や願い、怒りの表明する普遍的なフォーマットになっている。
大事なことは「望むこと(IF YOU WANT IT)」で、オレたちは「それ」を望み、求め続けなければならない。
20時を過ぎ、SEALDsがリードする抗議集会が行われている中、ふと周囲を見ていると BRAHMANのTOSHI-LOWの後ろ姿が見えた。間もなくイースタンユースの吉野寿が現れ、TOSHI-LOWとツーショットで写真を撮っていた。吉野はいつもの変顔だ。彼らは表立ってプロテストを表明するミュージシャンが少ない日本の音楽業界の中ではっきりと意思表示を続ける本物のロッカーズである。
勿論3.11以降の様々な場面で出会ったきた人たちがその場に集まっていた。
30分ほど過ぎ、集会のリードグループが入れ替わるために、国会正門前の先頭付近には一瞬の静寂に包まれる。怒りのドラムデモで、昨年の特定秘密保護法反対運動をオーガナイズした中心人物のひとりである井手実が、平野太一に声をかける。平野もまたtwitnonukesや初期の反原発首都圏連合などで3.11以降の社会運動を現場でリードしてきた男だ。
SEALDsは確かに若者だが、3.11以降のキャリアがあるとはいえ、彼らだってまだ若い、希望のある青年たちだ。
「入れ替わりの合間だし、やってもいいんじゃないか?」
井手が平野にコールのリードを促す。
そして平野はトラメガの位置を確認してマイクを握り直すと、あのいつものエモーショナルで切迫した声でコールを始めた。周囲は一気にレスポンスで沸騰する、
リードする平野の声を聞いていて、2011年の春を思い出し、少し感傷的になり胸が熱くなった。やはり“オレたち”はこの声から始まってここまでやってきたのだ。
しばらくコールが続いた後、オレはコールの直前に平野から預かっていたビデオカメラをC.R.A.C. の人間に託すと、後方へ動き始めた中核派の幟旗を追いかけた。
感傷的になるのは一瞬だけでいい。
それから4時間後、安保法案は参議院で強行採決された。民主党の福山哲郎は採決前の反対討論で一世一代とでも言うべき、実に熱く、怒りに満ちた、そして人間味に溢れる演説を行った。与党や賛成野党によって都合良く15分に縛られた討論時間は当たり前のように破られた。奴らは勝つためにルールを作り変え、悪用し、オレたちは負けないためにルールの隙を突き、突破していく。
それは来るべき参院選、そして安倍政権打倒に向けた狼煙であることは間違いがない。
シルバーウィークに入り、全国各地で安保法案反対のデモや抗議集会がさらに拡大し続けている。「民主主義は止まらない」というのはきっとそういうことだろう。
昨日、国会正門前の抗議でついた靴の泥を洗い流し、オレは六本木へ向かった。
オレはオレが何を求めているのか知っている。
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