徒然地獄編集日記OVER DRIVE

起こることはすべて起こる。/ただし、かならずしも発生順に起こるとは限らない。(ダグラス・アダムス『ほとんど無害』)

スピリットとアティテュードが生まれる場所/代官山 春のドキュメンタリー映画上映会

2019-04-14 17:45:34 | News

金曜日は<晴れたら空に豆まいて>の「代官山 春のドキュメンタリー映画上映会」http://haremame.com/schedule/66254/
今回は『STANDARD』の他に、ラファエル・カルデーナス監督『ランドスケープス&ランド・ドゥウェラーズ』(2018年)、アキラ・ボック監督 『アワ・マン・イン・トーキョー ~ザ・バラッド・オブ・シン・ミヤタ』(2017年)も上映された。『ランドスケープス〜』はロサンゼルスの下町を撮影した10000枚のコマ撮り画像で構成される実験映画。『アワ・マン・イン・トーキョー〜』は、レコード会社勤務を経て、長年に渡りプロモーター、ディストリビューターとしてチカーノミュージックを日本に紹介し続ける宮田信(MUSIC CAMP, Inc. / BARRIO GOLD RECORDS)を描いている。それぞれ8分、16分と共に非常に短いドキュメンタリー作品なのだが、共通点として<全米最大のメキシコ系アメリカ人コミュニティ>イーストLAが舞台となり、映像からは一台のカメラを通して、そしてひとりの日本人を通して、コミュニティとカルチャーに対する情熱が溢れる。


隣人を攻撃することでしか自らのコミュニティを維持できないこの国では、クールとは「かっこよさ」を指すのではなく、つまらない保身のための冷笑でしかない。相変わらず大きくて陳腐な物語はもてはやされるが、人々のロマンチックな物語は顧みられない。
2019年のこの国で、たぶん、最も価値のあるものは人々の情熱である。ホットでないものに何の意味があろうか。

宮田信は彼の地で「スピリットとアティテュード」を受け取ったのだという。そしてチカーノミュージックを媒介に、この国にロマンチックな場所を作り、それを押し拡げるためにこの東京で活動を続けている。
スピリットとアティテュード、そしてロマンチック。
人々が生活する場所にはスピリットとアティテュードがあり、それぞれが出会う路上ではロマンチックな物語が育まれる(甘い、という意味ではなく)。それは今回、光栄にも同時上映させていただいた『STANDARD』にも通じているのだと思う。

制作スタッフのひとりとして、これまでの制作過程や上映会で何十回と観てきた『STANDARD』だが、今回の上映会で新しい意味合いを持って観ることができた。「路上を取り戻す」のは人々の情熱とカルチャーの力であることを改めて確認できたように思う。
人生においてロマンチックな場所がある人は幸いだ。それは音楽や映画、アートからスポーツまで、カルチャーの場であることが多い。単に体験するだけではなく、参加しなければ何も起こらないということである(今日のエコパスタジアムのゴール裏は、きっと最高にロマンチックな場所だっただろう)。
『STANDARD』もそんな映画であり、「場所」であって欲しいと思う。

参加者の皆さん、晴れたら空に豆まいてのスタッフの皆さん、DJ HOLIDAYさん、TRASMUNDO DJsさん、そして宮田信さん、ありがとうございました。

次は名古屋です。

次回上映情報
【名古屋】
TwitNoNukes presents 映画『STANDARD』上映会
5月18日(土)
会場: spazio_rita (名古屋市中区・矢場町駅)
開場:17:30 上映:18:30(予定)
※上映+トークショー+DJを予定。詳細は後日発表されます。

フレッシュであり続ける不幸/ZINE『SELL FEE』

2019-04-07 14:01:43 | News

水曜日。平野太一君のZINE『SELL FEE』を購入するために下高井戸のTRASMUNDOへ行く。『SELL FEE』はすでに4店舗ほどに置かれているのだが、TRASMUNDOでは『TRASMUNDO RADIO VOL.26「SELL FEE」feat. 平野太一、ドンババ』のCDが付録として付いてくる。ショーケンが亡くなったことが報じられた深夜に収録されたということで、本当にできたてのCDなのだが、『SELL FEE』の内容そのものについてというよりも、3.11以降の社会運動、その周辺についてスタンスの有り様を語り合い、それにまつわる音楽を聴いていくという趣向である。

一年前のGalaxyでの初上映をはじめとして、これまでもTRASMUNDO DJsとして『STANDARD』の上映会にご協力いただいてきた店主の浜崎伸二さんにも改めてご挨拶し、少々話を伺う。
3.11の年、浜崎さんはデモには行かずに店を開き、迷っていたり、悩んでいるひとたちと語り合っていたのだという。もちろん、あの当時のように、居ても立っても居られずに路上に飛び出すような瞬発力や突破力は必要だが(浜崎さん自身も4年後にSEALDsが呼びかけた国会前抗議には参加している)、まずは誰かと話したいという人たちにとっての「場所」も、やはり必要だったのかもしれない。レコード屋であり、古本屋であり、Tシャツ屋でもあるTRASMUNDOは、あの当時から抗議の「場」とは違う、「場所」を支え続けてきたのだった。抗議の場は状況によって変化し続けるものだが、その一方で、下高井戸の変わらぬ場所が「新しい人たち」を生み、路上での行動をつなぎ続けてきたのだ。そういう意味で「カルチャーが支えてきた」と浜崎さんが誇らしく言うのも腑に落ちる。

そして、平野君の『SELL FEE』。映画『STANDARD』の制作過程などの一部分はすでにweb上で公開されているものだが、書き加えられた言葉と内容はかなり衝撃的だ。作為のなさが嘘のなさに通じるのかはわからないが、少なくとも彼の言葉には借り物の言葉がない。偽るための言葉もなければ、彩るためだけの言葉もない。剥き出しの言葉である。
彼の言葉の印象ははじめて路上で出会ったときから、エモーショナルで喚起力のある天才的なコーラーだったのだが、極私的な内容と表現からその印象が蘇ってくるようだった。

映画の撮影の過程で福島と沖縄を訪れる中で、あのとき、あの場所で置き去りのままになる自分、そしてそれでも生きていかなければならないと前へ進む自分を見つける。
映画『STANDARD』が8年前のことを描きながら、まだまったく古びずに、フレッシュさを保ち続けているのは、自分たちはあの日のままに置き去りとなり(3.11? 2011年6月? 2012年12月? 2013年9月? 2013年12月? 2015年9月? どれも最悪だ!)、それでも生きていかなければならない、引き裂かれた状況が続いているからなのだろう。
それが作品にとって幸福なことなのか、不幸なことなのはまだわからない。

今週は東京・代官山、来月は名古屋で上映会が開かれます。実は昨年末から公開されている新バージョン(おそらくこれにて完全版)はまだ観ていないのでオレも行く予定です。

■ZINE『SELL FEE』販売店舗
【下高井戸】TRASMUNDO
【吉祥寺】uplink吉祥寺
【新宿】ブックカフェ オカマルト
【目白】ポポタム
※在庫切れなどの可能性もあり。

■『STANDARD』上映情報

【東京】
代官山 春のドキュメンタリー映画上映会
4月12日(金)
会場:晴れたら空に豆まいて
開場: 18:00 上映: 19:45
予約: 1800円(+1D) 当日: 2000円(+1D)
DJ:DJ HOLIDAY、TRASMUNDO DJs、宮田信
予約03-5456-8880
※都市辺境、洋楽インディーズ、社会運動…『STANDARD』と併せて3つのドキュメンタリー映画が上映されます。

【名古屋】
TwitNoNukes presents 映画『STANDARD』上映会
5月18日(土)
会場: spazio_rita (名古屋市中区・矢場町駅)
開場:17:30 上映:18:30(予定)
※上映+トークショー+DJを予定。詳細は後日発表されます。