黒田 生きる力っていえば、いつから現代っていうのかわからないですけど、明治維新以降どんどん弱くなっているのは確かでしょう。維新っていう言葉があるけど、本当に維新されたか、それも疑問ですけどね。みんなが知っている人の名前でいうと、坂本龍馬とかあの辺のやつらの頃はまだ、生きる力っていうか、原始人の血が少しは流れていた人間たちだと思うんですけど、それから文明開化以降ね、機械に全部委ねてしまって生きる力も糞も、もう命渡してしまっているわけだ。通信機器だって、今携帯電話に委ねてしまっているでしょう? 俺は別にどうでもいいんですけども、人のことなんかかまってないから何も言いませんけどね、俺は(携帯電話は)持たない。面倒くさいというのと面白くないね。何でそんなにみんな連絡し合わないかあかんねんと俺思うから。何も持ってないよ。時計もないし、手帳もないし、電話帳もないよ俺。でも不自由したこと一回もないもん、それで。うん、全然。(中略)でも携帯電話を持ってる人を俺は別にバカにしないし。昔からそういう主義でね。俺は俺だと思っているから。でも、あえて生きる力っていうことになれば、その分だけ死んでいると思う。耳取られてるいるのと一緒やもん。口取られているのと一緒じゃない。時間だって、体内時計を引き渡しちゃっているわけでしょ。かゆくならないのかと思って(笑)。
(中略)
--では健康診断とか、人間ドッグみたいなのは一回も行ったことがないと?
黒田 俺は行ってませんよ。その代わり、俺のチェックはある。
藤堂 自分なりの。
黒田 階段が4段ずつ上がれるかとかね。今でも俺は東京での仕事場は3階にあって、エレベーターも何もないんですよ。俺は東京にいる限りは、それを3階から1階に降りて、また4階までを、1日に何十回は無理だけれど、10回はやるのよ。電話すんのが面倒くさいから。元々電話嫌いだから。なぜかって言うと見えないでしょ、相手が。俺、嫌なんだ。だから、俺の事務所の電話の受話器を見て下さい、包帯だらけです(笑)。電話なんか、携帯電話なんか俺に持たせようとした人が、何人もいるんだけど無理、たぶん、投げる。嫌いなんです。体でできることは体でやりたい。ですから、例えばアシスタントいませんからね。どんな仕事しても、自分で片付けて、それで筆も全部自分で洗って、それで次にビールを飲むのがうまいんだ。おいしいとこ、なんでアシスタントかなんか知らないけど、やらさにゃいかんの。
--それがおいしいところなんですね。
黒田 うまい。それが俺の運動なわけや。ですから、何か描きたいと思って、資料を探すときも自分で走って行かないと気ィ済まへん。ゾウを描きたいときに資料を探すアシスタントに「こらっ、走れ」って言うわけです。待っている間に、俺の中でゾウがウサギになってしまっているわけです。ですからプレゼンテーションとか、アイデアスケッチとかは俺はできないんです。例えば対談でも事前の打ち合わせは一切ない。俺、絶対嫌なんです。打ち合わせ通りにやるなんて、俺は。そんなの嘘でしょ。
藤堂 違っていいものね。
黒田 嘘でしょ。テレビも俺よく出てたけど、出なくなったのは面倒くさいからもういいよって。もう出たくない、そんなのは。ですから、生きるってことを合えて言えば、生まれた瞬間から死ぬまでが1つのライブなんだよ。で、それを突き詰めていったら、1日についていえば、朝起きた時から寝るまでが一回りで。その間、やっぱり俺は俺なりにフル回転でいたいのね。無駄なことはしたくない。この無駄なことをやっていくとね、周りから見たら黒田ほど無駄なことをしているヤツはいないと。いまだに飲みだしたら、時間で飲みますから、夕方の4時であろうが、5時であろうが、始まったら朝方失神するまで飲み続けるから。
藤堂 それも変わっていない(笑)。
黒田 変わっていない。今でも気合い入れたらダブル2本くらいいきますよ。でも俺にとっては、それはすごく大事なことなんだよ。だから他人から他人のスケールで俺は量られたくないっていうことなんです。俺なりに一日を一生懸命生きたい。それも加熱するところから冷静の間を、できたら高速で回転しながら生きたい(笑)。で、寝る時に、眠りに落ちる瞬間に、「ああ、今日も良かったな、もういいよ、寝よう」と寝る。それで、起きたときには張り切って起きたい。「何かいいことあるよね」っていう感じで。だから一緒に伴走する人は、無理だね。俺はしんどくないんだもん、全然。朝起きて、ゆっくりベッドでっていうことはない。もったいないなあって。俺は東京では事務所で寝るんですよ。寝袋で。
--寝袋ですか。
黒田 今でも一番便利なんだもん。金かからないしね。金ないからね、いつもね。金は通っていくけど(笑)。ハッと起きた瞬間に、俺、描くの好きだから、それで朝起きた時が一番描いてていいんです。
--それは前日完全燃焼しているってことが前提なんですね。
黒田 だってせっかく生まれてきたんだからね。もったいないよ。活字になったらキザかもしれないけど、俺はもう一回生まれ変わっても、黒田征太郎をやりたいです。だってもう、やりたいことめちゃくちゃ多いから。これもしたい、あれもしたい。
中洲通信2005年6月号 特集「ライブペインティングという生きる力」より