本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

薄情

2018-08-05 07:46:55 | Weblog
■本
62 薄情/絲山 秋子

 最近、ミステリーやコミカルな要素の作品も発表されていてどんどん作風の幅が広がっている印象を持っていましたが、この作品はオーソドックスな純文学で、古くからの絲山秋子さんのファンも安心して楽しめる作品だと思います。毎度毎度くどいほど述べていますが、簡潔で鋭い文体がとにかく格好良くてしびれます。主人公は仕事に対しても恋愛に対しても煮え切らない思いを持つ、結構面倒臭い人間ですが、それでもぶれない確固とした価値観を持っていて、どこか憧れてしまいます。この作品は地方における、地元民とよそ者との関係がテーマの一つですが、地方で生活する人間の葛藤を描きつつも、よく似たテーマの作品にありがちな、ベタっとした印象は全くなくとにかくクールです。優しくも清廉でも強くもなくとも、人はある程度の諦めを抱きつつ覚悟を持って生きていけるんだという不思議な希望が感じられる作品です。


■CD
11 Tomorrow's Modern Boxes/Thom Yorke

 2015年に発売されたトム・ヨークのソロ2作目です。CDでは手に入りにくかったり、高かったりしたのですが、ようやく輸入盤が手ごろな価格になってきたので購入しました。発表当初にストリーミングサービスで何度か聴いていましたが(それもいつのまにか聴けなくなっていましたが)まさにトム・ヨークワールドと言える作品です。ミニマムな音世界にどっぷりと浸れます。最近のレディオヘッド作品の、緊張感と開放感のバランスのとれたサウンドも好きですが、ソロ作品のトム・ヨークの声も含めて一つ一つの音が緻密に計算された神経症的な世界観も魅力的です。


■映画 
58 インサイダー/監督 マイケル・マン
59 未来のミライ/監督 細田 守

58 あまり期待していなかったのですが、ジャーナリズムの光と影をドラマティックに描いた骨太の作品で面白かったです。アル・パチーノが、清濁併せ吞みつつ筋を通す男気のある番組プロデューサー役をとにかく格好よく演じています。マッチョな役が多い印象のラッセル・クロウも、所属していたタバコ会社の不正を告発する元副社長の不安定な心境を繊細に演じていて好感が持てます。一方で魅力的な女性登場人物がほとんどおらず、男性が美化され過ぎている気がします。説教臭くなく職業倫理やそれ以前の個人的な仕事に対する美学について考えさせられる作品です。

59 先祖や家族と自分についての関わりについていろいろと考えさせられる悪くない作品ですが、細田守監督作品に求める観客の要望と微妙に合っていない気がしました。もちろん、観客の期待に迎合し続けることはクリエイターとしての成長を阻害することだとはある程度理解しつつも、その期待のすかし方がこれまでの作品と微妙に違った気がします。「サマーウォーズ」や「おおかみこどもの雨と雪」は、これまで観たこともない斬新な設定とストーリー展開にとにかく度肝を抜かれましたが、この作品は未来から妹が来るという設定自体である程度展開が予想でき、細部で独特のセンスが光る部分はあるものの、大枠のストーリーの部分で驚きがなかったところが、評価の分かれ目なような気がします。要するに細田守監督作品には、細部の巧みさではなく、大きな構造での驚きを私も含めた観客の多くは求めているのだと思います。映像の方は未来の東京駅の描写が独創的でとにかく格好良く、乗り鉄の私としては観ていてワクワクしました。
コメント
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