本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

ロブスター

2024-05-19 07:39:14 | Weblog
■本
44 うどん陣営の受難/津村 記久子
45 人間主義的経営/ブルネロ・クチネリ

44 引き続き津村記久子さんの作品を。こちらは津村さんの原点とも言える、職場でのゴタゴタが舞台の小品です。いまどきそんな会社があるのかよくわかりませんが、会社の代表選挙の決選投票を控え、キャスティングボードを握る三位候補の陣営(陣営の会合でうどんが出されることから「うどん陣営」と表現されています)が、一位二位陣営の双方から切り崩しを受ける受難が描かれています。派閥争い、パワハラ、無意味な社内手続き、煩わしい人間関係、などなど、職場の嫌な面がこれでもかと登場する一方で、それでも、同僚のささやかな優しさ、打ちひしがれた人が振り絞る勇気、普段は頼りない上司のさりげない気配りなど、組織で働くことでしか見出せない、かすかな美徳が語られていて、やるせない私たちの会社生活も、まんざら捨てたものではない、という気持ちにさせてくれます。日々の食事やそのための買い物など、「生活」について丁寧に描かれている点も、安定の津村さん節です。ワークライフバランスのような高尚なものではないかもしれませんが、日々サバイブしていくための生活と仕事について、そっと応援してくれているような優しさを感じる作品です。

45 ここ数年いろいろな人が、理想的な企業として紹介することの多い、イタリアの高級アパレルブランド、ブルネロ・クチネリの創業者が書かれた本です。回想録と筆者の思想啓蒙を兼ねたような内容なので、引用されることの多いソロメオ村の再生や、そこでの教育や働き方、また、具体的な経営戦略などを知りたい人(私もそうでした)にとっては、少し拍子抜けする内容かもしれません。個別具体的な施策説明よりもさらに高度に位置する、資本主義の欠点を補うための持続可能な「人間主義的経営」の理念と、その考えに至った、クチネリ氏の境遇や親しんだ宗教、哲学について詳細に語られています。語られている内容は、まさに理想的で、誰もがそのような企業を目指したいと思っているはずなのですが、なぜ、ブルネロ・クチネリにできたことが、他の企業にはできないのかの明快な解は得られません。一方で、その必要条件としての、壮大な理想や人間的魅力の重要性については学ぶことができます。その理想を実際の計画に落とし込んで、持続可能な仕組みを作り、どのように実行していくかについては、それぞれが苦しんで考え抜くしかないのかもしれません。理想と現実のギャップとそのギャップを埋めるための自分の力のなさを痛感させられる本でもあります。


■映画 
44 快盗ルビイ/監督 和田 誠
45 シャイロックの子供たち/監督 本木 克英
46 ロブスター/監督 ヨルゴス・ランティモス

44 小泉今日子さん主演の1988年公開の作品です。いかにも昭和のアイドル映画という感じのボーイ・ミーツ・ガールもので、ただただ小泉今日子さんを魅力的に描くことに力点が置かれています。一方、共演の真田広之さんが誠実なだけのチープな青年役で、怪盗なのにその身体能力を活かしたシーンもなく、なんだかもったいないです。監督が著名なイラストレーターの和田誠さんということもあって、カット割りや音楽(主題歌は大瀧詠一さんの作曲です)も含めスタイリッシュな雰囲気が漂っていますが、今となっては、シチュエーションコントのような印象を受けます。豪華俳優陣がカメオ出演的に作品に色を添えています。小悪魔的な役柄の小泉今日子さんを愛でるための作品です。

45 「半沢直樹シリーズ」の池井戸潤さん原作小説の映画化作品です。いくらなんでもここまでモラルの低い社員の多い銀行は、とっくに破綻していると思いますが、銀行を舞台にした欲望渦巻く複数の事件が巧みに描かれていて面白かったです。銀行という組織の様々な理不尽な側面も取り上げられていて、銀行業務の勉強にもなりましたし、働く人々を応援する作品にもなっています。佐々木蔵之介さん、柳葉敏郎さん、 佐藤隆太さんといった大物俳優を差し置いて、阿部サダヲさんが主演を張っている点に時代を感じます。 上戸彩さんが、明るくも芯の強い女性を魅力的に演じられていた点が印象的でした。予定調和的な展開ではありますが、それが安心感につながっている、万人受けするエンターテインメント作品だと思います。

46 ヨルゴス・ランティモス監督の初の英語作品でもある2015年公開作品です。同監督作品の「哀れなるものたち」「女王陛下のお気に入り」が面白かったので観ました。45日以内に自分の配偶者となる相手を見つけなければ、ロブスターにされる中年男性を巡る冒険が描かれています。よくこんな突拍子もないストーリーが思いつくな、という点にまず感動しました。人間の想像力の豊かさに慄きます。このぶっ飛んだ世界観を破綻させずに一貫性を持って描いていて、ヨルゴス・ランティモス監督の迸る才気を感じます。いわゆるディストピアもので、目を背けたくなるような描写も多いのですが、それでもストーリーの先を期待せずにはいられない、人を引き込む魅力に溢れています。登場人物の悪意が満載で、この作品もシニカルな作風が、ラース・フォン・トリアー監督作品に近いと感じましたが、あそこまで神経症的な緊迫感がなく、どこか抜けたチャーミングさがある点がこの監督の個性だと思います。「恋愛は相手との共通点に固執し過ぎない方がよい」というメッセージを、私は謎めいたエンディングから受け止めました。主演のコリン・ファレルはこの役を演じるために20kg近く太ったらしく、そのオーラのなさのため、観終わるまで彼とは気づきませんでした。非現実と現実、上品さと下品さが入り混じったクセのある映像も含め、「可愛げのある狂気」に満ちたオリジナリティの高い作品です。ヨルゴス・ランティモス監督の次回作も楽しみです。
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