本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

サキの忘れ物

2023-11-12 06:14:24 | Weblog
■本
91 GAFAも学ぶ!最先端のテック企業はいま何をしているのか/成嶋 祐介
92 サキの忘れ物/津村 記久子

91 越境ECなどで中国との接点を持つ筆者が、中国で成功している最先端テック企業の事例を紹介しつつ、その変革ポイントについて解説してくれる本です。名著「アフターデジタル」と似たテイストの本ですが、そちらよりももう少し視野を広めに取っている分、いくぶん散漫ではありますが、その一方で幅広い知見が得られます。とにかく、中国テック企業のアプリ等から得られる顧客データを貪欲に活用する姿と、その前提としてサービスを使ってもらうためにユーザファーストを貫く姿勢が印象的です。個人的には筆者の「スイミー戦略」(童話のスイミーが小魚が集まって大きな魚に対抗したように、個人事業主や零細企業をプラットフォームで束ねて、共同購入やノウハウの共有などのソリューションを提供し大手資本に対抗する戦略)というワードセンスが好きです。ロイヤルカスタマーにあえて高い価格を提示し(もちろんサービスはそれに見合った手厚いものにしているのだと思いますが)、取れるところから収益をあげようという中国のダイナミックプライシングの考え方が興味深かったです。「自由主義国家のアメリカがよりメガテック主導型で、社会主義国家の中国がよりベンチャー主導型」という分析にも唸らされました。定期的にこういう最先端テック企業の事例を読むと刺激になってよいです。

92 大好きな芥川賞作家、津村記久子さんの短編集です。お得意のお仕事小説から、シュールな味合いのものやゲームブック風のものまで、幅広いタイプの小説が楽しめます。特に表題作の「サキの忘れ物」が秀逸で、たとえ家族から興味を持たれず、友人もいなくても、たった一人の人や一冊の本との出会いから、人生は変わり得るという真実を、少し物悲し気かつ真摯なトーンで見事に描かれています。多くの思春期にいる人に読んでもらいたい作品です。いろいろな年齢や性別の主人公が登場するのですが、どの作品からもリアルな存在感が感じられ、津村さんの作家としての力量を感じます。ゲームブック風の小説は、ストーリー分岐をメモしながら全てのシナリオを制覇しました。雑多な印象の作品集ながら、冒頭と最後をお得意のお仕事小説でまとめているあたりが、大御所の落語家や漫才師の独演会を観ているかのような安心感があります。全体を通しては、抑圧されてきた人々(動物)が、ギリギリのところで自由を求めて飛躍する姿が印象に残りました。津村記久子さんの作家としての引き出しの多さと安定感が感じられる素敵な作品です。


■映画
79 レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ/監督 アキ・カウリスマキ
80 ミラクル・ニール!/監督  テリー・ジョーンズ

79 学生時代に話題になっていたのに、なぜか今まで観ていなかった作品です。30年以上経ってやっと観ることができました。リーゼント、黒スーツ、とんがりブーツがトレードマークのシベリア出身のバンドが、胡散臭いマネージャーの導きでニューヨークに進出し、そこからメキシコまで旅をするロードムービーです。特に大きな事件は起こらないのですが、とにかく、このバンドのとぼけた雰囲気が観ていてほっこりとした気分になります。当時のアメリカ地方都市のあか抜けない映像も、この雰囲気にとてもよくマッチしています。旅の過程で、観客のニーズに合わせてさまざまなジャンルの音楽を演奏していくのも楽しいです。人を食ったようなファンタジックなエンディングも、この映画にふさわしいと思いました。マーケティング的に洗練されていく一方の、最近の映画に対するある種のアンチテーゼとして、こういうヘタウマな味わいの作品を観るとどこか安心します。

80 モンティ・パイソンのテリー・ジョーンズが監督した、2015年公開のSFコメディです。地球の消滅を検討している宇宙人から、地球人の品格を調べるためにランダムに選ばれた主人公が、ほとんどなんでも実現できる能力を与えられ、その能力に振り回される姿が描かれています。その能力が初期のAIのように、ちゃんと前提条件を明らかにしないと、望み通りの結果にならない点が、今っぽいです。イギリスの作品だけあって、下ネタが結構多く、この万能な能力の副作用の描写がえげつないです。アメリカだと、ジム・キャリーあたりが、大げさな演技で楽しく仕上げてくれるところを、これまたイギリス作品らしく、必要以上に陰キャな主人公(演じるサイモン・ペッグは「ミッション:インポッシブル」シリーズでは、トム・クルーズをサポートする役を好演されているのですが)が陰鬱な感じにしてくれています。作品の世界観は独特で一定の評価はできると思うのですが、結局地球を救うのが犬というのも斬新ではあるものの納得感が低いです。全体的にイギリスのよくないところが出ている作品だと思いました(私の好みの問題かもしれませんが)。ヒロインを演じるケイト・ベッキンセイルはセクシーで魅力的でした。
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