本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

ファスト&スロー

2020-03-07 10:13:55 | Weblog
■本
21 どこでもいいからどこかへ行きたい/pha
22 ファスト&スロー(上) /ダニエル・カーネマン
23 ファスト&スロー(下) /ダニエル・カーネマン

21 元「日本一有名なニート」のphaさんの旅をテーマにしたエッセイ集です。「青春18きっぷでだらだら旅をするのが好きだ」や「一人で意味もなくビジネスホテルに泊まるのが好きだ」など、私自身の旅の嗜好との共通点が非常に多く、共感しながら楽しく読みました。phaさんが学生時代に過ごされた京都鴨川近辺での生活を回想された、冬とカモメとフィッシュマンズ」というエッセイは、フィッシュマンズについて書かれた文章の中で最も美しいものの一つだと思います。サウナの楽しみ方や、格安で販売されているリゾートマンションを購入した顛末など、自分の趣味の幅を少し広げる上で参考になる情報もあり、興味深いです。ニートやシェアハウスネタ以外でも、十分読ませる内容の文章が書ける、phaさんの文筆家としてのポテンシャルの高さをあらためて感じさせられる本です。

22、23 「予想どおりに不合理」に引き続き「行動経済学」をテーマにした本を読んでおります。ノーベル経済学賞を受賞され、著作物がさまざまな論文に引用されているだけあって、実証実験に裏付けられたデータをもとに、人間の思考や行動の癖をわかりやすく説明してくれる素晴らしい本です。かなり長い本ですが、知的好奇心が大いに満たされる楽しい読書体験でした。人間の思考モードを、自動的に高速で働き、さほど苦労なく判断を下し、概ね正しいがときにミスもおかす思考「システム1」(ファスト)と、複雑な計算など思考に負荷がかかるためあまり作動しないが、その判断はより緻密に正確になる思考「システム2」(スロー)の2つに分け、その2つの思考モードを持つが故の人間の思考の癖を説明してくれます。「利益を得るより損失を避けたい」や「もっともらしさによる錯誤」など、私自身の思考の癖を振り返る上での納得感のある事例が満載です。「平均への回帰」の軽視(努力と比較した運の要素の軽視)など、直観の予測の癖を補正するために、統計学をきちんと学ぶことの大切さもよく理解できました。終盤には「経験する自己」と「記憶する自己」(人は、そのときに感じた喜びや痛みよりも、記憶として残っている喜びや痛みの方を重視しがち)という二つの自己が登場し、結局死ぬ間際に良い体験をした方がよい人生となり、そのプロセスでの幸福はそれほど重要ではないのか、という哲学的な話にまで広がり、この分野の奥の深さに驚かされました。この人間の思考の偏りが、なぜ生じたのかを知る上では、「進化心理学」を学ぶ必要があるということにも行きつき、「不都合な真実」などで橘玲さんがおっしゃっている主張に対する理解も深まりました。人間が完璧なものでないということに対する清々しいまでの諦念と、その欠陥を自覚した上で、よりよい人生を送って行こうという勇気が湧いてくる本です。


■映画 
21 ワイルド・バレット/監督 ウェイン・クラマー
22 トレイン・ミッション/監督 ジャウム・コレット=セラ

21 公開時にクエンティン・タランティーノ監督が称賛していたという話もありますが、それも納得の、ぶっとんだキャラクターが続出するスピード感のあるクライム・サスペンスです。隣家の少年に銃を盗まれた半グレっぽい主人公を、「ワイルド・スピード」シリーズ(邦題はこの作品に引っ張られたものと思われます)のポール・ウォーカーが演じています。その銃を巡っての悪徳警官、米露のマフィアが入り乱れての闘争が描かれますが、その過程のサブストーリーでメインの犯罪が可愛く見えるほどの、異常な事件が発覚するなど、3本くらいの映画が撮れそうなアイデアが惜しみなく、盛り込まれています。それが、きれいなかたちで着地していれば、恐らく歴史的な名作となっていたと思うのですが、さすがにそううまくはいかず、あちらこちらでストーリーが破綻しつつ、強引などんでん返しでエンディングを迎えます。もう少し情報量を整理すべきだったと思いますが、逆に、この情報過多な粗削りさが、クエンティン・タランティーノ監督も魅了した唯一無二の個性になっているとも言え、なかなか不思議な後味を残す怪作です。

22 一方こちらは、リーアム・ニーソン主演の安定感たっぷりのアクション映画です。スティーヴン・スピルバーグ監督がアカデミー作品賞を取った「シンドラーのリスト」に主演していたことを忘れるほど、「96時間」の大ヒット後のリーアム・ニーソンはアクション作品への主演が相次いでいます。この作品出演時は60代半ばになっていたため、さすがにアクションのキレはいまひとつですが、その分、保険会社をリストラされた、元警官のアラ還男性を、ひたすら渋く演じています。通勤電車の中という密室での犯人捜しを、アクションだけではなく主人公の心理描写を中心に、緊迫感を持たせている演出も巧みです。ストーリーの方も、大きなサプライズはないものの、破綻なく丁寧に謎解きが進行して、観ていて心地よいです。事件に巻き込まれる乗客はいい人ばかりで、そういう意味でも「ワイルド・バレット」と真逆のテイストの映画ですが、どちらが記憶に残るかというと、「ワイルド・バレット」の方だという点も映画の面白いところです。
コメント
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