■本
92 未来の年表 業界大変化/河合 雅司
93 ブランド/吉田 修一
92 読んでいて日本の将来に絶望的な気持ちになるのですが、「未来の年表」シリーズはなぜか読んでしまいます。本作も精緻な調査に基づき、人口減が将来的に各産業にどのような影響を与えるのかについて分析された本です。乗り鉄の私としては、ローカル鉄道の未来について心配になりました。今のうちにできるだけ乗って支えたいと思います。産業別に維持するために必要な商圏人口規模が冒頭にまとめられていて、人口減の影響が肌感覚で理解できます。概ね全ての業界が人口減で大変という予想通りの結論になるのですが、実際の数値に基づく記述はとても説得力があります。一方、人口減に対する「対策」の方は、生産性向上、選択と集中、ブランド力強化、コンパクトシティ化など、言うは易く行うは難し、のありきたりなものばかりで少し残念でした。そんな中、「輸出相手国の将来人口を把握する」(各国もそれぞれのタイミングで人口減少局面に入るので)という視点は河合さんならではのもので、なるほどと思いました。シリーズ全てを読む必要はないと思いますが、日本の人口減少の将来的な影響をリアルに把握する上では1冊は読んでおいてもよいと思います。
93 吉田修一さんが、長年企業やメディアとタイアップして書いた短編小説やエッセイが収められた本です。吉田修一さんは、地方の泥臭さと都会のスタイリッシュさの二つの特徴があると思っているのですが、こちらは後者のスタイリッシュさが全開です。最近の吉田さんの小説は地方の泥臭さを元にした、どろどろとした人間の感情を描いた作品が多い印象だったので、初期の作品を読んでいるかのような懐かしい気持ちになりました。また、吉田さんの高いマーケティング能力のようなものも感じました。依頼した企業の斜め上を行くような視点の数々に唸らされます。「お金のために書いた商業作品」として一蹴することは簡単ですが、市場動向を踏まえつつ作家性を維持している吉田さんの高度な戦略とテクニックを感じます。とはいえ、これまでに発表された小説やエッセイの方がクオリティは高いのですが、ファンにはお勧めできる作品です。
■映画
90 母べえ/監督 山田 洋次
山田洋次監督作品も機会があれば全て観たいと思っています(特に「男はつらいよ」シリーズは老後の楽しみに取っています)。こちらは吉永小百合さん主演の2008年公開作品です。第二次世界大戦中に、父親が特高警察に検挙された家族の苦労と周囲の人々との交流が描かれています。追想ものなので、エピソードの羅列的にストーリーが進むのは仕方がないのかもしれませんが、流れが少し悪く感じました。特に最後の現代シーンは不要な気がします。一方、各エピソードはとても強いので、戦争や国家主義に対する嫌悪感がむくむくと湧いてきました。反戦映画としては成功していると思います。吉永小百合さんは正直演技が上手とはあまり思わないのですが、芯がなさそうで強い、独特の存在感を放っています。若き日の志田未来さんは、完璧な演技で圧倒されました。笑福亭鶴瓶さんは主演シーンは短いもののインパクト十分で、山田洋次監督がこの次の作品で、「おとうと」という作品を吉永小百合さん、笑福亭鶴瓶さんのダブル主演で撮影されたのも納得です。個人的には「おとうと」の方が好きですが、山田洋次監督作品らしく、普通の人々が懸命に生きる姿を優しい視線で描いた温かい作品です。
92 未来の年表 業界大変化/河合 雅司
93 ブランド/吉田 修一
92 読んでいて日本の将来に絶望的な気持ちになるのですが、「未来の年表」シリーズはなぜか読んでしまいます。本作も精緻な調査に基づき、人口減が将来的に各産業にどのような影響を与えるのかについて分析された本です。乗り鉄の私としては、ローカル鉄道の未来について心配になりました。今のうちにできるだけ乗って支えたいと思います。産業別に維持するために必要な商圏人口規模が冒頭にまとめられていて、人口減の影響が肌感覚で理解できます。概ね全ての業界が人口減で大変という予想通りの結論になるのですが、実際の数値に基づく記述はとても説得力があります。一方、人口減に対する「対策」の方は、生産性向上、選択と集中、ブランド力強化、コンパクトシティ化など、言うは易く行うは難し、のありきたりなものばかりで少し残念でした。そんな中、「輸出相手国の将来人口を把握する」(各国もそれぞれのタイミングで人口減少局面に入るので)という視点は河合さんならではのもので、なるほどと思いました。シリーズ全てを読む必要はないと思いますが、日本の人口減少の将来的な影響をリアルに把握する上では1冊は読んでおいてもよいと思います。
93 吉田修一さんが、長年企業やメディアとタイアップして書いた短編小説やエッセイが収められた本です。吉田修一さんは、地方の泥臭さと都会のスタイリッシュさの二つの特徴があると思っているのですが、こちらは後者のスタイリッシュさが全開です。最近の吉田さんの小説は地方の泥臭さを元にした、どろどろとした人間の感情を描いた作品が多い印象だったので、初期の作品を読んでいるかのような懐かしい気持ちになりました。また、吉田さんの高いマーケティング能力のようなものも感じました。依頼した企業の斜め上を行くような視点の数々に唸らされます。「お金のために書いた商業作品」として一蹴することは簡単ですが、市場動向を踏まえつつ作家性を維持している吉田さんの高度な戦略とテクニックを感じます。とはいえ、これまでに発表された小説やエッセイの方がクオリティは高いのですが、ファンにはお勧めできる作品です。
■映画
90 母べえ/監督 山田 洋次
山田洋次監督作品も機会があれば全て観たいと思っています(特に「男はつらいよ」シリーズは老後の楽しみに取っています)。こちらは吉永小百合さん主演の2008年公開作品です。第二次世界大戦中に、父親が特高警察に検挙された家族の苦労と周囲の人々との交流が描かれています。追想ものなので、エピソードの羅列的にストーリーが進むのは仕方がないのかもしれませんが、流れが少し悪く感じました。特に最後の現代シーンは不要な気がします。一方、各エピソードはとても強いので、戦争や国家主義に対する嫌悪感がむくむくと湧いてきました。反戦映画としては成功していると思います。吉永小百合さんは正直演技が上手とはあまり思わないのですが、芯がなさそうで強い、独特の存在感を放っています。若き日の志田未来さんは、完璧な演技で圧倒されました。笑福亭鶴瓶さんは主演シーンは短いもののインパクト十分で、山田洋次監督がこの次の作品で、「おとうと」という作品を吉永小百合さん、笑福亭鶴瓶さんのダブル主演で撮影されたのも納得です。個人的には「おとうと」の方が好きですが、山田洋次監督作品らしく、普通の人々が懸命に生きる姿を優しい視線で描いた温かい作品です。