本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

母べえ

2024-10-27 06:44:00 | Weblog
■本
92 未来の年表 業界大変化/河合 雅司
93 ブランド/吉田 修一

92 読んでいて日本の将来に絶望的な気持ちになるのですが、「未来の年表」シリーズはなぜか読んでしまいます。本作も精緻な調査に基づき、人口減が将来的に各産業にどのような影響を与えるのかについて分析された本です。乗り鉄の私としては、ローカル鉄道の未来について心配になりました。今のうちにできるだけ乗って支えたいと思います。産業別に維持するために必要な商圏人口規模が冒頭にまとめられていて、人口減の影響が肌感覚で理解できます。概ね全ての業界が人口減で大変という予想通りの結論になるのですが、実際の数値に基づく記述はとても説得力があります。一方、人口減に対する「対策」の方は、生産性向上、選択と集中、ブランド力強化、コンパクトシティ化など、言うは易く行うは難し、のありきたりなものばかりで少し残念でした。そんな中、「輸出相手国の将来人口を把握する」(各国もそれぞれのタイミングで人口減少局面に入るので)という視点は河合さんならではのもので、なるほどと思いました。シリーズ全てを読む必要はないと思いますが、日本の人口減少の将来的な影響をリアルに把握する上では1冊は読んでおいてもよいと思います。

93 吉田修一さんが、長年企業やメディアとタイアップして書いた短編小説やエッセイが収められた本です。吉田修一さんは、地方の泥臭さと都会のスタイリッシュさの二つの特徴があると思っているのですが、こちらは後者のスタイリッシュさが全開です。最近の吉田さんの小説は地方の泥臭さを元にした、どろどろとした人間の感情を描いた作品が多い印象だったので、初期の作品を読んでいるかのような懐かしい気持ちになりました。また、吉田さんの高いマーケティング能力のようなものも感じました。依頼した企業の斜め上を行くような視点の数々に唸らされます。「お金のために書いた商業作品」として一蹴することは簡単ですが、市場動向を踏まえつつ作家性を維持している吉田さんの高度な戦略とテクニックを感じます。とはいえ、これまでに発表された小説やエッセイの方がクオリティは高いのですが、ファンにはお勧めできる作品です。


■映画
90 母べえ/監督 山田 洋次

 山田洋次監督作品も機会があれば全て観たいと思っています(特に「男はつらいよ」シリーズは老後の楽しみに取っています)。こちらは吉永小百合さん主演の2008年公開作品です。第二次世界大戦中に、父親が特高警察に検挙された家族の苦労と周囲の人々との交流が描かれています。追想ものなので、エピソードの羅列的にストーリーが進むのは仕方がないのかもしれませんが、流れが少し悪く感じました。特に最後の現代シーンは不要な気がします。一方、各エピソードはとても強いので、戦争や国家主義に対する嫌悪感がむくむくと湧いてきました。反戦映画としては成功していると思います。吉永小百合さんは正直演技が上手とはあまり思わないのですが、芯がなさそうで強い、独特の存在感を放っています。若き日の志田未来さんは、完璧な演技で圧倒されました。笑福亭鶴瓶さんは主演シーンは短いもののインパクト十分で、山田洋次監督がこの次の作品で、「おとうと」という作品を吉永小百合さん、笑福亭鶴瓶さんのダブル主演で撮影されたのも納得です。個人的には「おとうと」の方が好きですが、山田洋次監督作品らしく、普通の人々が懸命に生きる姿を優しい視線で描いた温かい作品です。
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リバー、流れないでよ

2024-10-20 07:10:13 | Weblog
■本
89 なぜ、あなたの話はつまらないのか?/美濃部 達宏
90 なぜ、あの人には何でも話してしまうのか 心理カウンセラーのすごい「聞く技術」/山根 洋士
91 すべての、白いものたちの/ハン・ガン

89 秋元康さんの弟子筋の放送作家さんが書かれた、「おもしろい話」をする秘訣について教えてくれる本です。歳を取り若い人たちとの話題に困ることも増えたので読みました(基本は話を聞くようにしようと思っていますが、それでも自分から話をしないといけない局面はありますので)。家族や食事など、誰もが経験していて共感しやすい話題にすること、伏線を張って回収する(この本では「フリオチ(フリとオチ)」と表現されています)ように構成(話をする順番)を意識すること、など、すぐに使えそうなノウハウをたくさん教えてくれて参考になりました。「共感できる話題を選び」「フリオチのある構成にする」という基本の2段階を超えて、「効果的な擬音語擬態語」の活用や「たとえツッコミ」の利用など、応用編も教えてくれていますが、こちらはマスターするのは難しそうですし、下手に手を出すと火傷しそうです。唯一応用編の中で「愛の毒舌法」は、普段から人の悪口ばかり言っている私にとってなじみ深い技法ですので、そこに「愛」を込めるられるように努めたいと思います。「おもしろい話」は他人に対する「気遣い」である、というメッセージも心に留めておきたいです。

90 同じようなタイトルの本を続けて読みました。こちらは基本的には傾聴に関する本で、類書をたくさん読んでいるので、すっと頭に入ってくる内容でしたし、自分の知識の確認にも役立ちました。「共感しても同感しない」(話し手の感情に理解はしても同じ感情になってはいけない)や「聞き手に自己アピールは不要」(自分の知識をひけらかすような質問はしない)というメッセージは心に響きました。悩んでいる人に対して聴くだけでなく「アドバイスをしたい」と思い過ぎたり、安易に「わかる~」と言ってしまいがちな自分の欠点に、あらためて気づくことができ有益でした。受容を示す「そうですよね」というワードを用いつつ、いま一度「しっかりと聴く」ということを意識したいと思いました。

91 今年のノーベル文学賞を受賞したハン・ガンさんの作品です。韓国の歴史の闇を小説の題材にするなど、受賞前に読んだ新聞のインタビュー記事が興味深い内容だったこともあり、文庫になっていて最も手に取りやすいものを、まず読みました。本作はタイトル通り「白いもの」をテーマにした、詩とも短編小説とも取れる不思議なテイストの作品です。思いつくままに「白いもの」についての思いを書いているようでいて、次第に関心は、生まれて2時間で死んだとされる姉と自分との関係に収束していきます。詩的な表現にあまり慣れていない私にとっては、若干とっつきにくさを感じましたが、著者のあとがきや解説を読んで作品の理解が深まりました。死と生との偶然性について思いを巡らした、繊細で美しい作品だと理解しました。芸術性の高い文体は欧米圏で評価されるのも納得です。本作は極めて私的な作品だと思いますので、次はこの詩的表現とメッセージ性や物語の力が両立した、もっと社会に開かれた作品を読んでみたいと思いました。



■映画
86 リバー、流れないでよ/監督 山口 淳太
87 ドロステのはてで僕ら/監督 山口 淳太
88 侍タイムスリッパー/監督 安田 淳一
89 マイケル・コリンズ/監督 ニール・ジョーダン

86 「サマータイムマシン・ブルース」のヨーロッパ企画制作による昨年公開の作品です。「サマータイムマシン・ブルース」が面白かったのとくるりが主題歌を担当していたので観ました。京都の貴船を舞台に、2分間のタイムループに巻き込まれた人々の騒動が描かれます。普通こういうタイムループものは、もう少し長い時間でループ回数もそう多くはないと思うのですが、冒頭から何度も何度も2分のループをしつこいくらいに繰り返すところが斬新です。2分間の繰り返しばかりで飽きそうですが、そうさせない工夫とそれをやり遂げる勇気に感心しました。舞台上で演じる劇団であることの強みが存分に発揮されていますし、絵力のある冬の貴船の老舗旅館を舞台にしたことも成功しています。基本はドタバタコメディなのですが、ループの都度新しい事実が明らかになり、その中で登場人物の細やかな感情の変化が見事に描かれている点が好ましかったです。ささやかな日常や人との交流の大切さを感じさせてくれる素敵な作品です。じんわりと温かい気持ちになりました。

87 「リバー、流れないでよ」がとても面白かったので、その前作にあたるこちらを続けて観ました。こちらはタイムループではなく、2分後の未来の世界と会話できる不思議なモニターにまつわる騒動が描かれています。時間自体は流れているので、未来で起こった出来事を2分後の現実世界でも再現することによって、長回しで撮影しているかのような錯覚に陥ります。「ドロステ効果」(ある画像の中にその縮小した画像を描くことで無限にその画像が引用されているような感覚に陥る効果、対面した鏡の間にあるものを投射させることでもその効果が得られる)を用いて、向かい合わせたモニター内に何重にも映し出されるさらに先の未来とも会話できるようになったことから、奇妙な感覚が一層増すととともに、ストーリーの謎も膨らんでいきます。このあたりの脚本の緻密さと、それを実現する演技と撮影技術が素晴らしいです。低予算でも工夫次第でこんなにも面白い作品が作れるのか、と感嘆しました。「リバー、流れないでよ」と同様に、ささやかな勇気と心の交流が実った余韻あるエンディングも大好きです。2本続けて良いものを観たな、という満足感に浸れました。

88 第二の「カメラを止めるな!」と言われ始めている、単館上映から口コミで人気が高まり全国上映にまで至った今話題の作品です。映画制作現場を舞台にしているところも、「カメ止め!」との共通点です。一方、「カメ止め!」がどんでん返しも含めた、「ドロステのはてで僕ら」にも通じる同一時間の再現によるネタバラシの脚本上の妙が素晴らしかったのに対し、こちらはタイムスリップというギミックは用いられているものの、時代劇に対する深い愛情とクライマックスの殺陣の熱さが感動を呼んでいると思いました。言葉を変えると、映画に対する愛情は共通するものの、前者は「緻密さ」を後者は「荒削りのパワー」が魅力の源泉であると感じました。時間移動ものは、同一舞台で複合的な意味を持たせることができるので、低予算映画と相性がよいということを、今週に観た3作品から改めて感じました。やはり、作り手の思いとアイデアって大切ですね。一見時代遅れのものでも、工夫次第では脚光を浴びることができるという良い見本の作品で、観ていて励まされる思いでした。

89 「クライング・ゲーム 」のニール・ジョーダン監督による、アイルランド独立運動家のマイケル・コリンズの生涯を描いた1996年公開の作品です。アイルランドの歴史については北アイルランドがなぜイギリス領なのかも含めて、あまりよく知らなかったので勉強になりました。ストーリーの方も、友情、恋愛、裏切りを巧みに織り込みつつ、マイケル・コリンズの非情さや葛藤が丁寧に描かれていて面白かったです。イギリスとの交渉をマイケル・コリンズに任せつつ、条約調印後に不満を漏らす上司のデ・ヴァレラの姿勢には考えさせられるところが多かったです。やはり、大事な交渉は自分自身で行うか、全権委任したなら後で文句を言ってはいけませんね。映画的に誇張されている面もあると思いますが、後の内戦には人災的な側面もありそうです。マイケル・コリンズを演じたリーアム・ニーソンは、さすがの名演で、残酷で粗野な面がありながらも心優しい人物を見事に表現されていました。ヒロイン役のジュリア・ロバーツも、芯の強さは表現しつつも珍しく控えめな演技で魅力的でした。ただ、当時40代半ばのリーアム・ニーソンが演じるには少し無理があったかもしれません。31歳で亡くなったということを知ってびっくりしました。それだけ濃い人生を送ったということなのだと思いますが、波乱万丈の人生とそのリーダーシップには憧れるところがあります。とかくお堅くなりがちな伝記映画ですが、エンターテイメント性とメッセージ性が両立されていて、よくできた作品だと思います。
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憐れみの3章

2024-10-13 06:51:20 | Weblog
■本
87 経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて/山崎 元
88 ペットショップ無惨 池袋ウエストゲートパークXVIII/石田 衣良

87 ベストセラー「ほったらかし投資術」(まだ読んでいませんが)などで有名な経済評論家の山崎元さんが、大学に合格された息子さんに送られた手紙の内容を元に書かれた人生論です。闘病中に書かれた本で、出版後まもなくお亡くなりになられたというストーリー性もあり感動的な内容です。働き方については、代替可能な人材になるのではなく、起業やベンチャー企業の投資家になることも含めた、労働力の対価としての賃金だけでなく「株式による報酬を取り込む」働き方を、投資については長期分散を旨とし、その目的に合致して手数料が安いネット証券の「全世界株式インデックスファンド(オルカン)」への投資を、幸福については、承認欲求を適度に満たしつつ、自由に機嫌よく生きることを、主張されるなど、シンプルながらも芯を食った意見が多く、納得感の高い内容でした。東大出身の親が東大に合格した子どもに送った手紙なので、そもそも遺伝的特性に恵まれた人間の考え方だ、と受け入れたくない気持ちも湧いてきますが、参考になるところをつまみ食いするのが良いと思います。こうすれば成功できるとわかっていても、できないのが人間ではありますし、だからこそ生きる意味がある(明確な成功法が決まっている社会が幸せだとも思えません)のだと思います。せいぜい、幸運を引き寄せる確率が上がる方法を試しながら、少しでも機嫌よく生きていくしかないのだと思います。

88 「池袋ウエストゲートパーク」シリーズの18作目です。このシリーズについては毎度書きますが、もはやトラブル解決方法は、いくつかのパターンの繰り返しでミステリーとしては全く新味がありませんので、実社会を反映したそのトラブルの内容自体について考える社会派小説として読むのが適切だと思います。本作では「ヤングケアラー」「外国人労働者に対する不当捜査」「マッチングサイトを通じた売春」「ペット産業の闇」がテーマになっています。様々な社会悪に立ち向かい、悪者に一定の制裁を与えつつ解決に導く、主人公マコトやその友人の活躍は痛快そのもので、読んでいて楽しいです。一方で、増加する一方の社会課題に対し、フィクションの中での解決で満足しているだけでよいのか、というモヤモヤとした思いも残ります。エンターテイメント作品の功罪と、日々の生活に追われ社会課題解決に対して一歩を踏み出し切れない自分自身に対する歯痒さを感じました。その歯痒さを、自然体で自由なマコトが癒してくれる点も、私がこのシリーズを読み続けている理由です。あまりよくない読書姿勢だと思いますが。


■映画
84 憐れみの3章/監督 ヨルゴス・ランティモス
85 劇場版ブルーロック-EPISODE 凪-/監督 石川 俊介

84 「女王陛下のお気に入り」「哀れなるものたち」のヨルゴス・ランティモス監督の最新作です。エマ・ストーン、ウィレム・デフォーといったヨルゴス・ランティモス監督作品常連俳優が、役柄を変えて3つの中編を演じています。グロテスクでエロティックな西洋版「まんが日本昔ばなし」(よく考えるとこのアニメも、かなりグロテスクでしたが)といった印象で、一見コメディタッチのえげつない話が続きます。ヨルゴス・ランティモス監督の可愛げと底意地の悪さが合わさった、唯一無二の個性を堪能できます。また、その底意地の悪さに身を委ねるエマ・ストーンやウィレム・デフォーの役者魂にも圧倒されました(二人ともどこか楽しそうです)。3時間弱のかなり長い作品でしたが、それぞれのお話が1時間程度で、しかも、話としては寓話的で表面的にはわかりやすいので(何を言いたいのか?についてはいくらでも深読みできますが)、全く苦になりませんでした。目を背けたくなるような映像が多く、後味も決して良くない話ばかりなのに(だからこそ?)、この吸引力はこの監督の才能だと思います。邦題は「哀れなるものたち」に引っ張られたものだと想像しますが、必ずしも「憐れみ」の話ではありませんので(原題は「Kinds of Kindness」)、その視点に囚われると楽しめないかもしれません。「思いやりの3章」あたりが、皮肉も含んで適切だった気がします。奇妙な音楽やダンスも印象的です。あまり深読みせずに、感覚で楽しむのが良いと思います。ヨルゴス・ランティモス監督の最高傑作ではないですが、観るべき作品です。

85 人気サッカー漫画のスピンオフ映画です。原作漫画もアニメも触れたことがないのですが、「アメトーーク!」で取り上げられていたので観ました。主人公ではなく人気の脇役の視点から再構成されたダイジェスト的な内容で、初見の私にもこの作品のこれまでの流れがよく理解できました。本作の主人公凪は、生きること全てに無気力な天才という今風のキャラクターで、暑苦しくなりがちなスポーツ漫画の中で異彩を放っており、また、BL的な要素も含んでいて、女子に人気があるのも納得です。一方で、全くの初心者が、長年サッカーに真剣に取り組んでいた人間を翻弄する姿には、リアリティを感じませんでした。もっとも、この作品は「テニスの王子様」や「黒子のバスケ」のような、天才キャラクターが続出する一種のファンタジーなので、そのような指摘は不適切なのかもしれません。これまでのキャラクター至上主義のファンタジースポーツ漫画の伝統を引き継ぎつつ、デスゲーム的な要素も含んでいて、組み合わせの妙を感じました。あまり、好きなタイプの作品ではないですが、パワフルで面白いとは思いました。
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図書室

2024-10-06 07:12:56 | Weblog
■本
85 図書室/岸 政彦
86 美人の正体/越智 啓太

85 引き続き岸政彦さんの小説を読みました。本作は「ビニール傘」に続く、岸さんの2作目の小説です。前作と比べて小説としてのクオリティが圧倒的に上がっていると思いました。複数人物のエピソードの羅列ではなく、一人の中年女性を主人公にして、その人生を真っ向から描こうとしている点に小説家としての本気度が感じられます。客観的には、さほど恵まれた人生を送っていないように見える主人公が、そのささやかな幸せな思い出を通じて、自分の人生を肯定的に受け止めている姿勢に共感しました。世の中には、自分の不幸を自慢するかのような小説やエピソードトーク(私自身もその傾向が強いです)が溢れている中で、この静かなポジティブさに考えさせられるところが多かったです。併録されている岸さんの人生を振り返るエッセイも興味深かったです。特に、千里ニュータウンについてのポジティブな描写は、同地区に住んでいる私としてはうれしかったですし、個人的にニュータウンをそのような視点で捉えたことがなかったので新鮮でした。吹田市はこのエッセイをもっとアピールすべきだと思います。

86 人によって考えや感じ方は異なるのに、「美人」については、ある一定の範囲で判断が共通する(好きになるかどうかは別の話ですが)ことに疑問を持っていたので読みました。男性は自分で子どもを産まないので、本当に自分の遺伝子を受け継いだ子どもかどうかはわからず、そのリスクを避けるために、性経験が少ない若い女性を好むため、目が大きく顔の下半分が小さい幼形化の顔を好む。同様にウエストのくびれは、妊娠可能な年齢に達していることを示すとともに他の男の子どもを妊娠していない証拠になるので、無意識的にはバストの大きさ(意識的にはバストの大きさを好む人も多いが)よりも男性は好む。女性も妊娠だけさせられて、子育てに協力しない男を避けるために、経済力のある男を好む。女性は妊娠しやすい時期にはマッチョな男性を好み(短期的な戦略として丈夫な遺伝子を残せる可能性が高い)、そうでない時期は女性的な顔の男性を好む(長期的には浮気の可能性が低く、安定的な夫婦生活を送れる可能性が高い)。などなど、人間の自分の遺伝子を残したいという本能に基づいての判断という身も蓋もない説明でしたが、説得力は高いと思いました。一方で、美人、美男子の苦労(注目されやすい、陰口をたたかれやすい、美人、美男子は性格の良さと比べて飽きられやすいので、短期的には良い面もあるが長期的な関係を築く上ではあまりプラスにならない、そもそも自分に釣り合う容姿の人は少ない)についても語られていてバランスもとられています。人間も所詮は動物であるという、ある種の諦念をもたらしてくれる本です。


■映画
82 容疑者 室井慎次/監督 君塚 良一
83 オットーという男/監督  マーク・フォースター

82 「踊る大捜査線」のスピンオフ映画第2弾です。柳葉敏郎さん演じる警視正が、殺人事件捜査上の問題点を指摘され、告訴されることから物語は始まります。正直、全く面白くなかったです。警察組織内の権力争いが背景にあるのですが、それにしては、あまりにもその駆け引きが稚拙です。こんなに目立つかたちで内部抗争が表出することはあり得ないと思います。キャラ設定上仕方がないのかもしれませんが、柳葉敏郎さんの演技は、険しい表情の一辺倒で、彼の魅力である「可愛げ」が全く表現されておらず、極めて単調です。室井慎次を告訴する弁護士役の八嶋智人さんは、なかなかの怪演ではありましたが、ただただ嫌な人間で、これまた、八嶋さんの魅力である「人懐っこいコミカルさ」が全く表現されていません。キャラ設定が強すぎて、役者さんの個性が殺されている印象です。そんな中、室井慎次側の若手弁護士を演じた田中麗奈さんは、はつらつとした演技で魅力的でした(とはいえ演技が上手とは思いませんでしたが)。このシリーズの特徴である、組織の制約と個人の思いとの葛藤を描きたかったのだと想像しますが、もう一つの特徴である、コミカルさに欠けているので、エンターテイメント作品としては、失格だと思います。

83 善人の見本のようなトム・ハンクスが、偏屈な老人を演じたことで少し話題になった作品です。最愛の相手を亡くしたことで人生に絶望し自殺を試みる老人が、周囲との新たな交流により生きる意味を見出す、という日本映画でもよくありそうな設定ですが、名優トム・ハンクスが演じると、それだけで深みが出るから不思議です。室井慎次と同様に、険しい表情が冒頭から続きますが、短気であるが故に他者の稚拙な行動を放っておけず思わず手を貸してしまうという状況を、多少の可愛げとともに、魅力たっぷりに演じられています。葛藤の細かい表現が巧みなのだと思います(一方、室井慎次は大きな葛藤表現の一辺倒)。ストーリー自体はよくあるものなので、先の展開が容易に読める点が少し残念でしたが、名人が演じる人情古典落語を観たあとのような、しんみりとした余韻が心地よいです。その地味さがハリウッド映画らしくないなと思ったら、スウェーデン映画のリメイクでした。ささやかな思い出や周囲との交流の大切さと細かい感情の機微を描いた日本人好みの作品だと思います。
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